胃と腸 32巻9号 (1997年8月)

今月の主題 胃噴門部領域の病変 (2)癌以外の病変

序説

胃噴門部領域の病変 牛尾 恭輔
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はじめに

 消化管は口腔から肛門に至る管腔の臓器であり,その臓器と臓器の移行部では管腔の幅が急に変わる.すなわち咽頭,胃噴門部,胃幽門部~十二指腸球部,回盲部,直腸下部~肛門部は,管腔の幅が急に変化し,括約筋という筋組織やそれを支配する神経系,更に免疫機構を担うリンパ組織も発達している.Vater乳頭部も胆管,膵管が閉口して,それより管腔が広い十二指腸に移行するという点で同じである.そしてこれらの部位は物理的,化学的,生物学的な刺激を受けやすく,また粘膜上皮の剝脱や再生が頻繁に行われている.したがって,消化管の移行部には種々の炎症性病変や腫瘍性病変が生じ,また生理的な異常に伴う病変も好発する.このように臓器の移行部における比較診断学の視点に立って,胃噴門部領域の特徴を考え,それを診断学にどのように役立てうるかを目的としたのが本号のねらいである.

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要旨 噴門部は,正常例でも上部消化管造影やCTなどで腫瘤様を呈することがある.呼吸や体位変換などで形態が変化することが,実際に腫瘤が存在する例との鑑別点となる.噴門部は食道から胃への臓器移行部であり,上皮も重層の扁平上皮から単層の円柱上皮に移行するため種々の壁内腫瘤性疾患が認められる.また噴門近傍には,リンパ節,膵体・尾部,脾,結腸脾彎曲部,肝,副腎,腎,大動脈,心などが存在するために,これら組織の腫大や腫瘍によっても噴門部は影響を受ける.このように,噴門部には種々の疾患が腫瘤を形成するため,その画像の特徴に習熟し,鑑別することが重要である.

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要旨 1992年から1996年の5年間の上部消化管内視鏡検査32,904件のうち食道胃接合部領域に主座を有する潰瘍性病変は53症例あった.潰瘍の原因別としては,胃食道逆流症20症例(38%),感染症7症例(13%),Mallory-Weiss症候群24症例(45%),その他2症例(4%)であった.今回は,Mallory-Weiss症候群を除いて自験例の検討を行った.胃食道逆流症としての接合部潰瘍は長軸方向に走る食道のびらん性病変を伴ったものと,伴わないものとがあり,20症例の90%は食道裂孔ヘルニアを合併していた.高度の狭窄は1例(5%)で,全周性の病変であった.潰瘍病巣は1個の場合が最も多く,多くても4個であった.病巣の存在部位は,後壁(50%),右壁(23%),前壁(10%),左壁(10%),全周(7%)であった.7症例のHIV感染症例に食道潰瘍病変が認められ,herpes simplex virus 1,cytomegalovirus 6症例の感染と診断された.いずれも多発病変で,5症例は食道胃接合部に潰瘍病変を有していた.CMV感染と関連した食道潰瘍は多発し,広く縦長の打ち抜き状の潰瘍であった.血管内皮細胞や線維芽細胞などの非上皮性細胞内に大型の核内封入体をみた.良性食道潰瘍で食道癌と誤診されたものがあり,幼弱で腫大した再生上皮を生検し,異型性が顕著であるために上皮内癌と診断されたものがある.潰瘍組織でも,ときには内皮細胞や間質系細胞の著しい腫大がみられ,低分化の癌細胞と間違えることがあり注意が必要である.

