臨床婦人科産科 28巻3号 (1974年3月)

特集 新生児の観察法

新生児観察の要点 島田 信宏
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I.呼吸障害のある新生児

 呼吸障害のある新生児,未熟児を観察する場合の要点をまとめると次のようになる。

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 新生児の成熟度判定法については,以前から内外に多数の報告がみられるが,そのいずれも一長一短あり,結局は生下時体重と胎児期間を主として,爪,性器,皮膚などの所見や生活力を附記して,臨床上の評価とされている。このような評価法が実用され普及している理由は,新生児の生死または脳障害などの予後が未熟度の高いほど悪いので,その予後判断のための一つの評価方法としてである。

 ところが体重だけで成熟度を判定すると,小がらでやせている児は一律に未熟とされてしまう不合理があり,これに在胎期間を加えて判定することによつて全体としてはかなり予後と一致する評価が可能となるが,なお実際に臨床で評価をしたい場合の個々の症例についてはこれだけでは不十分であり,ここに別な評価法が多数考えられた理由がある。

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I.新生児仮死の評価(Apgarスコアを中心に)

 ごく単純な観察では,新生児仮死は児娩出後の無呼吸状態であり,これが初期条件と受けとられがちであるが,通常その根底には脳中枢の抑制や未熟,諸臓器の障害や不全が存在するのであるから,これらの異常をもつとも的確に表現し,かつ新生児の予後推測も可能で,さらには仮死蘇生法の選択にも役立つような評価法を施行することが臨床的に有用である。

 古くから行なわれる第1度仮死(青色仮死,軽症仮死),第2度仮死(白色仮死,重症仮死)の分類法は,正常新生児を含めて3段階に分類する方法であり,各段階において,呼吸,反応,皮膚色,筋緊張,心拍動その他の徴候がすべて相関し,同一の程度に出現するならば的確な分類が可能となるが,各徴候の出現に不均一さがあると判定は主観的になり,的確さを欠くようになる。現実にはむしろ後者の場面が多いのではないかと思われ,この点から,また近年の医学データ定量化の傾向から,Apgarスコア(表1)2)のように各徴候について点数を総合して判定に供する方法が普及するに至つたものと考える。

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 胎生期における呼吸はまつたく母体に従属的であり,循環器系が胎児の生命維持のための主な原動力となつていたが,分娩を境に呼吸器系と循環器系はそれぞれが独立し,激変する新生児期の適応過程に耐え,その後の発育成長を維持しなければならない。

 その意味では新生児における呼吸循環系の確立は,人の生涯においてもつとも大きな試練の時期であるということも可能であり,この時期の呼吸循環系の適応異常の多くが新生児死亡に直接つながるものでもある。

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 近年乳児死亡ならびに出生率がともに低下するに従い,以前不治の疾患とされていた先天異常症に対する予防,治療が重視されるにいたつた。

 先天異常は先天奇形,染色体異常,先天性代謝異常症の3群に分けられるが,いずれについても早期発見が重要視されている。先天奇形の治療は小児外科の進歩によつて著しく向上したが,この場合早期発見と適切な治療時期が外科治療成績を左右している。また先天奇形や染色体異常は早期発見によつて早期にその予後を予知し,適切な対策や療育を行なうことができる。これらの異常の早期発見には小奇形(minor anomaly)(表1)の注意深い観察が必要である1,2)。小奇形は胎生早期の器官形成期になんらかの異常が作用した指標であり,小奇形が2つあるときはなんらかの意味で異常があり,3つ以上ある時は1つの大奇形が存在する可能性があるといわれ,また染色体異常には特徴的な小奇形が多数合併している3〜7)。さらに精薄患者にも小奇形を合併する率が高く,特異な外表異常を示す症候群も多く知られている。新生児の診察には,まず,この外表奇形の有無に注意しなければならないが,このような外表奇形の意義あるいはそれが集合してどのような症候群を形成しているかについての理解には,先天奇形,染色体異常についてテキストでその特徴を理解しておく必要がある。

