胃と腸 32巻10号 (1997年9月)

今月の主題 早期食道癌―X線診断の進歩

序説

早期食道癌―X線診断の進歩 西沢 譲
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 X線や内視鏡のような形態診断学の基礎となるものは解剖学であるが,特にX線診断では目安になるものが必要で,それらが診断の進歩を促す.

 例えば,胃について言えば古くは粘膜ひだが診断の目安であったが,胃小区が肉眼で見える最小単位として解剖書にも記載されており,胃小区を表そうとする努力がなされてから半世紀近く経過している.大腸も同様で,無名溝という最小単位の形態名があり,それらがX線像に描出されるようになってから30年を経過している.いずれも二重造影法によるものであるが,それらを描出しうれば正常像とされ,微細診断の目安に用いられてきた.

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要旨 1995年5月から1997年4月までの2年間の当センターにおける食道集検の成績を検討した.癌発見率は0.10%で,しかも表在癌比率は92.3%と高率であった.現在の食道集検のm癌に対する拾い上げ能はm1はほとんど不可能であったが,辺縁に所見が表れやすい30mm以上の病変ならm2病変までは可能であった.今後対象を集約し,撮影体位を工夫することにより,間接食道集検の場でもEMRの適応となるようなm癌を含む早期食道癌を,より多く,より効率的に拾い上げうるようになるはずである.

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要旨 早期食道癌のうち,m癌のルーチンX線診断について検討した.ルーチンX線検査が先行した中で,16例27病変のm癌を発見した.m3の9病変,m2の10病変はいずれも初回X線検査時に癌確診,疑診できた.m1の8病変では4例で疑診,1例は拾い上げ診断できたが,微小癌の3例は拾い上げできなかった.m1では最小12mmが診断できた.撮影技術では,食道内を造影剤で十分に洗い流した後に,造影剤が食道粘膜に薄く付いた状態で,適度に伸展した“良い二重造影像”を,被検者の食道癌のリスクに応じた検査体系で撮ることが大切である.読影技術からは,m癌の診断には壁辺縁の所見よりも,粘膜面の異常所見,淡い不整陰影像,不整顆粒像に着目することが重要である.

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要旨 1986年から1996年までに癌研内科または外科で手術または内視鏡的粘膜切除され,十分に病理学的検索の行われたm1からsm1までの食道表在癌のうち,X線側面像の評価可能な36例36病変(m1癌18例,m2癌4例,m3癌7例,sm1癌7例)を対象に,組織学的に深達度の細分類(m1,m2,m3,sm1)を行い,肉眼型分類,大きさ,深達度について検討し,X線所見(特に側面像)の分析から深達度診断の手掛かりを求めた.肉眼型は隆起型は22%(8例),陥凹型は72%(26例)および0-Ⅱb型5.6%(2例)で,陥凹型が過半数を占めていた.大きさと深達度の関係では,1cm以下の7例はすべてm(m1~m3)癌であり,1cm以上ではsm癌の頻度が増加する傾向がみられた.深達度とX線側面像所見との関係は,m1・m2癌22例では所見なしが55%(12例)と過半数を占め,壁不整のみ4.5%(1例),直線化が41%(9例)で,陥凹化を示した症例は1例も認められなかった.一方,m3・sm1癌14例では直線化が57%(8例)と過半数を占め,陥凹化が29%(4例)もみられたが,所見なしはわずかに14%(2例)にすぎなかった.結局,m1・m2とm3・sm1では,側面像所見に差がみられ,その特徴は,m1・m2癌は辺縁像の異常を認めないものが多いのに対して,m3・sm1癌では直線化や幅のある不整陥凹像が増加することである.以上の所見を正面像所見と組み合わせることによって深達度診断を可能にするものと考えられた.

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要旨 早期食道癌のX線正面像による深達度と拡がりの診断を検討した.その結果,0-Ⅱc型病変の深達度ごとのX線形態が明らかになった.m1~m2a癌の88%は平坦または不鮮明な模様のごく軽度の陥凹であり,m2b癌では78%が明らかな顆粒を伴う軽度陥凹として描出された.m3~sm1癌は軽度陥凹+隆起(53%),中等度陥凹(47%)の2つの病型を示し,粘膜筋板浸潤部にひだの肥厚所見がみられた.病変の拡がりは,粘膜ひだの不整と陰影斑の所見から82%の症例で診断可能であった.O-Ⅱa型病変でも病変の形態が重要で,顆粒集簇型と結節隆起型を呈する84%の症例では隆起の高さと大きさによって深達度診断が可能であったが,単発隆起型(16%)の診断は不十分であった.