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要旨 噴門部領域の急性病変の発生には,急激な腹圧の上昇による噴門部周辺粘膜の過伸展が要因とされる.つまり,悪心・嘔吐などを契機として発症することから,機械的・物理的機序が関与する.このような機序で発症する類縁疾患には,Mallory-Weiss症候群,特発性食道破裂および食道粘膜下血腫の3疾患がある.しかし,この3疾患は機序は同様でも個体側の条件も関与して,全く異なった病態となり,おのずと治療・予後も異なる.つまり,Mallory-Weiss症候群と食道粘膜下血腫は,ほとんどの症例が保存的治療で軽快するが,特発性食道破裂は全身管理が必要となり外科的治療を必要とする症例も多い.特に,特発性食道破裂は初診時の正診率が治療成績を左右するため,内視鏡検査をはじめ総合的に診断することが必要である.

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要旨 噴門部に狭窄を呈す良性疾患としては,食道アカラシアや逆流性食道炎,粘膜下腫瘍,静脈瘤硬化療法や粘膜切除後の瘢痕化などが挙げられる.発生機序を考慮して個別に対応する必要があるが,代表的な前2者について最近の治療法を示した.食道アカラシアの保存的療法は内服薬とバルーンによる強制拡張術とが中心で,最近ではボツリヌストキシンの局所注入が注目されている.狭窄を来した逆流性食道炎では強制拡張術とプロトンポンプインヒビターの適応となるが,胃食道逆流防止手術がより適している場合も多い.最近導入された鏡視下手術はその低侵襲性が特徴で,これらの疾患では,現時点でも従来の外科治療と同等の効果が期待できるため,外科治療の適応範囲は拡がりつつある.

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要旨 患者は50歳,女性.無症状で胃の集団検診を目的とした上部消化管X線検査で病変の存在が指摘された.術前の質的診断として,超音波内視鏡および超音波内視鏡下生検組織診断,FDG-PETで悪性腫瘍が示唆され,噴門側胃切除を施行した.腫瘍は4.7×3cmで病理診断はleiomyosarcomaであった.

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要旨 患者は56歳,男性.飲酒後の嘔吐と心窩部痛を主訴に来院した.来院時の食道内視鏡検査で食道胃接合部直上に深い潰瘍を認めたが,出血は認められなかった.胸部単純X線検査では,左側胸水が疑われたが縦隔気腫像は診断できなかった.Mallory-Weiss症候群の疑いで入院となったが,入院後胸部CT検査で縦隔気腫像を認め,また食道X線検査で縦隔内への造影剤の漏出を認めた.よって縦隔内限局型の特発性食道破裂と診断し保存的治療を施行した.その後の経過は良好で第32病日に退院となった.比較的まれな疾患ではあるが,胸・腹部の救急疾患の1つとして本疾患を認識しておくことが早期診断に重要であり,またminimally invasiveな治療法としての保存的治療法の有用性について述べた.

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要旨 患者は45歳,男性.健診の胃X線検査で異常陰影を指摘され本院に入院した.胃X線検査では噴門部中央に潰瘍のある大きな腫瘤陰影が認められた.内視鏡検査では粘膜下腫瘍と診断され,潰瘍部分からの生検で平滑筋肉腫と診断された.CTでは腫瘤は胃壁外に発育していた.切除標本では,胃壁外に発育した8×4.8×4.8cmの腫瘤で,粘膜面に潰瘍形成が認められた.H・E染色による病理組織診断では,細胞異型,核異型を持った紡錘形の細胞から成る組織像は細胞密度が高く,核分裂像も多くみられる(18/10HPF)ことより,胃平滑筋肉腫と診断された.免疫組織学的染色を行うとS100,デスミン,平滑筋アクチンは陰性で,ビメンチン,また,幼若な間葉系細胞に染まるCD34が陽性であった.免疫組織学的見地からこれらの腫瘍をgastrointestinal stromal tumor(GIST)に入れて考えるという観点から,この腫瘍はGISTのuncommitted typeに分類された.今後,このような免疫組織化学的検討が,臨床的には治療法の選択,予後の判定に役立つことが期待される.

