胃と腸 28巻10号 (1993年9月)

今月の主題 胃悪性リンパ腫―診断の変遷

序説

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 切除する以外に今のところ確実に有効な治療法のない胃の癌腫とは異なり,リンパ腫は腫瘍の切除以外にも化学療法や放射線療法など有効な治療法があり,癌腫とはかなり様相を異にする.胃の悪性リンパ腫は胃原発の悪性腫瘍のうちの数%を占めるにすぎないが,ある程度進行したリンパ腫例にあっても,その的確な診断は治療法の選択を通じて,と言うよりしばしば,むしろ治療的努力を行うか否かによって,患者の予後を左右することになる.胃リンパ腫の診断は極めて重要である.

 さてその胃リンパ腫であるが,本誌で最後に特集を組んだのは1980年から1981年前半にかけての,15巻9号,16巻2号,4号および5号のシリーズにおいてであった.1980年代初頭にこのシリーズが企画された理由の1つは,ちょうどそのころにリンパ球の機能分化に関する新しい知見をもとにしたリンパ腫の新しい組織学的分類がいろいろ試みられていたからであろうと思われるが,その後もこの方面の動きは継続している.

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要旨 1832年にHodgkinがHodgkin病を記載し,更にSternbergが1926年当時の造血組織の腫瘍を分類してから,現在最も新しく,しかも最も当を得た非Hodgkinリンパ腫の組織学的分類と思われるUpdated Kiel分類に至るまでの,臨床医や病理医に少なからぬ影響を与えた代表的な悪性リンパ腫の分類について述べた.同時にそれぞれの分類の基本的な考え方についても述べた.それらの変遷は主としてリンパ球の形態と機能についての研究の進歩によるものであった.また,最近盛んに取り沙汰されている特殊な節外性リンパ腫,例えばmucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫の取り扱い方についても筆者の見解を述べた.

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要旨 胃をはじめとする節外組織には多くの場合,先天的にリンパ濾胞の形成は認められない.このことからもリンパ節を構成するリンパ球とはその性質や機能が異なると考えられる.胃にはリンパ節と同様に様々な型の悪性リンパ腫がみられるが,Bリンパ腫がほとんどで,びまん性大細胞型,びまん性中細胞型が多い.Tリンパ腫の発生は非常にまれである.これらの悪性リンパ腫は組織発生上,前濾胞中心細胞,濾胞中心細胞および後濾胞中心細胞由来に分けられ,組織学的,免疫組織化学的に分類できる.これらの特徴により分類できないとき,免疫グロブリンやTレセプターの再構城,更にbcl-1やbcl-2などを用いた分子生物学的所見が参考となることもある.Isaacsonらの提唱したMALTリンパ腫は粘膜を有する節外性組織にのみ認められる.その特異な細胞像や免疫組織学的所見からマントル層外層(marginal zone)のリンパ球由来が考えられている.

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要旨 過去29年間に,初回組織診断でreactive lymphoid hyperplasia(RLH)とされた55例中44例(80%)が,見直し組織診断では悪性リンパ腫(ML)であり,その多くがMALTomaの所見を有していた.RLHの頻度は3.5%(7/200)と,従来考えられていた値より低値であった.初回組織診断でのRLHの割合は,1965年から5年間隔にみると,年ごとに減少していた.この原因は,1956年の濾胞性リンパ腫の概念確立,1958年以後のRLHの提唱,1983年からのMALTomaの提唱などで,胃リンパ組織病変の組織診断基準が変化したことに起因すると考えられた.見直し組織診断された胃MLの組織型を年代別にみると,1975年以降,中細胞型MLが増加し,大細胞型MLは減少していた.しかし,肉眼型(表層拡大型と腫瘤形成型)の割合は年代別にみても,変化していなかった.MLの初回生検正診率は64%(29/45)であったが,組織標本を見直すと,45例全例がMLであった.45例の,総標本数に対するリンパ腫陽性標本数は,73%(163/224)と高かった.生検組織診断の一助として,細胞増殖指標(Ki-67免疫染色)や異常蛋白発現(p53免疫染色)も有用と考えられた.

