呼吸と循環 33巻5号 (1985年5月)

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 従来は物理,化学の分野において主に用いられていた核磁気共鳴法(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)が医学の世界で急速に脚光をあびている。NMRは今までにない全く新しい生体からの情報を与えてくれる手法であり,NMR-CTの臨床応用のみでなく,研究の分野においても,病態を研究する手段としての発展が期待される。

 NMRの感度は,天然に存在する物質の中では水素核1Hが最も良いが,このことは,生物の組織の約80%を占める水:H2Oの検出に幸いしている。NMRでは,肺損傷時の肺血管透過性異常に伴なう組織の水動態をどのように捉えることができるであろうか。我々はラットを用い,酸素障害肺の組織緩和時間を測定し,その意義につき検討を行なった。NMR緩和時間が,組織の水のどのような変化に対応するのかに関しては,未だ完全に明確にはされていないため,その解釈については今後大いに議論のなされるところであろう。

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 肺水腫とは肺血管外に多量の水分が貯留した病的状態である。肺末梢血管から漏出した水分は肺胞中隔・肺血管及び気管支周囲の間質に貯留した後,リンパ管により回収されるが,その量がリンパ管の搬出能力を超えるようになると,overflow systemである肺胞内に水分が溢れ出ることになる(図1)1)

 この際肺胞内に溢れ出た水腫液を採集しその蛋白濃度を測定すると,肺末梢血管内圧の上昇による血行力学的肺水腫と透過性亢進による肺水腫とを,明らかに区別できることが知られている2)。前者では水腫液の蛋白濃度が3.6g/dlであるのに対し,後者では4.6g/dlと高値を示し,血漿蛋白濃度との比が平均0.90に及んでいる(表1)3〜5)。このことは肺末梢血管壁の正常構築が障害され透過性亢進が生じると,水分同様に蛋白の漏出を来すようになることを示している。

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 肺のガス交換の場である肺胞隔壁は,肺胞上皮細胞,毛細管内皮細胞や間質結合織などから構成される。生体が肺のガス交換機能を適切に営むためには,肺胞上皮および毛細管内皮の細胞膜が水溶性分子に対する透過性を正常に維持し,肺を"dry"の状態に保つ必要がある。肺胞領域の種々の炎症,循環障害,物理化学的刺激などによる肺損傷では,これら細胞膜の透過性が亢進し,形態的には肺浮腫を,機能的にはガス交換障害を招来するといえよう。従って肺胞隔壁を構成するこれら細胞膜の透過性を測定することは,種々の肺疾患における肺損傷の程度を定量的に評価し,肺疾患の病態生理を解析するうえで有用であると考えられる。

 臨床例において肺胞隔壁の透過性を定量的に測定する方法はいまだ確立されてないが,従来より2種類の方法が試みられてきた。1つは多重指示薬希釈法であり1,2),他は本稿で取り挙げるガンマ線(γ線)の体外計測による方法である3〜9)14C-尿素を透過性指示薬とする多重指示薬希釈法は,動脈系からの採血を要するため患者への侵襲が大となる。また多重指示薬希釈法は肺全体としての透過性を推定するため,肺内の部位毎の異常を検出できない。更に推定される透過性は尿素(分子量60)に対するものであり,肺血管内外の水分分布を決定している蛋白分子に対するものでないなどの欠点を有している。これに対してγ線の体外計測法はこれらの欠点を克服し得るものであり,今後しだいに臨床の場で用いられることが期待される。我々は臨床例において99mTc標識化合物をトレーサーとして用い,γ線の体外計測による肺胞隔壁透過性の推定を行なってきた5,9)。本稿では体外計測による自験の成績の一部を紹介し,本法の臨床的意義について述べたい。

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 摘出肺をポンプを用いて灌流する実験(isolated perfu—sed lung)は肺循環動態と,肺における体液バランスを把握するための単純なモデルとして用いられてきた。その結果,重要な知見が得られたが,同時にこの実験法の限界も指摘された1)。一方,固有肺葉を胸腔内で,in situに灌流する実験(isolated in situ perfused lung)モデルは長時間の使用に耐えうる有用な方法であることがわかってきた2)

 我々は,これら実験モデルを用いて肺における体液バランスと,肺毛細血管の膜透過性に関する実験を行ってきた。その経験に基づいて,これらの方法によって得られた知見を文献的に考察した。

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 近年,肺間質液の組成と量を反映する肺リンパの継続的採取法の開発普及にともない,肺血管床における水および蛋白透過性の変化に関する知見が集積されている1〜3)。しかし最もよく用いられる羊肺リンパ瘻標本であっても,得られた結果に各種の制限または仮定を置かねば,生体内での変化について言及し得ない4,5)。今回羊肺リンパ瘻標本を用い,持続的空気泡塞栓実験を例にとり,肺リンパ動態,肺血行動態およびその他の症状より,出現する変化の時間経過を明瞭にすることを目的とした。

