精神医学 60巻7号 (2018年7月)

特集 双極Ⅱ型をめぐる諸問題

特集にあたって 井上 猛
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 近年,精神科の診療所,クリニックが多くなったことにより精神科受診は心理的にも物理的にも容易になり,精神科受診患者数は増えている。このような背景と関連して,軽症のうつ病の精神科受診が多くみられるようになってきた。重症例の診断は比較的容易だが,軽症例の場合,ストレス性の適応障害なのか,うつ病なのか,双極性障害なのかの診断は難しいことがある。そのうち,特にうつ病と双極Ⅱ型障害の鑑別診断は判断に悩むことが多い。そもそも,双極性障害はうつ病相で発症することが多く,発症から確定診断までには数年から十数年を要することが多い。このような傾向は双極Ⅰ型よりも双極Ⅱ型で強くみられる。一方,軽躁病エピソードを確実に診断せずに,診断基準を満たさない一過性の気分高揚,いらいらを軽躁病相としてみなすと,双極Ⅱ型障害の過剰診断になる。軽躁病エピソードがDSMで取り上げられ,双極Ⅱ型障害という診断名が公式になったのは1994年のDSM-Ⅳからであるが,双極Ⅱ型障害の診断的意義と診断的安定性はまだ十分に明らかになったとはいえない。さらに,双極Ⅱ型障害の治療方針は双極Ⅰ型障害に比べてエビデンスが乏しい。

 このように,すでに確立された臨床概念と思われがちな双極Ⅱ型障害の診断と治療はまだ十分に分かっていないことが多い。以上のような問題意識から,本特集では双極性障害の中でも,診断が難しく,病態の解明が必要な双極Ⅱ型障害に焦点を当てて,精神病理,診断,治療,併存症の観点から国内のオピニオンリーダーの先生方に最新の知見を論じていただいた。それぞれの論文はとても読みごたえがあり,あらためて双極Ⅱ型障害の重要性とともに臨床的問題点を認識させてくれる。今後,確立されたものとしてではなく,これから確立していかなくてはならない臨床概念として双極Ⅱ型障害を認識し,臨床の中で我々自身が検討していく必要がある。

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はじめに

 双極Ⅱ型障害の診断概念がわが国の精神科臨床に広く導入されたのは1994年のことであり,比較的最近のことである。1994年に米国精神医学会の診断基準であるDSMがⅢ-RからⅣに改訂されたときに軽躁病エピソードの診断基準が導入された。それに伴い大うつ病エピソードに加えて軽躁病エピソードが出現する気分障害を双極Ⅱ型障害と呼ぶようになった。気分障害の診断概念は1980年代から大きく変化し,1990年代に双極Ⅱ型障害が出現し,その後診断基準ではないが双極スペクトラム概念が提唱されるようになった。このような気分障害の診断概念の変遷において双極Ⅱ型障害の診断概念が果たした役割は大きく,診断のみならず治療にも大きな影響を与えてきた。気分障害の診断概念の変遷を知らない精神科医も増えてきたと思うので,本稿ではまず双極Ⅱ型障害の診断概念の歴史的意義を解説し,その疫学データについて紹介したい。気分障害の診断概念は今後も変化する可能性があり,今の診断概念がどのような流れの中で位置付けられるのかを知ることは知識と治療の考え方を整理する上で重要であると思われる。

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はじめに

 かつてマニー(mania)は狂気の代表的な名称であった。それは古代ギリシアから綿々と受け継がれ,19世紀初頭のPinelの疾病分類においても主要な位置を占めていた。メランコリーがPinelによって部分狂気とされ,Esquirolが名称自体を解体した後も,マニーは依然として狂気の表象としてとどまり続けた。今なお,マニーという言葉はアルカイックな古層を呼び覚ます。それに対して,本稿のテーマであるヒポマニー(hypomania)は,いかにも現代的な様態である。

