呼吸と循環 42巻9号 (1994年9月)

特集 NO(一酸化窒素)

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はじめに

 Nathan(1992)1)の言葉を借りれば,空ではスペースシャトルやジェット旅容機や稲妻が,地中では微生物が活性窒素酸化物を作るが,天地の間に暮らすわれわれ生物学者はこれに肺疾患を起こす公害物質か食肉の保存剤以上の関心をもってはいなかった.ところが1978年から1988年にかけて全く独立した4つの分野の研究が収斂した結果,ユニークで強力な生理活性物質としてのNOが発見されたのである.1981年から1986年にかけて,ほ乳類でのNOの生合成に関する論文はたった10編であったが,1987年以後指数関数的に増加し,現在までに恐らく1,000を越える報告がある.1992年にはScience誌のMolecular of the Yearに選ばれるなど,科学者の強い関心を集めている.NOが末梢神経の伝達物質であり,ペニスの勃起に関係することが明らかにされたことは一般受けするニュースであり,マスコミにも大きく取り上げられたことは記憶に新しい.NOxによる環境汚染が人類の生存を脅かす一方,われわれがこの世に生まれたのはNOのおかげであるのは皮肉と言えよう.

 分子のレベルで考えると,NOという化学種が生体内において重要なメッセンジャーとして働き得るという事実は少なからず驚きに値する.なぜならNOは以下に示すように多くの化学種の中でも極めて特殊な化学的性質を有する分子だからである.

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はじめに

 一酸化窒素(Nitric oxide)は,大気汚染物質であるNOx(ノックス)の一つの低分子量のガス状ラディカルであり,生体内ガス状情報伝達物質として近年生命科学の領域で話題となっている物質である.特に呼吸器病学・集中治療学・小児科学の分野では,NOの血管拡張作用を利用して,NOをガスとして吸入させ選択的な肺血管拡張作用を図る「NO吸入療法」(Inhaled Nitric Oxide)が臨床に導入され,肺高血圧症の特効的治療法として大きな注目を集めている.

 本稿ではNOの血管作用のうち,このNO吸入療法に焦点を当て,その原理,実際,適応,および問題点について自験例を交えながら概説したい.

NOの気道作用 玉置 淳
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はじめに

 一酸化窒素(nitric oxide,NO)は低分子量のガス状ラジカルであり,大気汚染物質として知られる窒素酸化物の1つである.1987年Palmerら1)とIgnarroら2)の2つのグループが血管内皮細胞由来の平滑筋弛緩因子(EDRF)の本体がNOであることをほぼ同時に発見したことが契機となり,この物質が生命科学の領域において多大な注目を集めるに至った.NOは生理的条件下では0.1〜5秒の半減期で分解されてしまう不安定な気体であるが,通常の生理活性物質に対する反応でみられるレセプターとの結合やエクソサイトーシスとは異なり,細胞膜や組織中を自由に拡散することにより応答性の速い情報伝達を可能にしている.

 生体内NOの生理学的および病態生理学的役割については,特に心血管系における循環調節や神経系でのシナプス可塑性,細胞死の成立などにおける作用が知られており,また免疫系ではエフェクター分子としての機能のほか発癌メカニズムへの関与も指摘されている.さらに本物質は呼吸器系においても種々の細胞から産生放出され,喘息をはじめ肺高血圧やARDSなどの病態発現に影響を及ぼしている可能性が想定されている.

吸入NOとARDS 山田 芳嗣
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はじめに

 1980年にFurchgottらは,アセチルコリンの血管拡張作用に血管内皮の存在が不可欠であり,その作用発現に不安定な体液性因子が関与していることを明らかにし,これをendothelium-der-ived relaxing factor(EDRF)と命名した1).1980年代後半には,EDRFはnitric oxide(NO)とほぼ同一視されるようになり,血管拡張調節因子としてのNOに関する知見が集積された.同時に,NOの生体内における合成経路の解明も進み,血管内皮細胞ばかりでなく,神経細胞やマクロファージなどにもNO合成酵素が存在し,NOは多彩な生理作用を持つことが明らかになった2).このようなNOに関する基礎研究の進展は,NOを治療薬として検討するという新たな展開を生み出し,特にNOの吸入による投与が肺高血圧を伴う種々の病態に対する選択的肺血管拡張薬として期待されている.本稿では,その応用の一つとしてARDSにおけるNO吸入療法を取り上げる3)

