胃と腸 16巻11号 (1981年11月)

今月の主題 胆道系疾患の臨床(2)―胆管異常を中心として

序説

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 先天性胆道拡張症(congenital dilatation of the biliary duct)は総胆管囊腫(choledochal cyst)とも言い,境界領域の疾患を含む広義の総胆管囊腫のことである.総胆管囊腫は総胆管だけの拡張を意味しないから,むしろ胆道拡張症と広く包含して表すのがよいとされている1)

 先天性総胆管拡張症はVaterが最初に記載したと言われているが,1852年,独立疾患としてDouglas2).最初に報告した.

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 先天性胆管拡張症(以下,本症)は,Vater1)によって1723年に記載され,1852年にDouglas2)により初めて独立疾患として報告されるなど,古くから注目されてきた疾患であるが,欧米では極めてまれな疾患とされていた.しかし,近年,本症の知見の普及と診断法の進歩につれて報告例が増加している一方,未だ本態の解明には多数の問題点を残している.また,その名称も従来は先天性総胆管嚢腫や先天性総胆管拡張症などと呼ばれてきたが,研究が進むにつれて,拡張部が総胆管に必ずしも限局しないことや,拡張部の形状が種々あることもあって,先天性胆管拡張症や先天性胆道拡張症という名称が一般的になってきた.また,Babbitt3)の報告以来,本症に高率に合併した膵・胆管合流異常の存在が注目を集め,本症の成因病態に深いかかわり合いを持つものと考えられるようになった.そこで,当教室における先天性胆管拡張症および膵・胆管合流異常の型分類と自験例の概要を述べると共に,その診断に関する問題点について述べる.

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 主題の膵管胆道合流異常(以下,合流異常)が先天性胆道拡張症(以下,本症)にみられるという事実とその病因との関係について注目した学者は古くからあったことが文献1)を参照すると明らかである.しかしながら,木積ら2)のすばらしい着想はわが国の学者にさえ関心を与えることはなかったようだし,多数例を経験することのできたわが国の学者は合流異常の存在を見ても見ぬ振りをしてあえて関心や興味を示さなかったことが,文献に示された写真に合流異常が明らかなのに何も言及していないことなどから推測される3)

 この論文では,合流異常と関係した治療面について記述することになってはいるが,著者が本症と合流異常について研究してきた経過,文部省科学研究費の補助によってパンチカード方式で詳しく調査した全国集計の結果の一部,教室で経験した30症例中24例で検索できた胆道の病理組織学的所見を示し,治療法との関係に焦点をおきながら,本症の重要な点を簡潔に述べてみたいと思う.

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 内視鏡的胆・膵管造影法(ERCP)の普及によって膵・胆道系の診断や形態の把握が容易かつ確実に行えるようになった今日では,この領域において形態的にも機能的にも最も複雑な部位である乳頭部の病変,とりわけ良性の胆管末端部狭窄症(benign stenosis of the distal common bile duct)の病態や診断に対する新たな興味が高まりつつある1)~6).本症は古くよりOddi氏括約筋炎(odditis)とか乳頭炎(papillitis)と呼ばれてきたもので7)8),胆石症,胆管炎,胆摘後症候群,胆道ジスキネジーあるいは膵炎などと病因的に密接な関係にある臨床疾患単位として殊に外科医には銘記されており7)~12),最近ではその病態を反映した名称として乳頭部狭窄症(stenosis of the papilla of Vater,papillary stenosis)やOddi氏括約筋狭窄症(stenosis of the sphincter of Oddi)が主に用いられる傾向にある2)4)5)9)11).しかしながら,本症には器質的要素だけでなく括約筋運動の異常による機能的要素も関係しているため,その病態は極めて複雑,難解であり3)10)11),1つの独立した疾患としての臨床的意義や診断基準も,未だに確立されていないのが現状である.本稿においては,本症の実態を明らかにすべく,種々の観点からみた本症の意義や診断について著者らの考えを述べてみたい.

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 小児の胆管異常疾患として主なものは,先天性胆道拡張症(CBD),先天性胆道閉鎖症(CBA)および種々の胆管形成不全である.このうち後2者は生後問もない乳児期に発症し,小児科ないし小児外科医により取り扱われる.一方,前者のCBDはその症例の2/3は小児期に発症するが,1/3は思春期以後の成人になって発症,一般内科や一般外科医の手で加療されるものも少なくない.

