Japanese
English
特集 NO(一酸化窒素)
NOの化学と作用機序
Chemistry and Mechanisms of Action of NO
唐木 英明
1
,
片山 佳樹
2
Hideaki Karaki
1
,
Yoshiki Katayama
2
1東京大学農学生命科学研究科獣医薬理学
2株式会社同仁化学研究所
1Department of Veterinary Pharmacology, Graduate School of Agriculture and Life Sciences, The University of Tokyo
2Research Division, Dojindo Labolatories
pp.829-836
発行日 1994年9月15日
Published Date 1994/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1404900918
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はじめに
Nathan(1992)1)の言葉を借りれば,空ではスペースシャトルやジェット旅容機や稲妻が,地中では微生物が活性窒素酸化物を作るが,天地の間に暮らすわれわれ生物学者はこれに肺疾患を起こす公害物質か食肉の保存剤以上の関心をもってはいなかった.ところが1978年から1988年にかけて全く独立した4つの分野の研究が収斂した結果,ユニークで強力な生理活性物質としてのNOが発見されたのである.1981年から1986年にかけて,ほ乳類でのNOの生合成に関する論文はたった10編であったが,1987年以後指数関数的に増加し,現在までに恐らく1,000を越える報告がある.1992年にはScience誌のMolecular of the Yearに選ばれるなど,科学者の強い関心を集めている.NOが末梢神経の伝達物質であり,ペニスの勃起に関係することが明らかにされたことは一般受けするニュースであり,マスコミにも大きく取り上げられたことは記憶に新しい.NOxによる環境汚染が人類の生存を脅かす一方,われわれがこの世に生まれたのはNOのおかげであるのは皮肉と言えよう.
分子のレベルで考えると,NOという化学種が生体内において重要なメッセンジャーとして働き得るという事実は少なからず驚きに値する.なぜならNOは以下に示すように多くの化学種の中でも極めて特殊な化学的性質を有する分子だからである.
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