胃と腸 25巻5号 (1990年5月)

今月の主題 炎症性腸疾患の鑑別診断(1)―小腸・回盲部病変を中心に

序説

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Ⅰ.小 腸

 臨床症状を訴える患者が来院し,必要と判断したものを検査する,と教えられてきた.これを忠実に守るがゆえに,よくよくでないと検査をしない人もいる.ところが,一方では,しゃにむに検査をする立場もある.無症状のものにも消化管癌をみることから,集検,また,検診が,広く行われる時代である.検査の適応を決める臨床感覚が,なくなったとは言わないが,薄れてきているのも事実である.全くの無症状ではないにしろ,胃の検査のあと,引き続いて小腸をみたら病変を見つけた,というのも臨床では常識となっている.一方,大腸に病変をみたら,胃と小腸もみろ,というのも全身疾患,系統的疾患では,それなりに決定的な診断効果を上げているからである.検査の範囲を拡大すれば,それだけ診断効果を上げるのである.

 ところが,胃ではルーチンどおりの撮り方が行われているのに,小腸・回盲部の検査は,やればよい,で済まされることが多く,したがって読影に耐えない写真を見ることにもなっている.本誌は,最新の臨床的取り扱いを紹介し,診断と診断法に的確な指針を与えるものである.

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要旨 近年の画像診断の発展に伴い炎症性腸疾患に対する診断能は飛躍的に向上しており,個々の画像所見に関しては既に確立されたとも言える.炎症性腸疾患の診断のステップとしては,①臨床症状および発現様式,薬物,放射線照射などの化学的,物理的影響の有無,理学的所見,血液データなどの臨床像,②X線あるいは内視鏡検査による病変の分布様式ならびに空間的連続性,③上記画像診断における個々の病変の性質(潰瘍の形態,大きさ,辺縁性状など)など,多角的な検討からなされるものであるが,その病像においてオーバーラップすることが少なくなく,鑑別に難渋する症例が少なからず存在する.したがって,炎症性腸疾患の鑑別診断に際しては病像,病態の連続性を常に念頭に置いて診断を進めることが肝要と考えられる.

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要旨 虚血性小腸炎15例(狭窄型11例,一過性型4型)の臨床像およびX線所見を検討し,狭窄型10例についてはX線所見と切除標本病理所見とを比較検討した.高齢者(40~88歳,平均59歳),男女比11:4で,初発症状は腹痛,下血,下痢であった.12例は急性に発症したが,3例は比較的緩徐な発症を示した。病変は3~38cmの長さで回腸に好発することが多かったが,3例では100cm以上の病変を有していた.狭窄型のX線像は急性期(12~41病日)に母指圧痕像と皺襞浮腫像,治癒期(27病日以降)には管状狭窄,口側腸管の拡張,小潰瘍の多発を認めた.切除標本病理所見ではUl-Ⅱを主体とする全周性の区域性潰瘍から成っていた.X線上,管状狭窄部の辺縁には凹凸不整像を認めたが,切除標本病理所見との対比によって,これが粘膜の過形成,肉芽組織,炎症性ポリープあるいは再生粘膜によって生じた顆粒状変化と小裂溝を反映した所見と解釈できた,狭窄型虚血性大腸炎の特徴的X線所見である偏側性変形と囊形成は1例のみにしか認めなかった.一方,一過性型のX線像も,急性期(2~37病日)には母指圧痕像も皺襞浮腫像を認めるが,49病日以降になると小潰瘍(開放性~瘢痕)の出現あるいはX線像の正常化へと推移した.以上のX線所見より,本症の鑑別診断上,急性期には小腸アニサキス症,治癒期には腸結核,Crohn病などが重要であると考えた.

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要旨 Crohn病,虚血性小腸炎,腸結核,糞線虫症,アミロイドーシスを対象に,術前像,摘出標本レントゲノグラム,固定標本レントゲノグラムを用いて小腸二重造影像に現れるX線像とその背景について検討した.①微細顆粒状陰影に関しては明らかな関係はみられなかった.②多発,散在性,境界鮮明な小ニッシェは大部分Ul-Ⅱで,深部,特に粘膜下の病変を示唆するものと思われた.③haustra様外観は粘膜下,あるいは腸間膜の障害を示唆するものと思われた.④各IBDにおける病変の白壁のPLA理論に基づいたパターンと変形との関係を今後検討することにより,それぞれのIBDの特徴が浮かび上がり,それにより,X線像による鑑別診断も容易になると思われる.

