精神医学 63巻5号 (2021年5月)

増大号特集 精神科クリニカル・パール—先達に学ぶ

特集にあたって 福田 正人
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 本特集「精神科クリニカル・パール—先達に学ぶ」は,『精神医学』誌の2冊目の増大号です。

 昨年刊行した初めての増大号では,「精神科診療のエビデンス—国内外の重要ガイドライン解説」を特集しました。最近の精神医学の発展にもとづくエビデンスは,ガイドラインという形で精神医療に生かされています。そうした重要なガイドラインを解説した特集は,幸いに好評をいただくことができました。少しでも臨床のお役に立つことができたのであれば,増大号刊行の趣旨が生きたことになります。

第1章 精神科面接の先達

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・患者を受け止めることのできる自分づくりを

・包括的・全人的な捉え方を心がける

・面接を繰り返し,自分の判断を修正する

・患者の回復力を高める

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・人を人として遇する——Meet him/her as a person without prejudice

・多面的に観察し,多軸で考える——Multifaceted approach/Use a multifaceted perspective for observation and multiaxial schemas for thinking

・自己省察を怠らない——Always introspect myself

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・「物の見えたる光,いまだきえざるうちに言ひとむべし(三冊子)」(芭蕉),「すべてのものには時がある」(旧約聖書)

・「傾聴,受容,共感」を面接開始するにあたって「おまじない」として唱える。その際にも「関与しつつの観察」は常に頭に置いておく。

・診断目的の面接の過程は同時に精神療法の過程でもあり両者は不可分一体である。

・症状や行動が“悪化”した時には治療者-患者関係のレベルの検討を忘れない。

・面接(精神療法)とは母語である《硬い言葉》と《柔らかい言葉》とによる二重奏である。

・精神療法と薬物療法とは相補的なもので,薬は「言葉の交流の地ならしをするもの」として投与し,またプラセボ効果をいかに高めるかに腐心する。

・「原則に忠実な者ほど柔軟である」(レーニン)

・脳と心のほかに,お金と家族のことを忘れない

自戒していること 青木 省三
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・患者さんの心のいたみを感じとる治療者のセンサーは,摩耗しやすいものである。

・私たちはメガネをかけて診療している。メガネをかけ替えたりはずしたりしてみると,違ったものが見えてくる。

・症状を診るだけでなく,症状の背景にある生活や人生を診る。症状と背景にある生活や人生とは相互に影響し合っている。

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・人は精神疾患が原因で他害行為を起こすのではない。それまでに培ってきた思考および行動パターンによって事件に至るのだ。

・患者は担当医が期待する答えを選ぶ傾向がある。「壺に嵌まった診療」と感じたときには患者を誘導しているかもしれない。

・主治医は事件を起こした人の心理的共犯者になることによって,患者と事件を語る土俵に立つ。

・人と人が影響を及ぼし合うとは,互いが巻き込み,巻き込まれることである。患者に巻き込まれることを恐れる必要はない。

・治療とは患者が自分自身で「心の黒い石」を取り除いていく作業を支援することであって,治療者が「患者の心の黒い石」を取り除くことではない。

第1章 精神科面接の先達 special article

死刑囚と無期囚の心理 小木 貞孝
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 この研究と整理および発表は,1955年11月から1959年10月にかけて行われた。2017年6月,名古屋における日本精神神経学会総会の「先達の講演」として60年ぶりに再発表した。

 対象になったのは,死刑囚(死刑確定囚)44名,無期囚(無期受刑者)51名,重罪未決囚(死刑または無期未決囚)50名である。独房を訪問し,面接を繰り返し行うという方法での研究であった。死刑囚と重罪未決囚の場合は,私の任地である東京拘置所を中心に札幌,仙台,名古屋,大阪の各拘置所を訪問の上,診察して回った。また長期受刑者を収容する千葉刑務所を訪問して無期囚の面接と対談を行った。1957年9月に私はフランス政府給費留学生となってフランスに留学した。そして,かの地で死刑囚と無期囚の心理研究の論文をフランス語で書き上げて,Annales Medico Psycho1ogiques精神医学雑誌1)に投稿し,1959年10月に掲載された。全76ページである。その日本語訳が日本で出版されたのは1974年金剛出版からで,『死刑囚と無期囚の心理』2)と命名された。

