整形・災害外科 63巻3号 (2020年3月)

特集 国際コンセンサスからみた整形外科感染対策における最新知見

稲葉 裕
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近年の整形外科手術の進歩はめざましく,低侵襲手技の確立,コンピュータや最新の機器を用いた手術の開発,インプラントの改良などにより手術成績や患者満足度は格段に向上している。しかし術後感染は依然,大きな合併症の一つであり,ひとたび術後感染が発生すると,患者,医療者ともに負担が大きい。そのため,術後感染の予防は重要視され,感染症例では正確な診断に基づく早期の治療開始が望まれる。

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要旨:筋骨格系の感染に対する第2回国際コンセンサス会議(the Second International Consensus Meeting on Musculoskeletal Infection)が,2018年7月に米国で開催され,感染の予防,診断および治療についてのコンセンサスがまとめ上げられた。本稿では会議開催の目的と経緯,ならびにコンセンサスを導くために行われた具体的なプロセスについて述べた。第2回の会議の特徴としては,整形外科におけるすべての領域を網羅している点が,第1回会議と比較して最も大きな違いである。また,まとめ方に関しても会議の中心メンバーが各質問に対する推奨と理論的根拠を書き出すのではなく,世界中から選ばれた各分野の専門家が一堂に会して話し合いが行われた。また,各「推奨」に関連するエビデンスレベルも参加者自身が決定した。コンセンサスを導き出す根拠となるDelphi法を解説し,さらに実際に行われた13のステップについても詳述した。

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要旨:第2回International Consensus Meeting(ICM)で提唱された推奨をもとに,整形外科手術における感染予防に関する知見の一部を概説した。特に,予防的抗菌薬においては使用する抗菌薬の種類と投与期間について理解する必要があり,糖尿病に関しては血糖やHbA1cだけでなく術前フルクトサミン値が有用な可能性があること,術野ブラッシングではアルコール含有消毒薬を用いた方がよい可能性が高いこと,術中洗浄液はポビドンヨード希釈液がSSI/PJIの発生を下げる可能性が高いことを知っておくべきである。また,銀やポビドンヨードをはじめとした抗菌インプラントがSSI/PJIの予防と治療に世界的に注目を集めていることも重要である。

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要旨:整形外科インプラント感染が難治性となる大きな要因の一つに,原因菌によるバイオフィルムの形成が挙げられる。2018年に行われた国際コンセンサス会議ではバイオフィルムのセッションが行われ,バイオフィルムの形成と成熟のプロセスおよび治療に関するコンセンサスがまとめられた。バイオフィルム感染は,インプラントや組織に原因菌が付着することで始まり,急速な菌の増殖とともにバイオフィルムの形成と成熟が行われ,菌の増殖が一定数に達するとともに菌体および菌体外毒素がバイオフィルム外へ放出されることで発症する。バイオフィルム内の菌は浮遊細菌と大きく異なる性質をもつことが明らかとなっており,バイオフィルムと内部の菌の治療には従来抗菌薬の効果判定に使用される最小発育阻止濃度だけではなく,最小バイオフィルム破壊濃度を指標とした抗菌薬の使用が重要である。局所での抗菌薬の除法や抗菌作用をもつ生体材料の使用が,難治性であるバイオフィルム感染の治療における新たな治療方法として期待される。

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要旨:国際コンセンサスに基づいたPJI診断について概説する。診断基準とアルゴリズムに基づく診断を基本とする。すなわち,血液生化学検査,細菌培養,各種関節液検査,病理組織学的診断の総合(スコアリング)による診断を行い,グレーゾーンの未確定症例に関しては何らかの補助的診断法を考慮する必要がある。特に培養陰性例の存在に留意する必要があり,増菌培養などの工夫が重要となる。さらに,核医学画像診断や分子生物学的診断法などの今後のさらなる発展が期待される。

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要旨:人工関節周囲感染(PJI)は,海外におけるレジストレーションでも再手術が必要となる理由の上位に位置している。ひとたび人工関節術後に感染をきたした場合は,患者に繰り返しの手術を強いるだけでなく,入院期間も長期化し,精神的にも経済的にも大きな不利益を与えることになる。また主治医にとっても,人工関節周囲感染患者の治療には慣れておらず,治療のタイミング,抗菌薬の選択,感染の鎮静化,その後の再置換術には難渋する。2018年にInternational Consensus Meeting on Musculoskeletal Infectionがフィラデルフィアで開催され,新たな整形外科感染に関するコンセンサスが報告された。人工関節周囲感染の外科的治療,および抗菌薬を含めた治療については,普段の診療で気になる質問に対するコンセンサスも数多く報告されており今後のPJI治療の参考になれば幸いである。

