胃と腸 56巻4号 (2021年4月)

今月の主題 消化管疾患AI診断の現状

序説

消化管疾患のAI診断の現状 平澤 大
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 “AI(artificial intelligence)”という言葉が巷にあふれている.AIはわれわれの仕事をサポートしてくれる頼もしい味方なのか,それともわれわれの仕事を奪ったり,映画「ターミネーター」のように将来われわれの敵になったりする存在なのか,興味が尽きない.昨今のAIブームは画期的な機械学習の手法が確立され,飛躍的にAIの性能が向上したことに起因する.ただ,現在のステージに到達するまでに,AIの歩んだ歴史も興隆と収束の波を繰り返した.

 第1次AIブーム:AIという言葉が登場したのは1956年のダートマス会議と言われている.その後,1960年代にコンピュータプログラミングにより“推論”や“探索”を行うことができるようになり,第1次AIブームが到来する.単純な定理の証明や,迷路を解く,オセロをするなどの作業が可能になり,世間を驚かせた.当時も現在のように機械の知性が人間を上回る期待もあったであろう.しかし現実は,単純なルールに則った問題は解決できても,実生活にあるさまざまな要因が複雑に絡み合った課題を解くことはできず,1970年代には冬の時代(AI技術が停滞する時代)が到来する.

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要旨●今,“第4次産業革命”とも称される人工知能(AI)革命が,ディープラーニング技術と高性能なGPU,そして大量のデジタル化されたデータの組み合わせにより進んでいる.中でも,画像診断はAIが最も得意とする分野であることから,医療現場におけるAIの実用化は“画像診断支援分野”から進むと考えられるが,画像診断の他にも検査の解釈,鑑別診断,治療方針決定,手技のサポートなどのAIが続々と開発され,医療現場に導入されてくると思われる.今後ますます医師が正しくAIを理解し活用することが求められる.本稿では,AIを理解するうえでの基礎となる知識に加え,医療へのAI応用例を掲示し,現状・今後の課題を検討する.

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要旨●深層学習を用いたAIにより画像認識の精度が大きく向上し,病理診断への応用も進んでいる.筆者らが開発に携わったAIは,胃癌生検検体において90%程度の感度・特異度をもって癌の検出に成功している.また,胃癌の遺伝子異常を推定する検討においては,免疫チェックポイント阻害薬への感受性が高いEBV・MSI胃癌をAUC 0.86程度の精度で検出可能である.消化管以外の領域も含めると,病理組織画像からの予後予測やリンパ節転移の検出など,さまざまな応用事例が報告されている.病理診断のためのAI開発や,その利活用のための基盤の整備も進みつつあり,今後さらなる精度の向上や臨床への応用が期待される.開発されたツールについて実臨床での有用性を検証していくことが今後の課題である.

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要旨●当科ではAIメディカルサービス社と協力し,食道を含むさまざまなAI内視鏡診断システムを開発してきた.特に食道扁平上皮癌においては拾い上げ,癌・非癌の鑑別,および癌であれば深達度診断といった実臨床における診断プロセスのすべての段階に対応するAIを開発し,動画による検証で内視鏡専門医に匹敵,または凌駕する成績を報告してきた.今後は実際の臨床の場での検証を含め,世界初の食道におけるAI内視鏡診断システムの製品化に向けて開発を進めていく方針である.

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要旨●近年,消化管内視鏡領域におけるコンピュータによる補助診断(CAD)の応用は,畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の発展に伴い急速に進歩している.胃癌に関連するCADの応用は,胃炎の鑑別診断,解剖学的部位の判別から始まり,胃癌の質的,量的診断と拾い上げ診断など多岐にわたって良好な成績が報告されつつある.一方,CNNを用いたCADには多量の学習用画像を必要とすることが多い.今回筆者らは少数の画像から切り出した微小領域のデータを拡張し,高効率な学習を可能とした胃癌の領域情報を提示するモデルを構築した.300画像から構築したCADにより,1年分の連続する胃癌患者137例462画像に対して画像ベースでの感度87.2%,症例ベースでの感度97.8%と良好な結果であった.高効率な学習を可能とするアプローチは,今後のCADの構築にも有用であると考えられた.

