胃と腸 56巻2号 (2021年2月)

今月の主題 Barrett食道腺癌の内視鏡診断と治療2021

序説

  • 文献概要を表示

はじめに

 欧米では,Barrett食道腺癌(Barrett's adenocarcinoma;BAC)は各癌腫において最も増加率が高い.米国では1975年から増加し,20年後には扁平上皮癌を抜き食道癌の主組織型となり,30年間で有病率・死亡率はそれぞれ6〜7倍に急増した.一方,本邦では日本食道学会の全国集計において全食道癌におけるBACと食道腺癌を合わせた割合は2002年に2.4%,2012年には7.4%と約10年間で約3倍に増加しているが1)2),欧米のような増加率を認めていない.

 また,背景粘膜に関して,欧米では最大長が3cm以上のLSBE(long segment Barrett's esophagus)の有病率が2〜7%であるが,本邦のそれは0.35%であり,圧倒的にSSBE(short segment Barrett's esophagus)が多い.さらに,Barrett食道の長さによって発癌率は異なり,SSBEでは年率0.19%,LSBEでは年率0.33〜0.56%と報告され3),LSBEはSSBEに比べ発癌率が2〜3倍高い.胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease;GERD)はBarrett食道の要因であり,発癌には人種差,性,年齢,環境因子なども関与しているが,このようなLSBEとSSBEの割合の違いも欧米と本邦の発癌率が異なる根拠であろう.したがって,BACを研究する際には,背景粘膜の違いをもとに内視鏡診断や病理診断を検討することが重要と考える.

  • 文献概要を表示

要旨●本邦に多くみられるSSBEは,病理組織学的に胃噴門腺粘膜(cardiac mucosa)が多い.cardiac mucosaの上皮成分は,粘膜表層を覆うMUC5AC陽性の腺窩上皮と,深部に存在するMUC6陽性の噴門腺により構成されている.噴門腺が存在する領域は,胎生期では非常に狭く,後天的に拡がると考えられ,Helicobacter pylori陽性患者では肛門側に,GERD患者では口側に拡がる.SSBEに発生したBarrett食道腺癌の早期病変内には,cardiac mucosaと同様の細胞分布(MUC5AC陽性細胞が管腔側,MUC6陽性細胞が深部)を呈する異型腺管が確認できることが多いため,SSBE由来Barrett食道腺癌はcardiac mucosaから発生したことが示唆される.SSBE由来Barrett食道腺癌は下部食道の右側の前壁(0〜3時方向)に認められることが多く,肉眼型では隆起型が多いと報告されている.また,SSBEはLSBEと同様に悪性腫瘍の発生母地となりうるが,LSBEよりは発癌リスクは低く,同時多発癌や異時多発癌が発生する可能性も非常に低い.

  • 文献概要を表示

要旨●Barrett食道腺癌のうち,LSBEに発生する腺癌(LSBE腺癌)の病理学的特徴をまとめた.Barrett食道腺癌は肉眼的に,0-I型や0-IIa型の隆起を示すことが多いが,LSBE腺癌では,0-IIb型あるいは主病変の周囲に0-IIb型成分を伴うことが多い.病理組織学的には高分化・中分化腺癌が多いが,浸潤とともに低分化腺癌成分が出現する傾向にある.0-IIb型成分は主に高分化腺癌成分から成るが,辺縁部では腺管密度が低く,細胞異型も軽度となる.LSBE腺癌の背景粘膜には腸上皮化生がみられることが多いが,噴門腺型粘膜としばしば混在する.LSBE腺癌には同時性・異時性多発が多く,背景粘膜には顕微鏡的微小病変も多く見い出される.多発微小病変の病理組織学的検出にp53免疫染色は有用である.

  • 文献概要を表示

要旨●Barrett食道腺癌(BAC)の発生率は,H. pylori感染率の低下やGERD罹患率の上昇により,徐々に増加傾向である.本邦ではSSBEが多いが,LSBEと比べSSBEからの発癌率は低く,その存在のみでBACの高リスク因子とは言えない.本稿では,当院でのSSBE由来表在型BACの発見契機を検討し,癌の発見時にGERD症状や逆流性食道炎が必ずしも存在しないこと,SSBEに漫然と逆流性食道炎が存在すると,癌の発見が遅れる危険性があることがわかった.サーベイランスを考えるうえで,炎症を伴うSSBEは,炎症を伴わないSSBEよりも内視鏡検査の間隔を短くすることが望ましい.

  • 文献概要を表示

要旨●欧米ばかりでなく本邦においてもBarrett食道腺癌の増加が報告されているが,表在型Barrett食道腺癌に対する内視鏡治療後の予後が良好なことも明らかになっている.したがって,Barrett食道腺癌をいかに早期に発見できるか,すなわちBarrett食道腺癌のsurveillanceが重要となっている.欧米では,多くのガイドラインで2〜5年に1度の内視鏡検査によるsurveillanceが推奨されているが,本邦ではsurveillanceの方法が確立していないのが現状である.しかしながら,本邦でもLSBEからの発癌率は欧米からの報告と同程度であることが報告されており,LSBEはsurveillanceの対象になると考えられる.今後,本邦におけるBarrett食道腺癌のsurveillance法の確立が望まれる.