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要旨 digital radiography(DR)は従来のX線フィルム-増感紙による撮影系(CFSS)に比べると多くの機能を有しており,消化管の中でも特に検査が難しい早期食道癌の造影にはこれらの機能が役に立つ.リアルタイムの画像表示は,病変の存在,性状や周在性などが検査中に確認できるので描出能が向上し,撮影の失敗も激減する.連続撮影によって撮影のタイミングを逸することがなくなり,伸展度や造影剤の付着が異なった画像が簡単に撮影できるようになる.被曝線量の軽減も利点の1つであり,撮影時間を短縮できるのでブレが少なくなる.更に,画像処理することによって病変の描出性が向上する.今後,課題である空間分解能やダイナミックレンジ,ノイズなどの問題が解決されれば,DRは早期食道癌のX線診断に新しい展開をもたらすと考えられる.

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症 例

〔患 者〕46歳,女性,会社員.

〔主 訴〕なし.

〔家族歴・既往歴〕特記すべきことなし.

〔生活歴〕喫煙歴なし.飲酒歴なし.

〔現病歴〕1990年5月に人間ドックの上部消化管内視鏡検査で食道病変を指摘された.精査加療の目的で当科を紹介され,6月12日に入院となった.

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症例

〔患 者〕68歳,男性.

〔主 訴〕右季肋部痛.

〔既往歴〕32年前,CO中毒.13年前,胃癌で幽門側胃切除術.1年前から深部静脈血栓症でWarfarin内服中.

〔現病歴〕当院循環器科で治療中,右季肋部痛あり,当科を紹介され,精査中に食道病変を発見された.

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症例

〔患 者〕69歳,男性.

〔主 訴〕咽頭部違和感.

〔既往歴〕67歳から糖尿病,前立腺肥大,胆石症.

〔家族歴・嗜好歴〕特記事項なし.

〔現病歴〕1993年10月に咽頭部違和感が出現し上部消化管内視鏡検査を施行され,食道に隆起性病変を認めた.同年11月1日に精査加療目的に当院へ入院となった.

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症例

〔患 者〕67歳,女性.

〔主訴・既往歴〕特記すべきことなし.

〔家族歴〕父親が胃癌.

〔現病歴〕無症状であったが,2年に1回の割合で当センターで内視鏡による上部消化管の検診を受けていた.1996年7月10日に行った検査で,上部食道に発赤部を認め,ヨード染色でも同部は約1/2周を占める不染部としてみられた.生検の結果は扁平上皮癌であった.

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症例

〔患 者〕72歳,女性,主婦.

〔主訴,家族歴,既往歴〕特記すべきことなし.

〔現 症〕スクリーニングの内視鏡検査で食道病変を発見され,当科へ紹介入院となった.

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症例

〔患 者〕61歳,女性.

〔主訴・家族歴・既往歴〕特記すべきことなし.

〔現病歴〕1994年10月11日に当院人間ドックを受診.上部消化管内視鏡検査で食道の陥凹性病変が認められ,消化器内科へ紹介された.

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症例

〔患 者〕47歳,女性.46歳時舌癌で50Gy照射後手術施行.

〔食道X線所見〕長径5cmの壁の硬化と不整および粘膜面での小顆粒状陰影を認める(Fig.1).

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 〔患者〕43歳,男性.20歳台から胃潰瘍を繰り返していた.1993年3月22日,心窩部痛を主訴に当院受診.消化性潰瘍の疑いで内視鏡検査を施行した.同日施行した生化学検査で高脂血症および脂肪肝を指摘された.

 〔胃X線所見〕仰臥位第1斜位二重造影像(Fig.1a~c)および腹臥位充満像(Fig.1d)で,幽門小彎側と十二指腸球部の間に瘻孔を認めその辺縁には,硬さがみられる(1997年1月).

症例からみた読影と診断の基礎

【Case 11】 斉藤 裕輔 , 高後 裕 , 松田 年
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〔患者〕47歳,男性.主訴は心窩部から臍周囲痛.1週間ほど間歇的に心窩部から膀周囲痛が出現.近医で上部消化管内視鏡検査,腹部超音波検査を施行したが異常なく,症状の改善もみなかったため北見小林病院に紹介となった.現症では心窩部に軽度の圧痛を認めるのみ.血液生化学検査では特に異常所見を認めない(白血球7,600/mm3,CRP<3.0μg/ml,CEA 1.0ng/ml).

