胃と腸 15巻11号 (1980年11月)

今月の主題 逆追跡された胃のlinitis plastica―早期発見のために(1)

主題

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 Linitis plastica型胃癌は,急激な進展を来しleather bottle様の外観を呈する最も予後の悪い肉眼型の胃癌である.近年,その原発巣に関する主として病理組織学的研究1)~7)が散見されるが,臨床資料による原発巣ならびに経時的変化についてのまとまった研究はいまだ数少ない.われわれは,比較的病巣が小さい時期に発見されたが種々の理由で経過観察がなされ,手術あるいは剖検で病理組織学的検索が可能であったlinitis plastica型癌を7例経験した.本稿では,これら7例の初回検査時のX線,内視鏡的特徴と病巣内潰瘍の変化について検討を加え,代表的症例を呈示する.

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 近年の胃診断学の進歩に伴い,微小癌の診断,Ⅱb型早期胃癌の診断に代表されるように,胃癌の早期診断はめざましい進歩をとげた.しかしながら進行胃癌のなかでも,殊にlinitis plasticaの術後5年生存は,はなはだ稀であるとする報告が多く,その早期診断学の確立と病態についての解明が待たれている.本研究では,linitis plasticaの逆追跡による胃X線,胃内視鏡資料から,より早期像とそれらの進展推移について検討したい.

 ここでいうlinitis plasticaとは胃壁がびまん性肥厚を呈し,結合織性の変化が著しい胃癌で,限局性の腫瘤形成の認められない胃癌をいう2)~4).臨床上,胃スキルス1),Borrmann 4型胃癌として使用されているものの大部分はこれに含まれている.

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 早期胃癌診断は大きさ,高低,あるいは形状などの諸問題を次々に解決し,その奥義を極めるところまで達しているといっても過言ではない.しかし,目を転じて現実の臨床の場に立ってみると,まだまだ進行癌が優勢であり,早期胃癌の診断学が十分に活用されているとはいい難い.その1つに,短期間に急激な形態的変化を示すlinitis plastica型胃癌があり,しかもこのtypeの癌は比較的若年者に多く,予後も極めて不良であるので,その早期診断が切望されている.

 本稿では,経過観察できたlinitis plastica型癌症例において,その早期発見を目的としてretrospectiveに初期像,進展形式,原発巣,および検査法を中心に検討する.

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 胃癌の診断法が完成に近づいているなかで,いまだにその牙城のべ一ルを取り去ることのできない領域が残っている.

 それがlinitis plastica状態の胃癌である.臨床病理学的には,linitis plastica状態の胃癌は,胃底腺粘膜領域から発生した未分化型癌からなる確率が高いことはわかっているが,どのような条件で,そしてどのような経過で完成されていくかについては,いまだ十分に解明されていない.

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 スキルスのX線学的早期発見の診断は固まっていない.したがって,臨床では,心ならずも,スキルスの経過をみてきた実態がある.早期発見が難しいのは,次のようなことがあるからである.

 部位:病変が胃体部から噴門の領域にある,大彎側に寄っている,または,前庭部に限局する.X線検査のときに,きれいな写真を撮りにくい部位である.

主題症例 逆追跡された胃のlinitis plastica

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 3年11カ月の逆追跡ができた胃体部の比較的限局したスキルスの1例を報告する.胃体部のスキルスの発育進展を考える上で,興味ある症例と考える.

 症 例

 患 者:F.A. 48歳,女.

 1973年10月,心窩部痛を主訴として,S病院を受診した.以来,胃癌と診断がつくまでに,X線検査6回,内視鏡検査7回,胃生検1回の検査歴がある.図表に制限があるので,内視鏡像の呈示は省略する.X線像は初回(1973年10月27日),5回目(1976年7月9目)および術前(1977年8月31日)のX線像を呈示する.

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 胃の多発潰瘍として治療し,経過を観察していたところ,初回検査から2年8カ月後のX線検査でスキルス胃癌と診断された症例を供覧し,初回のX線および内視鏡検査所見をretrospectiveに検討して報告する.

 症 例

 患 者:枝○道○,52歳(初診時),男,博多織工.

 1974年6月11日朝,突然,洗面器1杯の吐血を来し,当院へ緊急入院した.

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 Linitis plastica型胃癌の中には,胃腸症状を主訴としてX線検査を行うも異常を指摘できず,内視鏡検査もせずに,数回のX線による経過観察の結果,leather bottle状態として発見されることがあり,われわれをして不責の念にかりたてられる場合がある.このような症例をより少なくするためには,linitis plastica型胃癌の早期発見のためのX線所見の解析が重要である.われわれは,結果的にlinitis plasticaの原発巣の逆追跡が可能であった1症例を経験したので報告する.