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要旨 今日に至っても小腸内視鏡検査法は遅々たる進歩にとどまっており,挿入・観察方法は開発当初のプッシュ式,ロープウェイ式,ゾンデ式の域を出ることができていない.しかもスコープを挿入する技術は依然として難しい.したがって炎症性腸疾患の鑑別診断について論じる以前に,まずできるだけ多くの症例を集積して,内視鏡診断学の基本造りからスタートしなければならないのが現況である.ともあれ過去18年間の筆者らの小腸内視鏡検査369回の経験を基に,炎症性腸疾患に対する内視鏡診断の実態について述べた.最近5年間で自験例ではCrohn病が増加し,腸結核や寄生虫疾患が少なくなった.挿入方法別にみるとロープウェイ式を行う機会が減ってきた.小腸の炎症性疾患のうち内視鏡検査の適応となるのは慢性炎症・難治性炎症であることが多いが,これらの疾患では経過観察を行うことによって確定診断に至る場合も少なくない.小腸では簡便に経過観察を行うことが難しいため,その内視鏡的鑑別診断には困難さを伴うものである.しかし鑑別診断の基本は小腸であっても大腸であっても同じであり,個々の微細病変と腸管の変形,病変範囲と拡がり方などを総合的に読影してゆくことがポイントであることを強調した.

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要旨 虚血性小腸狭窄18症例18手術材料について,臨床病理学的立場から検討した.18例は原因により特発性13例と腹部外傷5例に分けられたが,両者の肉眼像と組織像はほぼ同じであった.本病変の肉眼像の特徴は,①求心性管状狭窄,②境界明瞭な全周性区域性潰瘍,③腸管壁の強い肥厚であり,主な組織所見は,①潰瘍の深さは種々で,56%がUl-Ⅲ以上,②潰瘍底の血管に富む肉芽組織,③粘膜下層を主とする高度の線維筋症と線維化,④比較的強い慢性炎症細胞浸潤,⑤種々の程度の担鉄細胞の出現であった.成因に関する所見として,15例に小中型動脈内膜の軽度~中等度肥厚が,4例に器質化血栓が,4例にリンパ管壁の著明な肥厚がみられた.以上の結果を基に,本病変の病理形態の特徴,成因,鑑別疾患などについて簡単に考察を加えた.

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要旨 1979年4月から1989年6月までに経験したアフタおよび小潰瘍(5mm以下)から成るCrohn病8例を呈示し,病変の性状,分布,生検所見,臨床経過につき考察を加えた.①色素散布法によって8例全例の胃と直腸に多発するアフタを認めた.十二指腸には8例中7例に病変を描出した.②小腸には6例,結腸には7例にアフタまたは小潰瘍を認めた.③胃から肛門までの消化管から採取された多数の生検標本を連続切片作製による方法も含めて検索し,6例に非乾酪性類上皮肉芽腫を,1例に肉芽腫様病変を証明した.④X線・内視鏡所見と生検所見から8例中7例をCrohn病確診例,残り1例をCrohn病疑診例とした.⑤6年3か月経過を追跡した1例では,偏側性硬化像と敷石像を有する病変へと進展した.しかし5年8か月の経過例では病変は消褪した.そのほか改善するもの,不変,再燃したものなどその経過は一定しなかった.上記の成績に文献的考察を加え,Crohn病のアフタは全消化管粘膜のマクロファージの異常を現しているものと推測した.そして比較的長期間存続し,何らかのきっかけで急速に縦走潰瘍や敷石像へと進展したり消褪するものと考えた.

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〔患者〕70歳,女性.主訴:胃集団検診後の精密検査.家族歴,既往歴:特記すべきことはない.現病歴:1989年6月7日に胃集団検診を受け,体部小彎の辺縁不整を指摘され精検の指示を受けた.7月12日当院を受診.

早期胃癌研究会

1990年2月の例会から 岡崎 幸紀
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 早期胃癌研究会1990年2月度例会は,21日,岡崎幸紀(山口県厚生連周東総合病院)の司会で,胃3題,腸2題の症例が検討された.

〔第1例〕73歳,男性.びまん性粘膜下異所腺に伴った多発早期胃癌(症例提供:岐阜大学放射線科 後藤).