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〔患 者〕61歳,女性.主訴:腹部膨満感.1987年,腹部膨満感と下痢で近医入院,大腸Crohn病と診断された.PredonineとSalazopyrinで軽快し,以降外来通院中であった.1997年再び腹部膨満感が増強し検査を施行した.

リフレッシュ講座 小腸X線検査・1

基本的手技 飯田 三雄 , 天野 角哉
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はじめに

 小腸X線検査は,小腸内視鏡が一般的な検査法になっていない現在,重要かつ不可欠な診断方法である.その方法はTable1に示すごとく多種類に及ぶが,一般的には造影剤1回投与による経口法と経ゾンデ法による二重造影法が行われている1).しかし,検査に長時間を要する,病変の発見頻度が少ない,正常像と異常像の区別がつきにくいなどの理由から日常診療では敬遠される傾向にあり,十分に普及した検査法とは言い難い.そこで,本稿では,上記2種類のX線検査法の基本的手技について述べてみる.

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要旨 患者は64歳の男性で,腹部膨満感を主訴に大腸内視鏡検査を行ったところ,S状結腸に陥凹内に隆起を形成した病変が認められた.生検でgroup5の診断を得,当院入院となった。術前の注腸X線検査および内視鏡検査で,星芒状の境界を示す陥凹の中心に,ドーム状の隆起を認めた.しかし,形態は空気量によって著明に変化した.S状結腸部分切除が行われ,病理組織学的には径15×11mm,Ⅱc+Ⅱa型,深達度sm1の高分化腺癌であった.陥凹内隆起形成は癌のsm多量浸潤によって形成されることが多いと考えられていたが,本例の陥凹内隆起の主体は癌の粘膜内増殖によって成り立っていた.

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要旨 患者は48歳の男性.検診で胃の異常と貧血を指摘されて受診した.胃X線検査で体上部に認めた結節状の巨大な粘膜下腫瘤は,内視鏡検査では緊満した脳回状の形態を示し,超音波検査では内部に多発性の囊胞を認めた.摘出された腫瘤(13×7×7cm)は,病理組織学的に,粘膜下組織において増生した腺管組織から成り,これら腺管の周囲には不整な束状の平滑筋層と幽門腺あるいは噴門腺類似の腺組織を伴っていた.またこの病変は,粘膜筋板の欠損部で表面を被覆する固有粘膜層と連続していた.以上から,隆起性増生を示した異所性胃腺組織とみなし,submucosal heterotopic gastric gland polypと診断した.

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欧文目次

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 このたび出版された「臨床検査データブック1997-1998」は,小型でパワフルで新鮮である.

 本書は“臨床検査の考え方と注意事項”,“検査各論”,そして”疾患と検査”の3部構成である.

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 浜田先生は,亡くなられた白壁彦夫先生の数多い弟子の中で,最も信頼されていた1人である.

 本書を通覧して,まず感じたことは白壁先生の著書「腹部X線読影テキスト」と雰囲気が非常に似ていることである.白壁先生は後を見ずに先へ先へと求める求道者的なところがあり,その画像はとことん写し出されたものでなければ納得せず,すべて捨てられてしまう.弟子たちの能力の出しうる限りのものを出させる.そして,その表しうる限界を証明する手法である.人になりきれない者,努力をしない者はどんどん切り捨てていく.絵で言えば,何十枚と画かれた中で納得できる1枚だけが絵であると主張するのである.

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 “それでも地球は回っている”というガリレオの言葉はあまりにも有名であるが.本書を読んで筆者の頭にはこの言葉がまず浮かんできた.著者の市川博士が.X線二重造影法で描出された胃の早期癌を欧米の専門家たちに見せてもなかなか理解されない状況の中で.“それでもこれは早期癌だ”と叫びつつ奮戦される姿が本書に生き生きと描写されているからである.