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症 例

患 者:60歳,男.

主 訴:心窩部痛.

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:3年前胃潰瘍,某医により2カ月間治療を受け軽快.

現病歴:1973年6月上旬より空腹時心窩部痛あり.1973年6月26日受診.

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 原発巣と考えられる陥凹性病変が初回検査時より認められたが,生検陰性であったため,結果的に約6カ月間の経過が観察されたlinitis plastica型癌症例を提示する.

 症 例

 患 者:57歳,女,地方公務員.

 主 訴:空腹時心窩部痛.

 既往歴:14歳時,急性糸球体腎炎に罹患.

 現病歴:1975年6月ころから空腹時心窩部痛および背部への放散痛出現,近医受診し,胃炎と診断され,内服薬の投与を受けるが軽快せず.1975年9月他医受診し,胃X線検査を受け,胃潰瘍と診断され,精査のため当院受診.なお1975年6月から来院までの4カ月間に約4kgの体重減少がみられた.

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症 例

患 者:46歳,女.

 1973年以来,1年1回,職域における成人病検診の一環としてX線テレビによる胃部検診を受けていた.初回より6年間,6回のX線テレビによるスクリーニング検査でチェックされなかったが,1979年10月のX線テレビによりlinitis plastica型癌と診断され,同年11月手術を施行(経過表参照).

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 胃のスキルス10)14)はSkirrhus,diffuse Karzinom,Borrmann4型癌,carcinoma fibrosum,硬癌,scirrhous carcinoma,leather bottle stomach,linitis plastica型胃癌など,種々の名称でほぼ同義に呼ばれてきた.一方,スキルスを肉眼形態から“幽門狭窄型と胃体部型”“linitis plastica型とgiant fold型”“限局性びまん型とlinitis plastica型”“Skirrhusとcarcinoma fibrosum”などと大まかに2つに分ける見方があるが,私どもは,これらは原発部位の違いや,時相の違いによるものであって,本質的には変わるものでなく,胃スキルスとして総括できるものと考える.したがって,胃スキルスを論ずる際には混乱をさけるため,どの意味でスキルスの言葉を用いるかを明らかにしておく必要がある.私どもは胃スキルスを,肉眼的にはBorrmann4型またはlinitis plastica型と呼ばれる所見を呈し,組織学的には著明な間質増生を伴うびまん性浸潤型の胃癌とする立場をとっている.

 スキルスの浸潤は,その大部分が粘膜下層以下の深部に広範かつびまん性に認められるのに対し,粘膜面に露出する粘膜内癌巣の拡がりが狭小であることが特徴の1つであり,これが早期発見を阻んでいる原因の1つでもある.この胃癌の中で最も予後の悪いスキルスを早期に発見する方法を模索して,種々の研究がなされているが,私どもも種々の検討10)14)16)から,スキルスの経過には5~6年に及ぶものがあること,また,粘膜面に露出するⅡc様の陥凹癌巣がスキルスの全経過にわたって存在するであろうと推論し,このⅡc様病変の早期発見の重要性を主張してきた.今回は,スキルスのX線像のretrospectiveな検討の中から1例を供覧し,若干の考察を加えた.

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症 例

患 者:Y.K.(O-586),33歳,男,会社員.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:27歳のとき十二指腸潰瘍に罹患.

現病歴:3年前より時折心窩部早発痛あり,そのつど市販胃腸薬の服用あるいは短期間の不定期の医療を受けていた.初診2カ月前より疼痛が増強し,近医を受診して投薬されたが,疼痛は消失せず,検査の目的で紹介され当院初診.

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 スキルスでその経過を十分に観察することのできた症例は大変少ない.これは1つにはこの病変の時間経過がきわめて速いこと,更に一般には癌と診断された時点で手術が行われるのが通常で,その後どういう変化で経過するかをつかみにくいことにもよろう.本症例は重症の糖尿病と高度の腎機能不全によって手術ができず,経過観察中にスキルスとなり,死亡した貴重な症例である.

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 胃体部に発生した亜有茎性の隆起性病変に対し,Ⅰ型早期癌を疑って内視鏡的ポリペクトミーを施行したところ,隆起の主体は脂肪腫でその表面粘膜は大部分が良悪性境界領域の異型上皮巣で占められていた.また,この異型上皮の一部には癌との鑑別が困難な高度の異型腺管がみられた.

