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心臓の拍動停止は当然全身循環の停止をきたし,通常は死を意味する。しかし心臓外科では心臓を停止させた静止野で手術をしながら生命は維持しようという全く相入れない矛盾したテーマに早くから取り組んできた。その結果心臓の停止中に他の臓器の循環を維持する方法として体外循環が開発され,今日ではその手法は殆んど満足がいくまでに確立されている。一方低体温法では一定時間の循環遮断が安全におこなわれ,低体温による代謝抑制の方式は独立して,あるいは体外循環と併用して活用されている。心臓自身のことに目を向けると,心臓外科医が望むのは長時間の無血静止野でそのうえ心臓はきわめて扱い易いflaccidな状態にあることといえる。この条件をみたすには第1に冠循環の存在が邪魔になる。しかし冠血行の杜絶にはいうまでもなく時間的な制約があり,またしてもこの矛盾した問題を解決せねばならないこととなる。現在のcardioplegiaはほぼ満足のいく状態でこの問題に応えてくれているが,細部に亘っては未解決なことも多い。crystalloid cardioplegia,blood cardi—oplegiaの選択,カリウム濃度,添加物の有無や使用量等々議論はつきない。基本的ないくつかのことについてのみ合意がえられているというのが実情であろう。今日の手術成績を今後より向上させ,より安全に確実におこなうには個々の症例の心臓の病態とそれに適合したcar—dioplegiaをえらぶことがきわめて大切である。また臓器移植が喧伝される中でcardioplegiaはそのまま臓器保存につながり得るのかということも注目される。相入れない部分もあるように思われこの点についても今後の解明に委ねられている。
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