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はじめに
不眠症は,寝付きたい時間帯に寝付けない(入眠困難),夜間の睡眠維持が困難(中途覚醒,早朝覚醒),翌朝ぐっすりと眠った感じがない(熟眠障害)といった症状が1か月以上続き,これにより日中の機能障害と苦痛をもたらすものである。わが国では欧米諸国と同様に,国民のおよそ5人に1人が何らかの不眠症に関連した愁訴を有し,人口の5%以上が睡眠薬を使用していることが,一般人口を対象とした疫学調査から明らかになっている5)。不眠症は有病率の高いcommon diseaseだが,夜間睡眠の量や質の問題だけではなく,社会生活にも悪影響を及ぼすので,その適切な対応は専門医のみならず実地医家にとっても重要な課題と言える。
現在睡眠薬として主に用いられているのは,ベンゾジアゼピン(BZ)受容体作動薬である。加えて近年,メラトニン受容体作動薬であるラメルテオン,オレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサントが加わった。BZ受容体作動薬は,過量服用によって脳幹網様体や脳幹の生命維持機構を抑制し死に至らしめるバルビツール酸系睡眠薬と比較し,直接の死の原因になるリスクは低い17)。しかし,安全性が高い薬物という認識が先行した結果として,多剤併用や長期間使用が増加し,その副作用については軽視されているのが現状である。
睡眠薬を使用するか否かは,使用による益(有効性)と害(副作用)を勘案して益が上回るという合理的な使用理由があること,十分な説明がなされ患者も同意していることが前提となる。これらの判断は,症例ごとに行われるべきで,益と害だけを取り上げて論ずることには無理がある。ただし本稿は,睡眠薬使用の是非を述べるという企画で,使用に反対するという立場であるから,睡眠薬使用により害(副作用)が益(有効性)を上回ってしまう可能性に着目し,睡眠薬の副作用リスクを中心に概説する。
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