臨床婦人科産科 28巻2号 (1974年2月)

特集 分娩管理

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 医学の最近の著しい進歩は医療に細分化専門化の傾向をますます強く要求しており,一面また医学の進歩にこの事実が大きく貢献しており臨床医療の基礎となつているとも考えられよう。一方,最近の公害・薬害などから疫学・統計学が改めて社会的に重視されつつある。私ども臨床家は医療の対患者という個的特性から,ともすれば疫学・臨床統計などを軽視する風潮の存在することも否定できない。私どもの産科領域でも,施設であれ地域であれ国であれ,一集団の医療水準判定のもつとも重要なる尺度というべき母体死亡・周産期死亡率が正しく理解されていない惧れも少くない。

 筆者らは昭和38年来大阪府下における母体死亡実態調査を行ない,きわめて明白と考えられる妊産婦死亡の概念にも臨床的に数多くの疑問のあることを痛感してきた。筆者もまた疫学・統計学を充分理解している自信はなく,その説明には誤りのおそれも否定できないが,実地医家にとつて何となくとりつきにくい統計的事実を母体死亡・周産期死亡について考察しつつ,今回筆者が与えられた主題「母体児死亡の現状とその問題点」にこの面から以下いささか私見を加えて見たい。

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 母子衛生の関心度が時代の要請とともに高まりつつある今日,妊婦の母体合併症を,適切にスクリーニングするにはいかにすれば良いか……。この方式論の検討もまた社会医学的にきわめて重要な課題となつた。われわれは昭利44年以来種々の方式を以つて妊婦ドックを運営してきた。この妊婦ドックは目下のところ成人病ドックのごとき入院方式をとらず外来方式のみであるが,しかし将来は入院方式による妊婦ドックに発展させることも考慮している。現在しいて入院による妊婦ドックといえば予定日超過にさいして胎児胎盤機能を測定する場合と,先天異常判定・胎児成熟度判定にさいして羊水穿刺を施行する場合の入院検査がこれに該当する。また現在は内科に依頼しているが腎バイオプシーも入院せしめたのち検査を行なつている。本文では一応外来で行なう妊婦ドックに限つて記述を進め,経験の一端を参考に供したいと思う。

こんな時どう対処するか

遷延分娩のとりあつかい方 中嶋 晃
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 分娩が遷延したという場合,何時間以上を指すかということは報告者によつて著しい差がある。しかし大よそ20時間以上とするのが妥当のように思われる。これは分娩所要時間の分布曲線から判定されたものではなく,20時間以上となると母児の予後が悪化するということにもとづいて設定されたものである1)

 遷延分娩は器質的,機能的に種々の要因が組み合わさつておこることが多い。しかし一般的に主な原因と考えられるものは,1.微弱陣痛,2.軟産道強靱による子宮口開大不全,3.児頭骨盤不均衡,4.回旋異常,5.胎位胎勢異常などがあり,特に前2者が高率に発生する。そしてこの2者はしばしば合併していることがあり,単独に分離できないことが多い。以下それらの原因別に遷延分娩の取扱いに重点を置いて記述する。

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 わが国の産婦死亡率は欧米の2〜3倍,産婦の出血死は欧米の5〜10倍の多数にのぼるとされている。この彼我の差をちぢめることはできないのだろうか。今日のわが国の産科学における止血法,輸液の種類・技術,薬剤などの客観状況が欧米に比して5倍も10倍もちがうほど劣ることは絶対にない。

 その差は,早目に予防的処置を開始して,安全性を高めようとするか否かの考え方の差にあるように思われる。産科出血の場合,その予後を科学的に判定する的確な方法はない。にもかかわらずわが国ではとかく,安全性を多少犠牲にしても,最小の処置で最大の効果をねらおうとする傾向がなお強すぎるように思われる。この傾向は危険である。そのため患者は出血ショックや脱血死の臨界点近くまで追いやられることになる。

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 産科緊急疾患には,突発的に発症するものが多い。臍帯下垂・脱出も,通常なんらその発症を予告する徴候をみせず,突如として高率に胎児の生命を奪う疾患と見做されている。すべての突発性疾患に共通していい得ることであるが,その本態を把握し,対処する手段を備えれば,本症といえども,相当程度に予後の改善も可能となるもの,といえよう。本症は,いわば,産科監視体制の上にその対処策が存在する疾患である。

 本論文では,臍帯下垂・脱出の本態を示し,その把握の上に立つて,本症に対処する方策を,著者らの所属する教室における臨床症例を加えて,検討したいと思う。

カラーグラフ 臨床家のための病理学・23

卵管の疾患・Ⅱ 滝 一郎
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 卵管の疾患のうち最も重要なものとして炎症性病変を前号て供覧した。今回は卵管妊娠について一考してみたい。子宮外妊娠の95%を占め,産科的要因による母体死亡率の2〜3%にあたる卵管妊娠は,依然として産婦人科臨床上の大きい対象である。その原因として抗生物質などにより姑息的に治療された骨盤炎pelvic inflammationが一役を演じていると考えられている。

