胃と腸 25巻4号 (1990年4月)

今月の主題 Barrett食道

序説

告白的「Barrett食道」論 丸山 雅一
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 食道の診断に関する筆者の個人的体験を語るところから本号の主題「Barrett食道」へ話をつなげようと思う.1972年10月のことだから,およそ二昔も前のことになる.それは,筆者がペルーはリマ,国立癌研究所(Instituto Nacional de Enfermedades Neoplacicas)で胃癌のX線・内視鏡診断のセミナーを始めたばかりのときだった.暗室の中で筆者の検査を見ていた1人の女医が,あなたはなぜ,食道を腹臥位で観察しないのですか,と質問した.このとき筆者は29歳,食道は立位で観察・撮影すればいいと先輩に教わっていたから,この質問には当惑した.日本では食道裂孔ヘルニアが非常に少ないので,腹臥位で食道を透視・撮影する習慣はないのです,と答えて急場をしのいだのだが,それから3か月くらい続いたセミナーの間,この女医の質問の意味は次第に重く筆者にのしかかってきたのだった.

 一般的に,早期胃癌を見つけようとする人間の目は,胃全体の形よりも,胃の部分部分に集中する.だから,検査の途中でも,フィルムを読影するときでも,その目は食道胃接合部~噴門部には注目しても下部食道(Ei,Ea)~胃上部(C領域)を見渡すように訓練されていない.この傾向は現在でも実は矯正されていないのだが,医学部を卒業して5年目の筆者には特に強かったのだろう.この国で早期癌を1例でもみつければ自分の存在価値は十分なのだという自負もあった.ところが,検査を始める前に病歴の説明を聞くと,食道裂孔ヘルニアが頻繁に出てくるし,また,何とそのために手術を受けている20~30歳台の女性がかなりいることが次第にわかってきた.リマ滞在中,筆者は食道癌と鑑別が必要な症例も含めて,食道裂孔ヘルニアのことは,かなり強烈な体験として記憶に焼き付けることになってしまった.

主題

Barrett食道の歴史的展開 遠藤 光夫
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要旨 下部食道の粘膜上皮が円柱上皮で置き換わったものをBarrett食道またはendobrachyesophagusと呼んでいる.その成因は,最近では慢性の胃食道逆流に起因する後天性のものとする見方が強い.その診断基準として,円柱上皮部が本来の食道胃境界部より3cm以上(LESの口側まで),全周性にみられるものとしている.しかし,正常の食道胃接合部ではほとんどみられない腸上皮化生の円柱上皮を生検でみれば,3cm以内でもよいという考えもある.逆流性食道炎例のBarrett食道の頻度は9%とされる.そして,逆流防止効果を得ても,Barrett食道の退縮はないとする報告が多い.Barrett食道に腺癌の併存する頻度は,2~47%とまちまちであるが,追跡調査例では2.4%に腺癌の発生をみている.組織学的にはspecialized type(腸上皮化生様上皮)が大切で,特にdysplasiaは前癌病変となる.

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要旨 前癌病変として知られるBarrett食道の内視鏡像について検討した.多くの症例は扁平上皮と円柱上皮の間に食道炎の介在を認めたが,経過の長い症例ではその移行は明瞭であった.粘膜面は周囲の炎症の程度により発赤肥厚の中に萎縮した扁平上皮の遺残島を認めたり,淡い萎縮性の発赤として観察され,一様ではない.血管透見は炎症の進行中の症例では見られることは少ない.電子スコープの近接観察では胃小窩模様の観察ができる.Barrett上皮を選択的に染色する方法はないが,crystal violetが今後期待される色素剤である.Barrett上皮内のdysplasia,carcinomaへの初期変化を捉えるにはこまめな生検が大切である.また一度形成された食道の円柱上皮は逆流防止手術をしても完全消失は期待できない.

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要旨 Barrett食道のX線診断はその特徴的な所見が十分に検討されていない面もあり,内視鏡診断にその大部分を委ねてきたと言えよう.本稿においては内視鏡検査によりBarrett食道と診断された3例と単なる逆流性食道炎1例およびBarrett上皮より発生したと判定された食道腺癌症例3例のX線像を供覧し検討した.少数例の検討であり結論的な所見を提示することはできない.食道裂孔ヘルニアと食道潰瘍またその瘢痕による狭窄像を有する症例においてはBarrett上皮の存在する可能性が高く,その粘膜面は粗ぞう像を呈し,縦走する淡いバリウム模様を示す食道炎症例とは鑑別しうる症例が存在した.腺癌においてはその占拠部位,食道胃接合部との位置関係,潰瘍形成像の目立たない陰影欠損像などとこれに接する粘膜面の不整像は診断の手掛かりは得られるが,表層伸展像との鑑別が困難であった.