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要旨 食道胃境界部大彎側に15mm大の山田III型過形成性ポリープを認めた.X線検査では初めに胃側に存在するように観察されたが,第2斜位の透視下で次第に食道内に引き込まれ,ついには完全に食道内にポリープが入り込み,X線像では消失した.内視鏡検査では,食道下端からの観察でも胃内反転での観察でもポリープは見られた.したがって,食道胃境界部の大彎側は空気量や体位で移動すると考えられ,X線検査では同部の病変が食道内に引き込まれた場合,早期癌のような小病変を異常像として認識できず見逃す可能性がある.特に,噴門が閉鎖している像では噴門部全体の隆起の有無を観察し,隆起があれば噴門部病変を疑う必要があると考えられた.

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要旨 食道胃接合部に発生した食道乳頭腫の2例を報告した.〔症例1〕は48歳,男性.主訴は上腹部不快感.上部消化管X線検査で胃入口部にポリープを指摘された.内視鏡検査では,食道胃接合部に約1cmの粗大顆粒状の亜有茎性ポリープを認め,表面は赤色調の部と不整形の白色調の部が混在していた.ヨード染色では,大部分が不染を示していた.生検時の組織像では,ポリープの一部には炎症細胞を伴う肉芽組織があり,その中に大型の異型細胞が散見され,食道扁平上皮癌が疑われた.内視鏡的ポリペクトミーによる病理組織学的診断は,びらんを伴う乳頭腫であり,pseudomalignant erosion(PE)を伴った乳頭腫と考えられた.〔症例2〕は65歳,女性.検診胃X線検査で胃入口部のポリープが指摘された.内視鏡検査では,食道胃接合部に約8mmの粗大顆粒状の亜有茎性ポリープを認めた.ヨード染色では濃染を示していた.内視鏡的ポリペクトミーによる組織診断は比較的定型的な乳頭腫の組織像であった.胃接合部における乳頭腫は生理的慢性刺激を受けやすく,PEの合併を考慮した診断が必要である.また,生検標本では組織量が十分でなく,異型細胞の組織分布や浸潤性の判定には内視鏡的ポリペクトミーが診断に有用と思われた.

症例からみた読影と診断の基礎

【Case 9】 浜田 勉
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〔患者〕55歳,女性.上腹部鈍痛.

読影と解説

最終診断:IIa集簇形態の表層拡大型胃癌,高分化型腺癌,深達度m.

1.X線所見(Fig.1~3)

 空気中等量の仰向け二重造影正面像では胃角部後壁に萎縮性粘膜によくみられるような凹凸の変化が周囲粘膜に比べて目立つ.空気の少ない二重造影像では小さいが丈が低く不揃いな結節状隆起の集簇が認められる.幅の広い溝状のバリウムの溜まりが観察されるが,隆起と隆起の間の溝なのか陥凹性変化があるのか判定できない.圧迫すると小透亮像の集簇が明瞭となったが,陥凹性変化は描出されなかった.病変の範囲は粘膜の凹凸不整がある範囲と予想したが明瞭ではない.

【Case 10】 渕上 忠彦 , 田畑 寿彦
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〔患者〕46歳,男性.主訴:腹部膨満感,全身倦怠感.

読影と解説

最終診断:穿通性胃潰瘍,Ul-IV消化性潰瘍

1.X線所見

 充盈像(Fig.1a)は,体部小彎側が半球状に突出し,幽門前庭部小彎側が消失し奇妙な形態を呈している.腹臥位二重造影像(Fig.1b)は体部小彎側に巨大な卵円形のバリウムの溜まりを認め,その肛門側に向かって前庭部が引きつけられている.第1斜位二重造影像(Fig.1c)では卵円形の巨大潰瘍が正面像として描出されている.潰瘍辺縁は極めて鮮鋭で周囲に周堤もしくはIIcを疑わせる陥凹はない.充盈像の小彎側の突出は巨大なニッシェであることがわかる.強い第1斜位二重造影像(Fig.1d)では,潰瘍の肛側辺縁に接する部から線状にバリウムが十二指腸球部から第2部へと流出しており,いわゆる囊状胃の形態であることが読める.後壁側の潰瘍辺縁は極めて鮮鋭で,粘膜集中像の先端に悪性所見は認められない.

