呼吸と循環 33巻6号 (1985年6月)

巻頭言

老人肺 原澤 道美
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 老年者ではすべての臓器・組織系に老化現象が進行している。その中には普遍的に誰にでもみられるので,生理的老化と呼ばれているものがある。生理的老化はその他,時間の経過とともに絶えず進行的である,機能減少的に作用する,原因が内因的でおそらく遺伝因子によって支配されている,などの特徴を有している。それに対し,環境因子の永年にわたる作用の結果生じた病的老化というのが,概念的に区別される。老年患者ではそれらの変化にさらに疾患が加わることになる。これを呼吸器系にあてはめると,生理的老化が進行したものが老人肺,病的老化をもたらす代表的なものが喫煙,そして疾患はもちろん呼吸器疾患ということになろう。

 著者らの成績をもとに,老人肺の機能的および形態的特徴を列記してみると,以下のごとくである。

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 原因の如何を問わず,薬物療法のみでは救命し得ない重篤な呼吸不全に対して,人工換気療法は今日,日常臨床に応用されているが,人工換気適応の原因となった病態が改善し安定化すれば,患者はレスピレーターから離脱し,自発呼吸に復する。

 人工換気離脱の基準は,急性呼吸不全に関しては既に多くの先達1〜4)により確立しているが,慢性呼吸不全を伴う基礎疾患の急性増悪に見られるように,慢性と急性の呼吸不全が上乗した場合などの人工換気離脱の基準は必ずしも一定でなく,on and off法や,Downsら5)が導入したIntermittent Mandatory Ventilation (IMV)法による離脱が試みられているものの,調節呼吸や補助呼吸からIMVへ移行する際の条件や,又IMVへ移行後の回数漸減の方法6)など,未だ十分には確立されていない。

Cardioplegia 平 明 , 森下 靖雄
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 心臓の拍動停止は当然全身循環の停止をきたし,通常は死を意味する。しかし心臓外科では心臓を停止させた静止野で手術をしながら生命は維持しようという全く相入れない矛盾したテーマに早くから取り組んできた。その結果心臓の停止中に他の臓器の循環を維持する方法として体外循環が開発され,今日ではその手法は殆んど満足がいくまでに確立されている。一方低体温法では一定時間の循環遮断が安全におこなわれ,低体温による代謝抑制の方式は独立して,あるいは体外循環と併用して活用されている。心臓自身のことに目を向けると,心臓外科医が望むのは長時間の無血静止野でそのうえ心臓はきわめて扱い易いflaccidな状態にあることといえる。この条件をみたすには第1に冠循環の存在が邪魔になる。しかし冠血行の杜絶にはいうまでもなく時間的な制約があり,またしてもこの矛盾した問題を解決せねばならないこととなる。現在のcardioplegiaはほぼ満足のいく状態でこの問題に応えてくれているが,細部に亘っては未解決なことも多い。crystalloid cardioplegia,blood cardi—oplegiaの選択,カリウム濃度,添加物の有無や使用量等々議論はつきない。基本的ないくつかのことについてのみ合意がえられているというのが実情であろう。今日の手術成績を今後より向上させ,より安全に確実におこなうには個々の症例の心臓の病態とそれに適合したcar—dioplegiaをえらぶことがきわめて大切である。また臓器移植が喧伝される中でcardioplegiaはそのまま臓器保存につながり得るのかということも注目される。相入れない部分もあるように思われこの点についても今後の解明に委ねられている。

Bedside Teaching

農夫肺症 本間 行彦 , 井上 幹朗
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 農夫肺症は主に好熱性放線菌類(Thermophilic acti—nomycetes)を吸入することによって個体が経気道的に感作され,免疫学的機序により起こる,びまん性の肉芽腫性間質性肺炎である。かびた枯草や穀類を扱う農夫にみられることから,本名称がある。本症は100年以上も前にアイスランドではhay-shortness-of-breathとして知られていた1)が,Cadham (1924)の記述2)や,Campbell(1932)が独自の疾患として報告3)して以来,欧米で多くの報告や研究がなされてきた。本邦では稀な疾患と考えられていたが,近年,疫学調査4)が行なわれ,本邦でもそれほど稀な疾患でないことが判明した。今回,実際の症例の概要を示し,若干の解説と併せて本症を理解したい。