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要旨:初版の国際コンセンサスを主導されたDr. ParviziとDr. Gehrkeの変わらぬ熱意と惜しみのない努力により,2018年夏に国際コンセンサスの改訂が行われた。改訂版は初版をはるかにしのぐ内容となっており,今後のわれわれのプラクティスに大きな影響を与えるだろう。改訂版の最大の特徴は,特に臨床で問題となるテーマを厳選し,人工関節だけでなく整形外科関連のほぼすべての領域を網羅したことである。世界80カ国以上から800名近い専門家が参加し,650近くのコンセンサスをつくり上げた。脊椎もワーキンググループが形成され,質の高いコンセンサスがつくられた。しかし,限られた時間やマンパワーなどの問題からいくつかの問題点もある。本コンセンサスは大変有用な ‘Best practice guide’ であるが,決して ‘標準治療’ ではない。患者のおかれた状況に応じて適切にご活用いただきたい。

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要旨:骨折関連感染(FRI)が人工関節周囲感染(PJI)と比べて研究が遅れている理由として,FRIの診断基準が存在しなかったことが挙げられる。国際コンセンサス会議を経て2018年にFRIの診断基準が提言されたため,今後は診断基準に沿った質の高い臨床研究が期待される。FRIの予防については,喫煙歴や栄養不良などの患者因子が感染リスクになること,開放骨折においては抗菌薬の早期投与と早期創閉鎖が感染リスクを減らすことはコンセンサスが得られている。FRIの治療については,感染の発症時期と骨折の安定性によってインプラントを抜去すべきかどうかの判断が異なるが,適切なdebridementと抗菌薬投与が重要である。陰圧閉鎖療法は開放骨折に伴う複雑な創傷に対して最終的な軟部組織閉鎖前の7日以内の短期管理に適している。

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要旨:悪性骨腫瘍の手術は手術部位感染発生率が他の整形外科分野の手術と比較して高いことが知られているが,症例数が少ないためエビデンスの構築が困難である。国際コンセンサスにおけるOncology workgroupでは,悪性骨腫瘍患者における手術部位感染に関する30の質問に関するコンセンサスが議論された。他の分野と比較するとエビデンスレベルが低く,今後,疾患特異的なエビデンス構築が必要である。

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要旨:足関節・足部の術後感染に対する治療方針として,人工足関節置換術(TAA)に関しては,関節穿刺による検体の採取と,感受性に合わせた抗菌薬の選択が重要であるが,特異的な診断方法や治療アルゴリズムは存在しないため,人工膝関節置換術(TKA)や人工股関節置換術(THA)など他の人工関節における治療方針を鑑みながら臨床所見と複数の検査結果から総合的に決定する必要がある。TAA以外の感染に対しては,症状の強さや診断時期によって方針が異なってくる。TAAの場合と同様に細菌培養の結果などに合わせた抗菌薬の投与や,外科的debridementが重要である。適切な診断や治療が選択されなかった場合,切断術を余儀なくされることもあるため十分注意が必要である。

Personal View

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2020年東京五輪が近づいてきました。五輪にまつわる大河ドラマに柔道の創始者である嘉納治五郎先生が登場しました。小学校2年時に柔道を始めた私は,子どもの頃から嘉納先生の伝記を繰り返し読んでいました。嘉納先生は,1940年東京五輪(のちに開催権返上)の招致に大きな役割を果たしたほか,兵士を育成するものとされていた体育に国民が励む必要性を説き,大日本体育協会(現・日本スポーツ協会)を創立したことから日本体育の父とも呼ばれています。また,先生は22歳の若さで学習院において教鞭をとり,東京高等師範学校(現・筑波大学),旧制第五高等学校(現・熊本大学)などで通算25年以上校長を務められ,明治時代の教育の振興・発展に寄与されました。

整形外科手術 名人のknow-how

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尺骨神経部分移行術は,腕神経叢麻痺に対する肘屈曲再建として,1994年にOberlinら1)によって初めて報告され,Oberlin法として有名である。尺骨神経の神経線維束1~2本を筋皮神経上腕二頭筋枝に移行する術式である。

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運動器障害は,私たちの健康な生活を脅かす無視できない問題である1)。腱・靱帯組織は運動器を構成する組織の一つであり,細胞外マトリックスが主に1型コラーゲンで構成されている線維組織である2)。腱組織は筋肉と骨をつなぐことでその力の伝達に重要な役割を果たし,靱帯組織は骨と骨をつなぎ,関節に可動性と安定性をもたらす役割をもつ。これらの組織が外傷や変性に伴いその本来の機能を失うと,変形性関節症などの種々の疾患を引き起こし生活の質の低下につながることから,これら組織が良好な再生を得ること,恒常性を維持することは重要な意味をもつ。しかし実際のところ,これら組織は自己修復能力が低く,一旦障害を受けると機械的強度の再獲得は不十分となることもわかっている3)。そのため健常組織への再生を目指す治療を実現させるためには,腱・靱帯組織の恒常性および再生の分子メカニズムをより良く理解し,これを応用する試みが必要である。

