胃と腸 32巻8号 (1997年7月)

今月の主題 胃噴門部領域の病変 (1)癌

序説

噴門部早期癌の診断 西俣 寛人
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 現在の胃癌の診断は,内視鏡下で生検した組織で癌と診断され,初めて胃癌と診断される.内視鏡での観察力,組織診断の正確さが,胃癌診断能に直結していると言える.スクリーニングX線検査で拾い上げても内視鏡でその部位を正確に観察し,生検が行われなければ異常なしとなる.殊に噴門部近傍の早期癌は内視鏡所見の,しい症例が多い.X線所見の描出された部位を正確に診断し,内視鏡観察時にその部位を方向を変えて観察し,正確に生検することが噴門部早期癌の診断能を向上させるために重要であると筆者らは述べてきた.筆者らの噴門部病変の診断体系ができた時期は1978年,最初の早期癌〔20mmのⅡa+Ⅱc(sm癌)〕の発見以降である.その後約1年間で6症例の早期癌が発見されたが,1例を除いてsm癌であった.この時期の生検診断で混乱があった.噴門部癌の大半が,分化度の高い分化型癌のために筆者らのグループでは高分化型腺癌と診断しても,他の病理ではGroup Ⅱの診断となり手術が延期になる症例が多かった.幸いにして西満正先生が第1外科の教授在任中で,御指導を受け手術症例が増えた.こうして得られた噴門部早期癌を臨床病理学的に再検討して噴門部癌の診断は現在の診断理論で十分なのかを考える時期に来ていると思う.

 本誌で噴門部病変の特集号は「食道・噴門境界部の病変」(11巻6号)と,「食道・胃境界領域癌の問題点」(13巻11号),「噴門部陥凹型早期胃癌の診断」(24巻1号)である.丸山は24巻1号の序説で,噴門部の陥凹型早期癌はX線診断と内視鏡診断の優劣論争を現時点の感覚で捉えたとき,最後に残る話題であろうと述べ,パンエンドスコピーをもってすれば上部消化管の診断にX線検査は不要という世論に,各主題論文の筆者らに答えを出すように求めた.形態的表現の乏しい噴門部早期癌を内視鏡で拾い上げ,正確に生検するために高木は側視鏡が優れていると論じ,鈴木は小彎側の病変は前方視式で発見ないしは診断され,後壁の病変は側視式で診断されているという傾向であると論じている.

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要旨 病理組織学的検索で食道浸潤の認められた胃癌72例72病変(X線的検討35例および内視鏡的検討59例)を対象に臨床病理学的に検討した.原発巣の部位はC領域が81%と最も多く,肉眼型では進行4型(46%),進行3型(25%)が多かった.先進部浸潤層はlpm以深の上皮下浸潤の頻度が有意に高く(76.4%;p<0.01),特にsmを中心とする多層浸潤が多かった.EGJ非破壊型は未分化型癌に多い傾向がみられた.食道浸潤のX線所見は分化型癌では限局した陰影欠損(A型),未分化型癌では不整狭小化像(B型)を示すものが多かった.X線的に異常所見が指摘できなかったD型(6例)は未分化型癌が多く,食道浸潤距離は11mm以下,その先進部浸潤層はlpm以下の上皮下浸潤が多かった.内視鏡所見ではEGJ破壊型の上皮浸潤所見は隆起が多く(84.6%),陥凹は少なかった.EGJ非破壊型で上皮浸潤所見を示したものは,未分化型癌の1例(陥凹を伴う隆起)のみであった.未分化型癌EGJ非破壊型の先進部の上皮下浸潤所見は分化型癌EGJ非破壊型に比べて出現率は低かった.内視鏡的に食道浸潤所見を指摘できない7例の組織型はすべて未分化型癌,浸潤距離は12mm以下,lpm以深の単層または多層浸潤である.X線的・内視鏡的な診断の留意点は,①分化型癌か未分化型癌かを考慮すること,②陰影欠損像やEGJの破壊など癌の上皮浸潤所見に注目すること,③食道下部の狭少化,伸展不良,辺縁の異常および縦ひだの肥厚浸潤など癌の上皮下浸潤所見に注目することである.