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 収縮性心膜炎は心疾患の中でそれ程頻度の高い疾患ではないが,放置する場合にはその予後は極めて不良であり,一方適切な外科的処置を加えれば劇的に症状の改善がみられるという点で,心臓外科学の中では重要な疾患の1つとされている。その原因はとも角,病態については詳細に明らかにされている疾患であるにも拘らず,正確な診断をつけ得ず肝不全あるいは慢性心不全として治療され,最終的に診断が確定した時点ではすでに外科手術の時期を失していることも少なくはなく,診断学も含めて本疾患に対する正しい認識,最近の進歩を知ることは極めて大切なことと考えられる。その病因は,かつてはその大部分が結核とされていたが,社会構造の変革により大きく変化しており,診断学の面でも画像診断法の進歩に支えられてより的確な診断をつけ得るようになって来ている。これらを中心に外科手術も含めて収縮性心膜炎に対する最近の考え方を述べてみたい。

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 肺は気道を介して直接外界と交通するので,外界から塵あい,細菌,ヒュームなど数多くの物質が肺内に吸入される。また気道内では,たえず粘液が分泌されている。仮にこれらが運搬浄化されずに肺内に蓄積されるようなことがあっては,我々は常に疾病の危険にさらされ,肺は吸入物質と粘液で充満されるにちがいない。このような事態が避けられ,気道が常に開通した状態に保たれているのは,気道粘液線毛輸送系(mucociliary clearancemechanisms)が気道に具備されているからにほかならない。有害物質を肺から運搬浄化して生体を防御する重要な1つの機構がほかならぬ気道粘液線毛輸送系である。

 粘液線毛輸送系のモデルがLucasとDouglasによって提唱されたのが1934年である1)。彼らは鼻粘膜上皮線毛の上を2層の粘液層が覆い,その内側のpericiliarylayer中の線毛が活発に振動する(vibrate)ことによって,外側の粘液層を移動させると考えた。

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 下壁梗塞急性期にみられる前胸部ST低下の臨床的意義についてはまだ議論の多いところである1)。このST低下は,下壁梗塞に合併した後壁梗塞の反映2〜4),下壁梗塞に伴う電気的ないわゆるreciprocalな変化5,6),下壁梗塞に同時に存在する前壁の虚血7)などの見解がある。しかし,これらの研究のST低下のcriteriaにも差があり,発症後時間,I,aVLの扱い,ST低下の程度が問題となる。今回,我々は当院CCUに急性下壁梗塞で入院した患者につき,前胸部ST低下を検討し,その意義を評価した。

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 近年,我が国における虚血性心疾患の増加が目立つ1)。従来より冠動脈硬化のRisk Factorとして,高血圧症,肥満,喫煙歴,加齢,性,高血圧,糖尿病,高尿酸血症等が注目されてきたが,その他にも増加の原因として社会の高齢化,種々の社会的ストレスの増加,患者の性格などの関与が考えられている。これらのRisk Factorは年齢によってその重要性が異なり,老年者においては加齢による影響が強くなり,種々のRisk Factorの関与は薄れるとの報告もある2,3)。したがって加齢による影響が少ない若年者においてこそ,Risk Factorの関与はより大きいと予想される。