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要旨 切除胃の肉眼所見で顆粒状粘膜所見を呈し,病巣が粘膜,粘膜下層に拡がる表層型に分類される胃悪性リンパ腫4症例のX線・内視鏡所見を検討した.X線所見は大小不揃いの顆粒状粘膜所見で,その中に不整小陥凹が認められた.そして,顆粒状粘膜を呈する部分に軽度の伸展不良が見られた.そして,内視鏡所見では,柔らかい感じのする凹凸不整粘膜,陥凹部に滲み出るような白苔の付着が見られ,また,易出血性粘膜が認められた.この顆粒状粘膜所見は,切除胃の病理組織標本の割面の所見でみると悪性リンパ腫の腫瘍細胞が浸潤性,一部,濾胞性に増殖して粘膜が肥厚した所見で,リンパ腫の本質的な所見と考えられる.このような肉眼所見を呈する例では反応性リンパ細網細胞増殖症(RLH)との鑑別が難しい.これらの例は病理組織学的にはLSG分類でびまん性・中細胞型が2例,びまん性・混合型が1例,濾胞性・中細胞型が1例であった.そして,これらの症例の病理組織診断をIsaacsonらの提唱したMALT型リンパ腫の概念で見直すと,全例MALT型リンパ腫の所見を備えていた.本邦でRLHと診断される例はMALT型リンパ腫であるという考え方は,臨床診断をする側にとってはすっきりした考え方である.これらの症例の集積が多い本邦での検討結果が待たれる.それまでは,臨床診断をする側は今回検討した顆粒状粘膜を呈する症例の診断を正確に行い,適切な治療を行う中で,十分な情報を得るように努めることが重要である.

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要旨 1965年から1993年3月までの間に手術され,病理学的検索にて胃のlow-grade B-cell lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue(胃MALTリンパ腫)と診断された32例(1983年のIsaacsonらの基準に従って見直し診断した症例を含む)を対象とし,臨床および病理学的検討を行った.1965年から1987年までの間に診断された20例の初回診断は,17例がreactive lymphoreticular hyperplasia(RLH),2例がRLH+悪性リンパ腫(ML),1例がMLと診断されていた.一方,1988年以降に診断された12例はすべてMLと初回診断されていた.粘膜下層までに限局した早期MALTリンパ腫の組織診断は,通常生検標本のみでは困難な場合も多く,最近の症例では5例に対しstrip biopsyを行い,確定診断を得た.MALTリンパ腫を早期群(22例)と進行期群(10例)に分けて,その臨床像を比較検討したところ,前者に女性例が多く,後者に病悩期間が長いものが多かった,両群ともX線・内視鏡上いわゆる表層拡大型の形態を呈し,びまん性凹凸顆粒状粘膜,多発びらんおよび小潰瘍,Ⅱc様不整陥凹などが高頻度に認められたが,進行期群でX線上の伸展不良が顕著であった.超音波内視鏡所見では,早期群と進行群期で明らかな差異を認め,両群の鑑別に有用であった.病理組織学的検索の結果,MALTリンパ腫にhigh-grade componentを合併した症例が2例存在した.また,進行期群の3例ではリンパ節転移が認められた.長期経過観察例の検討では進行が遅く長期間胃に限局するが,末期には全層浸潤,リンパ節転移を来すことが示唆された.MALTリンパ腫は臨床的にもlow-grade malignancyとして対応し,できるだけ早期に診断・治療することが予後の向上につながると考えられる.

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要旨 われわれの施設における原発性胃悪性リンパ腫の内視鏡診断の変遷について報告した.佐野の肉眼分類は深達度との相関が高いので,肉眼型別に検討した.表層型は深達度smである割合が高く,表層型胃悪性リンパ腫の診断が最も重要である.cobblestone所見(表層型の内視鏡所見の1つ)は,既に多くの内視鏡医が認識しているので,ほとんどの表層型病変の拾い上げは可能となってきた.われわれの施設でも1987年以後は,切除された胃悪性リンパ腫の50%は表層型であった.しかし,表層型の中でも“浅く陥凹した限局性槌色領域”を示す病巣は,病変として拾い上げることが重要である.潰瘍型,決潰型は癌や潰瘍との鑑別診断が問題となる.潰瘍縁が整であること,どこかに粘膜下腫瘍の要素を有することなどに注意することにより鑑別可能となった.巨大皺襞型や隆起型は,純粋な型はむしろまれで,多彩な変化や良好な伸展性などから診断可能となった.一方,超音波内視鏡は胃悪性リンパ腫の診断補助に使用しているのが現状である.われわれの施設では,深達度診断,リンパ節転移の有無,化学療法の効果判定に使用している.内視鏡的粘膜切除術(EMR)は,病変を十分採取することが可能であり,病理学的確定診断のために極めて有力である.しかし,まだ症例の積み重ねが少なく,合併症などの問題も残り,慎重に行わなければならない.