リフレッシュ講座 胃の検査手技の基本・4

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はじめに

 超音波内視鏡検査(EUS)は内視鏡先端に高周波超音波振動子を装着し,消化管内腔から走査することにより,高解像度の超音波断層像を得る目的で開発された検査法である.胃内腔でEUSを走査すると,上部消化管造影検査,内視鏡検査に比較して病理組織学的所見のルーペ像にほぼ対応する胃壁の断層面を直接描出することが可能である1).これにより,病変の内部所見と周辺の層構造との関係などが客観的に表示することができる.胃病変では,胃潰瘍の深さや,線維叢の拡がり,胃粘膜下腫瘍の質的診断,胃癌の深達度診断やリンパ節転移の存在診断などに臨床応用されている.本稿では胃疾患に対するEUSにおいて,より質の高い検査にするための工夫を実際の症例を呈示し述べる.

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要旨 患者は72歳,男性.主訴は食欲不振.近医で施行されたルーチンの注腸検査で,回盲弁から5cmの回腸に腫瘍が指摘された.注腸X線検査で側面撰状変形,内視鏡検査で軽度の緊満感が認められ,直視下生検の所見と合わせ回腸sm癌と診断した.手術切除標本では25×15×高さ11mmの亜有茎性病変で,H・E染色所見から高分化腺癌,深達度SMIと診断された.脈管侵襲,リンパ節転移は認められなかった.免疫組織染色ではras・p21は陰性で,p53は一部の腺管で軽度の染色がみられたにすぎず,腫瘍全体が異型度の低い高分化腺癌であると考えられた.本例は術前組織診断および深達度診断しえた早期回腸癌(SMI)であり,今後このような症例に対する内視鏡的粘膜切除術の適応を考えるうえで極めて貴重な1例と考えられる.

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要旨 患者は73歳,男性.排便困難を主訴に来院した.注腸X線検査でS状結腸に限局した狭窄を認め,内腔には肥厚したアコーディオンひだ様の所見を認めた.内視鏡所見では,発赤腫脹した輪状の粘膜ひだを認めたが,その中には潰瘍や腫瘤はみられなかった.CT,EUS,MRI所見上,S状結腸を取り巻く脂肪織の肥厚を認め,腸間膜脂肪織炎と診断された.経静脈栄養および抗生剤を投与し経過を観察したが,改善傾向は認められず,外科的手術のため転院した.初回から5週後の注腸二重造影像では,特に症状の変化はみられなかったが,栂指圧痕や粘膜の剝離など虚血性腸炎の所見の合併を認めた.切除標本では,S状結腸の壁の肥厚,潰瘍形成を伴う内腔の狭細化が認められた.病理組織学的所見では,肥厚した漿膜,腸間膜の脂肪織に脂肪織炎の所見がみられ,また,Ul-IIの潰瘍,粘膜内の充血,粘膜下層以下の系統的な静脈壁の肥厚などがみられ虚血性腸炎の所見を伴った腸間膜脂肪織炎と診断された.

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要旨 患者は18歳,男性.腹痛,下痢,発熱を主訴に近医で内服加療を受けたが,翌日には症状の増悪がみられ,別医を受診した.受診時,右下腹部に著明な自発痛と腹膜刺激症状があり,急性腹症の診断で当院に緊急入院となった.当院受診時のCT・USで回盲部腸管壁の腫大と少量の腹水を認めた.入院後3日目の大腸内視鏡検査では,大腸全域に発赤,びらんが散在し,下行結腸と上行結腸には著明な浮腫がみられ,上行結腸には浅い不整形の潰瘍を認めた.同日行った注腸検査では微小なバリウム斑が大腸全体に多発しており,拇指圧痕像を下行結腸,上行結腸,盲腸,終末回腸に認めた.内視鏡検査の際に行った便汁培養,生検培養でSalmonella typhimuriumが検出され,サルモネラ腸炎と診断した.中心静脈栄養および抗生剤投与を行い,12日間で軽快し退院となった.