 更に本症では本特集で取り上げている,胆管・膵管合流異常が高頻度にみられ,その病因・病態との関連性が現在のトピックとして注目されている.今回,この限られた紙面で小児胆管異常のすべてを述べることは難しいので,本稿では特に胆管・膵管合流異常の観点から先天性胆道拡張症(CBD)を中心に,小児胆管異常疾患についてわれわれの臨床経験ならびに研究の一端を述べてみたい.

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 先天性総胆管拡張症(本症と略す)の形態的特徴として,胆道末端部と膵管の合流形態が正常な発生例とは異なる,いわゆる“膵・胆管合流異常”が近年注日されてきた.そして,“膵・胆管合流異常”が本症における胆道拡張の原因ではないかとする意見もある1).われわれも早くから本症における胆道末端部の形態に注目して本症の形態的特徴との関係を検討してきた.その結果,“膵・胆管合流異常”は本症に高頻度に認められるが,必ずしも全例に合併するものではなく,また胆管の拡張が伴わなくとも“膵・胆管合流異常”がみられる症例を経験した.

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興味ある膵・胆管合流異常を呈した2症例を経験したので報告する.

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 ERCPは,先天性胆管拡張症の診断に最も有力と考えられるのみならず,その成因の1つと目される膵胆管の合流異常についても的確な情報をもたらすものである.ここに本症の2例を報告する.

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 囊腫の大きさが直径20cmに及ぶ先天性総胆管囊腫を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

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 PTC,ERCPなどの直接胆道造影の普及により胆道疾患に対する診断は容易となり,先天性形態異常も術前に数多く発見されるようになってきた.しかし,その中でも隔壁形成は胆嚢に多くみられるのが常で,総胆管についてはほとんど報告がない.

 最近,われわれは諸検査の結果,総胆管隔壁形成を疑い,手術にて摘出確診したので若干の考察を加えて報告する.

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 わが国では原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis,以下PSCと略す)の報告例は欧米に比べて極端に少ないようである.われわれは,ERCP が診断の手掛かりとなった3例のPSC近縁疾患を経験している1)このなかで,診断から現在まで6年間経過をみている潰瘍性大腸炎を伴った典型的なPSCの症例を報告する.また,本疾患と鑑別が必要な原発性胆汁性肝硬変症(primary biliary cirrhosis,以下PBCと略す)を呈示し,両疾患のERCP像の違いに言及する.

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 胆管が胃に開口することは,文献的に知られてはいるがまれである.われわれは,本来の総胆管とは別に,胃体下部小彎にも胆管が異所開口していた重複胆管の1例を経験したので報告する.

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 高木(司会) 本誌の特集で胆道系疾患の臨床を企画し,その1として総胆管結石を扱いましたが(16巻6号),この号では,胆管異常を中心とする胆道系疾患を取り上げました.胆管異常の中でまず取り上げられるのは先天性の総胆管拡張症ですが,この点から皆さんに御検討をお願いしたいと思います.先天性総胆管拡張症は,以前から言われていますが,最近は,この言葉ではまずいのではないかという意見が出ております.この方面に詳しい木村先生の意見はいかがでしょうか.

Coffee Break

L型バクテリア
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 L型バクテリアというものがある.要するに,細胞膜成分のほとんど取り除かれたものなのだそうだ.例えば,ペニシリンのような細胞膜合成阻害剤とかバクテリオファージとか紫外線を作用させるとこういうものができる.そして,そのバクテリアの諸性質は変わったものになっている.病原性なども変わるので,いろいろな病態とのかかわり合いも違った形をみせるようになる.

 ある学者は,Crohn病の病変の中にこのL型バクテリアと思われる物を発見したという.また,Streptococus faecalisのL型をウサギの回腸末端部に入れてやると肉芽腫様の病変ができたともいう.このことは,Crohn病でのみL型が見つかり正常者や潰瘍性大腸炎では見つからないという幾つかの論文と何となく合致した意見と考えてもよいように思われる.

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 胆石はコレステロール結石とビリルビン結石に大別されるが,後者は更にビリルビン結石とビリルビンカルシウム結石に分けられる.そして,同一胆嚢内の結石はすべて同系の結石である.

 コレステロール含量が20%以下のものをビリルビン結石とする.70%以上のものをコレステロール結石とする.この20~70%の間に入るものはほんの数パーセントの頻度でしかないらしい.