 近年の気分障害は,非内因性事例が急激に増加する一方で,中核にある内因性事例においてはソフトな双極性障害,「双極スペクトラム」がクローズ・アップされてきた。双極Ⅱ型障害はその代表的なものであり,1970年代に北米においてDunnerら5)によって提唱されて以来,Akiskalらの精力的な臨床研究および啓発活動によって,臨床診断として一定の地歩を確立した。しかし未だに見逃される事例が後を絶たない。その多くが,うつ病やパーソナリティ障害などと誤診され,回復に難渋する。他方,些細な事象の過大視による過剰診断も少なからず目につく。いずれの場合も,足が速く変幻自在なヒポマニーの精神病理を捉え損なっているのである。

 内因性の気分障害は,20世紀の中葉にその見取り図を大きく変貌させた。Kraepelin由来の一元論から,単極性/双極性の二元論へと転回したのである。この一種のパラダイム・シフトは,結果的に,気分障害の概念を単純化した。とりわけ「双極性」について,安易なイメージを作り上げてしまったのである。おそらく多くの臨床家が,その影響下にある。

 その一つが「周期性」である。つまりは病相がサイクロイドのような弧を描き,一定期間のうちに収束するという経過モデルである。双極Ⅱ型の多くは,そのような緩やかなものではない。また,ともすればエピソードとして限局されることなく拡散し,普段の生き方に浸透してくることさえある。

 今一つは「極性」というイメージである。つまりは「躁」と「うつ」がシンメトリーをなし,一つの軸の両端にあって,精神症状はその間を上下に振幅するというものである。そして経過はサインカーブで表象される。

 しかしソフトな双極性障害の臨床像は,「躁」と「うつ」の関係が,自然界における極性の現象と異なることを示している。たとえば電気や磁性のように両極が相殺されることもなく,あるいは寒暖や明暗のように一元的な尺度で定量可能なものではない32)。ヒポマニーは神出鬼没に割り込んでくる。それは「うつ」を中和しないし,「うつ」によって中和されることもない。混合するのである。

 ヒポマニーの精神病理を読み解くにあたって,一つのキーワードとなるのは「スペクトラム」という概念である。それはヒポマニーを従来のナイーブな病型や状態像のイメージから解放する。さらにsubclinicalな事象をはじめとする,さまざまな局面への着目を促すだろう。

 気分障害をめぐるスペクトラムは単一のものではない。筆者のみるところ,少なくとも4つの軸がある。本稿では,それぞれのスペクトラムを順次取り上げながら,ヒポマニーの精神病理について論じていこうと思う。

双極Ⅱ型障害の気質特性 武島 稔
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はじめに

 日本の精神医学は,ドイツ精神病理学の伝統を引き継いで発展してきた。精神疾患の背景にある気質・性格を重視する姿勢もその一つだろう。気分障害の分野では,メランコリー親和型気質と執着気質がよく知られている3)。メランコリー親和型気質は,「几帳面さ」「規範を守る」「辛抱強い」「因習的」など社会規範や行動上の特徴を重視した類型で,単極性うつ病の病前気質としてTellenbachが記述した3)。執着気質は,メランコリー親和型気質に類似するが,「熱中性」「こり性」「執着性」「徹底性」といった精力性の要素を含んだ類型であり,双極性障害を含む気分障害の病前気質として下田が提唱した3)。また,Kraepelinは,抑うつ,循環,発揚,刺激性(焦燥)気質という4つの「基礎諸状態」を,「躁うつ病(気分障害)の発作の出ないときにも存続する病的な持続状態」として記載し,これらは「躁うつ病の症状のかすかな現れ」であり,「特別の条件下では病気として出来上がって,病的過程の出発点となる」と述べている7)