第2章 精神科診断の先達

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・症候学だけで構築された精神疾患の診断には限界がある

・診断に疑問があるときには「DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き」(Mini D)の骨組みだけを見るのではなく,そのたびに「DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル」を傍において関連項目を速読し,肉付けから個性までを見直す

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・精神医学のポリグロットを目指せ

・精神科臨床においては,①生命力動/人格(・認知・言語)構造,②裂開相/内閉相,③うつ病-認知症中間(移行)領域などの中間(移行)領域の視座を基本視座とする

・患者との実際のコミュニケーションにおいては,神経症性言語,統合失調性言語,脳器質性言語などからなる多言語の備えが重要である

第2章 精神科診断の先達 special article

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 精神科医となって,50年あまり経た今,当時の自分が何をもって精神科医を目指したか,あるいは精神科医となっていくプロセスで何を目指していたのか,これまでほとんど振り返ることはなかった。医師国家試験をパスして大学院に進学し,精神神経科学教室に籍を置いて同分野の研究に入っていこうとするとき,何らかの目標はあったように思う。義務教育を受けていた頃から,野口英世の話に聞き耳を立て20冊近くの伝記本を読みあさっていたが,高校・大学と進むにつれ,相応の変化を体験していたように思う。精神神経科に進む前には,もちろん優れた精神科医を目指していたはずである。ただ,筆者の学歴(表1)を見ても,そう易々と期待通りの展開をみず,いったんはいわゆる,理系の「研究者」を目指しながら,そこに破綻を来し,1年間の浪人を経て,医学部に転学しているのである。ただ,医学部では,ほとんど迷うことなく,精神神経科での作業を急速に深化させていっている。ただ,そこでも若干の戸惑いはあった。日本の医学界では,1960年頃,精神医学と神経学が屡々一緒になって発展してきており,筆者もそのいずれを専攻していくか,医学部卒後しばらくは戸惑ったものである。特に,大学院進学に当たって,基礎系または臨床系の大学院のいずれを研究の中核とするかは,当人だけでなく周辺の者からも大いに注目されるところであったようである。

 次の表2には,長崎大学とかかわりのある先輩諸氏数名の略歴を列挙してみた。

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・正しい薬物療法を心がけるには,まずは治療薬がどのような経緯で開発され,臨床の場に導入されていったかを知ることである

・うつ病の診断の決め手は,「だるくて,しんどくて,やる気が起きない」である

・うつ病の告知には生物学的説明—この方法が患者さんに最も受け入れられる

・薬物療法にあたっては,何をどのようにする薬かを十分に説明し,有害事象の説明に時間をかける

・抗うつ薬の選択にあたっては生物学的説明が生きる

・抗うつ薬の使い方は単純明快に—単剤療法から始めよう

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・向精神薬療法成功の秘訣は服薬アドヒアランスの確保

・向精神薬処方は単剤でポリファーマシーを避ける

・患者は薬効よりも副作用を気にする

・「我以外皆我師」の信念を持つ

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・治療学として,ゴール設定と戦略を明確化する

・科学データが示す臨床的含意を読み取る

・科学データを患者の言葉に意訳する

・患者による回復の物語を協働製作する

・レジリエンスの強化を治療哲学の基盤に置く

第4章 精神療法の先達

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・冷静な観察者でなく,相談者が被相談者と共振れできる柔らかい地位を維持する

・今日までの育ち来し方を感入的に理解する努力

・相手の苦しみに共感して,心中で涙するいささかの無防備さ

・日々の暮らしで早口の人は,長閑な語り口で暮らすよう努める

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・性格診断をし,それらが持つ精神力動に対応する

・自分は未熟であり人格の成熟を願っていることを自覚してもらう

・掻き消されているごく普通の感情をコトバで表現してもらう

・大人とは何かを教える

力動的精神医学の勧め 衣笠 隆幸
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・症状精神医学診断(DSM-5,ICD-10)は,時間的に現在の症状や行動障害を中心にした横軸の診断法であり,力動的精神医学診断は,個人の固有の生活歴を中心に診断する縦軸の診断法であるが,両者を駆使することで立体的で重厚な見立てができる