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要旨 小児のBarrett食道の4例を報告した.年齢分布は6歳から14歳で,すべて男児であった.逆流性食道炎の症状を認めた.X線学的には全例にバリウムの逆流を認めた.内視鏡検査ではBarrett上皮の部位はpink-redであった.ルゴール塗布では不染色性であった.組織学的に3型に分けたが,fundic type 2型,specialized type 1型,junctional type 1例であった.以上の所見は成人例の特徴と何ら異なることはなかった.成因では後天性説を支持した.われわれが日常経験する小児Barrett食道の症例では文献上からも先天性と判断できる症例は非常にまれと思われる.dysplasiaや核のatypiaを伴った症例は少なかったが,経過観察を十分に行い,発癌のリスクを念頭におくべきである.

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要旨 Barrett食道の円柱上皮(Barrett上皮)の特徴を文献的に考察すると共に,自験例におけるBarrett上皮の病理組織像を提示した.またBarrett上皮の特徴と考えられているspecialized columnar epithelium(SCE)を,胃の腸上皮化生と比較検討した.その結果SCEは形態像,粘液の性状,また免疫組織学的検索などからも,胃の腸上皮化生と酷似していた.Barrett食道に出現するSCEは,胃や腸の正常上皮には見られないという点で,特殊な上皮と考えられているが,SCEは本質的には腸上皮化生と同じであり,腸上皮化生粘膜は胃ではごく普通に見出されるもので,決して特殊な上皮ではない.それゆえにBarrett上皮に混乱や誤解を起こす可能性のあるSCEなる用語を用いないよう強調した.

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要旨 患者は71歳,男性.胸部つかえ感,胸やけを主訴に近医を受診し,食道癌を疑われて当科に紹介入院となった.食道胃透視で胸部下部食道の狭窄と狭窄部後壁に辺縁が平滑な陥凹を主体とした病変を指摘された.食道内視鏡では切歯より28~30cmの食道後壁に潰瘍形成を認め,生検でBarrett食道と診断された.ニッセン法による逆流防止手術を施行したが,円柱上皮は消退せず,4年後にBarrett潰瘍による食道狭窄の診断で胸部食道亜全摘術を施行した.摘出標本の詳細な病理学的検索で術前に発見できなかったⅡb型微小多発腺癌が合計4か所発見された.

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要旨 15cmにわたる広範なBarrett食道に多発(4個)したBarrett潰瘍の1例を経験した.患者は78歳,女性.軽度の嚥下時違和感を主訴として来院.X線検査で下部食道に4個の潰瘍を認めた.最肛側の長径3.8cmの潰瘍周囲には胃小区模様に類似する表面細顆粒状の粘膜を認めた.内視鏡検査では潰瘍は上切歯列より30~35cmの間に存在した.ルゴール染色による食道胃粘膜接合部は上切歯列より20cmの中部食道であった.生検では最肛側の潰瘍辺縁より食道胃粘膜接合部肛側まで円柱上皮が採取され,上切歯列より

33cmの最肛側潰瘍周囲および25cmの食道粘膜には扁平上皮を混じていた.以上よりBarrett潰瘍と診断し,H2受容体桔抗剤を中心とした抗潰瘍療法を開始した.約40日後,4個の潰瘍は瘢痕化した.

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要旨 患者は77歳,男性.吐血を主訴に入院.初回内視鏡で滑脱型の食道裂孔ヘルニアを伴う食道炎および食道潰瘍を認めたが,病変部は易出血性で詳細な観察はできなかった.H2受容体拮抗剤と粘膜防御因子増強剤による治療により自覚症状は消失した.治療開始後3週の内視鏡では下部食道に胃内から連続した血管透見性の悪い赤色調の粘膜を全周性に認め,その最も口側端は切歯列から29cmの部位に存在した.ルゴール染色により赤色調の粘膜は不染帯となった.食道裂孔は切歯列から38cm,下部食道括約筋部があると考えられる部位は切歯列から35cmであった.ルゴール染色で不染帯を示した下部食道粘膜からの生検では胃底腺は存在せず,間質に炎症細胞浸潤を伴った幼若な円柱上皮が証明され,食道胃粘膜境界の口側からの生検では食道炎が認められた.以上の所見から,滑脱型の食道裂孔ヘルニアと逆流性食道炎を伴った後天性のBarrett食道と診断した.

