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はじめに
わが国でも5人に1人が不眠と言われ,また不眠はのちのうつ病や不安障害などの精神疾患のみならず,高血圧・糖尿病などの身体疾患の危険因子となっている3,7)。そのため,不眠は精神科領域ではもちろん,身体疾患の予防・治療においても介入すべき重要な標的と認識されている。不眠に対する介入治療には,大別して薬物療法と非薬物療法がある。このうち薬物療法は,患者が内服することでアドヒアランスが保たれれば,治療の質が担保されたことになるため,今まで広く行われてきた。しかしベンゾジアゼピン系睡眠薬を中心とした薬物療法は,依存性・耐性などの薬物そのものの使用障害をもたらす危険があり,かつこれらの薬剤の長期使用は認知症のような重大な精神疾患との相関が観察研究の系統的レビューによって指摘されている8,14)。このような背景から,近年各国のガイドラインでは不眠治療として非薬物療法,特に認知行動療法をファーストラインとし,薬物療法は非薬物療法で効果がみられない場合に行うようにと推奨してきた。また最近は睡眠や不眠が重要な健康課題としてマスメディアで取り上げられる機会が増えており,認知行動療法をはじめとした非薬物療法への関心は高まっていると考えられる。不眠症の認知行動療法は,不眠症やうつ病・心的外傷後ストレス障害などの精神疾患に併存する不眠だけでなく,慢性疼痛,腎機能障害,乳がんなどの併存不眠への効果も検証されており13),今後リエゾン領域などでもますます適用拡大が予想される。
しかし非薬物療法は,薬物療法と異なり質の担保が難しい。治療者側も十分なトレーニングが必要であるし,また現時点では治療者数も限られていて診療報酬などの経済的インセンティブもないため,患者が希望してもなかなか気軽に受療できるものではない。
そこで本稿では,概説として,精神医学にかかわる医療者が知っておくべき認知行動療法,特に不眠に特化した認知行動療法に関する概要や効果について解説する。また最近,おそらく史上最大の精神療法無作為割り付け対照試験(randomized controlled trial:RCT)がウェブを利用した不眠の認知行動療法を用いて行われており,インターネットやコンピュータ・スマートフォンのアプリを利用した不眠の認知行動療法についても言及する。
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