・成人の環境因の強い各種パーソナリティ障害の症例の,個人に対する力動的(精神分析的)精神療法は,治療者の基礎訓練としても重要なものである

患者,先輩,仲間との体験 大野 裕
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・常識を大切にするが,常識に縛られない

・患者の言葉にならない言葉に耳を傾ける

・患者を助けるのは患者の強み

・原因探しより手立て探し

・治療場面での笑いは,治療関係を反映し患者を癒やす

第5章 統合失調症診療の先達

統合失調症の治療 西園 昌久
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・統合失調症からの回復には,4つの関門がある

・統合失調症の治療に薬物療法は不可欠だがそれだけでは成功しない

・心理社会的治療は,患者仲間集団の協力で真価を発揮する

・心理社会的治療は病相によって使い分けが必要である

・統合失調症の治療は多職種協働(チーム医療)ではじめて成果を上げる

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・夢に向かって挑戦を

・治療とともに再発予防は医師の義務

・患者に害を与えない治療は当然の義務—副作用の予防

・患者・家族・市民を巻き込んだ市民運動も必要—身体合併症の病棟の設置と予防

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・臨床の中で感じた疑問を大事にし,その解決のために地道に努力しよう。継続は力なり。

・仮説(予測)に反した結果に落胆することはない。そこに宝物が潜んでいるかもしれない。よく探してみよう。

・自分たちの得られた結果を信じよう。慎重に検討し,それが間違いなければ世間の評価は気にしない。

・統合失調症の基本障害は主体性の障害である。患者は手掛かりを見つけられず課題に失敗するが,与えられた手掛かりを利用できる。この特徴が統合失調症のリハビリテーションに役立つ。

・寄り添って支え,治療者(支援者)とともに試行錯誤して手掛かりを見つけ,成功体験を重ねる。これが日常生活をしやすくさせ,パーソナルリカバリーに繋がる。

・研究結果が統合失調症の核心に迫っていれば,すでに得られている他領域の確かな結果や臨床経験と繋がってくる。

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・精神科を初めて受診した人がネガティブな印象を持たないように,初めての診察・診療をていねいに,大切に

・担当の医師にいつでも(深夜は避ける)電話で聞いたり相談したりできる体制を作る

・医師は十分睡眠をとり,長時間になろうとも診察に応じる準備をする

・統合失調症の患者さんの症状体験の中に,患者さんを取り巻く人間関係や問題を読み取り,診療する

再発はチャンス 井上 新平
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・統合失調症は治る

・再発はチャンス

・遊びで接する

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・未来を夢見る青年期に統合失調症になった人の苦しみや挫折感を考えるとき,患者さんの生き方そのものがリスペクトの対象となる。

・一緒に苦しいときを潜り抜ける中で見えてくる患者さんの美点は,その後の治療を支えるものとなる。

・治療の見通しに絶望感を感じるときは,必ず患者さんも同じ絶望を抱えている。

・治療者があきらめてしまったら,そこからは治療の発展が止まってしまう。

・ずいぶんよくなったと安心していると,足元をすくわれるように再発することがある。今までの遅れを取り戻そうと冒険する(そっと薬をやめてしまうなど)ときが多い。

・患者さんも治療者も,支えあえる仲間が必要である。そしてワンチームで回復に取り組んでいく上で,チームメンバーは対等であり,患者さんやご家族の視点を重視するとうまくいく。

・患者さんと家族にとって,統合失調症という病名がネガティブな価値観を含んでおり,将来への絶望感をもたらすものであるとしたら,だれもそれを引き受けたいとは思わないだろう。

第6章 気分障害診療の先達

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・うつ病の遷延防止に,重症でなくとも入院を選択肢とすべきである。特に自宅で休養がとれない主婦は入院治療がベストである。

・適応障害は気分障害とは別のカテゴリーとされるが,実地臨床では両者は錯綜した関係にあり,長引く例や自殺もあり,軽症扱いは正しいとはいえない。

・いわゆる“過労自殺”例のほとんどを占める男性は,苦境を訴えず,助けを求めない強い秘匿傾向が認められ,自殺防止の難しさを痛感させられる。

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・横断的だけでなく,縦断的に診て,場合によっては診断変更する勇気を持て!