 今でこそ.X線二重造影法は胃でも大腸でもルーチンの検査としてわが国で定着しているが.この技術が確立され.日本での普及が始まったのは昭和30年ごろからであり.その普及は国内においてすら決して容易なことではなかった.その普及の達成には早期胃癌研究会をはじめとして.各地で熱心に継続されている胃癌を中心とする消化器疾患研究会の存在の力が大きく.その努力は現在でも綿々と続けられている.胃癌多発国であるわが国では.胃癌の早期発見には国民的な関心があるので.その普及は当然のことのように考えられるが.それでも新しい技術が確立され広く普及するには.多数の人々の絶えざる努力・情熱と時間が必要だったのである.しかし.これが胃癌が少ないために興味もあまりない欧米が相手であるうえに.言葉の問題や人種的偏見の要素も加われば.それがはるかに困難な仕事であることは想像に難くない.時代も日本が経済大国となる何年も前の昭和30年代であれば.その困難さは想像を絶するものがあったであろう.

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 Helicobacter pylori(HP)と上部消化管疾患との関連は消化器関連学会のトピックスである.本書の編者の1人,藤岡が第1章でまとめているように,①HPは胃炎・消化性潰瘍患者の胃粘膜から高頻度に分離され,ヒトにおける最も高頻度の慢性感染症である,②感染実験で急性胃炎を引き起こし,組織学的な慢性活動性胃炎が持続する,③除菌療法により消化性潰瘍の再発が有意に抑制される,などの点がHP研究の今日の隆盛をもたらしたのであろう.

 HPがどのような機序で胃粘膜傷害を引き起こすのかについては,様々な角度から研究されている.本書はこれらのメカニズムについては詳しく言及せず,タイトルの「除菌治療ハンドブック」からもわかるように,臨床的事項に焦点を絞って編集されたものである.その構成は“なぜ除菌が必要なのか”,“除菌治療の判定はどのように行うのか”という総論から始まり,HPがなぜ注目されているのかについてのreviewと,各種疾患との関わりが簡潔にまとめられている.HP感染の診断については判定のガイドラインを含め,各種検査法が紹介され,診断の概要が把握できるようになっている.

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 分子生物学の目覚ましい進歩は,基礎と臨床との垣根を取り払いつつある.相並行してCTに始まる各種の画像機器が次々と登場し,性能が格段に向上した結果,医療の現場は大きく塗り替えられた.当然の帰結として,昨日耳にしなかった医学用語が,今日はキーワードとして確かな位置を占めている.また既に教科書に記載されている疾患,病態,診断,治療の概念や内容も急速に変遷しつつある.この傾向は医学のあらゆる分野においてみられるが,特に消化器病学において顕著である.

 このような時期に「キーワードを読む 消化器」なる魅力的な書名が冠せられた本書の刊行はまさにタイムリーと言えよう.外科,内科の息の合った両編者が該博な知識を駆使して157個のキーワードを取り上げ,93名のこの分野のエキスパートの協力を得て,本書が上梓された.

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 20年前,乳癌外科を専攻することを命じられて,国立がんセンターで2か月の研修を受けた.その当時から国立がんセンターのレジデント制度は充実しており,若いレジデントの撥刺とした活躍に圧倒されたことを鮮明に記憶している.

 この研修で,臨床腫瘍学の重要性を教えられ,参考書の1つとして紹介された「UICC:Manual of Clinical Oncology」がそれ以来筆者の座右の書となり,改訂ごとに購入してきた.しかし,内容は充実しているものの,常に携帯してベットサイドで活用するには少々不便を感じていた.

編集後記 吉田 操
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 食道癌の早期診断は,改めて言うまでもなく目覚ましい進歩を遂げた.この原動力となったのは内視鏡によるスクリーニングである.従来,極めて困難とされてきた上皮内癌と粘膜癌の診断も,ヨード染色法の確立により標準的な診断法となり,早期診断の普及を早めた.これまでの臨床病理学的実績は,粘膜癌こそ早期食道癌であることを示唆し,この概念は今や広く世間の認めるところとなった.

 一方,粘膜癌のX線診断は報いの少ない努力を続けなくてはならなかった.ヨード染色法のような,画期的手法は登場しなかったからである.次々に臨床の場に登場する上皮内癌,粘膜癌は凹凸の少ない病変である.これをフィルム上にいかに精密に再現するか,先行する内視鏡と病理にいかに速やかに追いつくか,従来の食道造影法の改良だけで実現しなくてはならなかった.この間,食道粘膜癌のスクリーニングと精査は,内視鏡検査以外に有効なものはないと,誰もが信じて疑わなかったのである.

基本情報

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胃と腸
32巻10号 (1997年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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