 胃の脂肪腫と異型上皮巣がこのような形で共存した症例の報告はなく,文献的にみて,われわれの症例が本邦で初めての報告であると思われる.

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 アミロイドージスは原因不明の代謝異常によりアミロイドが金身性に沈着する疾患で,従来剖検による報告例が多く,生前の診断は困難とされていたが,最近は肝,腎,消化管などの生検によって生前にその確定診断の得られる症例が漸次増加している1)

 われわれは今回,胃X線,内視鏡検査にて異常所見を認め生検によりアミロイド沈着を証明し,引き続き肝,腎,腸管生検にて同様の所見を得て,原発性全身性アミロイドージスと診断できた1例を経験したので報告する.

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 最近,異所性絨毛上皮腫やHCGなど各種のホルモン産生を示す癌について注目されるようになり,その発生およびホルモン産生機転には種々の見解が示されているが,なお未解決の問題が多い.今回われわれは,絨毛上皮腫様変化を伴った男性の残胃癌剖検例を経験したので報告する.

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 Rendu-Oster-Weber病は,その別名hereditary hemorrhagic telangiectasiaが示すとおり,皮膚および粘膜の血管拡張性病変(telangiectasia)からの反復する出血が特徴であるが,この病変は消化管粘膜にも発生し,消化管出血の原因となることは既に成書に明らかに記されている.われわれは内視鏡的に,Rendu-Osler-Weber病(以下ROW病)に類似した胃病変を認め,それがangiographyにて,A-V malformationの所見を示した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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 毎年,夏になると,学生の講義がなくなり,多少,余裕がでて,まとまった本でも少し集中して読みたくなる.昨年はGoodらのGastroinotestinal tract cancerを読み,一冊の本として紹介した(胃と腸15: 235,1980)が,今夏は2,3の新着の本の中からBouchierの編集によるRecent advances in gastroenterology(4)を読んだ.同書(3)は1976年に出版されており,4年ぶりである.

 食道,胃・十二指腸,大腸,IBD,肝臓,肝炎,膵臓,胆のう・胆道,消化器内視鏡,小児消化器病の10項目について,各著者が過去5年間における各分野の文献を読み,その中の良い論文を中心に,5年間の進歩を総説的にまとめている.

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欧文目次

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Ileal Adenomas after Colectomy in Nine Patients with Adenomatous Polyposis Coli/Gardner's Syndrome: S.R.Hamilton, H.J.R.Bussey, G.Mendelsohn, B.C.Morson, et al(Gastroenterology 77: 1252~1257, 1979)

 回腸粘膜での腺腫の発生は,大腸の腺腫性ポリポージス,Gardner症候群ではまれな所見である.結腸切除後1年11カ月から25年11カ月後に回腸腺腫を認めた9例を経験した.7例では,回腸・直腸吻合の近位側に,1例では,盲腸・直腸吻合の近位側に,そしてその後に造設された回腸瘻の近位に,残る1例では,回腸瘻のところに腺腫が発生した.

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An Evaluation of Total Parenteral Nutrition in the Management of Inflammatory Bowel Disease: C.O.Elson, T.J.Layden, B.A.Nemachausky, J.L.Rosenberg, I.H.Rosenberg(Digestive Diseases and Sciences 25: 42~48, 1980)

 栄養障害は,炎症性腸疾患の顕著な特徴であり,経口摂取を制限して腸管の安静をはかることが,炎症性腸疾患治療の基本とされてきたが,十分ではなかった.完全非経口的栄養(以下TPNと略す)の出現以来,腸の完全なる安静と十分な栄養が得られるようになった.

編集後記 西沢 護
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 Borrmann4型癌のなかで,臨床上しばしば急速に進展し,発見しえた時点ではほとんど治癒の可能性のない症例で何ともいやな思いをしなかった人はいないであろう.この型の癌の早期発見を目的として,retrospectiveにみて原発巣がどのような部位,形のもので,どのような経過をたどるものかというむずかしい問題に挑戦しようと試みたのが11号,12号の特集である.

 このような癌をスキルス,びまん性癌,linitis plasticaなど,人によってその呼び方も定義づけも問題がないわけではないが,ともかくlinitis plastica型癌として集められた症例をみると,そのほとんどが胃底腺あるいは境界領域から発生した低分化癌で,Ⅱcまたは浅い潰瘍を示す集中像のあまりみられないものが多いという推定は確かのように思われる.

基本情報

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胃と腸
15巻11号 (1980年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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