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はじめに

 内皮由来血管拡張物質(endothelium-derived relaxing factor:EDRF)である一酸化窒素(NO)の吸入はその肺血管拡張作用により肺動脈圧の低下や動脈血酸素分圧の上昇をもたらすことが知られ1),原発性肺高血圧症,成人呼吸促迫症候群(ARDS)や新生児持続性肺高血圧症に対する治療手段として臨床応用が試みられている1〜3).また,最近は鼻腔内で高濃度のNOが産生され,このNOの自己吸入が換気血流比の調節に関与している可能性も報告されている4)

 一方,NOは非常に不安定なガスであり,空気中の酸素と速やかに反応し毒性の高いNO2が発生する.NOとNO2は一定の条件下で肺障害を起こすことも知られており,NOの投与には十分な注意が必要である.

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 機械弁機能不全の早期発見を目的に,人工弁音の周波数解析の導入がすでに報告されている1〜8).しかし,いずれもその使用機材が異なるためそれらの方法も異なり,したがってその結果に対する解釈も統一されておらず,どの方法も人工弁機能検査法として普及するに至っていない.そこで本研究では人工弁音専用の増幅器のみを自作とし,市販のパソコンとそのアプリケーションによる人工弁音解析システムを開発し,外来検診時心電図検査室でも実施できることを確認できたので,人工弁機能検査法としてその臨床的有用性について検討した.

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 解離性大動脈瘤93例を血栓閉塞型22例と偽腔開存型71例の2群に分け,手術の有無,急性期死亡,遠隔期死亡について比較検討した.心タンポナーデ,腸管麻痺,敗血症,DIC,大動脈弁閉鎖不全,脳梗塞などの合併症が偽腔開存型に多くみられた.偽腔開存型の急性期死亡率は71例中25例の35%で,血栓閉塞型では0%であった.退院後の慢性期死亡原因は血栓閉塞型,偽腔開存型ともに瘤破裂と思われる突然死が最も多く,それぞれ22例中3例の14%,46例中8例の17%であった.生存退院後の血栓閉塞型,偽腔開存型のそれぞれの5年生存率は80%と81%で両群間に有意差はみられなかった.これまで,血栓閉塞型の予後は偽腔開存型と比較して急性期,慢性期ともに良好と考えられてきたが,慢性期予後は両群間に差がなかった.血栓閉塞型と思われた症例でも,小さな解離腔が残存していたか,あるいは新たに解離が生じ,それらが拡大した可能性があると考えられた.

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 WPW症候群における房室回帰性頻拍(AVRT)の停止にverapamilが使用されることは多いが,薬剤投与前に停止効果の予測が可能か検討した.頻拍中Verapamil 10 mgを投与しAVRTが停止したのは35例(E群),停止しなかったのは8例(N群)であった.男女比は,E群23:12,N群8:0で,女性では全例で停止効果が認められた.平均年齢はE群43歳,N群29歳で,N群に若年者が多かったが有意差はみられなかった.電気生理学的因子では,洞調律時のAH時間はE群92ms,N群82ms,房結節の有効不応期(ERP)はE群254ms,N群224ms,心室筋のERPはE群237ms,N群226ms,副伝導路の逆行性ERPはE群264ms,N群240ms,AVRTの心周期はE群348ms,N群330msであった(いずれもNS).顕性,間欠性,潜在性例の比率はE群は12:7:14,N群は0:0:8で,顕性例では全例停止が可能であった(p<0.05).VerapamilのAVRT停止効果の予測は,電気生理学的因子に有意な指標はないが,顕性WPW症候群,女性例,非若年者では高率に期待できる.

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 本態性高血圧(EH)において運動負荷時の血圧反応性によって血圧日内変動性を予測することを目的とした.対象はEH 53名で,多段階運動負荷試験(MST)および24時間血圧測定を実施し,MST時の時間(分)と収縮期血圧(SBP)による回帰直線の傾き(SL-SBP)を血圧反応性の指標として用いた.血圧変動性の指標としてSD,CVを用い,SL-SBPとの関係を検討した.結果は,MST施行時の安静時SBPが随時SBPの平均に比し25 mmHg未満の上昇にとどまる群では,SL-SBPはSBPのSD(r=0.388),CV(r=0.395)と相関が認められた.しかし,MSTの安静時SBPが随時SBPより25 mmHg以上上昇する群では,この関係は認められなかった.運動負荷時の安静時SBPと随時SBPとの差が25 mmHg末満のEHにおいては運動負荷時の昇圧反応性の高い場合,日中の血圧変動性も強いことが予測される.