 一方,気分障害臨床における大きなテーマのひとつは,双極性障害の早期診断と適正治療である。双極性障害は90年代までは比較的稀な疾患であると考えられていた19)。しかし,近年,双極性障害は,抑うつエピソードの5割弱を占め,生涯有病率が4.5〜13.7%に上ることが明らかになってきた19)。これは大うつ病性障害(うつ病)とほぼ同じ頻度である。双極性障害とうつ病では治療上の大きな違いがある。双極性障害の抑うつエピソードに対する抗うつ薬単独療法は,その有効性に関して議論があり,かつ,躁・軽躁病エピソードへのスイッチや急速交代,混合状態などの精神科有害事象を誘発する可能性が指摘されている13)。ゆえに両者を早期に鑑別することは重要である。躁病エピソードは著明な機能障害をもたらし,周囲の人にも大きな苦痛をもたらすので,双極Ⅰ型障害の診断は比較的容易である。しかし,双極Ⅱ型障害の診断は難しい。双極Ⅱ型障害の患者は,ほぼ例外なくうつ状態の治療を求めて受診するが,診断の必須項目である軽躁病エピソードは,患者・家族にとっては病的ではない喜ばしい時期であると認識されていることが多く,かつ,その持続期間は抑うつエピソードに比較して非常に短いので,過去にさかのぼって同定することが困難だからである19)

 米国のAkiskalらは,Kraepelinの基礎諸状態を基にしたaffective temperament(感情気質)という概念を1980年代から提唱している2)。2000年代以降,自己記入式評価法であるTemperamental Evaluation of Memphis, Pisa, Paris and San Diego Autoquestionnaire(TEMPS-A)1)が登場し,定量的評価が可能になって以来,感情気質と気分障害,自殺関連行動,非臨床サンプルにおける閾値未満の精神症状などとの関連が盛んに研究されるようになってきた。本稿では,感情気質概念の詳細,感情気質と気分障害との関連,そして筆者らが取り組んできた,感情気質の評価をうつ病と双極性障害の鑑別診断や気分障害の治療方針決定に応用する可能性について順次紹介していきたい。

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はじめに

 双極Ⅱ型障害という病名が臨床で用いられるのは,1994年発刊のDSM-Ⅳ6)で正式に取り上げられて以降である。この病態は,一昔前であれば単極うつ病と診断されていたし,ICD-1033)では採用されていない。したがって,同障害とパーソナリティ障害との合併が話題になるのも,1990年代後半以降である。現在では,DSM-57)の診断基準が採用されることが多いと思われるが,軽躁病エピソードの評価は案外難しく,過小診断の一方で過剰診断の恐れも指摘されている。また単極うつ病との境界も不明確であり,長期経過を見ると,うつ病から双極Ⅱ型障害に,あるいは双極Ⅱ型障害からⅠ型障害に診断が変更されるケースも稀ではない。したがって,臨床特徴も単極うつ病と双極Ⅰ型障害の中間的な所見になることが多い。

 双極Ⅰ型障害,すなわちかつての躁うつ病の病前性格に関しては,対照群と変わらない35)とされていたが,DSMなどの操作的診断でcomorbidityという観点が導入されて以来,双極性障害とパーソナリティ障害の合併が報告されるようになった。双極Ⅰ型障害では22〜62%11)にパーソナリティ障害が合併するとされているが,双極Ⅱ型障害に関しては報告が少なく,筆者が調べた限りでは,Vietaら31)の研究くらいである。それによると,双極Ⅱ型障害の32.5%にDSM-Ⅲ-Rのパーソナリティ障害を合併していたという。内訳としては,境界性パーソナリティ障害(borderline personality disorders:BPD)が12.5%で最も多く,強迫性パーソナリティ障害3.75%,演技性パーソナリティ障害3.75%,自己愛性パーソナリティ障害2.5%,シゾイドパーソナリティ障害1.25%の順だった。パーソナリティ障害合併群で感情障害の発症年齢が若く,自殺念慮も高率だった以外は,パーソナリティ障害の合併の有無で社会人口学的なデータに差はなく,他の臨床的な変数,すなわち,軽躁ないしうつ病相の数,精神病的な特徴,急速交代,季節性,精神疾患の家族歴にも有意な差はなかったという。また,双極Ⅱ型障害におけるBPDの合併に関しては,Benazzi8)も12%という数字を挙げている。

