胃と腸 15巻10号 (1980年10月)

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 食道の良性腫瘍は比較的まれであり,自覚症状にも乏しく,上部消化管の検索時偶然に発見されるものも少なくない.Granular cell tumorは1926年のAbrikossoffの報告1)以来今日まで1,000例近くの報告があるが,消化管,なかでも食道に発生したものはわずか19例が報告されているにすぎない.

 今回,われわれは内視鏡施行時の生検によって食道のgranular cell tumorと診断できた症例を経験したので多少の文献的考察を加えて報告する.

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 上部消化管癌の診断技術の進歩は目覚ましく,患者が進んで検査を受けるならば,早期癌の発見診断は,さほど困難なものではなくなってきた.しかし,この中でスキルスの早期診断および噴門部癌の早期診断は,必ずしも確立された診断法とは言えず,6ヵ月から1年後に見逃しに気付く症例を経験するのもまれではない.同様に下部食道癌の早期発見も容易ではなく,更に,食道癌の大部分が組織学的に扁平上皮癌であるので,早期食道腺癌の報告は極めてまれである.

 今回筆者らは食道胃接合部に発生した微小食道腺癌を発見したので,その診断過程およびその組織発生について検討し報告する.

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 Barret's esophagusと呼ばれる病変は下部食道粘膜が円柱上皮に置換された状態をさし,Barrett(1950)の報告にその名を由来する.

 1957年以降,このBarrett's esophagusが腺癌の発生母地として注目されてきた.われわれは剖検例ではあるがBarrett's esophagusに腺癌を合併した症例を経験した.本邦の報告例は調査した範囲内では学会発表例以外見当たらない.最近の進歩したX線造影,内視鏡観察の普及からみて,臨床上かかる例に遭遇する機会も少なくないと思われるので,病理学的所見を中心に記載する.

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 同一胃にⅡc+Ⅲ型早期類似進行癌(病変A),線状潰瘍末端の瘢痕癌(病変B),1mmの微小癌(病変C),それにひだ集中のないびらん型のⅡc(病変D)の4個の癌巣があり,それぞれが診断学上難しい面を持っていた1例を報告する.特に術後のレントゲノグラム像が役立った.

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 胃癌病巣内に微小な感染巣をみることは,組織学的検索においてはめずらしくはないが,大きな感染巣によって癌病巣自体の肉眼像が影響を受けることは普通みられない.われわれはⅡa型早期胃癌の病巣直下に大きな膿瘍を合併したため,一見巨大な粘膜下腫瘍様に変貌を来した症例を経験したので,かかる特異な胃壁内膿瘍の成因および胃癌病変との関連について若干の検討を加えて報告する.

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 胃悪性リンパ腫は病理組織学的にReactive Lymphoreticular Hyperplasia(RLH),ときに未分化癌との鑑別が難しく,術前診断の困難な例も報告されている.われわれは初回の胃生検にてRLHと診断し,以後定期的な経過観察を続け,約2年後最終的に早期胃悪性リンパ腫(リンパ肉腫)と診断した1例を経験したので報告する.

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 われわれはⅡa+Ⅱc型早期癌を併存したⅡc様の陥凹性病変を経験した.この陥凹性病変は組織学的に極めて興味のある所見を示したので,X線像ならびに組織像に若干の考察を加えて報告する.

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 多発早期胃癌はそうまれなものではないが,病巣数が多くなるほど出現頻度は低くなる.

 最近,著者らは8個のⅡc病巣から成る1例を経験した.併存病巣として2個の異型上皮巣,1個の良性潰瘍瘢痕が見られた.このような8個の病巣から成る多発早期癌はまれで,病巣数が多くなるほどその術前診断は困難となる.本症例においては8個中6個の癌と1個の異型上皮巣は生検により診断しえたが,残りの病巣は術後の検索により発見された.

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 1962年Stout1)が胃筋原性腫瘍のうち平滑筋腫あるいは平滑筋肉腫とも異なり,極めて特徴的な病理組織像を呈する69例について検討し,これをbizarre leiomyoblastomaと名付け,胃の非上皮性腫瘍の1つとして確立して以来,多数の報告がみられるようになった.本邦では1964年吉田2)の報告があり,1965年久保ら3)の3例の詳細な報告をはじめとし,現在までに約85例の報告がみられる.