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要旨 患者は62歳,女性.33歳時に気管支喘息,59歳時に肝硬変が出現.60歳から喘息発作が頻発しステロイドを服用したがコントロール不良.1994年4月,喘息重積発作に対するステロイド治療後,小腸穿孔を生じ,上部小腸を80cm切除した.切除標本にはUl-II~IVの多発性潰瘍と3か所に穿孔を認め,病理組織学的には血管周囲に肉芽腫様変化と好酸球浸潤を伴う血管炎がみられた.また,その後の消化管検査で,胃,小腸,大腸に浅い小~地図状の潰瘍を認めた.更に末梢血好酸球増多と末梢神経炎を認め,Churg-Strauss症候群と診断しta.predonisolone 60mgから治療を開始し,症状,末梢血の好酸球増多,多発潰瘍は改善したが,肝障害が進行し死亡した.剖検では,胃・小腸・大腸そして肝・胆の主として小動脈と静脈に瘢痕性の全層性血管炎を確認し,Churg-Strauss症候群に合致する所見であった.

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要旨 77歳,男性の十二指腸球部にポリープ状病変が発見され,組織学的に腺管絨毛腺腫が示唆された.約1年後,食道中部に多結節性病変が発見され,生検で粘膜異形成症が確認された.以後厳密に追跡したが,両病変は変化しなかった.十二指腸病変の発見後約5年目(82歳時)に,その部分的ポリペクトミー組織検査により,腺管絨毛腺腫に高分化腺癌と腺カルチノイドの合併を認めた.また胃体部後壁に軽い周囲隆起を伴う小平坦病変がみられ,生検で腺管腺腫を示した.切除標本の組織検索で球部腺腫直下の粘膜筋板から粘膜下層深部にかけ腺カルチノイドの限局浸潤が確認され,所属リンパ節転移を伴っていた.胃病変は高分化型管状腺癌から成るIIc+IIb型m癌で,残存腺腫は周辺に限られていた.

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欧文目次

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 日本では今世紀初め,がんの死亡数が全死亡数に占める割合は2~3%と言われていた.しかし,がんによる死亡は年々増加し,1981年には第1位となり,世紀末の最近では全死亡数に占めるがん死亡数の割合は25%と,その増加傾向は止まらない.こうした状況から一般的には,がんは死病であると認識されている.一方,がんの治癒率も近年漸増し,約50%前後の治癒率が報告されている.その理由として,がん知識の普及,各臓器がんの早期発見の努力,各種がん診断法やがん治療法の進歩など,多くの複合的要素が考えられている.このため,がんの生物学をよく理解した専門性の高い臨床腫瘍医が,何が標準的治療で何が研究局面の治療かを理解し,患者のインフォームドコンセント(IC)を基本としてがんの診療を行う必要がある.

 しかし,がん専門病院以外でわが国の診療体制に臨床腫瘍医の集団は少ない.一般的に肺がんは呼吸器科の一領域であり,胃がんや大腸がんは消化器科の一領域の疾患と考えられている.いわんや,進行期で薬物療法が必要な卵巣がんや子宮がん,あるいは進行期で薬物療法の必要な前立腺がんや膀胱がんを内科医が診ることは極めて少ない.換言すれば,わが国のがんの診療は臓器に依存し,がんの生物学に基づいてがん診療を行うという臨床腫瘍医は存在せず,特にがんが全身化した進行病期のがん治療を薬物療法で行う内科臨床医というカテゴリーはない.旧態依然たる大学の医学教育に腫瘍学の講座はなく,社会のニーズに答えていない.抗がん剤の知識の乏しい臨床医が安易にがん化学療法を行うなど,日常がん臨床も大きな問題を抱えている.