  • 文献概要を表示

要旨●本邦の消化器内視鏡医が容易に活用できることを目的にBarrett食道・腺癌に対する日本食道学会拡大内視鏡分類(JES-BE分類)が作成された.これまでの拡大内視鏡分類と異なり,診断フローチャートとともに提案された.国内10施設から収集した拡大内視鏡画像を消化器内視鏡医(エキスパート5名,非エキスパート5名)がフローチャートに沿って評価し,JES-BE分類の診断精度と再現性について検討した.その結果,高い感度・特異度および高い診断一致度が示され,エキスパートと非エキスパートとの間に有意差はなかった.経験値にかかわりなく,高い診断精度・再現性が得られたJES-BE分類の有用性が示唆された.

  • 文献概要を表示

要旨●表在型Barrett食道腺癌に対する内視鏡的切除術後の転移リスク,長期予後については不明な点が多く,今回当院においてshort segment Barrett's esophagusに発生した表在型Barrett食道腺癌57例をもとに内視鏡的切除術後の経過について検討した.深達度pLPM以浅かつ脈管侵襲陰性,および純粋分化で深達度pDMMかつ脈管侵襲陰性であれば転移はなく長期予後は良好であった.また,従来は追加治療の対象と考えられてきたpSMであっても,“深達度SM 1〜500μm”,“腫瘍径30mm未満”,“脈管侵襲陰性”,“DMM以深に低分化癌成分がない”のすべてを満たす症例であれば転移を認めず良好な予後が得られ,今後内視鏡的治癒切除の定義を拡大できる可能性が示唆された.

  • 文献概要を表示

要旨●2000年1月〜2017年9月までに当院でESDを施行したLSBE(プラハ分類M3以上)由来の腺癌のうち,3年以上経過観察が施行された16例20病変(経過観察期間中央値128か月)を対象とし長期予後を検討した.結果は腫瘍径中央値36mm,切除径中央値86mmであった.主病変の深達度はT1a-SMM 1例,T1a-LPM 1例,T1a-DMM 12例,T1b-SM1 2例であった.組織型はいずれも分化型であった.一括完全切除率は95%で,脈管侵襲(ly,v)はいずれも陰性であった.16例中4例で各1つずつの同時多発癌(25%)を認めた.16例中7例に全周切除を,9例に局所切除を施行した.全周切除例では異時多発癌を認めず,Barrett粘膜の再発も認めなかった.局所切除9例のうち6例は経過観察し,うち2例(33%)で異時多発癌を認めた.異時多発癌を認めた2例では残Barrett粘膜が3cm以上と長く,異時多発癌を認めなかった4例では残Barrett粘膜が3cm未満と短かった.したがって,残Barrett粘膜の面積が広い(M3以上つまりLSBE)ほど異時多発癌を来しうることが推察された.また局所切除した残りの3例は,異時多発癌の予防目的で,残Barrett粘膜に対しstepwise ESDを施行した.3例とも術後狭窄やBarrett粘膜の再発はなく,stepwise ESDは異時多発癌の抑制に有用であった.ESDにて加療したLSBE由来のEAC 16例に原病死はなく,疾患特異的生存率は3年,5年ともに100%であった.また,全生存率は3年,5年ともに100%であった.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は40歳代,男性.食道隆起性病変の精査目的で紹介された.C3M6のLSBE後壁に0-IIa型病変を認めたが,その境界は不明瞭であった.NBI-MEにて0-IIa型病変の外側にも不整な表面構造が認められ,0-IIb+“IIa”型と診断した.ESDにて一括切除し,最終病理診断は,0-IIb+“IIa”,adenocarcinoma,tub1,pT1a-DMM,ly0,v0,pHM0,pVM0,45×43mmで胃型優位の混合型癌であった.ESD潰瘍は狭窄なく瘢痕化し,残Barrett食道はC0M3であった.以後,年に2回の内視鏡surveillanceを施行したところ,2年6か月後に,残Barrett粘膜に2個の異時多発癌を認め,両病変を合わせてESDを施行した.全割標本を作製したところ,術前未診断の第3病変も認められ,3病変ともにpT1a-SMMで治癒切除であった.2回目のESD潰瘍は扁平上皮で再生され,さらにC0M3のBarrett粘膜が遺残していた.再度,異時多発癌を来す危険性が高いと考えられたため,2回目のESDから6か月後に残Barrett粘膜に対するstepwise ESDを施行した.高度の線維化のためトリアムシノロン局注は不可能であり,プレドニゾロン40mgの経口投与を施行したが,狭窄を来しEBDを2回施行した.stepwise ESD潰瘍は扁平上皮で再生され,Barrett食道そのものが完全に扁平上皮化した.以後8年間,無再発生存中である.本邦の食道癌診療ガイドラインでは残Barrett食道に対しては経過観察が標準とされているが,LSBE内に発生したEACでは異時多発癌が多いため,残Barrett粘膜に対する治療の標準化が必要と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は50歳代,男性.LSBEとその内部の前壁側に病変を認めた.右壁側や後壁側にも病変を認めていた.治療に関しては,精神発達障害があり,介護する家族は外科的切除を希望せず,また全周切除に伴う狭窄を心配され,内視鏡的に分割切除する方針となった.同時性の3病変を内視鏡的に切除したところ,病変AはpT1a-DMM,リンパ管侵襲陽性であったが,家族の希望で経過観察の方針となった.初回治療から約2年後,異時性に病変が出現し,内視鏡的に切除した.その後の経過は良好で,治療を要する狭窄や多発病変もなく,約10年経過観察することができた.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,男性.定期的EGDにて食道胃接合部に径8mm大の淡い発赤調を呈する軽度隆起性病変を認めた.通常観察では,表面は比較的平滑で薄い白苔が付着していた.NBI拡大観察では,樹枝状かつ網状の血管を認め,一部network状に存在する血管も確認した.切除標本の病理診断は深達度pT1a-DMMで,線維性間質に乏しい充実性の純粋低分化腺癌であった.表在型Barrett食道腺癌では純粋な低分化腺癌は極めてまれであるが,表面が平滑で構造が不明瞭かつ樹枝状・網状血管,さらにnetwork状の血管を呈することが充実性低分化表在型Barrett食道腺癌を診断するうえで有用な所見と考えられた.