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要旨 Barrett食道からの発生が考えられる食道腺癌を2例経験した.〔症例1〕は60歳の男性,〔症例2〕は69歳の女性.2例ともに食道裂孔ヘルニアを伴い,主病巣はIm・Ei,約5cm,全周性の表在隆起型で,前者はsmに限局する高分化型腺癌,後者はpmまで浸潤するadenocarcinoma muconodulareであった.円柱上皮は共通してmetaplastic specialized columnar epitheliumを形成し,島状に扁平上皮の残存と,円柱上皮下に固有食道腺の存在を認め,後天的な成因が考えられた.Barrett上皮の定義を病理学的criteriaと内視鏡診断の二面から整理し,またBarrett上皮のfollow-upにおけるdysplasiaの問題について考察を加えた.

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〔患者〕55歳,女性.胃集団検診で異常を指摘され当院を受診した.胃内視鏡では異常がなく,便潜血反応陽性であったために大腸検査を行い病変を発見した.

〔注腸造影所見〕S状結腸に径約23mmの菊花状扁平隆起を認め,中心部はこれよりやや隆起して見られる.またその口側に径約2mmの小ポリープを指摘できる(Fig. 1では辺縁部に,Fig. 2では,中央部に).

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要旨 患者は77歳の女性,嚥下障害を主訴に来院.15年前,左乳癌により定型的乳房切断術と放射線照射を受けていた.上部消化管造影および内視鏡検査では頸胸境界部食道の右壁に粘膜下の要素をもつ隆起と小潰瘍を認め,1か月後には径約1cmの潰瘍となった.内科的治療に抗し,狭窄症状が高度なため切除再建術を行った.標本では潰瘍を中心とする長径約5cmの食道壁肥厚があり,組織学的には全層性に高度の線維化を認めた.また,細血管の増生,拡張が著明であったが,潰瘍の治癒傾向はみられず,これらの組織所見と既往歴から,晩発性の放射線性食道潰瘍と診断し,嚥下障害も筋層を含む高度の線維化による運動機能異常に基づくものと考えられた.

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要旨 患者は70歳,女性.胆石症の術前胃X線検査で胃の異常を指摘された.胃X線検査では,噴門および穹窿部から前庭部にかけて1~2cm大の浅い不整陥凹が多数散在していた.胃内視鏡検査でも同様に,胃のほぼ全域に辺縁が軽度隆起した1~2cm大の白色調の不整形陥凹が多数散在していた.生検結果はGroup Ⅴで,印環細胞癌であった.胃全摘出術を施行した.切除胃の詳細な肉眼的および組織学的検索により,互いに連続性のない80個以上の病巣を有する多発胃癌と診断した.組織型は印環細胞癌,深達度はpmが3病巣,smが10病巣,その他はすべてmで,p2H0n2(+)であった.10個以上の病巣を有する多発胃癌は極めてまれであるので報告した.

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要旨 患者は82歳,男性,鉄欠乏性貧血の原因検索により,S状結腸の腸管嚢胞状気腫症(PCI)と判明し経過観察していたが突然のイレウス症状にて来院した.腹部立位写真の結果,S状結腸捻転による絞扼性イレウスと診断し,開腹切除した.本例におけるPCIの原因としては陳旧性肺結核に起因する慢性閉塞性肺疾患の存在が考えられた.またS状結腸捻転によりPCIが惹起された例は報告されているが,本例のようにPCIの存在が先行し,その後S状結腸捻転を生じた報告例は本邦では初めてである.PCIの存在により腸管が浮揚,過長したことが原因であると想定された.

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要旨 患者は63歳,女性,右下腹部腫瘤を主訴として来院.腹部超音波,CT検査で右下腹部に充実性腫瘍を認めた.注腸造影検査では回盲部腸間膜側に管腔のほとんどを占める腫瘤陰影を認めた.壁硬化像やapple-core signなどはなく粘膜下腫瘍が疑われた.大腸内視鏡検査では腫瘤に潰瘍形成はなく,生検でも診断がつかず,最終的に壁外性腫瘤と鑑別が困難であった.手術は右半結腸切除を施行したが,病理組織学的にはnon-Hodgkinリンパ腫で,LSG分類ではB cellのびまん性リンパ腫,中細胞型であった.術後,経過良好で現在外来通院中である.