 卵管妊娠は,①卵管間質部,②卵管峡部,③卵管膨大部,④卵管采部のいずれにでも発生するが,経験的には,④が最も多く,①が最も少い。妊娠成立の初期には,絨毛細胞が増殖してHCGを分泌し,妊娠黄体が発育してプロゲステロンの分泌も高まり,子宮体の増大,軟化,子宮内膜の脱落膜化など,正規の妊娠初期と同様な現象が起こるが,妊娠3ヵ月の終りまでに大部分が中絶する。

指標

性病の現況と未来 水間 圭祐
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 性病の病原微生物は衆知の通り,Treponemapallidum (スピロヘータ属)(以下TPと略)Neisseria gonorrhoeae (双球菌)(以下NGと略),Hemophilus ducreyi,およびMiyagawanella lym—phogranulomatosisと4種で形態的にも全く異るとともに,それぞれ特異的な性格をもつている微生物である。近年,感染症全体は,社会環境の変化,治療医学における種々な抗生物質の開発により,その様相が大きく変貌をとげてきたことは多くの報告に見られるとおりである。このように変化した生態圏の中での感染のメカニズムをより深く追求することと,それによつて人類の蒙る種々な影響を疫学的に研究することは今日なお大きな意義をもつものといわなければならない。

 性病が直接個人の生命に危険を及ぼす疾患ではなく,社会的疾患のために現在世界各国の性病対策は治療よりは予防に,医学よりは行政に重点がおかれている傾向が強い。一面それぞれの国により程度の差こそあれ,性病患者が背徳的行為者としてみられることは各国に共通しており,それが純医学的な立場からの治療,予防を困難にしている事実も無視できない点でもある。

臨床メモ

帝王切開後の分娩 橋口 精範
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 近年,抗生物質の出現,麻酔法の進歩や,種々の社会的な背景などにより,帝王切開の率が増加し,その後の分娩が再帝王切開となることもみられる。帝王切開には自らその適応というべきものがあるので,適応をえらび,その上での再帝王切開も止むをえないことと思う。

 帝王切開後の分娩を,自然分娩に導くことに遭遇することがあるが,ひとつの統計的な数字がここにあるのでながめることにする。

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 胎児血であれ成人血であれ,赤血球の持つ第一の機能は酸素の運搬にある。ところが,胎児赤血球と成人赤血球との間には相違があり,酸素との親和性を見ても前者が高い。ヘモグロビンの透析実験では胎児血も成人血も酸素親和能が等しいので,この差は別の因子によるものと考えられ,その因子の一つとして有機燐酸塩,ことに2,3—DPGが有力な存在と考えられるに至つた。すなわち,ヘモグロビンは酸素を末梢に運ぶだけでなく,そこで酸素を放出せねばならず,そのためには2,3—DPGの存在が必要となる。ところが胎児ヘモグロビンの2,3—DPGに対する親和性は成人のそれに比して低いこのことは母体ヘモグロビンに酸素供給源をあおいでいる子宮内環境では合理的でも,いつたん肺呼吸の開始された子宮外環境での低酸素血状態では不利な条件となる。

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 【質問】Disseminated intravascular coagulation時にお   けるfibrinogen, heparinの具体的投与法および  oveheparinizationの目安と拮抗Protamineの投   与法についてできるだけ具体的にお教え下さい。

【解答】

 1.ヘパリンの投与法

 Disseminated intravascular coa—gulation (以下DICと略)の治療にあたつて,抗凝固剤であるヘパリンを使用することは,理論的にも当を得たことである。しかしDICの場合,特に産科領域では,胎盤剥離による大きな創面の形成が予想される場合や,すでに剥離したあとなどでは,ヘパリンの使用によつて,かえつて出血を増加させないだろうかという心配がある。また,一方,(DICが終結した結果としての)消費性凝固障害を生じている例に対しては,ヘパリンの使用は,大きな効果を期待はできない。

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 卵管は単なる卵巣と子宮との連絡路のみでなく,機能的な役割を果し,この卵管環境が受精,受精卵の初期発生に重大な影響を持つていることはいうまでもない。しかし,実際問題として,卵管にどのように病理組織学的な変化があろうと,卵管の疎通性がまず回復されなければ妊娠の可能性を得ることができない。完全卵管閉塞症について,人工卵管,他人の正常卵管移植,体外授精などが研究されてはいるが,未だ臨床応用の段階でないのが現状である。現実の問題として,卵管閉塞症に対して,あるべき卵管を,うまく利用して妊娠の可能性を作り出すことにかかつている。