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要旨 胃癌の食道浸潤の的確な術前評価は,切除術式を決定するうえで重要な問題となってくる.今回,噴門部領域の進行癌の食道浸潤の超音波内視鏡(EUS)診断の有用性について検討した.1994年1月~1996年12月の期間に当院で切除された噴門部領域を含む進行胃癌のうち,術前に食道浸潤の有無が問題となり,EUSが施行された53例を対象とした.EUSはラジアル走査式を使用,脱気水充満法または,バルーン装着法により施行,EUS所見と病理組織学的所見を対比検討した.肉眼型は3型,4型が45例を占め,また組織型は未分化型が42例であった.病理組織上食道浸潤が認められた症例のうち,EUSで食道浸潤ありと診断できた症例は27例中22例(sensitivity 81.5%),一方,食道浸潤が陰性であったものを浸潤なしと診断したものは,26例中25例(specificity 96.2%)であり,accuracy88.7%であった.食道浸潤の範囲を±1cmまでの誤差を診断一致とした場合は,一致率は83.0%(44/53例)であった.主な誤診の理由は,広範な癌の浸潤のための噴門の不明瞭化あるいは破壊による正確なEGjunctionの同定が不確実であったこと,少量の腫瘍による食道浸潤のためEUSでの認識が困難であったことなどが考えられた.

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要旨 噴門部早期癌診断の実態を前期(1978~1986年)と後期(1987~1996年)に分けて検討した.検討対象は前期78病変(早期癌29病変),後期86病変(早期癌54病変)である.全早期癌に対する噴門部早期癌は前期4.6%,後期8.1%,噴門部癌における早期癌の比率は前期37%,後期63%,早期癌の中のm癌比率は前期41%,後期56%でいずれも診断能は向上していた.全噴門部癌の40%は41mm以上の病変で,この領域の初期病変の診断能は向上していなかった.

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要旨 噴門部領域癌の病理学的特徴を検討した.本来はEGJ前後2cm以内にとどまる癌を検討すべきであるが,症例数が少ないために4cm以下で癌の中心部が2cmにとどまる症例(68例)を他部位の4cm以下の癌と比較して検討した.噴門部領域癌は,食道癌と胃癌のうち3.1%であり,70歳以上の高齢者が多かった.組織学的には高分化型腺癌(特に乳頭腺癌)が多く,肉眼的には組織型を反映して隆起型や限局潰瘍型が多かった.リンパ節転移率や再発死亡率は他部位の胃癌に比べて高く,食道癌と同様で悪性度が高かった.

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要旨 噴門部癌55例を対象に適切な治療法につき検討した.その結果,リンパ節転移率は深達度がss以深の症例で著明に上昇しており,mp症例では10例中3例(30%)と転移率こそ低かったものの,脾動脈幹リンパ節への転移率は66.7%と高かったことから,mp以深の症例に対しては胃全摘術および膵脾合併切除を行うべきと考えられた.一方,噴門部早期胃癌8症例では第2群リンパ節転移を来した症例はみられず,C領域のsm癌症例32例においても,大彎リンパ節右側,幽門上・下リンパ節への転移陽性症例は認めなかったことから,内視鏡的治療が困難,あるいは適応外の早期胃癌に対してはQOLを考慮した噴門側胃切除術が最適と思われた.リンパ節転移を来さないと判断される早期胃癌に対してはEMRを第一選択とすべきであるが,完全切除率は噴門部においては70%前後とされるため切除後の厳重なる経過観察が肝要であり,完全切除が困難な症例に対しては侵襲の少ない腹腔鏡下粘膜切除が有用と考えられた.

症例からみた読影と診断の基礎

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〔患者〕77歳,男性.主訴:なし.

読影と解説

最終診断:0-Ⅱc型食道癌.深達度m3.

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〔患者〕78歳,女性.主訴:食物嚥下時のつかえ感.現病歴:約3か月前から食物嚥下時に軽いつかえを自覚していた.症状が持続するため,家庭医のもとで上部消化管内視鏡検査を受け,食道に異常所見を認めたため,精査治療目的で当院に入院した.既往歴:子宮癌で根治術ならびに術後放射線照射を受けている.また,術後イレウスで再開腹,このほかに,腎結石の既往あり.

リフレッシュ講座 胃の検査手技の基本・3

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盲点は存在する

 盲点には,いまだ全くその存在に気づかない盲点と,その盲点の存在の可能性に気づいて注意しながらも陥ってしまう盲点がある.そしてその盲点を縮小し,克服しようという努力の結果がその検査医の検査技術の現状とも言える.

 盲点―検査・診断における不十分性―が存在することはよく知られている.すなわち,検査・診断能の不十分性という観点からみれば,その盲点の結果には日々,直面させられているというのが現状である.