 パーソナリティ障害ではなく,気質やパーソナリティという観点から,Perugiら26)は気分循環気質(cyclothymic temperament)が双極Ⅱ型障害の中核的な要素かもしれないと報告している。また,単極うつ病の患者に比べて,双極Ⅱ型障害の患者では,外向性が高く,神経質が低く,易刺激性が高いとする研究がある一方で,依存性,強迫性,演技性の特徴が多く,報酬依存的,受動回避/依存的という単極うつ病の患者と似たパーソナリティが認められるという研究もある9)。この矛盾した所見は,前者では双極Ⅰ型障害寄りの,後者は単極うつ病寄りの双極Ⅱ型障害が対象になっていたことを示唆するのかもしれない。結局,これまでの諸研究からは,双極Ⅱ型障害では他のパーソナリティ障害に比べて,BPDが多いというのが,唯一の最も一貫した所見である。逆に,BPDと診断された患者を調べると,約66%が感情障害の診断を合併していて,双極Ⅱ型障害が特に多い20)。そこで,以下では双極Ⅱ型障害とBPDとの関係を中心に論じてみたい。

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はじめに

 発達障害(神経発達症群)は,発達期に出現,すなわち,発達早期,多くは学童期以前に出現し,通常の発達と異なることで特徴付けられ,そのために日常生活上の困難を来す状態を言い,知的能力障害,コミュニケーション症,自閉スペクトラム症(autism spectrum disorders:ASD),注意欠如・多動症(attention-deficit/hyperactivity disorders:ADHD),特異的言語症,チック症を含む運動症などが含まれる。発達障害のなかで有病率が高く,臨床的関与の対象となりやすいのはASDとADHDであるが,両者は併存しやすいだけでなく,抑うつ障害や双極性障害,不安症などとも合併しやすい点でも共通している。また,ASDにおける易刺激性,ADHDにおける反抗挑発症や素行症などの外在化障害の理解には,気分障害の併存という視点を欠かすことはできない。また,severe mood dysregulation(SMD)あるいは重篤気分調節症(disruptive mood dysregulation disorder:DMDD)と診断される気分障害の一群は,近年,発達障害との関連において,その理解の枠組みが与えられつつある。双極Ⅱ型障害に限定したエビデンスは不十分であるが,気分障害と発達障害の関連をめぐる臨床問題は,このような抑うつ症状を主とする気分変動に帰着し,その意味では,最も本質的な問題と考えてよかろう。本稿では,ASDとADHDに限定し,気分障害との併存をめぐるトピックについて,双方の視点から検討を加えることとしたい。

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はじめに

 双極Ⅱ型障害は,DSM-Ⅳ3)により診断基準が示され,双極Ⅰ型障害との主な臨床症状的相違点は軽躁病エピソードと躁病エピソードの出現とされている。臨床遺伝学的研究からは,双極Ⅱ型障害患者は双極Ⅱ型障害の遺伝負因が双極Ⅰ型障害のそれよりも高いことが指摘されている9)。また,病相は軽躁病エピソードにとどまるものの慢性の経過をたどり,病相回数は多く12),さらに,対人関係や社会生活上の困難は多く1),他の精神疾患の併存も多く14),自殺の危険が高いことも指摘されている17)。双極Ⅰ型障害への移行は5年で5%程度11),10年で7.5%程度7)と報告されており,比較的診断の安定度は高いとされる。

 併存精神疾患の中でも不安症の併存率が高いことが指摘されており16),双極Ⅱ型障害患者について不安症の併存の有無による神経認知機能の違い19)や生物学的背景の違い18),QOLなど2)が検討されてきている。

 双極Ⅱ型障害の治療については,双極Ⅰ型障害を参考に行われると考えられるが,どの気分安定薬や非定型抗精神病薬を使用するか,不安症を併存している場合にセロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)などの抗うつ薬を使用するかなど現時点では試行錯誤になると考えられる。

