胃と腸 16巻12号 (1981年12月)

今月の主題 胃のⅡb病変

序説

胃のⅡb病変の診断は進歩したか 西沢 譲
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 10年前,正確には1971年の第13回日本内視鏡学会総会で初めて“Ⅱbをめぐって”のシンポジウムが東京で行われ,その後何度か学会や雑誌でも取り上げられてきたが,果たしてこの10年間,Ⅱb病変の診断は進歩したのだろうか.

 10年前にも典型Ⅱb,類似Ⅱb,単独Ⅱb,随伴Ⅱbの定義でかなりの議論があった.その大きな理由はⅡbを判定する客観的な物差しがないからである.標本を肉眼的に正面から見て平坦に見えるものと言えば,かなり主観的な症例の取り上げ方になるのは当然である.それらの症例を同一に取り扱うのにはどうしても無理が出てくるので,典型Ⅱbとか類似Ⅱbなどという紛わしい言葉を生ずることになる.また随伴Ⅱbにしても,中心にどんなにはっきりした病変があっても,その周囲に平坦な広い病変を伴うときには,部分的に表面から見ても切片ルーペ像でも全く平坦に見える部分も出てくる.結局,典型か類似かという物差しと,単独か随伴かという2つの異なった物差しでⅡbをまとめようとすれば,その分類は複雑になるばかりである.

胃のⅡb病変のX線診断 熊倉 賢二
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 “Ⅱbをめぐって”の展示シンポジウム(第13回日本内視鏡学会総会,1971)があってから10年になるが,その間,nbのX線診断はあまり進歩しなかった.そして,諸悪の根源はX線装置の性能の悪さにある.このように考えている.

 (1) 被写体とフィルムとをできるだけ密着させること(管球焦点の大きさが十分に小さくないから).

 (2) 散乱線をできるだけ少なくすること(写真のカブリをなくするために).

 (3) カセッテレス方式では,増感紙とフィルムの密着を良くすること.

Ⅱbの内視鏡診断に想像力を 竹本 忠良
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 この特集号は,第23回日本消化器内視鏡学会総会(広島)のパネルディスカッション"胃Ⅱb病変(随伴性は除く)をめぐって"を土台にしたものであることは,言うまでもない.

 このパネルを思い起こすと,司会者の西沢 護博士の懸命のふんばりにもかかわらず,それほど期待したほどの成果は上げられなかったと言えよう.まだまだ,われわれの手には,相手が手ごわすぎるという印象を,多くの人が抱いたように思う.提示された症例も,何度か見せられたものが再登場していたし,人に見せられるような単独Ⅱbの術前診断例はまだそれほど多くないのだという,なかば絶望的な気持も与えたのかもしれない.

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 Ⅱb型早期胃癌は“周辺正常粘膜と同じ高さを示す癌”と定義されているが,その解釈は各施設で必ずしも一定ではない.定義を厳しく解釈すれば臨床的にとらえうる症例はほとんどなくなり,逆に緩く解釈すれば比較的臨床的に診断の簡単なⅡaあるいはⅡc様病変まで類似Ⅱbとして報告されているのが現状である.今回,著者らは厳しい定義に基づく単独典型Ⅱbに近い病変6例を選び出し,そのX線,内視鏡および病理所見について検討を加え,本症の診断限界を考察したので報告する.

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 典型Ⅱbのほとんどは,5mm以下の微小な胃癌である.Ⅱbに対する肉眼型分類の定義を厳密に行ったとしても,そうすることが一般的な大きさの早期胃癌を対象とした通常の臨床診断にとってどのような意義を持つことになるかは疑問である.凹凸による粘膜面の形態的変化が軽微な癌に対するX線・内視鏡的な診断限界を追求することを目的とした場合には,Ⅱbの定義を厳しくしておくことも確かに必要である.ところが,そうすると冒頭に述べたようにⅡbのほとんどは5mm以下の微小な胃癌しか存在しないことになり,通常のX線・内視鏡診断にとっては極めてまれな病変でしかなく実際的ではないことになる(Table1,2を参照).一方,一般的な大きさの胃癌の中には,周囲粘膜に対して肉眼的に多少の高低の差があっても,X線・内視鏡的には存在診断あるいは質的診断が困難な癌も少なくはない.このような病変は,ⅡbをX線・内視鏡的に診断が困難である癌と解釈することによって,臨床診断にとってのⅡbということになる.こういったことからは,Hbを臨床的な立場から眺め,X線・内視鏡診断にとって診断が難しい癌とみなして検討することも有意義であるように思われる.

 以上のような観点から,本稿ではⅡbを臨床診断の立場から“肉眼的には周囲粘膜に対して軽度な高低の差が認められても,X線・内視鏡的に診断が困難である癌”と定義し,この臨床的なⅡbにはどのような病変が対象となりうるか,そしてそれらはどのようなX線・内視鏡所見ならびに組織学的所見を示しているかについて検討し,臨床的なⅡbに対しての診断の指標を求めてみたい.