  • 文献概要を表示

はじめに

 本邦と欧米における,Barrett食道癌に対する内視鏡治療の最大の相違は,その目標とするゴールが異なることである.本邦では癌に対し内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)による病変の一括切除を行った後に慎重な経過観察を行うが,欧米においてはまず癌を内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)やESDで切除した後,残存するBarrett粘膜に対してラジオ波焼灼術(radiofrequency ablation;RFA)やcryotherapyに代表される焼灼療法(ablative therapy)を行い,Barrett粘膜そのものを根絶し,扁平上皮に置換させることが最終目標となっている(Fig.1).

 本稿では筆者らが臨床留学した北米最大のBarrett食道センターの一つであるカナダのトロント大学セントマイケルズ病院における経験をもとに,欧米のBarrett食道に対するRFA治療につき概説する.

  • 文献概要を表示

はじめに

 欧米におけるBarrett食道表在癌に対する標準的治療はvisible lesionに対するEMR+残Barrett粘膜に対する焼灼療法とされている1).主な焼灼療法はRFA(radiofrequency ablation)2)〜4)だが,近年ではballoonを用いた新しいcryotherapyが開発され,臨床応用されている5)6).本稿では,ドイツにおけるcryotherapyの現状に関して解説する.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は70歳代,男性.主訴は鮮血便.現病歴は,鮮血便およびCEA高値の精査のため近医にて大腸内視鏡検査を施行し横行結腸に病変を認め,精査加療目的に当科に紹介され受診となった.通常観察では,径22mmの表面隆起型病変がみられ,表面は平滑で全体に白色調変化を認めた.BLI(blue laser imaging)拡大観察で,surface patternは病変全体に円形もしくは楕円形を呈し,vessel patternは白色領域では毛細血管が比較的明瞭に視認された.インジゴカルミン色素撒布拡大観察では白色変化は窩間部に認められ,やや大きめの円形のpitを認めた.白色変化の少ない領域ではpitの一部に鋸歯状変化を認めた.総合的に鋸歯状病変を伴うxanthomaを疑い,内視鏡治療を行った.病理組織学的診断は,xanthomaを伴うsessile serrated adenoma/polyp with cytological dysplasiaであった.本稿では自験例に文献的考察を交えて報告する.

--------------------

目次

欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集

「今月の症例」症例募集

次号予告

編集後記 新井 冨生
  • 文献概要を表示

 欧米ではBarrett食道腺癌(Barrett's esophageal adenocarcinoma ; BAC)の頻度が増加し,1995年前後から食道癌の主組織型となった.その後も食道癌の組織分類は扁平上皮癌が筆頭に記載されていたが,2019年のWHO分類 第5版ではついに腺癌が筆頭に記載されるに至った.一方,本邦における食道癌の主組織型は依然として扁平上皮癌であるが,H. pylori感染率の減少や食生活の欧米化,肥満率の増加などによりBACは増加中で,最新の調査によると食道癌の10%に迫りつつある.

 本誌ではここ20年間に本号を含め8回ほどBarrett食道癌あるいは食道胃接合部癌について特集が組まれてきた.欧米に比べ,本邦でのBACはSSBE(short segment Barrett's esophagus)を背景として発生する割合が非常に高く,その内視鏡診断および病理診断に苦慮することは比較的少ない.しかし,欧米で多いとされるLSBE(long segment Barrett's esophagus)を背景とした病変は本邦においてはまれであり,その内視鏡的な拾い上げ診断,さらには質的・範囲診断が極めて難しいとされる.そこで,本号ではBACに関する最新の知見を発生母地となるSSBEとLSBEに分けて論じていただき,それぞれの内視鏡診断と治療の確立を目指すことを目的とし,小山,竹内,新井で担当し企画した.

基本情報

05362180.56.2.jpg
胃と腸
56巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
2月22日~2月28日
)