 我々は50歳未満の比較的若年者で多枝病変を有する症例のRisk Factorに特有なものがあるか否かを検討した。

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 心筋梗塞症の予後に影響する因子としては,諸種のリスクファクター,冠動脈狭窄度,梗塞範囲,左心機能などが関与している1)。また,患者のなかには突然死する例があり,これらの例を剖検して多くの場合は再梗塞を認めず,心室頻拍(VT),心室細動などの不整脈がその原因と考えられている2)。とくに,梗塞後VTを持つ患者の予後は不良とされ,積極的な診断と治療が必要である。

 著者らは,失神,めまいを主訴として来院した梗塞後にVTを持つ患者6例に電気生理学的検査を行い,心室刺激プログラムを用いてVT誘発を試み,臨床的にみられたVTと比較した。

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 急性心筋梗塞後に発生する心室中隔破裂(VSR)は,急性心筋梗塞の1.3〜6.5%にみられる稀な合併症ではあるが,その死亡率は非常に高く,89%が2カ月以内に死亡するとされている1,2)。Cooleyらが最初に下壁梗塞例に合併した本症の手術成功例を報告3)して以来,手術による修復が試みられてきた。しかし,対象は急性期をのりきった例が大部分であり,3週間から6週間待期してからの手術が勧められてきた4)。しかし,最近急性期に過半数が死亡するこの合併症に対して急性期手術が救命的役割をはたす可能性が示され,心原性ショックにおちいるような症例に対しては緊急的早期手術が行われるようになってきつつある5)

 その際必要となるのは,より早期でのより的確な診断である。慢性期例に対しては,心血管造影を比較的安全に行いうるが,急性期例は血行動態が不安定であり,急激な悪化も予測され,できる限り非侵襲的方法で対処することが望ましいと考えられる6)。そこでわれわれは,ベッドサイドで容易に施行しうる各種超音波検査を用いて,部位診断まで行うように努めてきた7,8)。今回われわれは,その経験をまとめ各種超音波検査法のVSRにおける診断的意義について報告する。

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 虚血性心疾患に基因する高度左室機能低下例に対する大動脈冠動脈バイパス手術(A-Cバイパス術)の手術成績は,手術手技の改善,心筋保護法の確立,補助循環の発達,術後管理の向上,などにより近年著明に改善し,比較的安全に手術が行なわれるようになった1,2)。しかしながら,これらの症例は術前に比較的広範囲心筋梗塞の既往を有することが多く,本手術が有効であるか否かの点で,不明な点が存在する。

 今回,虚血が心疾患に基因する高度左室機能低下例(左室駆出率<0.4)に対するA-Cバイパス術症例22例について,A-Cバイパス術の有効性を中心に,その手術成績を検討した。

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 僧帽弁膜症は心臓外科初期から手術対象となった疾患であり,交連切開術をはじめ,弁形成術の適応範囲は広い。最近では良好な人工弁の開発にともない人工弁置換術が選択される趨勢になってきてはいるが,人工弁治療にはいぜんとして問題点も指摘され,できるだけ自己弁を温存しようとする弁形成術もまた多くの施設で選択されている。弁形成術の問題は,術後長期におたり修復した弁組織が良好な弁機能を維持しうるかどうかであり,術式選択に際しては修復すべき弁病変を正確に把握し,修復後の経過および予後を知ることが必要である。

 このためには,詳細な弁病変の検討が必要となるが,僧帽弁膜症の弁形態は多彩であり,しかも,従来弁病変の表現として用いられてきた「短縮」・「癒合」・「肥厚」・「石灰化」などでは,個々例の弁形態の表現には適切であっても,他の症例との比較が容易になしえないという限界があった。更に,これらの表現では弁病変の時間的推移を観察することは難しく,「弁形態形成過程」の検討は十分に必要であることはわかっていても,積極的な研究対象となりえなかったのが現状であった。

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目的

 冠動脈バイパス術の普及により,冠動脈狭窄病変によって起った左室壁局所運動異常(asynergy)がバイパス術後に改善するか否かを予知することがますます重要になった。このreversible asynergyを評価する1つの手段として,期外収縮直後の洞調律時(post-PVC beat)にみられる収縮増強現象(postextrasystolic potentiation:PESP)が広く用いられている1,2)