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 下の表はJ. D. DonaldsonらがScand. J. Gastroent.に発表した論文からコピーしたものである.〔Scand. J, Gastroent. 16: 235~239, 1981〕

 つまり,ガストリン刺激を行って胃液を採り基礎分泌と刺激分泌の胃液の中の成分(表参照)を測定したら,このような結果が出た.いずれのものも十二指腸潰瘍例で明らかに少ないというのである.これらのものの中には防御因子としての意義を持たされている物質の成分として挙げられているものが多い.窒素だけは必ずしもそうとばかりは限らないが.

Sorbin
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 Vagneらが,十二指腸吸収に及ぼすGastrozyminの影響について研究中に,GastrozyminをSephadex G-25で濾過直後のフラクションが,十二指腸における水とナトリウムの吸収を著明に増加させる作用を有することに気づいた,このフラクションと同じもののpurificationを行ってブタの小腸から取り出したものは,セクレチンやCCK-PZと似た作用も持っていることがわかった.セクレチンやCCK-PZは十二指腸分泌を増加させるので,そこでの水の吸収はむしろ減少させるような出納関係を生ずることになる.

 このフラクションの中にある物質は他のホルモン,例えばガストリン,プロラクチン,アンギオテンシンのようにナトリウム吸収を促すようなものとも異なったものであることがわかった.そして,このものは既知の活性ペプタイドとは異なるものとしか考えられないというので,M.I.Grossman先生はこれにSorbinという名をつけたらよいのではないかと言われたそうだ.

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 近年,内視鏡の発達は著しく,全消化管はもとより胆道,膵管の観察も可能となり,また治療の分野でもその適応が拡大されつつある.本邦には,内視鏡を志すものにとって有用な優れた専門書が多数出版されているが,今回在米の須川博士と他のお一人の共著による「Primerof Gastrointestinal Fiberoptic Endoscopy」を通読する機会を得た.須川博士は,林田門下として城所現順大教授のもとで胃カメラの研究に努められていた方であるが,現在米国にあって内視鏡の領域で活躍されている.

 この本は,内視鏡の歴史より始まり,器械の説明,上部消化管内視鏡検査,上部消化管出血,ERCY,大腸鏡,治療内視鏡,小児内視鏡,その他の内視鏡手技の項目より成る.本再の特徴としては,検査の前処置,挿入法などが懇切丁寧に書かれていることであり,内視鏡検査の適応,合併についても詳しく記載されている.また,起こりうる合併症について患者に説明すべきことが繰り返し述べてあり,彼我の医療事情が異なっているとはいえ反省させられる.所見の読みについては比較的簡単に書かれているが,従来の欧米の成書に比べ,日本の早期胃癌肉眼分類,山田の隆起性病変の分類などが取り入れられ,我々には親しみやすい,なおERCP,下部消化管にかなりのページが割かれており,米国での内視鏡の潮流がわかり興味深い.

胃と腸ノート

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 CTは,最初,頭部の診断用として開発されたものであり,第一世代,第二世代のCTでは,撮影に20秒~4分間を必要とした.このために,腹部領城の検査では,呼吸による体動や腸管の動きによるアーティファクトの発生が多く,十分な診断を行えないことが多かった.第三世代,第四世代のCTの登場によって,撮影時間は2~10秒に短縮された,この結果,アーティファクトの発生は著しく減少し,血管造影,ERCP,超音波などと共に,CTは膵疾患の有力な画像診断法として注日されるようになった.しかしながら,CTでより小さな膵癌を発見するためには,ただ慢然と検査を行うのではなく,いろいろな工夫が必要である.

 まず第一に腸管,特に十二指腸,空腸を腫瘍像と間違えないことが大切である.このためには,3~5%のガストログラフィンを投与することが必要である.この場合,重要なことはガストロゲラフィン投与後に右側臥位,左側臥位と数回体位変換を行い,十分に造影剤を腸管内に流入させることである.この操作によって,腸管を腫瘍像と誤る心配がなくなるわけである.

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 標本を固定後,カラチヘマトキシリンで染色された大腸粘膜をほぼ10倍の拡大で観察してみると,しばしば肉眼ではみえない微小隆起を異常腺口模様像としてとらえることができる(Fig. 1).標本を全割ブロックとし連続切片を作り,①大腸腺腫や過形成を顕微鏡的レベルで分析する純病理学的手法による研究や,②5mm以下の微小隆起を実体顕微鏡下で腺腫と過形成をパタ一ン分類した立派な仕事はあるが,両者の目的を兼ね備えた大腸粘膜の分析はまだ完全にはなされていない.

