精神医学 60巻9号 (2018年9月)

特集 不眠症の治療と睡眠薬

特集にあたって 内山 真
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 横断的疫学調査によれば,日本在住成人の約5人に1人が症状としての不眠を持ち,約10人に1人が睡眠困難に日中のQOL低下を伴う不眠症で,約20人に1人が過去1か月の間に睡眠薬を使用している。縦断的調査からは,不眠がうつ病などの精神疾患や,高血圧,糖尿病,高脂血症などの身体疾患のリスクとなることが報告され,心身の健康保持にかかわる重要な問題ととらえられるようになった。

 臨床現場においては,ベンゾジアゼピン受容体作動薬に加え,メラトニン受容体作動薬,オレキシン受容体拮抗薬が開発され,異なった作用機序を持つ薬剤の登場で不眠症医療が大きく進むことが期待された。しかし,臨床における不眠症の病態はきわめて複雑で未解明な点が多く,異なる作用機序を持つ睡眠薬の特徴を生かした治療ガイドラインやアルゴリズムは国内においても海外においても開発途上である。

不眠症の概念とその変遷 清水 徹男
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はじめに

 「毎晩,5時間しか眠れません。私,不眠症でしょうか?」「寝つきに30分かかり,夜中にも1〜2時間目覚めて「ラジオ深夜便」を聴取しています。朝は6時に自然に目が覚め,昼間は元気にゲートボールに参加しています。私,不眠症でしょうか?」「何かで見たのですが,世間の人の3割近くが不眠症なのですか?」こんな質問を患者さんから投げかけられたら,皆さんはどうお答えになるだろうか。不眠と不眠症をめぐっては概念の混乱があり,その混乱に基づいて各種の疫学調査の結果にも大きなばらつきが生じている。さらに,睡眠障害についてはDSMやICD,睡眠障害国際分類(The International Classification of Sleep Disorders:ICSD)など複数の診断基準が存在し,さらにそのversionによって不眠症概念と診断基準が異なるという混乱がみられた。その混乱は,DSM-5,ICSD-3,2018年6月に公表になったICD-11の登場によって一応の終息を迎えたと言えよう。

 本稿では,不眠と不眠症の概念について,その変遷を踏まえて解説する。

睡眠薬開発の歴史 村崎 光邦
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はじめに

 不眠症の歴史は人類の出現とともに始まり,集団生活化およびその規模の拡大と近代化とともに頻度は増加していったと考えられる。

 その治療薬の歴史も古く,古代ギリシャの哲学者Aristotleの『Sleeping and Waking』なる書物にヒトの眠りを良くする物に,wine,popy,mandrake(コイナス科のmandragona,聖書に記載あり),rye grace(イネ科ドクムギ属)の4つの名前が挙げられている。さらに,インド大麻やさまざまの生薬などが不眠症に用いられてきており,中世には,hyoscin(ナス科の植物hyoscin ringer,後にscopolamineを含有すること判明)なども用いられた記録がある。このように不眠症の歴史とともに,それを改善するための工夫が凝らされてきている。

 本稿では,19世紀以降に睡眠薬と銘うって出現してきた薬物の開発の歴史を紐解いていく。

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なぜガイドラインが必要か

 睡眠薬に限ったことではないが,向精神薬の処方のあり方がいま厳しく問われている。特にベンゾジアゼピン受容体作動薬(GABAA受容体作動薬,以下,BZD)については乱用や依存例が問題視され,現在係争中の医療裁判もある。BZDについて否定的な論調が多い一方で,不眠医療のなかでは未だにそのプレゼンスは大きく,頼りにしている患者も多い。BZDは一切処方すべきでないといった極端な意見もあるが,BZD以外の睡眠薬が2種類しかなく効果的な代替療法が限られている現状からみて現実的ではない。

 向精神薬にまつわる臨床問題を少しでも減らし,患者が抱えている懸念を和らげるには,適正使用を明示したガイドラインとその普及が必要である。特に,不眠症状が改善した後の漫然とした長期投与を避けることで乱用と依存のリスクはかなり低減できる。2013年6月に発出された『睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン』3,4)でも,その治療アルゴリズムの中で症状改善後の「治療終了」が明示されている。その意図としては,睡眠薬を用いた初期薬物療法の後に「減薬,休薬」か「安全な長期維持療法」のどちらをめざすのか患者と共有意思決定(shared decision making)してほしいということである。