早期胃癌研究会

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 1997年4月の早期胃癌研究会は,4月23日(水),東商ホールにおいて,西沢護(東京都がん検診センター)と樋渡信夫(東北大学第3内科)の司会で行われた.ミニレクチャーは“大腸腫瘍に対する内視鏡的治療の適応と限界”として多田正大(京都がん協会)が行った.

 〔第1例〕59歳,男性.舌癌術後に発生した0-Ⅱc型食道粘膜癌(症例提供:徳島大学第2内科 岡村誠介).

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 1997年5月の早期胃癌研究会は,5月14日(水)に開催された.司会は松川正明(昭和大学附属豊洲病院消化器科)および西元寺克禮(北里大学東病院消化器内科)が担当し,大腸4例,食道1例が提示され,ミニレクチャーは先端絶縁ナイフ(ITナイフ)を用いた胃粘膜切除術について細川浩一(国立がんセンター東病院内視鏡部)が解説した.

 〔第1例〕42歳,男性.粘膜下腫瘤様の直腸sm癌(症例提供:愛媛県立中央病院外科 喜安佳人).

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要旨 患者は57歳,男性.人間ドックの上部消化管X線検査で食道の隆起性病変を指摘され,内視鏡検査で食道癌と診断され,当科紹介入院となった.食道造影検査で,胸部中部食道に隆起性病変を認め,口側・肛側両側に溝状のごく淡い不整陰影像の進展を認めた.食道内視鏡検査では,上切歯列から28cmの右壁に結節状隆起を認め,25~31cmまで隆起を中心に3/4周性にⅡc面が拡がっていた.また主病変の口側前壁にはⅡc型副病変を認めた.0-Ip+Ⅱc型食道癌,深達度smlと診断し,開胸食道切除を行った.術後病理組織学的所見では,O-lp+Ⅱc型食道癌で,深達度は2か所で粘膜筋板(m3)に達するにとどまっていた.O-Ip+Ⅱc型食道癌の肉眼形式を呈したにもかかわらず,深達度m3にとどまった食道表在癌の1例を経験したので報告した.

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要旨 患者は61歳,男性.人間ドックで便潜血陽性を指摘され,注腸X線検査を受けた.S状結腸に,顆粒結節状表面を持つ径3cmの類円形透亮像,その口側に径1cmの円形透亮像を認めた.内視鏡検査では,いずれも光沢のある黄白色調の隆起で,血管増生による発赤を伴っていた.ほかに黄白色調の平坦病変も認めた.生検では3病変ともMALTリンパ腫の疑いとされた.EUSでは,粘膜深層からsm深層にかけて濾胞状低エコー腫瘤を認めた,PCR法によりB細胞のmonoclonalityが証明されBリンパ腫と診断した.手術標本の病理診断は,MALT型悪性リンパ腫(びまん性中細胞型),深達度sm(sm2,sm3×2個),ly0,v0,n(-)であった.文献検索の結果,大腸のMALTリンパ腫はlymphoepithelial lesionやリンパ濾胞に乏しく,胃のそれとは異なっていた.本例の内視鏡所見や組織所見は早期大腸MALTリンパ腫として定型的と考えられる.

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要旨 腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7による大腸炎のX線・内視鏡による経過観察例を報告した.患者は,48歳,主婦.腹痛・血性下痢を主訴として,入院した,第5病日の内視鏡検査では,直腸・S状結腸の病変は軽度であったが,下行結腸~盲腸には発赤粘膜の浮腫,潰瘍・びらん形成,出血などの高度の炎症所見を認め,同日の注腸X線検査でも下行結腸~盲腸にかけて管腔の痙攣性狭細化,thumbprinting様所見を認めた.糞便検査でEHEC O157:H7が証明された.第21病日の内視鏡検査では,横行結腸に数条の縦走潰瘍瘢痕と下行結腸に発赤斑を残すのみとなりほぼ治癒した.注腸X線検査でも横行結腸に縦走潰瘍瘢痕が証明された.

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要旨 患者は35歳,男性,公私にわたり精神的ストレスを自覚していた1995年9月から味覚異常,下痢が出現,更に脱毛,爪甲陥凹,手指の色素沈着を生じ,当科に紹介入院.入院時低蛋白血症を認め,消化管造影および内視鏡検査で胃から直腸までびまん性に浮腫状の無~亜有茎性ポリープを認めた.ポリープの病理組織検査で腺管の囊胞状拡張,間質の浮腫性変化を認め,Cronkhite-Canada症候群と診断した.入院後IVH管理・ステロイド経口投与により臨床症状および消化管ポリポーシスは著明に改善した.近年,本症候群の誘因としてストレスの関与が報告されており,本症例でも精神的ストレスの関与が示唆された.