 われわれは,両者を目的として非常に能率のよい検索法で,殊に1mm未満の微小隆起をしつこく追求してみた.

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 近年,内視鏡的逆行性胆道・膵管造影(ERCP)や経皮経肝胆道造影(PTC)の開発・普及と共に,肝胆道疾患に対する診断能の向上はめざましいものがある.しかし,肝内結石症や胆管内ガス像(pneumobilia)を示す症例(Table1)のように注入造影剤が腸管へ流出しやすい場合は,現行の直接胆道造影法をもってしても造影不足に終わることが多く,精査に値する肝内胆管の充満像は得られ難い.

 今回,筆者らは,そのような症例に対してバルーンカテーテルを用いて肝内胆管の充満造影を試みたところ良好な結果を得たので,その方法と有用性につき報告する.

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欧文目次

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 およそ,人が成書を繙く際に,その本の内容が一番重視されることは当然であるが,このほかに著者の人と成りというか,その人の性格やものの考え方などを知ることが本の内容をより深く理解するうえに必要であると同時に,行間から著者の人柄が偲ばれて,読んでいて大変楽しくなるものである.

 著者は,端的に言って,常に冷静で探究心が旺盛であり,物事をあいまいなままにしておくことが嫌いのようである,しかし一面,物臭なところもあるようにみえる,医学に対しては自己を律すること実に厳しく,納得するまで徹底的に研究するといった感じである,これに反して患者に接する態度は優しく,常に患者の身になって診療をされるので患者の信頼も厚く,文字どおり優れた臨床医である.医学的力量は世界的にみても超一流で国際会議の花形であり,まさに現代の寵児である.

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Cholelithiasis Following Peptic Ulcer Surgery: a prospective controlled study: J. R. Anderson, A. H. M. Ross, N. A. Din, W. P. Small (Brit. J. Surg. 67: 618-620, 1980)

 1947年にMajoorらがはじめて胆石と胃手術の関連について注目し,174人の胃切除患者で6人の胆石症を見つけた.その後も,消化性潰瘍の種々の手術後に胆石が増加するとの数々の報告がある.

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 Inhibitory Effect of Coffee on Lower Esophageal Sphincter Pressure: F. B. Thomas, J. T. Steinbaugh, J. J. Fromkes, H. S. Mekhjian, J. H. Caldwell (Gastroenterology 79: 1262~1266,1980)

 医師は胸やけの患者にしばしばコーヒーを禁止してきた.カフェイン含有飲料は,この種の患者に有害であるとの信念に基づいている.しかしながら,CohenとBoothは,下部食道括約筋圧は,純粋のコーヒーや脱カフェインコーヒーに対して上昇を示し,コーヒーの何か他の性質または成分が,胸やけを起こしたり,それを悪化させるのだろうと述べ,この症状は括約筋圧の下降と関係がないと結論した.著者らは,正常者と逆流性食道炎患者でコーヒーの括約筋圧への影響を調べ,Cohenらの結果と異なり,圧の低下を来すことを報告している.

編集後記 信田 重光
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 内視鏡診断学の進歩,特にERCPの開発やPTCの普及によって,近年,診断面で著しく関心を引いてきた疾患の1つに膵・胆管合流異常と先天性総胆管拡張症がある.本誌の胆道・膵シリーズの中で,特に新しい分野に焦点を当てたいという意図により,本号の特集にこれが取り上げられた.

 春日井博士による序説は,この疾患の歴史的概観より診断・治療に至る臨床的問題点が文献的にまとめられており,この疾患を考えるうえでの手引きとなるであろう.そして,わが国でこの疾患を数多く経験しておられる中沢博士,古味教授,中島博士らによる旧来のAlonso-Lejの分類に対する独自の分類の提唱,膵・胆管合流異常に関する知見の報告,またこの疾患での高頻度の癌発生の原因に対する考察などは,この疾患の成因の解明,病像の分析の面で,まさに世界をリードする業績と言いうるものである.また,小児についての小児外科の宮野博士の論文も,小児と成人におけるこの疾患の関連性を知るうえで有益であろう.

基本情報

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胃と腸
16巻11号 (1981年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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