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はじめに

 睡眠不足や睡眠障害は,うつ病などの精神疾患や,生活習慣病などの身体疾患と密接に関連することが知られている。また,日中の眠気や注意力・集中力の低下などを引き起こすため,交通事故や産業事故を引き起こす原因ともなる。こうしたことから,現代社会に大きな経済的損失をもたらす健康上の重要な問題と考えられており6),社会的にも学問的にも重要な関心事項として注目されている。本稿では不眠症および睡眠薬使用の疫学研究に着目し,これまでに得られた知見を概説する。

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はじめに

 不眠症は,かつては比較的病的意義の低いcommon diseaseと捉えられがちだったが,精神疾患(特にうつ病や気分障害)や生活習慣病発現のリスク要因になるばかりでなく,不眠症治療がこれらの治療管理にもきわめて重要な意義を持つこと,治療の第一選択薬とされてきたベンゾジアゼピン類ないしそのアゴニスト(BZDs)の多剤併用と長期使用が問題視されるようになったことなどから,その治療の適正化の重要性が認識されるようになった。すなわち,治療開始のタイミング,症状構造と背景疾患に配慮した治療手技の選択,維持療法のあり方,副作用への対策,再発予防を視野に入れた治療終結のあり方などが,今日的な課題となっている。本稿では,不眠症の自然経過や予後,再発リスク,各種治療の予後に及ぼす影響について,現在までに得られている研究成果を述べるとともに,今後の課題について考えてみたい。

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はじめに

 不眠症はおおよそ10〜20%の有病率を有し,半数程度が長期経過をたどる疾患である10)。不眠症は日中の機能低下を伴い,うつ病や不安障害などの精神疾患や生活習慣病をはじめとするさまざまな身体疾患を合併することから,積極的な予防・治療戦略が求められている。不眠症の治療には主にベンゾジアゼピン(BZD)受容体作動性睡眠薬が用いられてきたが,近年長期投与に伴う安全性や,高齢者への多剤投与に対する危惧が国際的な高まりをみせ,わが国でも睡眠薬の投与規制が強まりつつある。BZD受容体作動薬とは異なる機序の睡眠薬も開発・上市されつつあるが,国際的には不眠症の心理行動的病態特性上,非薬物療法が推奨されており,本邦においても治療体制の整備が求められている。

 2013年に改訂された,米国精神医学会の『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition:DSM-5)2)以降,不眠症は原発性と続発性の区別が撤廃され,薬剤性に生じているものを除き,不眠症の診断に他疾患合併の有無は重視されなくなった。これには,続発性不眠であっても原発性不眠と治療戦略に大差なく,中核病態にかかわる心理行動学的特性に共通点が多いためである。2014年に改訂された睡眠障害国際分類第3版(International Classification of Sleep Disorders, Third Edition:ICSD-3)1)でも,DSM-5と同様に原発性と続発性の区別が薄れ,参考として心理行動学的・生理学的特徴に従った慢性不眠症のサブタイプ分類(表)を,第2版(ICSD-2)を踏襲し記載するにとどめており,いずれのサブタイプも精神生理性不眠を中核とした心理行動特性を共有する近親病態として理解することを推奨している。

不眠症の認知行動療法 渡辺 範雄
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はじめに

 わが国でも5人に1人が不眠と言われ,また不眠はのちのうつ病や不安障害などの精神疾患のみならず,高血圧・糖尿病などの身体疾患の危険因子となっている3,7)。そのため,不眠は精神科領域ではもちろん,身体疾患の予防・治療においても介入すべき重要な標的と認識されている。不眠に対する介入治療には,大別して薬物療法と非薬物療法がある。このうち薬物療法は,患者が内服することでアドヒアランスが保たれれば,治療の質が担保されたことになるため,今まで広く行われてきた。しかしベンゾジアゼピン系睡眠薬を中心とした薬物療法は,依存性・耐性などの薬物そのものの使用障害をもたらす危険があり,かつこれらの薬剤の長期使用は認知症のような重大な精神疾患との相関が観察研究の系統的レビューによって指摘されている8,14)。このような背景から,近年各国のガイドラインでは不眠治療として非薬物療法,特に認知行動療法をファーストラインとし,薬物療法は非薬物療法で効果がみられない場合に行うようにと推奨してきた。また最近は睡眠や不眠が重要な健康課題としてマスメディアで取り上げられる機会が増えており,認知行動療法をはじめとした非薬物療法への関心は高まっていると考えられる。不眠症の認知行動療法は,不眠症やうつ病・心的外傷後ストレス障害などの精神疾患に併存する不眠だけでなく,慢性疼痛,腎機能障害,乳がんなどの併存不眠への効果も検証されており13),今後リエゾン領域などでもますます適用拡大が予想される。