1990年3月の例会から 有山 襄
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 3月の早期胃癌研究会は14日に行われ,胃4題,腸2題が討議された(司会担当,有山).

〔第1例〕71歳,男性.残胃早期胃癌Ⅱa(症例提供:市立静岡病院消化器科 田中).

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要旨 患者は72歳,女性.主訴は心窩部痛.胃内視鏡検査で胃体部大彎に境界明瞭な膨れた不整な粘膜像を認め,胃X線像では皺襞集中を伴わないⅡc様陥凹と壁の硬化を認めた.組織学的にはUl(-)の胃底腺粘膜に囲まれた未分化型癌で,浸潤型発育をしたⅡc類似進行胃癌であった.本例はlinitis plastica型胃癌のまだ完成していない,杉山ら4)のいうpre-linitis plasticaと考えられる.このⅡc類似進行胃癌の更に6か月前の胃X線像は,胃体部大彎のⅡc様所見であった.

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要旨 患者は47歳,男性.胃集団検診の精査のため来院.初回胃内視鏡検査で胃の異型上皮巣を指摘される.その経過中に大腸癌および食道癌が発見され,また胃の病変も初回より約3年後に癌と診断された.以上より大腸のポリペクトミー,食道・胃全摘術が施行された.大腸病変は深達度smの癌,食道病変は深達度mmの表在平坦型の癌,胃病変は

深達度mの癌であった.文献上,消化管に発生した食道・胃・大腸の3重複癌の症例は,本例を含めて4例である.しかし今までに報告された症例はいずれも進行癌であり,食道・胃・大腸に発生した3早期重複癌の症例は本例のみと考えられた.

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要旨 患者は70歳,男性.13年前にBorrmann3型胃癌で胃亜全摘術(Billroth Ⅰ法)を受けており,腹痛,嘔吐を主訴に近医を受診,当院を紹介された.上部消化管X線検査では残胃の中央に淡いバリウム斑を伴う境界が比較的明瞭な隆起性病変と,十二指腸側の圧迫像で吻合部に接して中央に淡いバリウム斑を伴う境界明瞭な隆起性病変を認めた.胃内視鏡検査で残胃吻合部小彎線に黄白色の白苔に覆われた不整陥凹を伴う境界明瞭な隆起性病変と,それと連続するように十二指腸側に周囲の隆起した不整陥凹を認めた.胃側も十二指腸側も生検で中分化型腺癌を認め,残胃の亜全摘を施行した.切除胃固定標本では吻合部小彎線にまたがる隆起性病変を認め,多くは正常粘膜に覆われているが,吻合部を挟んで胃側に7×7mm,十二指腸側に10×3mmの不整形の陥凹を認めた.病理組織学的には潰瘍周辺で中分化型腺癌を認めたが,粘膜下の腫瘍組織のほとんどが初回手術時同様,膠様腺癌の像を呈していた.本症例では結合織の増生の少ない膠様腺癌のため興味ある表面形態をとり,悪性リンパ腫との鑑別が困難であった.進行胃癌切除後13年を経て吻合部に再発した胃膠様腺癌の1例を報告した.

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要旨 患者は54歳,男性.胃カルチノイドの疑いで手術施行.肉眼的に胃角部前壁側に15×12×4mmの粘膜下腫瘍を思わせる隆起性病変があり,中央に小さな白苔を有していた.腫瘍は病理組織学的に前腸由来の好銀性カルチノイドに一致する所見であったが,3つの異なる組織像,すなわち①ロゼット様構造を示す部分,②髄様腺管癌様の構造を示す部分,③oncocyteの集団,から構成されていた.特に③の部分は通常のカルチノイドには認め難い組織像であったが,免疫組織化学的検索によってガストリン,S-100蛋白,NSEが証明された.更に電子顕微鏡によっても内分泌顆粒と多数のミトコンドリアが細胞質内に認められた.肺のカルチノイドにはoncocyteが出現するという報告はあるが,今回の症例のように胃のカルチノイドにもoncocyteが出現することが証明され,カルチノイド腫瘍の組織多様性を改めて確認した.