 最近われわれは腹部腫瘤を主症状とし,胃内視鏡およびCT検査で胃の壁外性に発育した腫瘤と診断,胃切除術を施行し病理組織学的にbizarre leiomyoblastomaと判明した症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

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 初診時のX線検査で胃体部小彎の潰瘍瘢痕としてチェックし,胃生検で異型上皮の診断であったため,内視鏡検査を主として経過観察を続け,4年8カ月後(6回目)の生検でグループⅣの診断が得られた.初診から手術までの5年2カ月間に,X線検査を4回,内視鏡検査を16回,生検を11回施行し,手術した結果はⅡc病巣内に島状の異型上皮巣が存在した粘膜内癌であった症例を経験したので報告する.

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 いわゆる“double pylorus”は欧米でも報告例が少なく,わが国でも近年数例が報告されているにすぎない.しかしX線検査や内視鏡検査の普及に伴って今後報告例が増えると思われる.

 また,報告例が少ないこともあってか,本症およびその類似疾患を文献的に検討してみると,種種の名称で呼ばれている.

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 胃切除後の合併症として,ダンピング症候群,輸入脚症候群,吻合部潰瘍などがよく知られている.われわれは極めてまれとされる残胃内への逆行性空腸重積症(retrograde jejunogastric intussusception)の1例を経験した.胃X線透視にて術前に確定診断し,併せて緊急内視鏡検査にて,その劇的な像を鮮やかに捕らえることができたので若干の文献的考察を加えて報告する.

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 X線,内視鏡診断学は目覚ましく進歩しているが,十二指腸癌は発見されたときには進行癌である場合が多く,早期に十二指腸癌を診断するのは非常に困難である.われわれは下十二指腸曲に発生した原発性早期十二指腸癌を経験したので報告する.

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 最近,胃の隆起性病変(polypoid lesion)はX線,内視鏡検査の進歩および集団検診の普及に従い,従来よりも高頻度に発見されるようになってきている.しかし,このような胃病変が十二指腸内に嵌入することは,比較的まれな現象である.われわれは現在までに過形成性胃ポリープおよびⅠ型早期胃癌の4例について,このような嵌入症例を経験したのでここに報告し,文献上病理学的検索の明らかな47例について,特にその臨床像の検討を加え,併せて治療上の問題点に関しても考察を加える.

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 空腸平滑筋腫は比較的まれな疾患であり,診断は困難な場合が多い.最近,われわれは頻回の下血を繰り返し出血源不明のまま保存療法に終始した患者に,小腸X線検査の結果空腸平滑筋腫を強く疑い,術後病理組織学的に確認しえた1例を経験したので報告する.また,併せて本邦報告73例の空腸平滑筋腫について臨床,病理学的に分析を加えた.

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 直腸カルチノイドは本邦では最近まで比較的まれな疾患とされていたが,大腸二重造影や大腸内視鏡の発達とともに報告例が急増しつつある.最近われわれは術前診断が可能であった直腸微小カルチノイドの1例を経験したのでここに報告する.併せて1978年までの本邦報告例68症例を集計し,その病態と臨床像について文献的考察を加えた.

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 正常胃底腺の過形成と小囊

胞から成る胃底腺ポリポージス(fundic gland polyposis,以下FGPと略す)は家族性大腸腺腫症症候群(familial adenomatosis coli syndrome,以下FACと略す)に特有な胃病変と考えられ,またこのポリープの消褪はFACの大腸切除に関係するものと考えられてきた1)~4).しかし最近,FACと関係のない(non-FAC)FGPの報告がみられ5)~7),われわれもnon-FACでFGPを伴った9例を経験した.しかもこの症例には経過観察中にFGPが自然消褪したものがあった.

 本稿では,non-FACにおけるFGPを中心に述べ,FACにみられるFGPと比較し,その発生要因についても考察を加えた.

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欧文目次

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 Cancer in Universal and LeftSided Ulcerative Colitis: Factors Determining Risk: A. J. Greenstein, D. B. Sachar, H. Smith, et al(Gastroenterology 77: 290~294, 1979)