 卵管形成術に血管縫合器(中山式)(図1)を応用して妊娠に成功,成熟生児を得ることができた。この症例を報告すると同時に,検討を加えてみたので報告する。

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 制癌剤の動脈内注入法(Intra-arterial infusion the—rapy以下動注法と略す)は1950年にKlopp1)が10例の重症悪性腫瘍患者に動脈内ヘポリエチレン管を挿入してその分布領域である病巣部へ直接Nitrogen mustardを投与し,腫瘍の縮少を認めたと報告したのに始まる。わが国においては1956年白羽16)によるNitrominおよびMMCを用いた報告が最初であり,1960年Sullivanら2)は灌流用ポンプを用いて持続動注法を行ない,同時に拮抗剤Citrovorum factor (Leucovorin)を筋注し副作用の軽減をはかるとともに局所の治療効果を上げた。その後,動注法は技術的な工夫や薬剤の開発,さらに適応の拡大などによつて各科領域に広く用いられるようになつてきた。

 われわれは頸癌進行例に対して最近梅沢によつて開発され扁平上皮癌に特異的に効果のあるといわれるBleomycinの内腸骨動脈内注入法を行ない若干の知見を得ているが,ここではわれわれの動注法の手技とその問題点について述べる。

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子宮頸癌の根治手術においては,術式の広汎性のために必然的に膀胱麻痺が起こり,これは生命を救う代償として不可避的なものと考えられていた。小林隆は術式のこの矛盾に対して積極的な解決法を試み,骨盤神経の温存法を発表し,この方法が5年治癒成績に影響しないことを報告した1〜4)。その後さらに神経根幹部のみでなく,骨盤神経が直腸側に達した後,旁腟結合織を通つて膀胱壁に分布する経路を追求して,この末梢部分も分離保存する方法が発表されている3〜10)。(小林,坂元,松沢)

 著者らは骨盤神経の保存のためには,これを術中に染色すれば一層明確になるものと考えていたが,たまたま文献により外科では胃切除の際に,迷走神経をleuco—methylene blue (以下LMB)で染色すれば,これを容易に確認できることを知り11),1972年7月より広汎全摘に応用することを試みた。広汎全摘で神経の染色に応用したのは,許と小玉12)の報告があるが臨床成績は示されていない。1973年著者らと五十嵐は各々別個に,この染色法の臨床成績を同一学会で発表した15)

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 Pincusにより開発されたEnavidが1961年からアメリカで使用され始めてから,合成gestagenによる避妊の研究は各方面で検討されるようになつた。その結果,現在では30数種類におよぶいろいろなステロイド避妊薬が開発されたが,それに伴いこれら経口避妊薬の副作用による影響も強調されるようになり,一時は大きな社会間題として各方面で論議の対象となつた。しかし,それにもかかわらず世界的な皺勢としては,ステロイド避妊薬の使用者は依然として多く,副作用の問題提起によりさらに新しい副作用の少い経口避妊薬の開発が促進された結果,世界的には経口避妊薬の使用者が減少しているという報告はない。それにもまして,世界人口の増加により将来おこるであろう種々の社会問題を防止するため,経口避妊薬の開発を積極的に行ない,普及させようという意見が有力である。

 最近は副作用の点から新しい型の経口避妊薬が開発されているが,効果の確実性の面からみると未だ明確な答が出ていないのが現状である。最近われわれは,SC−11800M.E.(微量のethynodiol acdateならびに同剤とethinyl estradiolの合剤よりできている)を例数は少いが比較的長期に亘り経口避妊薬として用い,また,月経周期異常の治療にも応用したので,それらの成績をも加え,mini-pillについての考按を行なつた。

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 ネオマイゾン(チオフェニコール)は図1に示すような構造式を有するクロラムフェニコールの誘導体で塩酸アミノ酢酸チアソフェニコールの注射液である。

 チオフェニコールの抗菌力はクロラムフェニコールにほぼ似た抗菌力を示し,一方クロラムフェニコールほど容易に体内で不活性化されずに尿中または胆汁中に排泄され,尿中または胆汁内濃度が高くかつ持続的であるため,呼吸器,胆嚢,尿路感染に有効であるとされている1)。その抗菌力はブドウ球菌,レンサ球菌,ミクロコックス,大腸菌,赤痢菌,パラチフス菌,変形菌,クレブシェラ,嫌気性菌やリケッチアにすぐれ,かつ耐性菌を生じ難いといわれる,ネオマイゾンG注はきわめて溶けやすく,pH7以下の溶液に安定して溶解し,また筋注,静注いずれも可能である。

基本情報

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臨床婦人科産科
28巻2号 (1974年2月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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