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要旨 患者は48歳の男性.上部消化管内視鏡検査で食道胃境界部直上に表面平滑な小豆大の黒色隆起と,胃噴門部に内部灰白色の潰瘍を有した粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.生検の結果,悪性黒色腫と診断され,下部食道・胃全摘,脾合併切除,2群までのリンパ節郭清を施行した.食道側の病変のH・E染色像では,腫瘍は紡錘形の異型細胞が不規則な束状配列を呈して増殖し,メラニン色素顆粒を散見した.また,腫瘍辺縁の食道粘膜ではjunctional activityを認め,一部粘膜筋板まで浸潤していた.胃側の2個の病変に連続性はなく,メラニン色素顆粒は認められなかった.食道・胃両病変はいずれもS-100蛋白強陽性を示した.

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要旨 患者は65歳,女性.症状なく,健診の内視鏡検査で胃角のⅡcと診断された.胃X線所見で胃角後壁に結節状隆起と,この病変に接して肛門側に浅い不整陥凹を認めた.側視鏡による所見で,胃角小彎に境界明瞭なⅡcと,これに接して口側に白色の扁平隆起を認めた.なお,胃体中部小彎の発赤したびらんは生検でadenocarcinomaであった.ⅡaとⅡcの衝突癌疑い,胃体部のⅡcとの術前診断で胃切除を行った.切除胃ならびに組織所見は,胃角小彎に5×2cmのⅡc,por1,m,Ul-Ⅱsで,これに接した口側のⅡaに連続して口側にⅡcが広く進展し,胃体部のIlc部位をも含む10×5cmのⅡa+Ⅱc,tub1,m,Ul-Ⅱs,n(-)(0/20)で,組織像は低異型度小腸型分化型腺癌に相当し,2個の早期癌の衝突を組織学的に診断しえた.早期胃癌の診断にあたって,ⅡaとⅡcの相接する所見と両者の生検所見が明らかに異なる場合には,衝突癌の存在を念頭に置くべきであろう.

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要旨 50歳,男性.下血で入院.2年前の下血時に精査を行ったが出血源は不明であった.今回の出血時に行った緊急内視鏡検査で,出血源は虫垂起始部の盲腸粘膜にみられた10mm大の平坦な隆起性病変であった.切除材料で,虫垂起始部盲腸粘膜に10mm大の平坦な隆起性病変がみられ,中心部にびらんと出血がみられた.同部は,組織学的に潰瘍性大腸炎の所見を呈し,これに大腸深在性囊胞症(膿瘍を合併)の所見を伴っていた.虫垂と上行結腸は肉眼的に異常を示さなかったが,組織学的には潰瘍性大腸炎の所見を示した.その後の大腸内視鏡検査で上行結腸はびらん形成を示したが,直腸は点状出血のみで,生検でも潰瘍性大腸炎の所見はなかった.本症例は盲腸,虫垂突起を主体とした右側結腸型潰瘍性大腸炎で,二次的に発生した膿瘍合併の大腸深在性囊胞症が出血源となったものと考えられた.

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欧文目次

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 癌に対する研究と治療は,ここ数年の間に目覚ましく進歩しており,現在では早期癌を含めると約50%の癌は治癒するようになっている.しかし,癌の罹患率は年々上昇しており,最近では3.5人に1人は癌で死亡している.癌治療の最前線では,機能温存を図りながら治癒率の向上をめざす外科治療や放射線治療,標準的治療法の確立と新規薬剤の導入により治癒や生存期間の延長をめざす内科治療を積極的に行っている.また近い将来,遺伝子治療という手法も臨床に応用できると思われる.一方,治癒が期待できない癌に対しては,患者のQOLを低下させずに,人間らしさを保ったまま終末期を迎えることができるように緩和医療が実践されている.この日進月歩の癌医療の現場から内容豊富なマニュアルが編み出された.

 現在,癌医療の分野においても専門化・細分化が顕著である.国立がんセンターのレジデントは,専門分野の癌治療のスペシャリストであると同時に,自分の専門以外の癌にも対応できる,癌医療のオールラウンドプレイヤーとなるように教育を受けている.この本は,国立がんセンター中央病院内科のチーフレジデントらが,日常の診療の場で行っている治療内容をコンパクトにまとめたマニュアルである.患者の権利を尊重し,十分なインフォームド・コンセントの下に治療を行うことを原則としている.