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 新生児医療の進歩は年々著しいものがある。出生体重1000g前後の極小未熟児が救命されるようになり,その予後も決して悲観的ではなくなつてきている。また呼吸障害に対しては,人工換気や,持続陽圧呼吸がとり入れられ,今や話題の中心となつている。このような特殊性をもつた高度の新生児医療を行なうためには,どうしてもNICUが必要となり,NICUをもつ施設が多くなつてきている。これにともない新生児用の各種モニターに対する期待も大きく,その発達も著しい。われわれは現在用いられている新生児用モニターを中心にその解説を試みた。

カラーグラフ 臨床家のための病理学・24

卵管の疾患・Ⅲ 滝 一郎
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 卵管の腫瘍には,良性のものとして筋腫,線維腫を始め諸種が記載されているがきわめて稀である。同じく稀であるが悪性腫瘍の方が多い。悪性腫瘍では転移性,連続性に蔓延した続発性癌が多い。原発性卵管癌は少く,性器悪性腫瘍の1〜0.1%に当る。

 原発性卵管癌は中年以降の婦人に発生し,一側性あるいは両側性で,卵管の外1/2部に多く,卵管は腫瘍により閉塞され,腫大して,ソーセージ様になり,卵管溜膿腫に似る。症状として水様性血性帯下をみることがあるが,かなり進行して下腹痛,腰痛などを訴え,腫瘤が触知されるまで気づかれないことが多い。進行した状態でも,しばしば卵巣腫瘍などと誤診される。細胞診(腟プール,頸管,子宮腔内吸引)で癌細胞が発見され,生検は陰性である場合には,卵管(卵巣)の腫瘍を疑つて精査するのがよい。

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 癌の的確な予防法がない現在では,早期発見,早期治療がその治癒成績をあげる近道であることはいうまでもない。集団検診は一見健常者のなかから無自覚,無症状の早期癌を発見するための積極的な手段である。無症状の癌の発見のためには必ずしも集団検診によらなければならないわけではなく,自発的な健康診断を定期的に行なうことができればよいのであるが,現時点ではこのような人はきわめて少ない。したがつて,啓蒙の意味を含めて集団検診の果たす役割は現時点でははなはだ大きい。しかしながら,癌の集団検診を行なうためには,その臓器の早期癌に対して能率的でしかも正確な篩別法をわれわれが持つていることが必要である。そしてまた,この集団検診を社会的癌対策としての立場から考えるときは,その臓器の癌がある程度以上の発生頻度をもつていることも一つの条件となろう。このような観点から考えると婦人科領域の悪性腫瘍では子宮頸癌がその条件を充たしているのでこれに対する集団検診が本邦においても十数年前から試みられており,着々とその成果をあげつつある。その他の性器癌も殊に子宮体癌,卵巣癌など近年その頻度が増加しつつあるといわれ,これらの癌に対する集団検診についても検討の要があるが,今後の問題に属するので,今回は主として子宮頸癌の集団検診について,その現状とこれを推進する上での2〜3の問題点について述べたい。

私の治療

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 分娩時のCPDについては,分娩を取扱う産科医にとつては,一大関心事である。すなわち,CPDについては,成書によれば,Seitz法陽性,X線計測,試験分娩(その停止の限界は,初産,経産を問わず,陣痛が整調であつて,子宮口は全開大し破水後も児頭が固定せず,また児頭が固定してもその後,児頭が骨盤の同一箇所から下降停止が2時間を超える状態とす…(鈴村))などと記載されているが,実際問題として,臨床上,産道深く児頭の嵌入してのCPDの帝切に苦労を経験しない産科医はいないと思う。換言すれば,やつと児頭固定,陣痛が正調であるが,それ以後の児頭の下行停止の場合の帝切は,子宮体部の帝切も考えられるが,次回妊娠,分娩,手術切創の延長なども考え,頸部横切開を選びたいのは人情である。その場合,子宮に切創を加えてから助産婦などに,経腟的に押し上げさせ術者の手掌で深く嵌入した児頭を静かに掬い上げるようにしても,その子宮切創の自然的な延長により思わぬ出血,児頭娩出の困難さと当該部位の縫合時の困難さを経験することが,しばしばである。かかる場合,筆者は術者の1人が,子宮頸部切開直前に経腟的に児頭を手術野直下まで挙上させ(いくら下つていても比較的容易に挙上できる)挙上した児頭が,うすく伸展された子宮頸部の直下に触れる箇所に充分注意して切開を加え,静かに娩出させる。