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要旨 患者は64歳,男性.1985年,S状結腸ポリープの内視鏡的切除を施行.その後のfollow-upのため1987年4月,大腸内視鏡検査を行ったところ,横行結腸に辺縁隆起を伴う不整形の小陥凹性病変を認め,生検で腺癌と診断された.注腸造影でも辺縁に透亮像を伴う不整形バリウム斑として描出された.同年10月,横行結腸部分切除術を施行した.切除標本では陥凹面2×2mmのⅡc病変で,組織学的には深達度smの高分化腺癌で,腺腫成分の併存は認められなかった.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の検査法

4.粘膜像,前壁二重造影像 浜田 勉
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1.前壁病変診断のための一般的な事項

 前壁の病変の拾い上げを目的としてルーチンX線検査において前壁薄層法(50~60%濃度,50ml程度)を行っている.薄層像により前壁病変のうち著明な粘膜ひだ集中を伴うもの,隆起の明らかなもの,変形が辺縁に及ぶものは確実に拾い上げられるが,このような病変は背臥位二重造影像,充盈像や圧迫像でも拾い上げることができ,薄層法を必ずしも行わなくてもチェックが可能であることが多い.一方,辺縁に変形を来さず,ひだ集中が軽度か伴わないもの,わずかな扁平隆起を示すものは薄層法でしか拾い上げられるチャンスがないので,きちんとした薄層像を撮影することは重要である.しかし,凹凸の変化が軽微なものでは,小さいものばかりでなく大きなものでも薄層法で拾い上げることが容易ではなく,この前壁病変の診断の難しさゆえに,内視鏡に比しX線が弱いと指摘する報告が多いと考えられる.

 なぜ,診断の成績が悪いのか,この理由は次の3点に要約される.

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 粘膜像と前壁二重造影像は前壁病変の拾い上げをねらった撮影法であり,いずれも胃ルーチンX線検査の最初に行われる.粘膜法は約15~20mlのバリウムを服用させ,腹臥位で撮影され,前壁二重造影像は少量の造影剤と更に発泡剤を服用させて,腹臥位で胃を膨らませて撮影される.粘膜像と前壁二重造影像の両者を同時に撮影することはなく,いずれかを選択して用いている.

1.粘膜像の描出能

 われわれは以前から粘膜法により前壁病変の拾い上げをしてきたので,主として粘膜法について述べる.粘膜法は少量のバリウムを服用させ,腹臥位からやや頭低位にし,体位を少し変換して胃内にバリウムをゆきわたらせた後,やや第2斜位で大きく深呼吸して胃を延ばして撮影している.粘膜像が少量のバリウムを用いるのは,後壁ではバリウム量が多くても体位を変換することによりバリウムを動かして容易に二重造影像として撮影することができるが,前壁ではバリウムを動かすことが難しいことによる.そのため,少ないバリウムを胃前壁内にゆきわたらせ,病変部でバリウムをはじかせるようにして撮影するわけである.したがって,バリウム量が多いと凹凸のわずかな病変は描出できなくなる.良い粘膜像とは胃体部の皺襞が離れた状態で撮影された像と考えている.それには呼吸運動を用い,大きく息を吸わせた吸気位にすると胃が下方に引き下げられ前述した状態になる.Fig. 1aが吸気時の粘膜像であり,Fig. 1bが呼気時の粘膜像である.吸気時の粘膜像ではバリウムが広くゆきわたり,胃が延びた状態になる.主たる読影のポイントは皺襞の走行の異常で,粘膜像で読影できる範囲はバリウムに覆われる前庭部,胃角部,体下部,(体中部)までである.しかし,バリウム量が少ないため,胃液の影響を受けやすく,微細な変化を描出することは困難と考えている.

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1.粘膜像の定義

 筆者は,長い間,“粘膜像”または“レリーフ像”については,はっきりした定義らしいものもなく,あいまいなまま用いてきた.振り返ってみると,圧迫法により描出される粘膜像は一応除外し,“薄層法”と“レリーフの見える二重造影像”を粘膜像として漠然と取り扱っていたようである.以下,粘膜像という言葉は,このようなあいまいな使い方であることを予めお許し願いたい.

2.粘膜像用のバリウム

 かつて,粘膜像のためには濃度が高く,種々の添加剤が工夫されたレリーフ用というバリウムがあり,使用されていた時代があった.二重造影法が広く普及すると共に,この種のバリウムは姿を消したが,皮肉なことに,再び種々の添加剤を加えた高濃度のバリウムが出回り始めた.しかし,これらのバリウムが粘膜像に有用であるかどうかについては,もう少し時間が欲しいと考えている.