・うつ病では常に自殺のリスクを想定すべき

・双極性Ⅱ型障害の過少診断と過剰診断のどちらにも注意!

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・うつ病での自死ハイリスクはうつ病罹患についての病識の乏しさ

・夜になり人心地がつく体験ができるとうつ病からの回復は始まっている

・うつ病は状況から了解可能な心因性のうつ状態よりも身体因性の病態に類似している

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・「うつ病」の「抑うつ気分」は“憂うつ”な気分ではない

・ごく初期の制止症状を探り当て,発症までの経緯を見直し,描き直せ

・発症時の状況ではなく,生活史上の複数の要因・事情の中に発症準備性が隠れている

・「軽症内因性うつ病」では治療期に合わせた微妙な用量調整をすべきである

・「生活リズム」の構築のためには「遊び的行動」が必須である

第7章 不安症・強迫症・身体症状症診療の先達

神経症診療半世紀 高橋 徹
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・治せなくても自らを慰めることはできる。しかし,一生勉強しなければならない(斎藤十六:卒業生への贐の言葉)。

・人は七情の働きに由って病気になる場合が最も多い。従って世の中には心気病(江戸時代の神経症)を患う人々が多いのであるから,まず心気病であるか否かを診断し,心気病であれば移精変気の方法を行う(今泉玄祐:療治夜話)。

・生体の不思議さは部分が良くなると全体が改善するということがしばしば起こることである。生体は破壊や損傷が進行すると同時に,修復に向かう性質も持っている。精神障害に対する薬物の作用はまさに「部分」に働きかけて回復に向かわせる契機となるものであろう。部分というのが不適切であるなら,作用点と言い換えてもよい(市橋秀夫:処方の哲学)。

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・神経症者は「できないこと」に注力し,「できること」に取り組めない人である。そして望んでいることと結果が逆になる。

・神経症者は,頭でっかちな「べき」思考を持ち,過緊張に陥っている。何かが足りないと悩むが,さまざまなことが過剰なのである。欠損を埋めるのではなく,過剰な部分を削り,努力の方向を変え,本来の一次的反応(症状)の特性である,変化し,流動する体験ができるように働きかける。

・神経症性障害を理解し,介入するには,恐怖と欲望(生の力),そして「べき」思考の三角形の関係に注目し,そこへの介入を行う。そこでは生の力と注意の方向に注意を払うこと。

・一次的反応(症状),生活状況,そして自己自身の関係のあり方を変えることが,治療の要諦である。その関係の結び直しが変化を引き起こす。そこでは,待つ力,耐える力を身につけ,一次的反応(症状)が流動・変化することを経験し,行動を通して生の力を磨くことがポイントとなる。

第8章 児童精神科診療の先達

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・学問・研究には歴史と伝統ある環境が重要である

・人材育成のためには優れたリーダーの存在が不可欠である

・臨床の場は症例の宝庫である。外来診療を軽んじてはならない

・発達過程にある子どもにとってfollow-up研究は必須である。10年,20年のfollow-upによって疾病の本態を究明することは叶わぬとしても,疾病の実態を明らかにすることは可能である

・予後研究は重要である

児童精神科診療への箴言 山﨑 晃資
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・児童精神科医に初めて出会う子どもと親は,さまざまな期待と不安を抱いていることを知らなければならない

・子どもの症状や問題行動には意味があることを考える

・乳幼児期の発達歴や親子関係の変遷を丁寧に聴きとる

・児童精神科診療において「診断する」ということはどういうことかを考える

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・自家薬籠中の「心の発達論」を持とう

・患者の全体を見ることを忘れない

・少し変わるだけで人はよりよく生きることができる

頭に浮かぶ言葉 滝川 一廣
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・physician heal thyself