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 各種の化学的あるいは物理的刺激により細胞膜の燐脂質から遊離されるアラキドン酸は代謝され,プロスタグランディンやロイコトリエンとなるが,これらはその多彩な生理活性により,種々の病態の発生または進展に関与することが知られ,特に肺における役割が注目されている1)。ことに肺塞栓時やエンドトキシンショック時に肺から放出されるトロンボキサン(TX) A2やプロスタサイクリン(PGI2)の役割に関しては,種々のシクロオキシゲナーゼ阻害剤,TXA2合成酵素阻害剤を用いての実験的検討が加えられている2)。著者らは慢性肺リンパ瘻を作製した覚醒立位緬羊を用いて肺動脈幹に持続的に空気を微量注入することにより,肺空気塞栓による肺傷害を作製し,血漿および肺リンパ液中の内因性TXA2濃度を,その安定代謝産物であるTXB2としてradioim—munoassay法により測定し,同時に肺血行動態・肺リンパ動態も検討した。さらに選択的TX合成酵素阻害剤であるOKY−046(キッセイ薬品)3)の前処置後に空気注入による肺傷害を作製し,TXA2の役割につき検討した。

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 臨床的に肺水腫は,(1)微小血管壁の透過性亢進,(2)血行力学的変化によるものに大別され,近年特に透過性亢進を招く機序について多くの検討がなされている。一方,血行力学的な因子として血管,間質の静水圧,膠質浸透圧が重要であるが,間質のそれらについてはなお不明の点が多い。

 Rosenzweigら1)は,摘出イヌ肺を用い経肺圧(Ptp)の上昇に伴って肺内血管が拡張し,肺血流量が増加することを認め,またLloyd & Wright2)は肺を液体でふくらませた時に比し,空気でふくらませた時の方が肺血流が促進されることを報告している。肺を空気でふくらませた時の肺張力は界面張力が働くため,液体でふくらませた時のそれに比し明らかに高値である3)ことから,これらの実験成績は肺張力が直接間質静水圧の陰圧度に影響して肺内血管の拡張度を変化させることを示し,さらに肺水腫が発生しやすくなることを推定させる4)。したがって肺胞表面張力の上昇は肺水腫を誘発させると考えられるが,両者の直接の関係を検討した報告は少い。

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 体液のpHを一定に保つ酸塩基平衡の機構は通常3つに大別される。(1)体液の物理化学的な緩衝能,(2)呼吸調節機能,および(3)非呼吸(代謝性)調節機能である。(2),(3)は生理学的緩衝機構であり,それぞれ多くの器官が関与する複雑な活動を行っているが,その活動の酸塩基平衡に対する結果については,体液の分析によって知ることができる。

 呼吸機能は,次式のように動脈血の二酸化炭素張力PaCO2に直接反映される。

  PaCO2=0.863(VC02/VA)   (1)

ここに,VC02は二酸化炭素排泄(=生成)量(ml/min,STPD),VAは肺胞換気量(l/min,BTPS)である。生体の代謝速度が一定ならば,PaCO2は換気量によって一義的に決定される。

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 著者ら1,2)はパルスドップラ超音波装置の応用を前提として,簡単容易に計測できる循環系の機能的な指標,流速圧比(U2/AP)を考案し,それを開心手術例で検討してきた。

 本指標,流速圧比(U2/AP)は左室から大動脈に拍出された血液が持つ運動エネルギーと圧力エネルギーの比を表わしている。血液にエネルギーを与えるのは左室であるから,それらの比は左室の作動状態に関する情報を含んでいる。すなわち,左室の外部仕事量を構成する単位体積(cm3)あたりの血液の持つ運動エネルギーは,ρU2/2(ρ:血液密度g/cm3,U:血流速度cm/s)で,圧力エネルギーはP (P:圧力dyn/cm2)で表わされ,る。両者の次元はともにエネルギー(g・cm2/s2)で等しく,ρU2/2Pは無次元量となる。

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 循環器疾患の種々の病態におけるカテコールアミン(以下CA)の意義が最近注目されているが,急性心筋梗塞(以下AMI),とくに発症直後の早い時期の血中CAの動態および臨床的意義に関する報告はきわめて少ない。これまでに,実験的には冠状動脈結紮の直後から血中CAの上昇がみられ14),虚血心の組織CAが著減する15,20),また臨床的にもAMI後に血中CAが上昇する1,8,12)などの報告がなされている。しかし臨床的に発症直後より経時的に血中CAを測定し,疾患の重症度,不整脈,梗塞部位との関係などを検討した報告は少なく,成績や見解も必ずしも一致をみていない。われわれは,発症の明らかなAMI 26例で,発症早期からの血中ノルエピネフリン(以下NE),エピネフリン(以下E)を経時的に測定し,若干の知見を得たので報告する。

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 胸部X線写真は肺高血圧の診断に重要な手がかりを与えてくれる。兼本ら1)は,原発性肺高血圧症の胸部X線写真から種々の所見を定量化し報告している。