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 長く人類を苦しめてきた胃炎,消化性潰瘍が,Helicobacter Pylori(Hp)という胃内に棲息する細菌によって生ずるらしいこと,この細菌を除くこと(除菌)によってこれらの疾患が改善ないし治癒するらしいことが判明してまだ十数年にしかならない.しかし今Hpは消化器病学の中で最も注目される課題となった.最近では,胃癌や胃悪性リンパ腫あるいは心筋梗塞などの消化管以外の疾患との関連も話題となってきている.

 このように細菌がある疾患の原因と考えられる場合,すなわち,いわゆるコッホの4原則が満たされた場合には,その細菌の除菌がその疾患の治療にとって最もよい手段であることは言うまでもない.事実,Hpの除菌によって胃・十二指腸潰瘍の再発はほとんどの場合防止できる.ところが,このHpのわが国での感染率は50%を超えるとされており,このことは除菌対象が5~6千万人であることを意味している.更に複雑なことには,感染したHpのすべてに病原性があるわけではなさそうで,その一部が関係しているらしい.

書評「標準免疫学」 宮坂 信之
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 免疫学は近年,日進月歩の勢いで変遷しつつある.なかでも,分子生物学の進歩によって新たな遺伝子が次々とクローニングされ,免疫学は新語で溢れかえっている.そして,従来の既成概念も音をたてて崩壊し,新たな革命的な概念が受け入れられる一種のカオス(混沌)状態であると言っても過言ではない.このような現状において,医学生や臨床第一線の医師がこれをみずから整理して理解するのは容易なことではない.むしろ,皆その努力に疲れ果て,あきらめている人々も決して少なくない.免疫学イコール難解の固定観念ができ上がりつつあるのである.「標準免疫学」は,読者に免疫系の基本的な枠組みをわかりやすく,それでいて克明に語ってくれる.ただ単に言葉が羅列されているのではなく,システムとしての免疫系がヴィヴィッドに語られている点がこの本の特徴である.

 中身を少々ひもといてみると,第1章はプロローグとして免疫系の生物学的意義が語られる.免疫系は“自己”と“非自己”を識別する機構であり,防御機構は単なる結果にすぎないことが明確に語られている.“自己”に対して反応する結果,生体は“非自己”を排除することになるのである.一方,免疫系の“内なる反逆”が自己免疫疾患をもたらすこととなる.第2章は免疫系を構成する細胞群,第3~5章は免疫系の多様性と特異性の分子基盤,第6章はリンパ球の分化と成熟,そして第7~8章は細胞内シグナル伝達機構へと続く.そして,第9章では免疫制御と寛容の分子機構,第10~11章で生体内における免疫応答のダイナミズムが,第12章ではエピローグとして免疫系ホメオスタシスの破綻による自己免疫疾患が語られる.この流れをみても,本書がシステムとしての免疫系を浮き彫りにしようとする意図がわかるであろう.

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 順天堂大学名誉教授,故白壁彦夫先生の教え子である浜田勉氏による本書は,筆者がこれまで手にした他の実践書に比較しても今までにない充実した内容が盛り込まれている.主題は『早期胃癌の見逃しをいかになくすか-X線写真の撮影法と読影法』である.その内容については後述するが,227頁という手頃な厚さの本にしては驚くべき豊富な事例が含まれている.著者の早期胃癌のX線診断に対する基本的考え方,具体的症例がコンパクトな中に余さず述べられている.