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 早期胃癌の形態分類は,癌の局面の周囲正常粘膜に対する凹凸をもってなされている.そして,この分類を早期胃癌に適用する場合には,厳密に言うならば人によって分類の相違が生ずることがある.なぜならば,その分類は,連続体の分割であるからである.しかし,Ⅱb型以外の早期癌の型分類においては,あまり問題にならないし,また問題とされることもない.このことは,X線・内視鏡によってそれらを診断することが容易であるからである.Ⅱb型早期癌に限ってその型の適用に厳密さが要求されるのは,Ⅱb型のX線・内視鏡診断が困難であって,それをいかに診断するかという,診断学において解決されていない命題が残されているからであろう,この,いわば診断学の極限の追求ともいうべきことを行うためには,まず,その出発点となるⅡb型とするその適用範囲を明確にする必要があることは言うまでもない.

 この適用範囲つまりⅡbの幅の決定に際しては,どうしても図形の認識と分類に関する基本的なことを避けて通ることはできない.なぜならば,Ⅱa~ⅡbとⅡb~Ⅱcの境界に関する問題であるからである.

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 最近,Ⅱbの発見数も次第に増加してきた.そして,その内視鏡所見も乏しいとはいえ,何とかその特徴を捕えるところまできたように思う.そこで,代表的な症例を提示しながら,Ⅱbの内視鏡所見についてのわれわれの考えを述べてみたい..

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 胃癌のX線診断は病変の辺縁像,粘膜皺襞の先端の所見などが性状診断の主要な決め手である.しかしⅡb型早期胃癌は周囲の非癌部との間に明らかな高低の差がないため,辺縁像や皺襞の変化による読影は困難であり,そのため癌粘膜表面の所見を読影することが必要と考えられる.今回われわれは胃X線検査で造影剤の付着異常を指摘できるのみで,癌との診断はできなかったが術後のレントゲノグラムの拡大観察により微細な異常所見を指摘でき,拡大撮影が診断への手掛かりになると思われる症例を経験したので報告する..

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 表面平坦型早期胃癌Ⅱbは従来組織学的に初めて診断されるような微小癌が主体を占め,Ⅱb=微小胃癌と考えられてきた.しかし著者の一人である谷口はこれら微小癌としての点状Ⅱb以外に数cmに及ぶ拡がりをもった面状のⅡbが存在することを指摘している.内視鏡的には点状Ⅱbでは存在診断そのものが問題となり,面状Ⅱbではその拡がりを術前に正しく診断することが問題となる.われわれは極く早期の胃癌を確実に診断する方法として色素を用いたcongo red-methylene blue testを考案し,Ⅱbの診断に好成績を得ているが,今回は本法により術前に診断された微小な点状Ⅱbと広い拡がりをもった面状Ⅱbの2例を提示し,本法によるⅡbの診断成績について報告する.

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 近年,X線および内視鏡診断技術の進歩によりⅡb型早期胃癌の報告例が増加してきたが,単独Ⅱbの術前診断は困難な場合が多い.われわれは内視鏡検査および胃生検にて術前にIIb型早期胃癌と診断しえた2症例(典型Ⅱb1例,類似Ⅱb1例)を経験したので報告する.

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 Ⅱb型早期胃癌の1例を報告し,併せて若干の見解を述べる.

Coffee Break

食後45分でも食道蠕動はまだ強い
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 食道の輸送機能について,私たちは普段あまり関心を持っていない傾向にある.単純に物が通っていく筒にすぎないという感覚はしばしば内科医に存在する.

もっとも,通常の内科診療においてはさほど意識しなくてもすむことかもしれない.

 物を呑み込むときには一体どうなっているのか,Davenport の教科書どおりと考えてよいと思うが,それが時々よくわからなくなることがある.コリン作動性のものや,αアドレナリン作動性のもの,ヒスタミンなどは中下部食道蠕動を高めるが,消化管ホルモンではガストリンが同様の作用を持つとされている.

低血糖によるGIP放出
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 インスリンによる低血糖は強い迷走神経刺激効果を持っている.そして,迷走神経刺激によっていろいろなホルモン分泌が行われることがわかっている.例えばガストリン,グルカゴン,アドレナリン,成長ホルモンなどである.Gastric inhibitory polypeptide(GIP)もまた低血糖により放出されると言ったのはServiceらの1978年の報告なのだという.そのときはまだ放出のメカニズムはわからなかったということになっている.

 しかし,松尾らが迷走神経刺激によりGIP放出が起こると発表したのは,もっとずっと昔だったような気もするが,私の記憶違いであろうか.それとも欧文の論文を出さなかったのであろうか.本当のところよくわからないが.