 しかし非薬物療法は,薬物療法と異なり質の担保が難しい。治療者側も十分なトレーニングが必要であるし,また現時点では治療者数も限られていて診療報酬などの経済的インセンティブもないため,患者が希望してもなかなか気軽に受療できるものではない。

 そこで本稿では,概説として,精神医学にかかわる医療者が知っておくべき認知行動療法,特に不眠に特化した認知行動療法に関する概要や効果について解説する。また最近,おそらく史上最大の精神療法無作為割り付け対照試験(randomized controlled trial:RCT)がウェブを利用した不眠の認知行動療法を用いて行われており,インターネットやコンピュータ・スマートフォンのアプリを利用した不眠の認知行動療法についても言及する。

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はじめに

 近年,ベンゾジアゼピン系ないし非ベンゾジアゼピン系化合物などのベンゾジアゼピン受容体作動薬について不眠症治療の観点から多剤大量療法が,疫学的観点から長期使用が,薬物依存の観点からは習慣性や乱用が問題として指摘されている13)。これに加えて日本においては,常用量依存ないし臨床用量依存(以下,「常用量依存」で統一)という用語が,精神医学を中心にしばしば使われている11,17)。それぞれの用語が取り扱う専門分野によって,基本的定義を離れて使われることがあり,臨床場面においてはしばしば概念の混乱が起こっている17)。DSM-52)において,新たに物質使用障害という診断名を導入して臨床における概念の明確化がなされた。

 本稿では,まず依存に関連する用語についてまとめ,DSM-5における物質使用障害に関する考え方を紹介し,いわゆる常用量依存の概念を含め,睡眠薬の問題使用について臨床的観点から考える。

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はじめに

 睡眠薬は是か非か,という問いに対して「是」の立場で意見を述べるにあたり,議論を散漫にしないためにも,睡眠衛生の指導などの非薬物療法を優先すべきである,といった自明の問題については論点から外すこととしたい。やむを得ず薬物療法を選択する前に,そのようなプロセスを経ることは当然の前提条件であり,その上でなお不眠が解消しない場合に用いる睡眠薬についての是非を論じるのが本稿の役割と考えるからである。

 さらに,論点をベンゾジアゼピン受容体作動薬(以下,BZ)の是非に絞ることもお許しいただきたい。不眠症治療に用いられる薬剤全般について述べようとすると,sedativeな抗うつ薬や抗精神病薬など,不眠症に対して用いた場合の安全性や有効性についての知見が乏しく,保険適用外使用になる薬剤についても検討しなければならないし,BZ以外の睡眠薬,すなわちメラトニン系やオレキシン系の薬剤については上市から日が浅く,長期予後も含めてBZと同列に論じられるほどの臨床経験が蓄積していないと考えるからである。そして何よりも,依存性をはじめとしてさまざまな批判を浴びつつも,BZはいまだに睡眠薬の主流であり,それを完全に凌駕するような新たな薬剤カテゴリーは存在しないという,多くの人が目を背けている事実がある。睡眠薬にまつわる社会的な関心や誤解の多くもBZに対するものであり,BZに絞って是の立場で意見を述べることにより,睡眠薬全般についての理解を深め,適切な睡眠薬治療が行われるための一助となるよう,議論を進めていきたい。

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はじめに

 睡眠障害の治療は,生物学・心理学・社会学的な側面から原因を究明することから始まる。①身体的,②生理的,③心理的,④精神医学的,⑤薬理的,の何れに重点があるのかを見極め,原因を除去して症状を緩和させる方法を選択する。不眠症においても,同様である。ベンゾジアゼピン受容体作動薬(benzodiazepine receptor agonist:BzRAs)に,メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬が加わり,不眠症状への多彩な薬物療法が可能になったという見解がある。その一方で強調されなければならないのは,すべての不眠症に対する治療的初期対応は,睡眠衛生教育という非薬物療法である。

 睡眠医療を専門とする臨床精神科医である筆者は,不眠症治療における非薬物療法,特に認知行動療法を推進する立場にあると自認している。本稿は,不眠症の治療における睡眠薬を非とするものではない。不眠症に対する睡眠薬治療を是とするために必要な精神医学的対応について,提案することを目的とする。