・こころは脳の外にある

・大切なのは暮らし

・社会的/時間的なこころの基本構造を形成過程から追究せねば

第9章 老年精神科診療の先達

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・超高齢者の認知症様状態は,臨床・脳病理学的にも病気か加齢相応かの判断が難しい。病的か加齢相応かを常に考えながら診ることが重要である。

・超高齢者の記憶障害による生活機能低下で安易に認知症と診断しないことが重要である。

・日常の診療で使われている認知症の診断基準は,超高齢者ではトリアージである。長期間付き合って診断を確かめることが重要である。

・超高齢者の認知症は,生物・社会・心理的に総合的に診ることが,より重要である。

・超高齢者の幻覚・妄想状態は,作話型,空想型のパターンが多い。

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・本人の生活歴に関する話題から診察を始める。事実関係は問わない。確かめるチャンスはあとでいくらでもある。

・認知症の重症度を問わず受診の主体は認知症の人本人であり,家族ではない。尋ねるときも,説明するときもまず本人から始める。

・診察に際しては本人,家族そして自分自身の不全感が残らないようにする。

・認知症の診療は診察室の中だけでは終わらない。

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・初診・再診を問わず,まず患者本人から話を聞く

・家族から話を聞くときにも患者同席

・症状は対処行動(coping)と解釈

・予防介入は発症後も重要

・患者の努力と家族の苦悩を評価し労う

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・人は行動を通貨として社会生活を営む

・ヒトは皆同じような赤ん坊として生まれてくるが,高齢者は最も個体差が大きい

・精神科医による問診は,客観的事実を知るためではなく,患者の主観的体験を聞き出すためにする

第10章 その他の精神科診療の先達

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・精神科医とPTSDとの出会い方には三つの場合がある。一つ目は肩すかし,二つ目はいかがわしさ,そして三つ目は正真正銘の出会いである。正真正銘の出会いの経験がないとトラウマの理解を深めることはできないが,患者を前にしてもそれがトラウマに関連した病態であることにそもそも気付かなければ,出会いは起こらない。

・トラウマ治療の第一歩はトラウマ心理教育である。心理教育とは,患者が抱えている苦悩の性状を,治療者と患者の双方向性の共感的なやりとりを通して描き出し,「異常な出来事に対するよくある反応」としての理解を促す(ノーマライズ)ことである。それが治療同盟の土台となる。

・トラウマによる精神的後遺症の背景には,自己,他者,世界に対する非機能的な否定的認知が必ず存在していると思ってよい。たいていの場合,患者自身はそのことに気付いておらず語られることもないが,それはしばしば再体験,回避,過覚醒症状以上に長く患者を苦しめる要因となっている。治療を通じてトラウマ記憶の処理が進めば,非機能的認知も修正される。

・深刻なトラウマ体験を聞かされた者には,二つの心理的反応(逆転移)のどちらかが出やすい。一つは回避である。もう一つは同一化である。過度の同一化は治療者の代理受傷につながる。大事なことは治療者として自らの心中に芽生えた反応に気付いていることであり,生活のバランスを保ち,同僚やスーパーバイザーとも話しあえる関係を保っておくことである。

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・最初の出会いが大切である

・治す気のない人は治せない

・治せざるをもって治とす

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・不眠症は精神疾患や身体疾患に併存しやすい睡眠障害の一つであり,併存疾患とは独立した治療を必要とする

・不眠症には慢性経過をとるものが多く,一部に視床下部・下垂体機能異常を伴う重症治療困難例が存在する

・睡眠薬は不眠症に対しては単なる対症療法であり,根本治療には睡眠に対するとらえ方を変えることが必要である

・常用量で睡眠薬の依存が起こるというエビデンスはなく,長期連用がやめられない背景には誤った生活習慣が存在する

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・パーソナリティ症の治療にあたっては,患者の人格を尊重し,それを損なう可能性を排除すよう努めなければならない