Idiopathic diffuse esophageal spasm
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 Idiopathic diffuse esophageal spasm(IDES)では,食道の下部3分の2ぐらいの範囲に比較的持続性の強い収縮が同時性に起こり,しかもこれが繰り返すので,胸痛や嚥下困難が生ずるものである.

 一般に下部食道括約部に対しガストリンは圧上昇の効果を有するが,IDESに対しては意見が分かれている.つまり,ガストリンは下部食道収縮作用を有するが,中部食道に対してはその作用がないとする意見と,中部食道に対してもその作用があるとする意見である.では実際にIDESの患者にガストリンを点滴投与してみるとどうなるのか.

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 胃の燕麦細胞癌は非常にまれで,世界でもほとんど報告されていない.われわれは胃燕麦細胞癌に早期胃癌および進行胃癌の3者が,同時にかつ独立して存在した世界で最初の1例を経験したので報告する.

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 慢性膵炎に起因する仮性膵嚢胞内に脾動脈の分枝が破綻して血腫を生じ,胃膵囊胞瘻を介して頻回の吐血を生じた症例を報告する..

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 大腸脂肪腫は比較的まれな疾患と考えられてきたが,近年その報告例は増加している.今回われわれは腸重積症を伴った大腸脂肪腫を経験したので報告する.

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 急性胆管炎の最も重症型である急性閉塞性化膿性胆管炎(AOSC)は,保存的治療では100%死亡することから緊急胆道ドレナージの重要性がこれまでも繰り返し強調されてきた.AOSCのドレナージ法としては,従来,総胆管切開・外瘻術が最良とされていたが,近年では,より侵襲の少ない方法として経皮的胆管ドレナージ(PTCD),更には超音波映像下胆管穿刺ドレナージが行われるようになった,しかしPTCDには,造影(PTC)により胆管内圧を上昇させるおそれがあり,PTCを要しない超音波映像下穿刺にも,PTCD同様に肝内胆管の非拡張例には行い難いという難点がある.

 筆者らの試みている内視鏡的胆管減圧法は,咽頭局部粘膜麻酔下に左側臥位にてファイバースコープを挿人し,造影(ERC)を行うことなく,単にカニューレ(7French径)や乳頭切開用cutting Probeを用いて嵌頓結石を突き上げるのみの方法であるが,その効果は,膿性胆汁の噴出(Fig.1)と同時に疼痛の消失をみたことや,解熱1)の状態が示すように極めて劇的であった.

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欧文目次

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 去る10月13日,消化器病合同秋季大会の前夜,米子市で第23回「胃と腸」購読の諸先生全国大会が盛大に開かれました.今回は,鳥取大学第2内科・第1内科,山陰労災病院,松江市立病院外科,島根県立中央病院第1内科より提示された5症例につき,活発な討論が行われました.会場には地元の諸先生を中心に全国から約300名が参加され,盛況を博しました.

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 このたび東京慈恵会医科大学外科学教室長尾房大教授らによって,米国イリノイ大学Lloyd Nyhus教授,ウイスコンシン大学Robert E. Condon教授の共著になる名著「Manual of Surgical Therapeutics 第4版」(Little,Brown and Company,Boston)の完訳版が,医学書院から出版されることとなった.

 本書は,原著の序言にもあるように,外科に学ぶ医学生や研修医の診療,外科治療の手引きになるように編集されたものであるが,内容は25章から成り,ショック・外傷からの蘇生,救急治療での諸問題,不整脈・心停止,激症腹痛,吐血・下血,イレウスなど外科救急時の治療上の要点をはじめとして,目常外科診療上の常識(術前・術後の)処置,輸液・電解質治療,経腸栄養),急性腎不全,呼吸器不全の管理,凝固異常・DIC,肺栓塞など外科治療上,これだけは最少限度必要である知識を(文献も含めて)コンパクトに,ポケットに持ち歩けるように発行されたものである.

編集後記 中村 恭一
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 Ⅱbの診断あるいはその定義は,病理組織学的な事に関する限りにおいてはあまり問題とはならない.しかし,それがX線・内視鏡診断ということになると大きな問題となってくる.すなわち,癌局面の僅かな変化をもとらえて癌を診断しようとする,いわば胃癌のX線・内視鏡診断学における極限の追求ということだからである.“Ⅱbの診断”という問題は,一般的には,それは不可能であると決めつけて,それとの挑戦を避けて通りがちである.

 本号には,再びその問題に挑戦した結果が示されていて,多くの貴重な症例が呈示されている.それら論文に共通している点は,癌組織型によってⅡbとされる癌局面のわずかな変化の所見が異なっているということであろう.経験豊かな3人の先生による序説では,胃炎性変化の所見をより良い写像でもって解析することが“Ⅱbの診断”を可能にするのではないかと,示唆に富む“Ⅱbの診断”への道しるべが示されている.

基本情報

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胃と腸
16巻12号 (1981年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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