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はじめに

 不眠症は,寝付きたい時間帯に寝付けない(入眠困難),夜間の睡眠維持が困難(中途覚醒,早朝覚醒),翌朝ぐっすりと眠った感じがない(熟眠障害)といった症状が1か月以上続き,これにより日中の機能障害と苦痛をもたらすものである。わが国では欧米諸国と同様に,国民のおよそ5人に1人が何らかの不眠症に関連した愁訴を有し,人口の5%以上が睡眠薬を使用していることが,一般人口を対象とした疫学調査から明らかになっている5)。不眠症は有病率の高いcommon diseaseだが,夜間睡眠の量や質の問題だけではなく,社会生活にも悪影響を及ぼすので,その適切な対応は専門医のみならず実地医家にとっても重要な課題と言える。

 現在睡眠薬として主に用いられているのは,ベンゾジアゼピン(BZ)受容体作動薬である。加えて近年,メラトニン受容体作動薬であるラメルテオン,オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントが加わった。BZ受容体作動薬は,過量服用によって脳幹網様体や脳幹の生命維持機構を抑制し死に至らしめるバルビツール酸系睡眠薬と比較し,直接の死の原因になるリスクは低い17)。しかし,安全性が高い薬物という認識が先行した結果として,多剤併用や長期間使用が増加し,その副作用については軽視されているのが現状である。

 睡眠薬を使用するか否かは,使用による益(有効性)と害(副作用)を勘案して益が上回るという合理的な使用理由があること,十分な説明がなされ患者も同意していることが前提となる。これらの判断は,症例ごとに行われるべきで,益と害だけを取り上げて論ずることには無理がある。ただし本稿は,睡眠薬使用の是非を述べるという企画で,使用に反対するという立場であるから,睡眠薬使用により害(副作用)が益(有効性)を上回ってしまう可能性に着目し,睡眠薬の副作用リスクを中心に概説する。

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最初に原則論——「睡眠薬なんていらない」

 睡眠薬の処方を是とすべきか,それとも非とすべきか。

 先に結論を述べておきたい。

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抄録 精神健康に困難を有する人々から生まれた健康自己管理法に元気回復行動プラン(Wellness Recovery Action Plan:WRAP)がある。本研究ではWRAPの有効性を検討するためにWRAP参加前後のリカバリーを比較した。精神障害を有する人を主な対象とするリカバリー・カレッジの講座として実施されたWRAPクラスの参加者を対象に,リカバリーを評価するRecovery Assessment Scale(RAS),Self-Identified Stage of Recovery Part A,Part B(SISR-A,SISR-B),プログラム満足度を測るClient Satisfaction Questionnaire-8(CSQ-8)を用いてWRAP参加前後に自記式調査を実施し17名の回答を解析した。その結果,RASとSISR-BはWRAP参加後に有意に平均点が上昇し,効果量はそれぞれ0.26と0.26であった。SISR-AはWRAP参加前後で有意な違いはなかった。プログラム満足度は総じて高かった。リカバリー促進に対するWRAPへの参加の有効性が示唆された。

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抄録 症例はパニック障害の25歳,女性。初診時血清ヘモグロビン12.4g/dl,血清フェリチン11ng/mlと貧血のない鉄欠乏であった。鉄剤補充のみで,鉄欠乏とパニック症状が改善した。鉄欠乏と抑うつ気分との関連性について多数の報告があり,鉄剤補充による抑うつ気分の改善が示されているが,パニック症状に対する効果の報告は少ない。本症例では,パニック障害に対する鉄剤補充の有効性を示唆する結果となった。精神科の診療場面において,鉄欠乏は看過されることが多い。我々精神科医は,わが国の女性の約半数が,鉄不足による精神障害予備軍であるという現状を認識し,適切に鉄欠乏を評価することで,診断・治療につなげる必要がある。

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抄録 Quetiapineの投与により改善のみられた分娩恐怖の1例を経験した。症例は37歳時に妊娠し,妊娠9週で分娩に対する病的な恐怖と不安などが出現し,就労困難となった。当院初診時妊娠10週で,ただちに向精神薬による治療を開始した。当初は抑肝散やalprazolamを投与したが無効で,妊娠の継続や分娩に支障を来す可能性が高いと考えられた。そこで,患者に適応外であるが海外で限局性恐怖症に有効との報告例のあることを説明し同意を得てquetiapineを100mg/日投与したところ,著明な改善がみられ,無痛分娩で無事出産できた。本症例の経験から,分娩恐怖を含む限局性恐怖症に対してquetiapineが有効な症例が存在することが示唆される。