入門講座・4

小腸X線検査の実際 八尾 恒良
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6.注腸法による下部回腸造影法

 病変が回腸末端または下部回腸に存在する場合,注腸法でバリウムおよび空気を回盲弁より回腸に逆行させ病変を描出する方法もよく用いられる.この際,あらかじめ大腸に病変がないことがわかっており,大腸をある程度犠牲にして回腸のみを目的として行う場合にはバリウムを大量に,十分に逆流させることができる.しかし,Crohn病や腸結核のように大腸にも病変が存在して(あるいは微細病変すら存在しないことを証明しようとして),大腸の正確な造影を行い,しかも回腸病変も描出することは至難の業である.すなわち大量のバリウムを回腸へ逆流させれば大腸,特にS状結腸と小腸索が重なり合って,大腸,小腸いずれも正確な造影ができない.また逆に通常どおりの大腸の精密な描出を目的とした検査法ではバリウムを十分に逆流させることができず,回腸末端の一部は描出できても,広範に回腸を描出することはできない.

 大腸を犠牲にして回腸のみを目的とした注腸造影は,以下のごとく行う.

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欧文目次

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Does smoking tighten the gut?: Pryitz H, et al (Scand J Gastroent 24: 1084-1088, 1989)

 潰瘍性大腸炎の患者では喫煙習慣は一般的でない.また,この疾患は喫煙をやめるとしばしば発症したり再燃したりする.この現象に対する生物学的な説明はなされていないが,潰瘍性大腸炎では有害な物質に対する腸管の透過性が亢進していることが1つの原因として提唱されている.最近,腸管の透過性を研究する方法が発達し,潰瘍性大腸炎では51Cr-EDTA(Cr-ethylenediaminetetraacetic acid)の腸管透過性が正常か亢進しているとされている.この研究では,健常人の喫煙者と非喫煙者の間で51Cr-EDTAとpolyethylene glycol=PEG 400の腸管透過性を比較することにより,喫煙が腸管の透過性を変えるかという問題に対する検討を試みている.

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 このたび,名古屋大学第2外科高木弘教授が「直腸肛門の外科」を医学書院から上梓された.内容は1) 手術と問題点,2) 直腸癌に対する補助・合併療法,3) 直腸癌術後管理とfollow-upの3部構成になっており,現在,わが国の直腸・肛門外科の第一線で活躍中のトップレベルの気鋭の士26名が,16項目を執筆しておられる.その大半は直腸癌について述べられ,また手術に重点がおかれている.

 直腸癌は病理組織学的には高度に分化した腺癌が多く,消化器癌の中では切除率も高く手術成績もよく,外科医が最もその本領を発揮しうる場でもある.

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Barrett's esophagus in patients with symptomatic reflux esophagitis: Mann NS, et al (Am J Gastroenterol 84: 1494-1496, 1989)

 Barrett食道(BE)は多くの場合,慢性の胃食道逆流の結果起こるとされ,内視鏡的に評価された逆流性食道炎におけるBEの頻度は4~20%と言われているが議論のあるところである.

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 Colorectal cancer in patients younger than 40 years of age: Smith C, Butler JA (Dis Colon Rectum 32: 843-846, 1989)

 1956年から1985年までの30年間,40歳以下の大腸癌患者について予後因子を評価した.患者数は50名で,年齢は7歳から39歳,平均は35歳であった.男性が27名,女性が23名であった.familial polyposisが3例,潰瘍性大腸炎が2例含まれる.

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Endoluminal ultrasound for early detection of local recurrence of rectal cancer: Mascagni D, Corbellini L, et al (Br J Surg 76: 1176-1180, 1989)

 直腸癌手術後の5生率は,約50~60%である.局所再発は通常早期に起こり,その70~80%が術後2年以内に起こる.頻度は6~32%と幅がある.局所再発は,転移に比べてしばしば早期にして,しかもより有痛性の死を招くので厄介である.関連する最も重要な因子は,原発巣での局所,特に側方への拡がりと思われる.予防は,局所再発の最良の治療であるが,症状出現後の再手術の予後は不良なので,外科医は最初の手術で完全治療を目指すべきであろうが,再手術を行うとなれば,再発を早期に発見して,再度根治手術をすべきであろう.