 今回,双極Ⅱ型障害と不安症の併存について,その疫学や併存の有無による相違,現在考え得る治療的対応などについて概観してみたい。

高齢者の双極Ⅱ型障害 馬場 元
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はじめに

 急速に進むわが国の高齢化を背景に,高齢者の双極性障害患者数も年々増加しており,日常臨床でも双極性障害の高齢患者に遭遇する機会は増えている。高齢者の双極性障害には以前から双極性障害と診断され,高齢に至ったもの(若年発症),以前はうつ病と診断されていたが,高齢になって躁病エピソードが出現し,診断が変更となったもの(コンバーター),高齢になってはじめて双極性障害を発症したもの(高齢発症)がある5)。高齢者の双極性障害はより若い世代の双極性障害と比べて双極Ⅱ型障害の割合が多くなることが報告されているが16),高齢患者ではうつ病相への傾性が強くなることから,若年発症で双極Ⅰ型障害の診断がなされていた患者でも高齢になると躁病エピソードは少なくなり,軽躁とうつ病エピソードが主体の双極Ⅱ型の経過となることが多い16)。むしろ高齢になって発生した躁病エピソードは他の要因に影響された二次性の躁状態(secondary mania)である可能性が示唆される。そして二次性躁病の原因,または臨床上躁状態とみられる病像の背景として認知症の存在を念頭に置く必要がある。

 今回は双極Ⅱ型障害がテーマであるが,高齢者の双極性障害を対象とした調査・研究において,双極性障害をⅠ型とⅡ型に分けてアウトカムを出すことはほとんどないため,患者の実態や治療における高齢者の双極Ⅱ型障害に限定したエビデンスは国内外ともにきわめて乏しい。しかし上記の通り,高齢者の双極性障害においては双極Ⅱ型の病態が多いため,今回紹介する先行研究における高齢者の双極性障害は,その多く(少なくとも半数)が双極Ⅱ型であると考えて大きく外れないであろう。ここでは高齢者の双極性障害について,より若い世代の患者との臨床的違いと認知症との関連性について解説する。

双極Ⅱ型障害の薬物療法 山田 和男
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はじめに

 「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版」(DSM-5)13)によれば,双極Ⅱ型障害は,1回以上の抑うつエピソードと,少なくとも1回の軽躁病エピソードからなる再発性の気分エピソードという臨床経過をとることで特徴付けられる精神疾患である。双極Ⅱ型障害の患者を平均13.4年間にわたり追跡調査した報告によれば,抑うつ症状を呈していた期間が50.3%,軽躁症状を呈していた期間が1.3%,急速交代/混合症状を呈していた期間が2.3%であり,寛解期は46.1%にすぎなかった8)。すなわち,双極Ⅱ型障害の患者では,寛解期にある期間よりも,何らかの気分エピソード(そのほとんどが抑うつエピソード)の症状が出現している期間のほうが長いと言える。同様に,双極Ⅰ型障害の患者を平均12.8年間にわたり追跡調査した報告7)の結果は,抑うつ症状を呈していた期間が31.9%,躁/軽躁症状を呈していた期間が8.0%,急速交代/混合症状を呈していた期間が5.9%であり,寛解期は52.7%であったことから,双極Ⅱ型障害の患者では,双極Ⅰ型障害の患者よりも寛解期が短い(すなわち気分エピソードを呈している期間が長い)ことが分かる。

 しかし,結論を先に記してしまえば,双極Ⅱ型障害の治療法は,双極Ⅰ型障害のそれと比較して,エビデンス・レベルの高いものが少なく,確立されているとは言いがたい。国内外の治療ガイドラインを繙いてみても,双極Ⅱ型障害に関する記載はきわめて乏しいと言わざるを得ない。

 本稿では,双極Ⅱ型障害の治療薬に関するエビデンスや治療ガイドラインにおける記載について概説するとともに,現時点における双極Ⅱ型障害の薬物療法について考えていきたい。