入門講座・5

小腸X線検査の実際 八尾 恒良
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8.メチルセルロース水溶液を用いる小腸造影法(Herlinger法)

 欧米では硫酸バリウムと空気による小腸二重造影法はほとんど用いられていないようである.その証拠に数多い欧米の小腸X線診断学の本に二重造影像を呈示したものは少なく,最近のHerlingerの本も二重造影の所は白壁教授が担当され,MargulisのAlimentary Tract Radiology(1983)でも数少ない小腸二重造影像は小林・政両先生の写真である.

 欧米で用いられている方法は空気の代わりに温水を用いる薄層法(Sellink JL, 1971),メチルセルロース溶液を注入するHerlinger法(Herlinger H, 1978)である.前者は低濃度のバリウムを用い,本邦における小腸二重造影法を発展させるきっかけを作ったが,空気の代わりに温水を注入したのではバリウムの小腸粘膜への付着が悪く,短時間のうちに検査を終了しないとうまくゆかないのが欠点であった.メチルセルロースを注入する方法は,検査に比較的長い時間(30~40分間)をかけても,まあまあの像を撮影することができる.

初心者講座 胃X線検査のポイント―私の検査法

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1.検査のどの段階で圧迫するか

 粘膜像⇒充盈像⇒二重造影像⇒〔圧迫像〕の順序で検査するのが最もありふれたやり方だが,粘膜像⇒充盈像⇒〔圧迫像〕⇒二重造影像の順序をとることもある.後者のやり方は,横胃で(肥満,やや肥満の被検者),二重造影像を撮った後では空気が邪魔して圧迫が不可能と判断される場合に有効である.また,圧迫の操作でバリウムを十二指腸球部から溢れさせないという自信があれば,下垂気味の胃に対して後者の方法を行うのもよい.2~3口飲ませた時点(バリウムの少ない状態)で試験的に圧迫してみる方法もあるが,筆者はこれを好まない.検査開始早々から胃に機械的刺激を与えて,蠕動を誘発するのを避けたいからである.

2.被検者をリラックスさせる

 腹壁の緊張をとり,圧迫しやすい条件を整えるためには,被検者をリラックスさせることが不可欠である.そのためには,検査開始時から,検者は意識して,被検者に不安感を与えないような言動を心掛けなければならない.

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 圧迫法は的確な方法を把握すれば,病変の指摘だけでなく,より詳細に描出できることから,多くの情報が得られ診断能を向上させる重要な検査法の1つと言える.

 しかしながら,具体的な圧迫法は中等度充盈時に適当な圧迫1)や各部を丹念に方向を変えて順番に圧迫2)するなどの抽象的な表現が多く実際の検査法を習得することは難しい.

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1.圧迫法の有用性

 圧迫法とはバリウムを服用させ,圧迫筒により病変を押し出して撮影する方法である.圧迫法を行う時期は,病変を発見するうえで極めて重要である.われわれの関連施設である愛知県総合保健センターでの圧迫法に関する成績を呈示する1).本施設は人間ドックを1日約90名,1年で約2万名の胃X線検査を行っており,最近4年間での癌発見率は0.23%,早期胃癌はそのうち約80%を占めている.撮影順序は粘膜像は撮影せず,圧迫像を初めに撮影し,次に充盈像,最後に二重造影像を撮影し,更に圧迫像をもう一度撮影することもある.

 Table 1は同施設の集検で発見され,圧迫法・二重造影法・充盈法の3法が可能な体下部から前庭部の早期胃癌87例93病変,進行胃癌20例20病変について各撮影法ごとに病変を指摘できるかどうかをみている.進行胃癌は充盈像でやや悪いが,圧迫像と二重造影像により全病変を指摘している。一方,早期胃癌93病変では圧迫像80.6%,二重造影像67.7%,充盈像17.2%と,圧迫像により最も多く病変を指摘している,しかも,圧迫法だけで病変を拾い上げたのは21.5%である.この値は肥満などにより圧迫法が行えなかった7例7病変を含んでおり,その病変を除くと圧迫法による病変の指摘率は更に高率になると考えられる.次に,これらのうち検討が可能な進行胃癌20例,早期胃癌76例について,検査時に検者が病変に気付いた時期を撮影法順にみると(Table 2),進行胃癌では最初に撮影する圧迫像で既に全例の病変に気付いている.一方,早期胃癌では最初の圧迫像で既に80.3%の病変に気付いている.先の検討と同様に,この例のうちには圧迫法ができない7例を含んでおり,その例を除くと本法による病変の拾い上げ率は更に高率になり,本法の有用性が示唆される.

