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免疫学は近年,日進月歩の勢いで変遷しつつある.なかでも,分子生物学の進歩によって新たな遺伝子が次々とクローニングされ,免疫学は新語で溢れかえっている.そして,従来の既成概念も音をたてて崩壊し,新たな革命的な概念が受け入れられる一種のカオス(混沌)状態であると言っても過言ではない.このような現状において,医学生や臨床第一線の医師がこれをみずから整理して理解するのは容易なことではない.むしろ,皆その努力に疲れ果て,あきらめている人々も決して少なくない.免疫学イコール難解の固定観念ができ上がりつつあるのである.「標準免疫学」は,読者に免疫系の基本的な枠組みをわかりやすく,それでいて克明に語ってくれる.ただ単に言葉が羅列されているのではなく,システムとしての免疫系がヴィヴィッドに語られている点がこの本の特徴である.
中身を少々ひもといてみると,第1章はプロローグとして免疫系の生物学的意義が語られる.免疫系は“自己”と“非自己”を識別する機構であり,防御機構は単なる結果にすぎないことが明確に語られている.“自己”に対して反応する結果,生体は“非自己”を排除することになるのである.一方,免疫系の“内なる反逆”が自己免疫疾患をもたらすこととなる.第2章は免疫系を構成する細胞群,第3~5章は免疫系の多様性と特異性の分子基盤,第6章はリンパ球の分化と成熟,そして第7~8章は細胞内シグナル伝達機構へと続く.そして,第9章では免疫制御と寛容の分子機構,第10~11章で生体内における免疫応答のダイナミズムが,第12章ではエピローグとして免疫系ホメオスタシスの破綻による自己免疫疾患が語られる.この流れをみても,本書がシステムとしての免疫系を浮き彫りにしようとする意図がわかるであろう.
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