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Effect of calcium supplementation on mucosal cell proliferation in high risk patients for colon cancer: Gregoire RC, et al (Gut 30: 376-382, 1989)

 高脂肪食を摂取すると胆汁酸の分泌が増加し,これが大腸癌発生に関与しているとの仮説があり,これを裏づける動物実験の報告もある.更に,これも動物実験ではあるが,カルシウムを経口投与するとこの胆汁酸による大腸粘膜障害を軽減すると考えられている.カルシウム投与が臨床的に大腸癌予防に応用しうるものかどうかを検討する目的で大腸癌の手術歴のある患者(ハイリスク患者)の大腸粘膜に及ぼすカルシウム投与の影響を検討した.30例の大腸癌切除既往のあるボランティアをカルシウム1,200mg/日を経口投与する群とplacebo群に分け,30日投与前後で次の項目の変化を検討した.大腸粘膜の損傷の程度を,内視鏡下生検組織中でアイソトープで標識したthymidine取り込み能のある細胞の割合(labelling index)を検鏡下で計算することで判定した.また,内視鏡検査時に糞便も採取し,その中のpH,カルシウム濃度および胆汁酸濃度を測定し糞便の性状に与えるカルシウム投与の影響を検討した.

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 「消化器内視鏡用語集」が日本消化器内視鏡学会用語委員会で編集され医学書院より出版された.本書の内容は消化器内視鏡に関係するすべての領域に及ぶ用語について,8年余にわたる用語委員会の討議を基に作成されたものである.内視鏡用語として必要不可欠なもののみを取り上げ,内視鏡関係の和文および英文の論文作成に役立つ用語集となることを狙って編集されたものである.したがって,日本語を基本とし,これに対応する英語が収録され,ドイツ語やラテン語は慣用されているものが適宜掲載されている.特に,世界内視鏡学会(OMED)の用語委員会の用語集を参照し基本線での一致を図っていることや,混乱のある用語については好ましい使い方を示し,註釈をつけ説明を補足していることも特徴の1つになっている.

 本書の構成をみると,以下の5つのパートより成っている.すなわち,第1部では,消化器内視鏡に関する解剖学的用語が口腔から食道,肛門に到るまでの全消化管と肝,胆道,膵,更に腹腔と消化器全般について取り上げられており,重要な部位には図が用いられて解説されているので理解しやすい.

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 Experimental evaluation of an endoscopic ultrasound probe: in vitro and in vivo canine studies: Silcerstein FE et al (Gastroenterology 96: 1058-1062, 1989)

 著者らは内視鏡の3.5mmの鉗子孔を通過可能な内視鏡的超音波探触子(endoscopic echo probe=EEP)を開発した.この探触子は内視鏡の視野のもとに消化管の壁に沿って動かすことができる.探触子は径1.8mmで20MHzの振動子周波数をもち,径2.9mmで2mのカテーテルに装着されており,3.5mmの生検鉗子孔に挿入可能である.超音波は先端部よりカテーテルの軸に対して垂直に出る.術者は鉗子孔の挿入部でカテーテルを動かし,この動きが同部に取り付けられたlinear position translatorにより感知されB-modeの画像ができる.画像の大きさは幅2cm深さ2cmである.探触子と生体とのcouplingには水浸にするか水溶性のgelを置くことによりなされた.

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 dysphagiaという症状を表題にした食道疾患の専門書が刊行された.食道は狭い管腔の臓器なので,小さな障害が発生しても直ちに嚥下障害が発症する.よって本書は食道疾患の病態と診断,治療に関する専門書と理解していただいてよい.

 編者のGalfandは,Wake Forest大学の放射線科の教授であり,X線造影による食道疾患の診断が専門である.radiologic evaluationの項では,鮮明なX線写真が的確に病変を捉えており,嚥下困難を主訴とする小食道癌から食道炎までの器質的な食道疾患はもとより,食道アカラシア,diffuse esophageal spasmsなどの運動機能障害のX線像も豊富に収録されている.

編集後記 八尾 恒良
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 編集後記を書くために成澤論文を除く本号のすべての主題論文を読ませていただいた.そして結果的には大変勉強させていただいた.

 retrospectiveに考えてみると,日常診療の中で逆流性食道炎の患者は少なからず診断,治療を行っており,現在でも個人的には2人の食道潰瘍の患者を長期にみている.しかし,単にBarrett食道に起こった潰瘍だという意識以外にはない.

基本情報

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胃と腸
25巻4号 (1990年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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