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 心交感神経刺激時の冠血管抵抗の変化をATP感受性K(KATP)チャネルがどのように修飾するかを検討した.迷走神経切断およびβ受容体遮断下で,KATPチャネル閉口薬は安静時および心交感神経の電気刺激(2〜20Hz)時の冠血管抵抗値を上昇させた.その冠血管抵抗変化は心外膜側で顕著であった.また,同薬はノルエピネフリンの冠動脈内投与(0.001から0.1μg/kg/分)による冠血管抵抗変化も有意に増強させたが,神経情報伝達物質(ノルエピネフリンとニューロペプチドY)のオーバーフローの増大程度を変化させなかった.一方,KATPチャネル開口薬は冠血管抵抗および神経情報伝達物質のオーバーフローを抑制した.結論:冠血管のKATPチャネルは神経情報伝達物質に対する血管の反応性を変化させることで,心交感神経刺激時および安静時の冠血管抵抗変化を修飾する.この調節機構は心筋内層と比較して外層で顕著である.

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 末端肥大症における心臓病変のうち弁病変の報告は少ない.今回われわれは,感染性心内膜炎による弁障害で弁置換され,多年を経て末端肥大症による心筋不全を呈した2例を経験した.症例1は1986年に僧帽弁置換術を受けたが,末端肥大症の存在に気づかれず,心筋症様の心機能低下により1991年に心不全を発症した.置換弁に組織学的に著明な粘液腫様変性が見出された.症例2は1981年に僧帽弁置換術を受けたが,末端肥大症のコントロールが不良で,高血圧性の心機能低下により1991年に心不全を発症した.いずれも末端肥大症で特徴的とされる心筋障害が起こる以前に弁障害を起こし,従来強調されていない弁合併症が比較的早期に顕性化する場合があり,このような経過を追ったものは初めてであり報告した.

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 69歳,女性.1989年頃から悪心,食思不振出現.最近,症状増悪し1992年3月9日来院.心電図上巨大陰性T波を認めたため精査入院.臨床検査では軽度の貧血を認め血中Naは130mEq/lと低値.血中ACTH,コルチゾールの基礎値はともに低く,インスリン低血糖試験でGHは正常反応を示すもACTHは無反応.ACTH-Z試験にコルチゾールは反応し,CRF試験にACTHは反応せず.TSH試験LH-RH試験は正常反応.以上より下垂体性ACTH単独欠損症と診断した.コルチゾール補充療法で症状は改善し心電図異常も消失した.後日心血管造影,心筋生検を施行したが異常はなかった.特異な心電図変化にて発見され,コルチゾール補充療法にて心電図変化の改善を認めたACTH単独欠損症の1例を経験したので報告する.

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 10歳,男性.学校検診にて心電図異常を指摘されWPW症候群と診断されていたが,動悸,眼前暗黒感が出現したため当科入院.発作時心電図はwide QRSでR-R間隔220 msecの上室性頻拍を認めた.心エコーでは,三尖弁中隔尖の心尖部寄りの付着異常と三尖弁逆流を認め,右室造影にて右房化右室が証明されたため,Ebstein奇形を合併したWPW症候群と診断した.本例では心内圧は正常範囲内,ASDの合併もなく,右心不全所見も認められないため,心外膜アプローチによる副伝導路離断術のみを施行しEbstein奇形に対する外科的処置は加えない方針とした.術中心表面マッピングでは右室後壁に最早期興奮部位を認め,同部位に凍結凝固を施行,デルタ波は消失した.心外膜アプローチ法は人工心肺を必要としないため侵襲が少なく,軽症Ebstein奇形を合併したWPW症候群に対する副伝導路離断術において,試みるべき安全かつ有用な方法である.

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 慢性肺高血圧症はその病因の如何にかかわらず予後不良な疾患とされており,本症の増悪に際しては有効な治療法がないのが現状である.なかでも,浮腫,肝腫大,胸水の出現増加によって呼吸困難に陥った状態に対して一時的に除水を行う適応はあるが,一般的な治療法とは考えられていない.

 われわれは,1990年6月このような症例に対し体外限外濾過(ECUM)を施行した.ECUMによって症状の改善が得られたため継続的に行い,また無尿となってからは,血液透析に変更してほぼ2カ月間にわたる重篤な状態からの離脱に成功した.

基本情報

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呼吸と循環
42巻9号 (1994年9月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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