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抄録 本研究の目的は,パチンコ・パチスロの障害レベルに応じた症状の出現頻度を,項目反応理論により検討することである。ウェブ調査会社のパネルモニターから,首都圏在住で18歳以上,過去1年にパチンコ・パチスロ経験がある人を抽出し,パチンコ・パチスロ遊技障害尺度27項目への回答を求めた。得られた522名の回答を分析した結果,項目の多くは識別力と困難度のいずれも高いことが示された。各症状の出現頻度は,「行動」「動機」項目の多くが障害レベルの低いところで徐々に高くなっていたのに対し,「経済的問題」などの実質的な問題は障害レベルの高いところで急速に頻度が高まり,特に「自殺」は急増していたことが示された。

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 本書は,1965年にわが国で初めての精神科思春期外来を開設されて以来,児童・思春期精神医学のパイオニアとして学会を牽引してこられた著者による児童精神医学史である。その題名にわざわざ私説とつけてあるのは,本書が網羅的に歴史を書き綴ったものではなく,「子ども臨床」という造語が示すように,著者自身の児童精神医学観が裏打ちされているからであろう。

 本書は二部構成になっている。第一部「子どもの未来を考える」では,「子どものこれから,日本では」,「不登校の歴史」,「子どもと災害」という構成で著者自身の臨床医としての歩みを振り返りつつ,子ども観が年代によってどう変化してきたかを論じている。著者の学校精神保健における取り組みや,あすなろ学園での多職種連携医療など,他領域の関係者と「子どもを見守る大人同士」として協働的関係を作り上げる際の心構えなども述べられている。

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 日本の自殺者数は1998年から10数年間にわたり年間3万人を超えて高止まりしていたが,さまざまな取り組みが功を奏して2010年ころから減少に転じ,2017年には2万1千人ほどになっている。限りなくゼロに近づけるべき数値とはいえ,良い傾向である。ところがここには思わぬ落とし穴があった。全体数は顕著な減少を示しているにもかかわらず,青少年と若年層の自殺者数はまったく減っていないのである。それどころかむしろ増加傾向を示しているという。これまでの取り組みがこの世代には通用しないのである。

 2002年出版の「子どのうつ病—見逃されてきた重大な疾患」で,当時はそれとして認知されていなかった状態をうつ病として見る診方を提示して以来,子どものうつ病に関して発言を続けている著者が,この状況を看過できないのは想像に難くない。

論文公募のお知らせ

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「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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目次

次号予告

編集後記
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 精神科医は,診療に際しては,「夜はぐっすり眠れていますか」「朝は気持ちよく目覚めることができますか」といった不眠に関連する問いかけを,おおむねすべての患者に行っているのではないだろうか。それは,不眠が,ウェルビーイングや多様な精神障害に関連し,精神疾患や身体疾患のリスクファクターになり得ることを熟知しているからであり,不眠を指標とする精神科治療の知識と技術を精神科医自身が身に着けているからであろう。

 そのような精神科医の知識と技術を再整理する上で,本号の特集「不眠症の治療と睡眠薬」は打って付けである。はじめに,本特集の企画者である内山真先生が不眠症をめぐる今日のトピックスを要約し,清水徹男先生が「不眠症の概念と変遷」,村崎光邦先生が「睡眠薬開発の歴史」,三島和夫先生が「不眠症の治療ガイドライン」,降籏隆二先生が「不眠症と睡眠薬に関する疫学的事実」,井上雄一先生が「不眠症の自然経過」,長尾賢太朗先生が「不眠症の背景にある心理行動学的要因」,内山真先生が「睡眠薬依存および関連する症候群」をテーマに体系的な論述を展開している。その上で,「睡眠薬は是か非か」という今日的なテーマで,冨田真幸先生と山寺亘先生がProsの立場から,松井健太郎先生と松本俊彦先生がConsの立場から自由な私的見解を述べている。読み物としても十分に楽しむことができる。本特集は不眠症治療のthe state of the artを網羅するものであり,すべての精神科医に一読をお勧めしたい。

基本情報

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精神医学
60巻9号 (2018年9月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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