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はじめに

 わが国の気分障害臨床において,リワークプログラム(以下,リワーク)が導入され,都市部を中心に広まりをみせてから10年余になる。気分障害に対する包括的なリハビリテーションの導入は当時きわめて画期的なことであったが,今や日常臨床に定着し,近年では休職者のみならず再就労や就労支援など,社会復帰を目指すすべての患者に援用できるプログラムとして拡がりをみせ,医療のみならず職域や福祉の現場でも行われるようになって成果を上げつつある。また,当初は休職者の復職支援に留まっていたその内容も,再発予防や症状管理のための認知行動療法や心理教育のみならず,認知リハビリテーション,職業スキル訓練的なものまでかなり多様化してきているものと思われる。

 そのような中で,復職困難事例に対する対応は大きな課題となっており,双極性障害や発達障害などといった「個別の疾病性」もその要因として取り沙汰されている1)。中でも双極性障害は復職を妨げる重要な疾病要因の一つであり,その労働喪失日数は単極性に比べてかなり高いとの指摘が成されている23)。本特集のテーマである双極Ⅱ型障害は,本人も自覚的ではない微妙な軽躁病相の存在が長時間の他覚的観察によって初めて明らかとなる場合も多く,リワークの枠組みの中などであらためて診断確定されることも多いと言えよう。五十嵐によれば,リワークにおける双極性障害の占める割合は28.4%と最も多かったと報告されている8)。しかしながら,単極性うつ病を想定してプログラムを発展させてきたリワークにおいて,双極性障害に最適化されたプログラムは未だ確立されておらず,臨床的な問題の大きさに比して,利用できる資料やエビデンスはきわめて限られているのが実情である。また,実際のリワークの現場では,単極性や双極性,発達の問題に至るまで幅広い疾病性,個別性のものを一緒に診ていく必要があり,疾患別のメニューを用意することは現実的ではないという問題も考えられる。

 本稿では,まず双極性障害に対するエビデンスが示された精神療法から,本疾患に対する介入の共通因子を抽出し,単極性との相違を考慮しつつ,双極性障害に対するリワークまたは認知行動療法(CBT)を用いた包括的な心理社会的介入の工夫について考察する。なお,上述のごとく双極Ⅱ型障害に限定して論考するには現時点で資料がきわめて限られており,本稿ではⅠ型を含めた双極性障害一般として論を進めたい。

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抄録 本研究の目的は,ピアスタッフの雇用が他のスタッフの支援態度および職場環境とどのような関連を持つか検討することであった。地域活動支援センターと就労継続支援B型の支援者118名を対象に調査を行い,ストレングス志向の支援態度,バーンアウト,インクルージョンを目的変数,ピアスタッフの雇用を説明変数とし,事業所ごとの傾きを考慮したマルチレベル分析を行った。また,分析の際には,スタッフの年齢および性別,事業所の規模と種別を統制した。分析の結果,ピアスタッフの雇用はスタッフの仕事における達成感や効力感と有意な正の関連を示した。その一方で,スタッフの組織へのインクルージョンと有意な負の関連が示された。

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抄録 2015年から義務化され運用されているストレスチェックでは,標準的な問診票では「仕事のストレス要因」「周囲のサポート」「心身のストレス反応」を測定し,これに基づいて産業医面談の対象となる「高ストレス者」を抽出している。一方で,ヒトの心身に影響を与えるのは職業上の要因だけでなく,特に睡眠は,さまざまな経路を介して心身の健康に影響を与えることが知られており,業務以外のストレス要因として重要である。本研究で,睡眠とストレスチェックの各指標の関連を分析したところ,睡眠は心身のストレス反応に対して強い影響を与えており,仕事のストレスと同等かそれ以上である可能性も示唆された。

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抄録 てんかんに伴う記憶障害の病態については不明な点が多いが,強直間代発作重積後に長期の記憶障害を呈した側頭葉てんかんの1例を報告し,その発症機序を考察する。症例は33歳,女性。8歳が初発の海馬硬化症を伴う内側側頭葉てんかんである。発作型は,恍惚感や未視感などを前兆とする複雑部分発作であり,時に二次性全般化強直間代発作に進展した。入院中に強直間代発作重積を呈し,その直後から5年に遡る遠隔記憶障害と記銘障害を認め,回復までに1か月以上を要した。この間の頭部MRIで両側海馬の異常信号と血流亢進がみられたが,記憶障害の改善と時系列上一致して改善を示したことから,てんかん性記憶障害への海馬機能不全の関与が示唆された。