 しかしながら,肺高血圧を呈する基礎疾患は種々存在するため,これらの所見が果して肺高血圧症に共通の所見であるか否かを検討することは有意義であると考えられる。

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 生体において,年齢,性,体格などを標準化してもなお血圧,心拍数に個人差のある事は良く知られた事実である。一方,双生児研究により,安静時血圧,心拍数,心電図P-Q間隔が一卵性双生児で二卵性双生児より似ている事実が報告され,あるいは,本態性高血圧症は家族内発症が高く,一卵性双生児の一方が高血圧症の場合,他方も高血圧症である確率が高い。また,一卵性双生児で血圧の日内変動がよく似ている事実1)なども明らかにされてきた。以上の事実から血圧を含む循環調節機構に遺伝子因子が関与している事が推測される。

 本研究は若年から老年に至る男女双生児を対象に,動脈血ガス二重制御システム2)を用い,吸入酸素濃度を徐徐に低下させ,低酸素血症を誘導した。そして,その過程の心拍数変化を求め,低酸素循環調節機構に及ぼす遺伝の影響を検討した。また,健常成人男子を対象に肺・胸郭系の動きが心拍数に及ぼす影響を化学因子から分離評価することを試みた。

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 1975年,Johnson1),Ziffer2)らによって,nitroglycerinのうっ血性心不全に対する有効性が報告されて以来,血管拡張療法は,ジギタリス剤,利尿剤,カテコールアミン剤と並んで,心不全に対する重要な位置をしめるにいたった。特に1971年,Majid3)らが,虚血性心疾患に基づく重症左心不全患者に,α-blockerであるphentolami—neを静注し,心拍出量の増大と,臨床症状の改善を報告して以来,各種血管拡張剤について,その有効性が多く報告されてきた4〜13)

 今回我々は,Isosorbide dinitrate (ISDN)の持続静注の心不全に対する急性効果を臨床的ならびに血行力学的に観察し,その有効性を示唆する知見を得たので文献的考案を加え報告する。

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 これ迄,気管支喘息発作時の病態は主として総肺機能的見地より検討が加えられてきた。しかし発作時に聴取される異常呼吸音の経時的変化や,あるいは吸気分布不均等指数,⊿N2や血液ガスなどの所見の推移から気道病変の不均等性が推測きれても,これ迄のいわゆる呼吸機能検査法ではその不均等性を地理的に視覚的に,かつ定量的に表現することは不可能である。

 近年,肺機能検査に用いられる放射性同位元素の種類も増え,検査の目的に応じて適宜に選択しうるし,更にγ線の検出器およびデータの収録や画像処理に必要な周辺機器の著しい進歩に伴って,病態の経時的変化を局所的に把握しうる様になった。

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 肺塞栓症は静脈系に発生した栓子(血栓・腫瘍・脂肪等)の遊離により生ずる肺血管床の急激な閉塞により起こり,栓子の大きさ・基礎疾患の状態により種々の臨床像を呈する疾患である。近年我々はEbstein奇形に合併した肺塞栓症を経験したので報告する。

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 リウマチ性僧帽弁狭窄症(MS)は,日常臨床にて数数遭遇する一般的な心疾患であるが,本症における左心機能低下の成因については意外にも詳細には明らかにされてはおらず,現在もなお議論の多いところである。一般に,左心不全を呈するMSでは,左室後壁基部を中心とする局所的変形,収縮異常が数々存在し,これにより左心機能低下をきたすことが報告されている。今回我我は,左心機能低下の主成因として,それらの変化に加え,同じくリウマチ性変化に基くと思われる広範な心筋障害もその一因として考えられたMS患者1例を経験した。今後,本症の左心機能障害を考察する上で示唆に富む症例と思われたので,若干の文献的考察を加え報告する。

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 排尿狭心症(micturition angina)の最初の記載は,約300年前にさかのぼる1)。しかし,その後の症例報告はMorris and McIntosh2),およびMarriot and Vogt3)らによって僅か数例なされているに過ぎず,この機序等の詳細はまだ明らかにされていない。本疾患のこれまでの報告は,いずれも男性例であったが,最近我々は労作時狭心症を有する女性が排尿に伴って狭心症を呈するようになった症例を経験したので報告する。

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 Disopyramideは,Vaughan Williams分類のclass Iに属する抗不整脈剤であり,Quinidine, Procainamide類似の作用を有している。即ち,自動能,興奮性の抑制,伝導抑制,不応期の延長,抗コリン作用を示し,上室性・心室性期外収縮,各種頻拍症,心房細動などの治療に広く用いられている。本剤投与における常用量での副作用としては,房室ブロック,徐脈,各種頻拍症,心室細動などが報告されている他,抗コリン作用による口渇,尿閉などが良く知られている。一方,自殺目的あるいは誤って大量服用した症例についての報告は数が少ない1〜5)。今回我々は,自殺目的にてDisopyramideを大量に服用した大動脈閉鎖不全の患者を経験し,幸いにも救命し得たので報告する。

基本情報

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呼吸と循環
33巻5号 (1985年5月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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