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要旨 1962年から1992年までに当院で得られた原発性胃悪性リンパ腫147例のうち,初回内視鏡検査で確診し得ず経過観察された28例について内視鏡所見,生検病理所見をretrospectiveに検討した.その結果,初回内視鏡検査時,表層性所見のみを示した17例中11例(61%)にcobblestone様所見,褪色調変化が認められ,これらの所見に十分留意し積極的に悪性を疑うことが重要であると考えられた.また,PCR法により免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成の検出を試み,悪性リンパ腫8例中7例,88%にB細胞の単クローン性増殖を証明できた.本法は,補助診断として形態診断を補完しうる,極めて有用性の高い検査と思われた.

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要旨 患者は77歳,男性.心窩部痛,胃部不快感を主訴に来院.胃二重造影により潰瘍を有する透亮像を認め,内視鏡検査で胃体上部から穹窿部にかけて,白苔が覆った潰瘍を伴う5×4cm大の隆起性病変を認めた.立ち上がりは急峻で,一部bridging fold様のひだを認めた.悪性リンパ腫を含む非上皮性の腫瘍を疑い,胃全摘術を施行.組織学的には核の多形性に富み,豊富な胞体分化を有する類円形腫瘍細胞のびまん性~cohesiveな増殖を認めた.未分化癌を鑑別すべき所見であったが,免疫組織化学的にBer-H2(CD30),EMAの細胞表面および傍核領域(ゴルジ野)に陽性所見を認め,CAM5.2が陰性であることからKi-1陽性リンパ腫と診断した.臨床的所見は悪性リンパ腫に相応する所見であったが,組織学的に低分化癌との鑑別を要した.節外性のKi-1陽性リンパ腫として,現在までに報告されている12例の消化管発生例と併せて報告した.

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要旨 患者は74歳,男性.心窩部痛を主訴に来院.胃X線および内視鏡検査で多発潰瘍を伴う顆粒状粘膜を認め,生検組織像と併せ胃RLHと診断した.3年10か月間の経過観察後,体下部の不整形潰瘍の生検で悪性リンパ腫と診断,胃全摘術を施行した.切除胃の肉眼所見では,体部に多発潰瘍瘢痕を伴う粗糙な粘膜と共に体下部大彎,前庭部小彎に丈の低い小隆起を認め,組織学的には悪性リンパ腫(非ホジキンリンパ腫,びまん性,大細胞型)とRLHの並存と診断した.また,胃周囲リンパ節にはHodgkin病の組織像を認め,広義の複合リンパ腫に相当すると考えた.本例は胃RLHの悪性化を示唆する貴重な症例と考えられた.

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要旨 患者は44歳,女性,無症状.胃X線・内視鏡検査で胃体中部前壁の小彎側と大彎側,胃体下部小彎,前庭部後壁にそれぞれ異常所見が認められた.生検の結果は悪性リンパ腫を確診するものではなかったが,1992年1月21日胃亜全摘術が行われた.切除標本の詳細な病理組織学的検索では,多発した,smにとどまる早期の胃悪性リンパ腫5病変(うち1病変は病理組織学的病変),diffuse,medium cell type,であった.この症例には手術に先立つ約5年前と約2年半前の内視鏡写真があり,その所見も併せて供覧した.

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要旨 患者は66歳の女性.胃RLHとして4年8か月間経過観察中,10回目の生検で“リンパ腫も否定できず”と診断され,精査のため入院した.病変は,胃体下部大彎を中心とする広範な顆粒状変化と再発を繰り返す多発潰瘍であった.生検の生材料を用いたSouthern blot法によるIgH遺伝子再構成の検索で,JH鎖のmonoclona1な再構成バンドが確認され,リンパ腫と診断した.病理組織学的には,一部でpmに浸潤するB細胞性(IgM,κ,L26陽性)MALTリンパ腫であった.更にパラフィン切片から抽出したDNAのpolymerase chain reaction法による増幅においても,IgH遺伝子のmonoclona1ityが確認された.MALTリンパ腫を念頭に置いた対応が必要であったと考える.

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要旨 患者は54歳,男性.半年前の内視鏡検査で,胃体下部前壁に粘膜集中を伴う陥凹性病変が発見された.生検の結果,悪性所見は得られず潰瘍瘢痕と診断された.しかし,6か月後の内視鏡検査時には,病変は胃体下部前壁から大彎にわたり広範にみられ,病巣内には多数の潰瘍性病変と結節状隆起が混在していた.生検では悪性リンパ腫が疑われ,内視鏡像を考え合わせ,表層型悪性リンパ腫と診断され胃切除術が行われた.切除標本の肉眼所見では病巣部には多発性のびらんがみられたが,健常部との境界は不明瞭であった.病理組織学的には,粘膜下層を中心にリンパ球,プラズマ細胞など単核球の高度の集簇が認められた.免疫組織化学的には,増生するリンパ球はT-cellまたはB-ce11のどちらか一方のmonoclonalityはなく,腫瘍性増生とは断定できずRLHと診断された.本例は病変が急激に増大し臨床的には悪性リンパ腫と考えられた胃RLHの1例である.