臨床メモ

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 妊娠末期婦人の航空機による旅行についてはその安全性に関して良く質問を受けるところであり,その関心は専ら陣痛が誘発されることへの危険性にあるようである。しかし,最近のように航空機による旅行が一般化すると妊娠初期についても無関心でいられないのではないかと思われる。そこでCameron (AerospaceMed. 44, 552, 1973)の「スチュワーデスは妊娠初期に乗務を続けて良いか?」と題する論文の内容を紹介しておく。

 ここで航空機というのは当然のことながら普通のジェット旅客機を意味するが,まず騒音と振動は問題ないと考えられる。急速な上昇または下降飛行の影響は過激な運動と比べれば大したことはない。湿度は概して乾燥気味に保たれているので脱水に注意する。しかし利尿剤が投与されていてもそれを控えるほどではない。食事はガスの発生し難いものが良いが,腸管内のガスが胎芽にとくに悪影響をおよぼすとは思えない。乗客の場合は下肢へのうつ血を防ぐため1時間毎に歩き廻るのが良い。

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 絨毛性腫瘍に対する治療剤としてMethotrexate (MTX)とActinomycin D (Act D)とが開発されて以来,本症に対する治療法は一変した1〜6)。今日絨毛上皮腫はあらゆるがんの中で,curative chemotherapyの可能な最も代表的な疾患としてその地位を不動のものにしている。

 このように有効な薬剤の効果は,低単位HCG測定法などの進歩による早期診断法,治療効果のcontrol,予後のfollow up法などの確立と相まつて一層たかめられていることは論をまたない7)

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 子宮内容除去術はほとんどが婦人科外来において手軽に行なわれている。この手術に対する麻酔法には,局所麻酔法,吸入麻酔法,静脈麻酔法があり,静脈麻酔が最も好んで用いられている。これに使用される静脈麻酔薬として必要な条件は,呼吸循環系に抑制がないこと,十分な麻酔深度が得られること,覚醒がすみやかなこと,術中,術後の合併症および副作用が少ないことなどである。従来よりthioburbiturates (Isozol®, Ravonal®)が広く使用されている1)が,呼吸循環系の抑制,覚醒後の宿酔が強いなどの欠点を有している。近年,その欠点を補うべく新しい静脈麻酔薬の開発が行なわれた結果,非バルビタール系の麻酔薬としてketamine HCI2),engenol誘導体propanidid3)4)2種のpregnandioneからなるステロイド麻酔薬CT 1341(Althesin®)5)が開発され,実用されている。またneuroleptanalgesia6)を使用した報告もある。われわれは今回,CT 1341, thia—mylal, propanididを同手術に使用し,上述した必要な条件につき比較検討したので報告する。

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 【質問】妊娠末期における軽い下肢の浮腫は,蛋白尿,高血圧所見のない場合,治療を要するか否か,お教え下さい。

【解答】

 妊娠末期には,浮腫は最も多くみられる徴候で,古くは「妊娠すれば"むくみ"の出るのはあたりまえ」といわれていたことは,周知の通りであります。その後,妊婦の健康管理の重要性が強調されるにつれ,浮腫を妊娠中毒症の徴候として重視すべきであると考えられるようになり,日本産科婦人科学会妊娠中毒症委員会の妊娠中毒症の分類においても,このような立場に立つております。また,潜在的な水・電解質の蓄積を知るため,体重増加に注目されるようになり,また下肢に圧痕を生ずる浮腫の有無よりも,体重の方が全身の状態を反映しているという考えから,妊娠末期に1週間500gを越える体重増加をみる場合は,病的とすべきであるとの主張も多くなされるようになりました。

基本情報

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臨床婦人科産科
28巻3号 (1974年3月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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