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書評「がん診療レジデントマニュアル」
有吉 寛
1
1県立愛知病院
pp.1174
発行日 1997年8月25日
Published Date 1997/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403105021
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日本では今世紀初め,がんの死亡数が全死亡数に占める割合は2~3%と言われていた.しかし,がんによる死亡は年々増加し,1981年には第1位となり,世紀末の最近では全死亡数に占めるがん死亡数の割合は25%と,その増加傾向は止まらない.こうした状況から一般的には,がんは死病であると認識されている.一方,がんの治癒率も近年漸増し,約50%前後の治癒率が報告されている.その理由として,がん知識の普及,各臓器がんの早期発見の努力,各種がん診断法やがん治療法の進歩など,多くの複合的要素が考えられている.このため,がんの生物学をよく理解した専門性の高い臨床腫瘍医が,何が標準的治療で何が研究局面の治療かを理解し,患者のインフォームドコンセント(IC)を基本としてがんの診療を行う必要がある.
しかし,がん専門病院以外でわが国の診療体制に臨床腫瘍医の集団は少ない.一般的に肺がんは呼吸器科の一領域であり,胃がんや大腸がんは消化器科の一領域の疾患と考えられている.いわんや,進行期で薬物療法が必要な卵巣がんや子宮がん,あるいは進行期で薬物療法の必要な前立腺がんや膀胱がんを内科医が診ることは極めて少ない.換言すれば,わが国のがんの診療は臓器に依存し,がんの生物学に基づいてがん診療を行うという臨床腫瘍医は存在せず,特にがんが全身化した進行病期のがん治療を薬物療法で行う内科臨床医というカテゴリーはない.旧態依然たる大学の医学教育に腫瘍学の講座はなく,社会のニーズに答えていない.抗がん剤の知識の乏しい臨床医が安易にがん化学療法を行うなど,日常がん臨床も大きな問題を抱えている.
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