 本書を読む場合,読者は具体的内容-本文から読み始められるより,最初は「はじめに」「あとがき」および最終のノート・ポイントである「胃癌の自然史からみた検査の位置づけ」から読まれてはいかがであろうか.そこには著者が本書を執筆するにあたっての基本的考え方や,読み進むうえでの道標とも言うべき事柄が極めて明瞭に述べられており,本書の利用方法とでも言うべきことが述べられている.わが国の胃X線診断は,粘膜法・二重造影法・充盈法・圧迫法,以上4法の組み合わせの中で進展してきたことは読者の先生方には既知のことであろう.特に二重造影法の開発・導入は早期胃癌を発見するための検査体系確立のうえで大きく寄与するものであった.そのような中で本書の著者は,X線検査の特性から次のような考え方を示している.

書評「臨床薬理学」 杉山 雄一
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 近年,ソリブジンとフルオロウラシル系薬剤との薬物間相互作用による致死的な副作用の発現をはじめとして,いわゆる薬害問題が後を絶たない.そのような中で,安全かつ有効な医薬品の使用方法について,社会的関心も非常に高くなっている.

 臨床薬理学とは,1985年に日本臨床薬理学会体制委員会によって,“薬物の人体における作用と動態を研究し,合理的薬物治療を確立するための科学である”と定義されている(本書3頁から).

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 日常診療において,疾病の診断および病態の把握に臨床検査は不可欠であり,今日でも,最先端の医学研究から得られた成果を基盤に新しい臨床検査が次々と開発されているのは周知のとおりである.その結果,保険診療が認可された項目だけでも1,000種以上に達するとのことである.臨床の場においてはこの中から必要最小限の検査項目を選び,適切な組み合わせで効率の良い検査情報を得て診断を行うとともに,更に,より厳選した項目をマーカーとして病勢の経過観察や治療効果の判定を行っていかなければならない.

 しかし現実には不必要に過剰な検査を行ったり,必ずしも意義を理解せず新しい検査に飛びつく傾向がみられ,ときには検査づけなどと非難を受ける.この背景としては,診断の過程や病態の把握において病歴や理学的所見などの基本的な情報を軽視しがちで,データ優先主義となり,しかもデータについても系統的に分析する習慣がついていないことが挙げられる.

編集後記 細井 董三
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 噴門部領域はその解剖学的特性から慢性的に物理的,化学的,生理的刺激を受けやすく,ほかの部位にはみられない様々な疾患や病態が起こりうる.本号ではこの部位に発生する癌以外のあらゆる病変を扱った.腫瘍性病変では平滑筋腫または平滑筋肉腫などのGIST(gastrointestinal stromaltumor)が好発することは各著者の指摘のとおりである.食道炎に伴ってしばしばEGJ上にみられる乳頭腫は内視鏡診断ではもちろんのこと,生検診断でも悪性病変(pseudomalignant erosion)との鑑別が問題になるので注意を要する.機械的,物理的刺激による病変としては嘔吐反射に伴う急激な食道内圧の上昇によって下部食道から噴門部に裂創を生じる特発性食道破裂やMallory-Weiss症候群が知られているが,同様の機序で粘膜下血腫が食道側にも胃側にも生ずる.これらの予後とQOLは治療法の選択と治療開始時期によるので迅速かつ的確な診断が要求される.食道炎とアカラシアに代表される噴門部の良性狭窄に対する治療法には,最近の薬物療法の改善と低侵襲性の腹腔鏡下治療法の導入などにより大きな進歩がみられる.ところで最近,わが国においてもHIVの蔓延が危惧されているが,HIV患者にみられたCVC感染による特徴的な食道潰瘍が提示されており,興味深い.そのほか,静脈瘤,囊腫,術後のpseudotumor,周囲臓器からの浸潤,圧排像とその原因疾患などが紹介されている.本号には噴門部に起こりうる癌以外の興味ある数々の症例がきれいな画像とともに掲載されている.これらの症例を一見しておけば胃噴門部の病変に遭遇した際に,必ずや診断の一助となるであろう.

基本情報

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胃と腸
32巻9号 (1997年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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