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要旨 患者は72歳,女性.自覚症状はないが人間ドックの胃X線検査で,体上部および胃角部の小隆起性病変を指摘され,内視鏡検査を施行.生検にてB細胞性低悪性度リンパ腫と診断された.X線および内視鏡による精査では病変は胃全体に拡がっており,胃全摘術が施行された.手術標本の組織学的検索では,主として粘膜層内に広範囲に浸潤するMALT(mucosa-assoclated lymphoid tissue)リンパ腫と診断された.本症例のX線像,内視鏡像および病理組織像を呈示した.

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〔患者〕 47歳,男性.人間ドックで免疫学的便潜血反応が陽性であったため大腸X線検査を受け,S状結腸の隆起性病変を指摘され,当科に紹介された.

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〔患者〕 65歳,男性.食物摂取時の胸部のしみる感じを主訴に,食道X線造影を施行し,食道に隆起性病変を指摘された.

早期胃癌研究会

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 第33回「胃と腸」大会は,第45回日本消化器内視鏡学会総会前夜の5月12日,ホテル新潟において開催された.司会は丹羽正之(県立がんセンター新潟病院内科)と成澤林太郎(新潟大学第3内科)が担当し,4例が供覧された.

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欧文目次

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 An international association between Helicobacter pylori infection and gastric cancer: The Eurogast Group(Lancet 341: 1359-1362, 1993)Helicobacter pylori(以下H.P)感染が,胃癌のリスクファクターであることを示す証拠が増えており,前向きの疫学的研究は,血清中の抗H.P抗体陽性者では,胃癌になる頻度が3~6倍に増加することを示している.EUROGAST study(ヨーロッパの14地域と日本の宮城・横手およびアメリカの1地域についての共同研究)では,H.Pに対するⅠgG抗体の検出を行うことにより,胃癌とH.Pとの関係を調査した.

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 外科医になりたてのころは,手術の前には必ず手術書に目を通していた.局面ごとにポイントを押さえた,大きくはっきりしている図が描かれ,説明文も要領を得た簡潔な本が重宝であった.その後,自分なりの経験を積むにつれ,手術書を参考にする機会も減ってきた.その理由の1つには,経験を積んだためその領域で手術書を参考にする必要がなくなったこともあるが,経験と照らし合わせて手術書の記載と合致しない点があること,ないしは,著者の経験に基づいて記載されたポイントが納得できない場合があることにもよる.

 個々の外科医が創意工夫をして,より安全な,より確実な手術をめざすことは大切なことである.新しい手法を考え出しても,それが効果的か否かは長年の月日を経ないと不安なものである.一方,それだけでは独善に陥ったり,自己満足に浸ってしまう危険がある.経験豊富な先輩外科医の手術を見学するたびに,常に自分の手術に加えられる何らかのアイデアが得られるものである.

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 本書は普通の早期大腸癌の解説書ではない.いま世界で注目を集めている表面型の早期癌を中心に,大腸癌の発生から進行癌に至る新しい考え方を示した書である.

 表面型の早期癌,特に平坦陥凹型の癌は,日本の内視鏡専門医によりごく最近になって重要性が証明された癌である.本書ではこの表面型早期癌に関する存在診断,質的診断から量的診断,治療方針まで,更に大腸癌の組織発生,増殖進展から進行癌に至る経過,この間に現れる遺伝子変化までの最新の知識が集大成されている.ここで“最新の知識”という表現は間違っているかもしれない.むしろ,執筆している14人のエキスパートの豊富な経験から生まれる早期大腸癌についての考え方や哲学が盛り込まれていると言うべきであろう.現在,いろいろな学会で繰り広げられている大腸癌に関する議論を目の当たりにすることができて興味深い.

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 Zuckerの名前は,腹腔鏡下手術を行っている日本の外科医の間では,知らない人はない.私は久留米(第3回内視鏡下外科手術研究会)で掛川暉夫会長に紹介されて初めて彼と直接話をする機会を与えられた.彼は,腹腔鏡下手術は一般外科の劇的な変革であるとまで主張した.彼の意見に私が同意し,彼が本物であると判断した裏には次のようなやりとりがあった.つまり,この手術を行うにあたって,臨床応用の際には必ず新しい術式のための原理を理解することが重要である,従来の手術術式を知り,新しい術式の原理を知る,これが原点である,と.この考え方は,極めて当然のことのように聞こえるが,なかなか含蓄のある言葉として私に響いた.そこで彼の特別講演を聴き,彼が本当にまじめにこの術式を考え,しかも医学の歴史の1つの柱たりうる出来事であるとの自信を持ってこれにあたっていることがよく理解された.