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欧文目次

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 Intestinal immune reactivity to interleukin 2 differs among Crohn's disease, ulcerative colitis, and controls: Kazuo Kusugami, et al (Gastroenterology 97: 1-9, 1989)

 Crohn病(CD)や潰瘍性大腸炎(UC)の原因ははっきりしていないが何らかの免疫学的機序が関与していると言われている.今回著者らはlamina propria mononuclear cells(大腸粘膜の単核球;以下LPMCs)を用い,インターロイキン2(IL2)産生能とlymphokine-activated killer cell activity(LAK活生)を測定した.また外因性IL2添加により誘導されたLAK活性も合わせて測定した.

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 Functional and morphological relationships between the feline main pancreatic duct and bile duct sphincters: Thune A, et al (Gastroenterology 98: 758-765, 1990)

 胆汁と膵液の十二指腸への流出を調節するOddi括約筋は,これまで様々な研究がなされているが,この研究はOddi括約筋を構成する3つの輪状筋,胆管括約筋,膵管括約筋,共通括約筋について,各々の括約筋を独立してコントロールするような機能的,形態的背景が存在するかどうかを明らかにすべく計画された.

書評「大腸癌の構造」 西 満正
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日本人病理学者の快挙

 数理的癌診断への挑戦 ある病変が癌か否かを初期の段階で判別することは,最も重要なことであるが,困難を伴うことが少なくない.そして,このような癌の判定は,臨床的な診断,治療,治療成績,疫学などを論ずる場合にも,基礎的な実験腫瘍の研究でもまことに重要である.

 ところがその判定基準が日本中あるいは世界中で異なっているとすれば恐ろしいことであり,ばかげたロスも多いと思われる.一般に自然科学は経験や感によるパターン認識でなく,数学的表現を命題とする.著者は判定基準の客観性,共通言語としての数学的表現に長年にわたって苦闘し,多数の症例についてしっかり取り組んできた.この本はその労作の結晶である.

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 1972年に第1版そして1979年に第2版が出版されたMorsonとDawsonの「Gastrointestinal Pathology」は,充実した内容に加うるに当時それに類する教科書がなかったためもあって,数多くの病理医,臨床家に圧倒的な人気をもって迎えられ,計り知れないインパクトを与えてくれた.嬉しいことに,その第3版が,装いも新たにMorson & Dowson's Gasrointestinal Pathologyとしてこのたび出版された.

 本書は,前版にならって検査法と検査報告,食道,胃,小腸,虫垂,大腸,肛門,腹膜の8章50項目から成っている.各章において正常,奇形から始まり,筋肉および機能的異常に次いで炎症性疾患,腫瘍性疾患の順に記載されている点は前版と基本的には差がなく,組織検査,病理報告をする際に病理医にとって必要な事項が第1章に親切にまとめられている.しかし,大幅に改訂されている項目が随所にあり,ほとんど様相を新たにした1冊の本になっている.

編集後記 牛尾 恭輔
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 腸疾患の増加を背景に,炎症性腸疾患の鑑別診断が2号に分けて企画された.本号はその(1)として,小腸・回盲部病変を中心に特集された.その(2)では大腸病変を主体に特集号が組まれることになっている.言うまでもないが,炎症性腸疾患は病型と病期によって所見が変わる.また腫瘍と違って多発することが多く,連続性の病変でも病変の中に所見の強弱がみられる.更に自然に,また治療次第によって短期間に形態が変化しやすい.ゆえに腫瘍の場合とは異なった診断法の理論化が要求される.

 その真髄は白壁の序説に窺われる.すわなち従来から白壁は,炎症性腸疾患の局所の診断学として,病変を点(point),線(line),面(area)に分け,その組み合わせの所見と変形学で診断する必要性を強調してきた(PLA理論).今回,新たに展開を示している.それは局所の変形学に加えて,病変の深さを粘膜層,粘膜下層,筋層,壁外といった各層ごとの病態を推定しうること,また初めて診たときに総合診断と推移の予測が診断できるようでなければならないと述べ,dynamic double contrast studyという新用語を用いて形態学の方向性を明らかにしたことである.ぜひ熟読していただきたい.

基本情報

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胃と腸
25巻5号 (1990年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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