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 発達障害者支援法が2004年に制定された。当時,発達障害の子どもを持つ親が相談に行ける場所は少なく,また,保育園・幼稚園,小学校,中学校と環境が変わるたびに障害を説明し理解と協力を求めるといった状況であった。早期の,そして切れ目ない支援を確立すべくこの法律が制定され,その効果もあって,児童の発達障害に関する認識は急速に広がり,早期発見,早期支援の取り組みも格段に進んだ。

 一方で,こうした早期支援の網の目にかからずに大人になった人への対応は,いまだ研究や支援が大きく遅れている。支援が遅れたために社会適応がうまくいかないいわゆる「対応困難例」などについて取り扱う専門書は少なく,その一方で,マスメディアなどが発達障害者のかかわった犯罪をセンセーショナルに報じるなど,間違った印象が一般の人々に伝えられている状況も看過できない。

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 パーソナリティ障害診断のゴールデンスタンダードの日本語版が上梓された。前身である『SCID-Ⅱ(DSM-ⅣⅡ軸人格障害のための構造化面接)』と同じ訳者の手による。本書にはDSM-5に準拠した「ユーザーズガイド」「評価者質問票(SCID-5-PD)」「患者自己記入シート(SCID-5-SPQ)」が収載され,大変実用的で活用しやすい構成となっている。

 パーソナリティ障害の臨床的インパクトは大きい。これを適切に把握することの重要性は,臨床家であれば誰もが実感する。しかし評価,診断は必ずしも容易ではない。さらに根本的な課題としてパーソナリティ障害の概念化をめぐる歴史的な議論の存在は周知のとおりである。DSM-5では,DSM-Ⅳ-TRのパーソナリティ障害の診断基準がそのまま踏襲されると同時に,「パーソナリティ障害の代替DSM-5モデル」が特例的に付記され,さらなる研究が求められている。これまでのカテゴリカルモデルからディメンショナルモデルへの,産みの苦しみがそこにある。両者のハイブリッドといわれる代替モデルは,特定のパーソナリティ障害の診断名に,パーソナリティの機能や特性に関する情報を特定用語を用いて併記することによって,パーソナリティの病理の系統的評価を可能にすることを試みている。米国立精神衛生研究所(NIMH)のResearch Domain Criteria(RDoC)とも連動しながら,この新モデルはさらに洗練されていく方向にあるだろう。

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 日本は超高齢社会を迎えようとしており,医療の現場ではすでにその波が押し寄せ,高齢患者が急増しています。医療の現場では平均在院日数が短縮する中,時間に追われながら入院患者の対応をしているのが現状です。そのような状況で本書の『あなたの患者さん,認知症かもしれません』というタイトルは,とても気になりました。

 一般病院に入院中の2〜6割の患者に認知症が疑われます(本書p.9より)。患者の入院生活を通じて「なにか変?」という違和感を抱きながらも高齢者だから……と認知症を見過ごすことも多くあると思います。

論文公募のお知らせ

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「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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目次

次号予告

編集後記
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 双極Ⅱ型障害は,抑うつの症状あるいは抑うつと軽躁の頻繁な交代の予測不能性が,臨床的に意味のある苦痛や機能の障害を引き起こすことが,診断の要件とされている(DSM-5)。

 抑うつや軽躁は,誰もが経験し得る気分の変動である。そこには,どうしても自分の意のままにならない面と,自分でコントロールできる面とがある。人の気分の変動は,そのもともとの振れ幅という無意識的な過程と,それを安定化させようとする意識的な過程の,バランスにより形作られている。

基本情報

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精神医学
60巻7号 (2018年7月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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