増大号特集 精神科クリニカル・パール—先達に学ぶ
第10章 その他の精神科診療の先達
—ストレス関連障害—PTSD臨床の経験から
飛鳥井 望
1
1医療法人社団青山会青木病院
キーワード:
心的外傷後ストレス障害
,
posttraumatic stress disorder
,
トラウマ心理教育
,
trauma psychoeducation
,
トラウマ焦点化心理療法
,
trauma-focused psychotherapy
,
代理受傷
,
vicarious traumatization
Keyword:
心的外傷後ストレス障害
,
posttraumatic stress disorder
,
トラウマ心理教育
,
trauma psychoeducation
,
トラウマ焦点化心理療法
,
trauma-focused psychotherapy
,
代理受傷
,
vicarious traumatization
pp.820-825
発行日 2021年5月15日
Published Date 2021/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405206368
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clinical pearl
・精神科医とPTSDとの出会い方には三つの場合がある。一つ目は肩すかし,二つ目はいかがわしさ,そして三つ目は正真正銘の出会いである。正真正銘の出会いの経験がないとトラウマの理解を深めることはできないが,患者を前にしてもそれがトラウマに関連した病態であることにそもそも気付かなければ,出会いは起こらない。
・トラウマ治療の第一歩はトラウマ心理教育である。心理教育とは,患者が抱えている苦悩の性状を,治療者と患者の双方向性の共感的なやりとりを通して描き出し,「異常な出来事に対するよくある反応」としての理解を促す(ノーマライズ)ことである。それが治療同盟の土台となる。
・トラウマによる精神的後遺症の背景には,自己,他者,世界に対する非機能的な否定的認知が必ず存在していると思ってよい。たいていの場合,患者自身はそのことに気付いておらず語られることもないが,それはしばしば再体験,回避,過覚醒症状以上に長く患者を苦しめる要因となっている。治療を通じてトラウマ記憶の処理が進めば,非機能的認知も修正される。
・深刻なトラウマ体験を聞かされた者には,二つの心理的反応(逆転移)のどちらかが出やすい。一つは回避である。もう一つは同一化である。過度の同一化は治療者の代理受傷につながる。大事なことは治療者として自らの心中に芽生えた反応に気付いていることであり,生活のバランスを保ち,同僚やスーパーバイザーとも話しあえる関係を保っておくことである。
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