 今般発刊されたKarl A. Zucker編集の「Surgical Laparoscopy」の日本語訳「スタンダードテキスト 腹腔鏡下外科手術」を拝見して,まず私の目に飛び込んだのは,編者Zuckerの序にある次の一節である.“腹腔鏡下外科手術が,抗生物質の発見,輸血,麻酔法の発達などと同様の意義を持つ歴史的出来事のひとつとして加えられるのは間違いない…”とある文章で,彼自身の大変な自信と,この術式に対する絶大な想い入れとを感ぜずにはいられない.

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 患者は治りたくて受診するはずである.それなのに医者の出す“治るための指示”に従わないことが,あまりにも多すぎる.一体どういうことなのであろうかと怒ったり,悩んだりする.これは患者のほうが不真面目であったり,物わかりが悪いせいなのであろうか.

 われわれは,治るためなら患者はどんな犠牲でも払うはずだと思い込んでいるから,何をするかを伝えさえすれば,それで十分と信じているのである.したがって,自分の説明や説得の仕方についての技術的検討はあまりしたこともないのである.だから,こちらは説明したつもりなのに,あとで聞いてみると「わからなかった」と言われることも多いし,指示も「守らなかった」(あるいは「守れなかった」)ということにもなろう.

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 待ちに待った,すごい内容の本である.選び抜かれた内視鏡写真,切除標本,実体顕微鏡写真,組織像が,カラー写真を通して次から次へ,読者の目に訴えてくる.これらの像を通して,著者の考え方,見識,哲学が,読む人の目と体に伝わってくる.このような迫力があるのは,工藤先生自身が,これまで“幻のⅡbやⅡc”とみなされていた平坦・陥凹型を数多く発見し,診断し,世界で初めて学問として確立された先覚者であるからである.これまでの常識や病変の壁を打ち破った者にしか書けない,内容が詰まった画期的な著書である.それは,推薦の序を書かれた白壁先生が「大腸診断学における世紀の快挙である.これは,工藤の,日本の業績だ」と述べておられることからもわかる.全く同感である.病変の微細構造を実体顕微鏡像や組織像と比較するという,わが国独得の実証主義が脈打っている

 あとがきで,「第1例目の発見の際,戦慄を覚え,その後の8年間,来る日も来る日もこの“幻の癌”を現実の掌中に収めるべく夢中であった」と書いている.彼のこの戦慄,直観は永年にわたる経験,ものを見る確かな目,豊富な知識があったからこそ生まれたのである.しかも,この戦慄と直観を8年間も,情熱をもって持続させ,ついに集大成させたのである.厚生省がん研究助成金による研究班に,工藤先生に加わっていただき,私は班長報告で本書のいくつかの例を使って,「これは工藤班員が世界で初めて打ち立て,現在,欧米から招へいが来ている業績である」と紹介してきた.そのとき,高名な学識経験者の眼が輝き,会場の皆の関心を呼びこんだことを知っている.同じ消化管の診断学を志している私としては,工藤先生に祝辞のみならず,これだけの業績を挙げられたことに,本当に感謝したい気持ちで一杯である.

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編集後記 下田 忠和
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 12年ぶりに胃悪性リンパ腫の特集が組まれた.この間の節性悪性リンパ腫の概念の変遷は毛利論文で十分に述べられているが,胃においても驚くほどの変化である.かつては臨床的・病理学的に反応性リンパ腫(RLH)と悪性リンパ腫の鑑別に苦渋したものが多く,生検で良性と診断され,後で臨床像が大きく変化したり,あるいは手術例でさえ,良性と診断しながら再発を来した例を少なからず経験した.しかし,本号でも述べられているようにその後の消化管悪性リンパ腫は,MALTリンパ腫の概念導入により,かつてRLHとされていた多くは低悪性度リンパ腫と考えられるようになってきた.本号では,このような概念の変遷に基づいて,胃悪性リンパ腫の臨床ならびに病理学的問題が明らかにされている.MALTリンパ腫は病理学的にはまだ議論の多い概念であるが,本号ではその問題点はまだ十分に明らかにされてはいない.今後,症例の蓄積を経て,更に10年後にはまた胃悪性リンパ腫の概念が変わっているかもしれない.

基本情報

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胃と腸
28巻10号 (1993年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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