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 近年,医学の進歩に伴って医療現場では,知っていなければならないことや覚えていなければならない事柄が飛躍的に増えている.臨床検査領域についても例外ではない.検査を利用する臨床家も,測定に当たる検査技師も自分の専門分野はともかくとして,日常診療に利用されている検査項目すべてについて基準値や臨床的意義,検体の保存法,薬剤が検査結果に及ぼす影響などを覚えているのは無理である.

 臨床で異常値を手にしたとき,その意味や出現のメカニズムを知り,他のデータとの関連を考えることは,病態を把握するうえで極めて重要である.また検査技師が各診療側からの問い合わせに的確に対応するために基準値をはじめ,薬剤の影響,他の関連検査を知る手段を講じておくことは必須である.

書評「臨床薬理学」 井村 裕夫
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 薬物療法は治療医学の中でも最も重要な位置を占めるものである.medicineという言葉に,医学と同時に薬という意味があるのも,両者の極めて密接な関係の歴史を物語っている.もちろん現段階では,手術や放射線療法などの治療を要する疾患も数多いが,切らずに癒やす薬物療法は,治療医学の究極の目標と言ってよいであろう.

 しかし,薬物療法も決して容易なものではない.新しい薬の開発には,化学的研究,動物実験,そして臨床的な有効性と安全性の検討(治験)まで,長い時間,多大な労力と費用を必要とする.特に薬物の体内における動態と作用機構,他の薬物との相互作用,副作用とその発現機序の解明などは,決して容易に達成できるものではない.“薬を生み出すのは化学者であるが,歩き方を教えるのは臨床医である”という言葉がある.現在では歩き方を教えるには臨床医のみでなく,臨床薬理学者の果たすべき役割が大変大きくなっている.薬の使い方を研究する科学者が必要となってきているのである.

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 著者の1人,杉田先生は横浜市立大学医学部の公衆衛生学教室で研究されておられた学者である.本著「統計学入門」の初版はその当時に書かれたものである.1968年(昭和43年)に初版が出版され,今回第6版が刊行された.このことは本著書が30年間,多くの読者に読まれ続け,その折り折りに杉田先生が的確に改訂してこられた結果を物語っている.

 今回第6版を手にし,このことがよくわかる.筆者は杉田先生と長いお付き合いをさせてもらっているが,敬愛するお人柄が随所ににじみでている.科学技術書というものは,元来無味乾燥な本であるが,杉田先生の手にかかると,暖かみと親しみがあって読んでいると楽しい.

書評「標準病理学」 桜井 勇
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 町並教授と秦教授の編集によって「標準病理学」が刊行された.執筆者をみると,実験的手法を駆使されていても,常に人の疾患の解析を最終目標として仕事を展開されている方々である.そこにこの教科書の基本的態度が現れているように思う.

 医学教育の改革が叫ばれ,日本に医学教育学会が設立されてから28年を経過した.遅い歩みであったかもしれないが,その間に日本の医学教育のうち,特に卒前教育の改革が進んできた.この改革は病める人々にとっての良医育成を主眼としてきたので,いきおい臨床医学教育の改革が主体となっていた.そのような情勢にあったためか,病理学教育の改革は更に遅れていたと思われる.しかし,最近になって病理学教育のあり方が漸く反省され始めてきていると感じられる.

編集後記 牛尾 恭輔
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 消化管の移行部は,物理的,化学的,生物学的な刺激を受けやすく,上皮の剝脱や再生が頻繁に行われている.特に噴門部領域は,上皮が扁平上皮から単層の円柱上皮に移る部位である.この部には種々の病変が生じやすい.そこで胃噴門部領域の病変として,本号で「(1)癌」,次号で「(2)癌以外の病変」が特集される運びとなった.本号はこの部に生じた癌の特徴を明らかにすることに主眼が置かれ,噴門部に生じた進行癌における食道への上皮下浸潤や,手術法の選択に直結する壁外浸潤の画像診断について,詳しく述べられている.また盲点となりやすい噴門部領域の早期癌の診断をどうするかが,新たな観点から論じられ,これに病理診断と最近の治療法が加わり,重みを増している.ところで,良い臨床医は良い研究者でもあるという.消化管の移行部の1つである噴門部領域の特殊性を熟知して,診断と治療にあたることは大切である.この視点に立って,本号が課題の多い噴門部癌の診断にどう立ち向かい,日常の診療にどのように役立たせるかの指標となれば幸いである.

基本情報

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胃と腸
32巻8号 (1997年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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