 1960年から1976年の間にニューヨークのマウントサイナイ病院で確診された267例の潰瘍性大腸炎中に26例(9.3%)の癌の合併を発見した.全結腸炎の158例中21例(13%),左側結腸炎では109例中5例(5%)に癌が起こった.S状結腸と直腸に限局していた5例には癌の発生をみなかった.炎症の罹病期間と癌の発生率の関連では,10年以内で0.4%,10~20年で7.4%,20~29年で15.9%,30~40年では52.6%を示した.左側結腸炎では20年以内に癌の起こった例はなかった.30年以上の例では10例の大腸癌発生例中4例が左側型結腸炎であった.30年以上たって癌の出た頻度は,左側結腸炎9例中4例(44%)であり,全結腸炎の場合の10例中6例(60%)に匹敵していた.癌の起こる可能性は,30年で34%,40年では64%と推定された.発症時年齢と癌の関連がよく言われてきたが,この研究では,左側型,全結腸型共に発症年齢が若かったために癌の頻度が高いという傾向を認めなかった.炎症の罹病期間が長くなると頻度が増すのであって,若年発症のためではなかった.

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 Relationship between cholecystectomy and ascending colon cancer: L.J.Vernick et al(Cancer 45: 392~395, 1980)

 胆摘後にはデオキシコール酸プールが増加すると言われるが,デオキシコール酸と大腸癌は関係があり,あるいは1,2ジメチルハイドラジンによる実験的大腸癌の発生率は胆摘により増加するといった報告などがある.アメリカ第3次全国癌調査(1969~71年)に際して,大腸癌の部位別の疫学的特徴を見出す目的で調査した.方法は同期間のペンシルバニア州A郡の全大腸癌2,767例から,年齢および性比がほぼ同一となるようにして,上行結腸癌124例,横行167例,下行115例,S状154例,直腸癌146例の合計706例を抽出して,その入院病歴を見直した.

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 Barrett-esophagus Following Total Gastrectomy: W.Meyer, F.Vollmar, W.Bär(Endoscopy 11: 121~126, 1979)

 パレット食道の成因について,先天説と後天説がある.著者らは胃全摘を受けた患者における観察が,この問題の解明に役立つものと考えた.対象は食道・空腸の端々吻合を受けた20人の患者で,経過観察は平均4.8年である.うち18人は胃癌のため手術を受けた.内視鏡下の生検は,吻合の5cm上で2個と,更に食道の高位で1個採取された.3人の患者で,吻合部から10~15cm上まで発赤を認め,吻合部より5cm上の生検組織で円柱上皮を認めた.内視鏡的にパレット食道を疑ったことが組織学的に確診された.吻合部直上の腫瘍の再発による管状狭窄を示した例では,円柱上皮の定型的所見を呈した.他の3例でも斑状発赤またはびらんを認め,円柱上皮の介在を認めた.狭窄性の吻合部あるいは下部食道の明らかな括約筋様作用は,パレット食道例中の1例にのみみられたにすぎなかった.一方,円柱上皮を食道内に認めない例では,いずれも括約筋作用を認めた.

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 本書を手にしてみて,全くすばらしいと嘆声を上げざるを得ない.本当に望んでいた書物という気がする.

 消化管生検による組織学的検査は今や消化管疾患の診断には欠くことのできないもので,ほとんどの病理医がこれに携り,多くの臨床医がこれに関与する.私たちの機関では,多少特殊事情はあるが,毎日行われる病理組織診断の70~80%が胃を初めとする消化管生検材料に対してであり,すべてがたやすく処理できるとは限らない.

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 Regression of columner esophageal(Barett's)epithelium after anti-reflux surgery.: D.L.Brand et al(New Eng J Med 302: 844~848, 1980)

 食道の円柱上皮(Barrett 上皮)は胃―食道逆流に対する修復性または化生性の反応と考えられており,これに異形成(dysplasia)や腺癌を生ずることがある.裂孔ヘルニア例で逆流の外科的治療(NissenまたはHill手術)を行った患者で術前の生検で円柱上皮が証明されているもの10例について,食道生検を行い,また食道内pH電極で逆流の状態を検討した.これらの円柱上皮は,既に報告されたごとく組織学的に3型(腸型,中間型,胃底腺型)に分類できることが確認された.

編集後記 城所 仂
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 今年は不順な冷夏のため日常生活,経済の各方面に大きな影響を受けた.しかし秋に入って幾分残暑などもあり,これからの順調な回復が心待ちされるこの頃である.読者の諸氏も常々「胃と腸」を愛読されていろいろと御意見を伺うこともあるが,一層内容の充実に努力しなければいけないと考えている.

 本号は症例・研究特集号で17の論文を収録してある.いずれも興味深いもので,それぞれに苦心のあとが偲ばれる.

基本情報

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胃と腸
15巻10号 (1980年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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