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要旨●胃疾患におけるAI診断の対象は,H. pylori感染診断,病変の拾い上げ,胃癌の質的診断・深達度診断など多岐にわたり,特にAIによる胃癌の拾い上げ診断,質的診断に関しては多くの研究が報告されている.また,胃拡大内視鏡を用いたAI画像診断支援システムも少なからず報告されており,今回は胃拡大内視鏡AI画像診断支援システムによる胃癌診断の現状について解説する.筆者らが開発した胃拡大内視鏡AI画像診断支援システムは,フルズーム浸水法を特徴としており,正診率98.7%,感度98%,特異度100%,陽性的中率100%,陰性的中率96.8%であり,既報の中で最も精度の高いシステムを開発することができた.しかし,リアルタイムに撮影される動画を用いた診断精度は不十分であり,今後さらなる改良が必要である.日常臨床での内視鏡医の診断と同様,通常観察(白色光)でのAI胃癌診断にも限界があることから,胃拡大内視鏡AI画像診断支援システムの上乗せ効果が予想されており,早期の実用化が期待される.

 

*本論文中、QRコードを読み込む,もしくはURLにアクセスいただくことで動画を再生できます(公開期限:2024年4月).

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要旨●小腸カプセル内視鏡検査における人工知能(AI)の活用が近年,盛んに議論されている.小腸カプセル内視鏡の臨床での活用,診断の向上は,これまでにも撮像機器・読影機器の開発によって後押しされてきた.AIによるこれらの技術の加速は必然とも考えられる.ディープラーニング隆盛以前から,小腸カプセル内視鏡分野においては,機械学習による画像診断の取り組みが行われており,一定の成果が示されてきた.2012年のディープラーニング技術の登場以降はよりいっそう,AIを用いた小腸カプセル内視鏡の画像診断の研究が盛んになっており,これまでに多くの研究結果が発表されている.本稿では,これまでに報告されてきた研究内容を紹介する.研究はより臨床に即した,包括的で,大規模なデータ量を扱う内容に深化しており,今後も注目される領域である.最後に今後の研究課題や,臨床導入に向けた課題をまとめる.

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要旨●人工知能(AI)技術の急速な進歩により,日常生活だけではなく内視鏡診療においてもわれわれがAIに触れる場面が増えてきている.大腸内視鏡AIにおいては,その研究開発のスピードには目を見張るものがあり,既にいくつかの製品が規制をクリアし診療で使用できるようになっている.現在研究が進んでいるのは2つのカテゴリーである.すなわちAIによる病変の拾い上げ診断支援(computer-aided detection)と病変の質的診断支援(computer-aided diagnosis)である.いずれも専門医に匹敵する精度が論文などで報告されているが,AIの仕組みそのものに起因する限界があり,過度な期待は禁物である.本稿ではこれまでに報告されている大腸内視鏡AIをレビューし,その有用性と限界について論じる.

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要旨●大腸癌は,前癌病変である腺腫や早期癌を内視鏡的に早期発見し,切除・治療することで,大腸癌罹患率のみならず,死亡率まで減少することが証明されている.ADRがPCCRCの発生頻度と逆相関するため,AIによる見逃しのない内視鏡検査と質的診断の補助が望まれる.現在国内においてEndoBRAIN®シリーズ,CAD EYETM,WISE VISIONと3種類のAIが薬事承認され,AIによる大腸腫瘍性病変のdetection(病変発見)からcharacterization(質的診断)まで可能な時代となっている.

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要旨●H. pylori感染胃炎の画像診断は,胃癌リスクの層別化に有効とされる.これを踏まえて本稿では,筆者らが研究中のコンピュータ画像認識技術を応用したH. pylori感染胃炎に対する人工知能診断について述べる.画像強調内視鏡を用いたコンピュータ支援診断(LCI-CAD)の正診率(accuracy)は,H. pylori未感染84.1%,現感染81.7%,除菌後78.6%であった.この結果は,同じ手法で作成した白色光のCAD(WLI-CAD)よりよい成績であり,加えて内視鏡専門医と同等の診断精度と考えられた.一方で,人工知能を用いた胃X線二重造影像によるH. pylori未感染と現感染の2分類では,感度86.7%,特異度91.7%の結果が得られた.人工知能を用いたH. pylori診断は,常に一定の診断精度が得られるだけでなく,診断速度も速い.さらに,プログラムを複製することも可能である.筆者らは本研究が胃癌リスクの層別化に応用されれば,早期胃癌の内視鏡スクリーニングやX線検診の診断支援へ貢献できるものと期待している.

 

*本論文中、QRコードを読み込む,もしくはURLにアクセスいただくことで動画を再生できます(公開期限:2024年4月).

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要旨●人口の高齢化を背景とした癌の罹患数・死亡数の増加や,医療費の増大,慢性的な医師不足などが問題視されている.これに対し,オリンパスは内視鏡の開発を通じて,早期診断,低侵襲治療という価値を提供し続け,近年はAI技術の活用も検討している.病変の発見や鑑別を支援するCADはその一つである.筆者らは内視鏡CADの課題として,“内視鏡操作に違和感を与えない1モニタ仕様”,“さまざまな撮影環境下での性能確保”,“ユーザビリティを考慮したシステム連携”を重視し,これを考慮した大腸内視鏡CADを開発した.また,今後の多臓器展開に向け,自社AI技術開発に加え,AI技術に強みを持つ研究機関・企業との研究開発や,プラットフォームの構築も進めている.

