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待ちに待った,すごい内容の本である.選び抜かれた内視鏡写真,切除標本,実体顕微鏡写真,組織像が,カラー写真を通して次から次へ,読者の目に訴えてくる.これらの像を通して,著者の考え方,見識,哲学が,読む人の目と体に伝わってくる.このような迫力があるのは,工藤先生自身が,これまで“幻のⅡbやⅡc”とみなされていた平坦・陥凹型を数多く発見し,診断し,世界で初めて学問として確立された先覚者であるからである.これまでの常識や病変の壁を打ち破った者にしか書けない,内容が詰まった画期的な著書である.それは,推薦の序を書かれた白壁先生が「大腸診断学における世紀の快挙である.これは,工藤の,日本の業績だ」と述べておられることからもわかる.全く同感である.病変の微細構造を実体顕微鏡像や組織像と比較するという,わが国独得の実証主義が脈打っている
あとがきで,「第1例目の発見の際,戦慄を覚え,その後の8年間,来る日も来る日もこの“幻の癌”を現実の掌中に収めるべく夢中であった」と書いている.彼のこの戦慄,直観は永年にわたる経験,ものを見る確かな目,豊富な知識があったからこそ生まれたのである.しかも,この戦慄と直観を8年間も,情熱をもって持続させ,ついに集大成させたのである.厚生省がん研究助成金による研究班に,工藤先生に加わっていただき,私は班長報告で本書のいくつかの例を使って,「これは工藤班員が世界で初めて打ち立て,現在,欧米から招へいが来ている業績である」と紹介してきた.そのとき,高名な学識経験者の眼が輝き,会場の皆の関心を呼びこんだことを知っている.同じ消化管の診断学を志している私としては,工藤先生に祝辞のみならず,これだけの業績を挙げられたことに,本当に感謝したい気持ちで一杯である.
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