 本動物実験は,冠動脈の完全閉塞あるいは部分閉塞によってasynergyを呈した心筋の内層(EPI)と外層(ENDO)の動態が,post-PVC beatでいかに変化するかについて観察することを目的とした。

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 期外収縮後収縮増強現象(postextrasystolic potentia—tion;PESP)は,reversible asynergyの検出に広く用いられている1,2)。近年,虚血心に対し,従来行なわれてきた心室性期外収縮(PVC)を誘発することの安全性の問題から,上室性期外収縮(PAC)によるPESP(A-PESP)の応用が検討されている3,4)。本実験では,慢性心筋梗塞犬モデルを用いて,A-PESPの持つ意義をPVCによるPESP (V-PESP)と比較検討した。さらにreversibie asynergyの他の検出手段であるnitroglyerin(TNG)投与とPESPを定量的に比較検討した。

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 1976年,angiotensin I変換酵素阻害剤のcaptoprilが最初に経口的に臨床応用可能になり1),この2,3年の間に高血圧の成因の分析又は治療目的にangiotensin I変換酵素(ACE)を阻害することが臨床的,実験的に有効な手段であることがわかってきた2,3)。降圧剤としてのcaptoprilの評価は高いが,反面,発熱・掻痒感・味覚異常などの副作用4〜6),まれに白血球減少7)が報告されており,問題がないわけではない。しかもその副作用はSH基を有するpenicillamineのそれと類似していることから8),このSH基を除去することにより副作用を軽減できるのではないかという可能性が示唆された。MK-421(enalapril)はSHを持たない新しいangiotensin I変換酵素阻害剤(CEI)であり9),著明な降圧効果,とくにその効果の持続性が諸家により報告されている9〜12)。今回,われわれは各種高血圧症に対し,このMK-421の1回経口投与における急性降圧効果と,renin-angioten—sin系(R-A系),kallikrein-kinin系(K-K系)に及ぼす影響について検討した。

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 従来より非対称性心室中隔肥厚(asymmetric septalhypertrophy,ASH)ならびに僧帽弁前尖の収縮期前方運動(systolic anterior motion, SAM)は閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy,HOCM)に特徴的な所見であるとされてきたが1〜3),近年これらがHOCM以外の各種疾患3〜5)にも出現することが報告されている。

 著者らはASH,SAMならびに左室内圧較差を伴った大動脈炎症候群の一例を経験したので報告する。

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 褐色細胞腫は腫瘍より分泌される過剰なカテコラミンにより多彩な臨床症状を呈するが,心臓への影響も大きく,カテコラミン心筋炎として注目されている1〜4)

 一方,カテコラミンは心筋肥大の成因の1つとしてもその重要性が認められている5)

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 高血圧に伴う左室肥大は,高血圧の進展とともに求心性肥大を生じ,ついで拡張性肥大となる。比較的軽症の本態性高血圧症のなかに,心電図上著明な左室肥大および心エコー図上僧帽弁前尖収縮期前方運動(Systolic Ant—erior Movement, SAMと略す)を示す症例が報告され1,2),特発性心筋症との関連性が注目をあつめている。また,高血圧の経過中に非対称性中隔肥大(Asymmet—ric Septal Hypertrophy,ASHと略す)を生じることはすでに指摘されているが1),肥大型閉塞性心筋症(Hyper—trophic Obstructive Cardiomyopathy,HOCMと略す)の像を呈する症例の報告は少ない3)。とりわけ,本邦においてはかかる症例の報告はみられない。

 そこで,われわれは高血圧の経過中にHOCMの像を呈した症例を経験したので,高血圧と特発性心筋症との関連性,さらに臨床的特微について述べる。

基本情報

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呼吸と循環
33巻6号 (1985年6月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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