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要旨●富士フイルムでは近年発展が著しいAI(artificial intelligence)技術を活用した内視鏡におけるコンピュータ診断支援(CAD)機能CAD EYETMを開発している.その第一弾として,専門医並みの精度を実現した大腸ポリープ検出・鑑別AIを開発,販売を開始した.開発したAIは,通常の内視鏡検査のワークフローでの自然な使い勝手を実現すべく設計されており,内視鏡診断がより効率化されることが期待される.開発した技術,システムは内視鏡システム向けAIの社会実装に有用であり,今後は大腸以外の病変検出・鑑別サポートや検査レポート作成支援など,内視鏡診断のワークフロー全体を支援するAIソリューションの提供を進めていく予定である.

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要旨●近年,深層学習によって画像認識における人工知能(AI)アルゴリズムは大幅な進歩を遂げており,筆者らの胃癌転移リンパ節のHE染色標本におけるAI病理診断研究でも,AUCが0.99以上と良好な結果が得られている.AI病理診断に関しては,これまでに乳癌転移リンパ節診断や胃・大腸の腺腫・癌の生検組織診断などでその有用性が報告されてきたが,克服すべき課題も存在する.

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要旨●病理分野におけるAIの活用は,単なる組織型の分類にとどまらず,治療方針決定に寄与するものへ変化しつつある.大腸においても,ニューラルネットワークや他の機械学習の手法により,病理組織画像の分類や予後に影響を与えうる腫瘍形態の推測,さらには大腸T1癌のリンパ節転移を予測するモデルを作成することができるようになった.従来の組織学的評価法ではこれらを再現性高く予測することは難しいが,より客観的な教師データに基づいたAI開発により,その再現性や精度を向上させていくことが可能となる.本稿では,大腸癌におけるAI活用の手法とその具体例を紹介し,臨床応用する際の留意点について考察する.

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要旨●患者は70歳代,女性.EGDで上十二指腸角に約15mm大のSMT様の有茎性病変を認めた.頭部に3つの陥凹を有し,NBI併用拡大観察では整った絨毛状・乳頭状の表面微細構造と不整の乏しい微小血管構築像を認める領域と,大小不同を伴い窩間部が開大した不整な表面微細構造と形状や配列の不整な微小血管構築像を認める領域が観察され,EMRを施行した.病理組織学的所見では病変は内反性発育を呈し,中等度異型度(低グレード)管状絨毛腺腫と高分化管状腺癌を認めた.胃型腫瘍で病変内に近接してBrunner腺と異所性胃粘膜を認めた.gastric-type adenocarcinoma with inverted cystic tubulovillous adenomaと最終診断した.Brunner腺や胃腺窩上皮化生,異所性胃粘膜に由来する病変と考えられ,質的診断においてNBI併用拡大観察が有用であった.

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目次

欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集

「今月の症例」症例募集

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 2021年1月20日(水),新型コロナウイルス感染症の影響で早期胃癌研究会がWeb開催となったことから,2019年「胃と腸」賞の授賞式もWeb上で行われた.2019年「胃と腸」賞は,佐野弘治氏(大阪市立十三市民病院消化器内科)らが発表した「小腸の非腫瘍性疾患—サイトメガロウイルス(CMV)小腸炎の臨床像と内視鏡像」(「胃と腸」54巻4号:505-514頁)が受賞した.

 受賞者代表として佐野氏が紹介された.続いて,「胃と腸」編集委員長の松本主之氏(岩手医科大学医学部内科学講座消化器内科消化管分野)より選考過程の説明と祝辞が述べられた.

次号予告

編集後記 八尾 隆史
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 人工知能(artificial intelligence ; AI)とは,「“これまで人間にしかできなかった知的な行為(認識,推論,言語運用,創造など)を,どのような手順(アルゴリズム)とどのようなデータ(事前情報や知識)を準備すれば,それを機械的に実行できるか”について研究する分野である」と名古屋大学の佐藤は「日本大百科全書」で述べている.

 近年,種々の業務はAIにとって代わられるため職を奪われ失業するものが増えるという危惧が生じ,医療現場でも病理診断を含む画像診断は自動化され,病理医や放射線科医は不要になるのではないかとも言われた時期もあった.しかし,今では“医師とAIの対決”ではなく“AIを利用できる医師とAIを利用できない医師との格差”が重要視されている.

基本情報

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胃と腸
56巻4号 (2021年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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