・パーソナリティ症の治療では生き方,人生観などスピリチュアルなテーマが稀ならず現れる。本来は患者自身のパーソナルな領域だが,治療者は側面から彼らの回復への歩みを穏やかにガイドする役割を果たすことができる

・パーソナリティ症の治療は患者と治療者の双方にとってチャレンジに満ちている

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・定義,用語には,「文字通り」とは言えない歴史と思想がある

・「嗜癖」という視点で見てこそ,治療的アプローチが見えてくる

・専門家の情報発信には責任性が伴う

—救急分野—精神科救急 平田 豊明
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・急性錯乱—若い女性では脳炎,若い男性では物質乱用,高齢者ではせん妄を疑う。

・措置入院の回避は人権擁護とは限らない。目の前の印象だけで判断しない。

・精神病の急性期治療は3幕の即興劇。獲得目標は病識よりも受援力。

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・退院できない人はいない。地域で生活してこそ人たり得る。施設処遇は重大な人権侵害。人は信じてあげないと変われない。変わり得る未来を信じろ。

・生きてさえいればいくらでも,いくつになっても人生を取り戻せる。嘘でもいいからあなたの未来には希望があると言ってやれ。

・「私は」という主語を使う。

・孤独にさせない。人が元気になるには人が必要である。

第10章 その他の精神科診療の先達 special article

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はじめに

 わが国には長い間司法精神科臨床の場がなく,そのことが司法精神医学の発展を大きく阻害してきた。その意味で,2003年の医療観察法の制定により重大犯罪6罪種を犯した触法精神障害者を対象とする医療観察病棟が各地に整備され,日本司法精神医学会が設立されたのは歓迎すべきことである。その上,実現した医療観察病棟は英国の最新の地域保安病棟をモデルとし,施設基準,人員配置基準ともわが国の一般精神科病院のそれを大きく上回るものとなり,そこでは個々の事例についての慎重な調査,診断,治療目標の設定が行われている。各事例のニーズに応じた適切な治療プログラムが組まれ,リスク評価を随時実施しながら退院に向けての充実した多職種チーム医療が行われている。その成果は,本制度制定以前には高頻度にみられた重大犯罪を繰り返す触法精神障害者が,その後ほとんどみられなくなったことからも明らかである。

 とはいえ,医療観察制度の施行は,1950年の精神衛生法の施行以来,触法精神障害者処遇策を巡りわが国の精神保健行政と司法・法務の実務との間に生じた大きな断裂の一部を修復したに過ぎず,6罪種以外の罪を犯した触法精神障害者は従来通り措置入院の対象とされ,中には適切な治療を受けられぬまま再犯に至るケースも後を絶たない。

 措置入院後に大量殺人事件を起こして昨年(2020年)最終判決が下された事件が2件ある。1件は2015年3月に生じた淡路島5人殺害事件であり,犯人H(犯行時40歳)には1月27日に大阪高裁で無期懲役の判決が下された。他の1件は2016年7月に生じた相模原障害者施設殺傷事件(19人殺害,26人重軽傷)で,犯人U(犯行時26歳)には3月16日に横浜地裁で死刑判決が下され,Uが控訴を取り下げたため死刑判決が確定した。

 この2つの事件について,可能な範囲内で筆者なりの調査をしてみると,わが国の精神科医療と司法精神医療・医学の将来を考える上で重要と思われるいくつかの教訓が含まれていると感じさせられた。筆者はすでに第一線を引いた身で,新たに何か行動を起こすことはできないが,志ある方々がこれらの事例の遺した教訓を生かして下さることを心より願い,本小論を書かせていただく。

 そこでまず,これらの事件が生ずるに至った経緯などを,それぞれの地元紙(神戸新聞,神奈川新聞),朝日新聞その他インターネット情報(「H」示現舎編など)や,神奈川新聞と朝日新聞の取材班による書籍1,2),厚労省・再発防止検討チームの中間報告3),兵庫県・検討委員会からの提言,判決要旨などを参照し,簡潔に記させていただく。

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精神医学
63巻5号 (2021年5月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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