スポーツ医学 つれづれ草

「腹悪しき人」の体罰 武藤 芳照
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スポーツ界の体罰や学校現場での体罰,あるいは家庭での親による体罰(虐待)が横行している。かつても体罰は存在していたが,近年の事例は,度を越しているように思う。

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要旨:炭素繊維強化樹脂(CFRP)は,高い強度で剛性を下げられ,優れた耐疲労特性,X線透過性から,金属に代わる骨折治療用具の材料として期待されている。生体適合性に優れたpolyetheretherketone(PEEK)が樹脂材料の主流で,海外ではCFR-PEEK製の骨折治療用具が既に臨床応用されている。本邦でもCFR-PEEK製髄内釘の治験が完了し,本邦初のCFR-PEEK骨折治療用具が臨床応用目前である。

机上の想いのままに

ドライブの効用 西野 仁樹
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閉院してバイト生活になってから,ぽかりと平日に休日がある。人間が未熟なせいか,昔の隠遁者のいう山中閑居を楽しむどころか,街中の閑居を楽しむことや無為の悦楽を味わうこともうまくできない。趣味に生きればいいのかとも思うが,老眼で釣り糸が見えなくなり趣味にしていた渓流釣りも行けない。病気で,蛋白・塩分制限があるため,外食や旅行も限界がある。読書くらいしかできない。

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要旨:Minimally invasive spinal stabilization(MISt)は皮膚切開が小さいだけでなく,open手術よりも筋肉への侵襲が少ない。2005年頃から本邦で使用できるようになり,その適応は腰椎変性疾患だけでなく,感染性脊椎炎,転移性脊椎腫瘍,脊椎骨盤外傷,さらには成人脊柱変形まで施行されてきており,近年急速に広まっている。従来のpercutaneous pedicle screw(PPS)システムはガイドワイヤー越しに中空の椎弓根スクリューを挿入するためガイドワイヤーによるトラブルがあった。2018年から本邦で使用可能になった新しいPPSシステム(VIPER PRIMETM)は,ガイドワイヤーなしで中空の椎弓根スクリューを挿入できるため,術者の心理的負担や手術時間を短縮できる有用なシステムである。

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要旨:高エネルギー外傷による四肢・骨盤・脊椎外傷などの整形外科外傷が,肥満によって影響を受けるかどうかを調べるために当院の高エネルギー外傷例を後ろ向きに検討した。420例の対象を腹囲とBMIの値で分類し,ISS,四肢・骨盤・脊椎外傷数,開放骨折数,多発外傷数,手術施行数,死亡数を比較検討したところ,痩せ型の患者では脊椎外傷が起こりやすい傾向にあったが,肥満患者では外傷の頻度や重症度への影響を認めなかった。肥満患者では外傷が体表所見に反映されにくく診断が遅れることがあるが,高エネルギー外傷においては,肥満患者でも同等以上の頻度,重症度で整形外科外傷をきたすことを念頭に置いておかなければならない。また,一般的に肥満患者の手術加療ではその関連合併症のリスクが上昇するといわれており,肥満患者の高エネルギー外傷では初期対応から,整形外科外傷の可能性を念頭に種々の合併症まで考慮した対応が必要といえる。

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要旨:仙骨を形成する仙椎数および仙骨孔数と,仙骨裂孔上縁高位について調査した。124例を検証し仙椎数が一般的な5椎が97例,6椎が27例存在し,それに伴い仙骨孔が片側に5個の症例も存在した。また,仙骨裂孔上縁高位はS4が多く,より上位のS3である症例も存在していた。個人差があることから腰椎疾患に対する仙骨硬膜外ブロックを施行する際には,硬膜囊末端位置をあらかじめ把握できれば硬膜穿破の危険性を回避でき,より安全に施行できるのではないかと考える。

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要旨:Loeys-Dietz症候群を背景にもつ男児に誘因なく発症した,小児大腿骨頚部不全骨折を経験した。運動制限により4週で股関節痛が消失し,骨癒合を得た。Loeys-Dietz症候群は骨脆弱性を基盤にもつことが多く,同疾患の患児には骨脆弱性骨折の可能性があることを念頭に置き診療にあたるべきである。

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整形・災害外科
63巻3号 (2020年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0387-4095 金原出版

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