理学療法と作業療法 20巻11号 (1986年11月)

特集 痴呆を合併する患者の理学療法・作業療法

痴呆の病態とケア 今井 幸充
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 Ⅰ.はじめに

 高齢化社会の到来に伴い,わが国の65歳以上の老人が総人口に占める割合は増加し,昭和59年では9.9%(1,194万人)であったのに対して,15年後の21世紀には約15%に達するとされている.このような状況の中で,高齢者の身体ならびに精神老化がもたらす種々の疾患は,すでにさまざまな影響を社会や家庭に及ぼし,重要な社会問題となってきた.中でも老年期痴呆は,医療および福祉対策の上で最も困難な問題を提起している.痴呆は多くの原因疾患によってもたらされるが,アルツハイマー型痴呆は,その病因は明らかでなく,治療も対症療法と日常の介護が主体とたることからその対応に苦慮している.しかしながら現状においては,痴呆老人の適切な治療や介護指導を行っている施設は痴呆老人の全体数からすると少ないといえよう.

 痴呆老人に携わる者にとって,老人への理解と適切な対応が今後ますます要求される.

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はじめに

 痴呆老人を対象としたデイホーム事業が,昭和60年9月より中野区の委託により当施設,特別養護老人ホーム(慈生会ベタニアホーム)によって,全国で初めて開始された.

 このデイホーム事業の目的は,「痴呆性老人や,家に引きこもりがちの虚弱老人を,定期的に昼間だけ介護するものである.特に問題行動を伴う痴呆性老人を受け入れ,集団生活による趣味,生きがい活動を行なう.また家族の身体的,精神的な負担を軽減して,在宅での介護を継続する一助とする.」(中野区老人福祉課発行,痴呆性老人等デイホーム事業利用の案内より)というものである.以上の目的によりデイホーム事業が一年近く経過した.そして近年,痴呆老人の介護が社会問題として大きくなりつつある中で,今回,当ホームで扱った痴呆老人(これより本稿ではデイホーム老人と呼ぶ)と,在宅により痴呆老人を介護する家族の状態について報告する.

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はじめに

 今日の高齢化社会に於て,あらゆる問題に関して老人を無視することはできない.リハビリテーションの分野も例外ではない.理学療法を施行する上で,老人の抱えている問題も極めて大きい.一般に,「老人」と言っただけで,社会の第一線を退いたという印象が強く,就労の場は制限され,社会や家族での役割も過少評価され,影の薄い存在に見られがちである.まして身体障害,さらに痴呆などの精神的障害を合併した場合は,これに輪をかけて過大視され,社会の隅に追いやられている.

 老人福祉法の下,入所施設は漸増しつつある.それにも増して核家族の急増・社会全体の価値感の変容のため,家族による介護が最良であるものの今後は期待し難く,老人は行き場を失い途方に暮れている感がある.われわれセラピストはしばしば老人の退院後の生活環境として,何処を目標設定としたらよいのか困惑することが少なくない.

 本稿では,痴呆に対する直接的アプローチではなく,痴呆状態を呈する障害老人へのアプローチとして,われわれが一般病院という場で,日頃留意している点について述べ,最後に一症例を示して締め括りとしたい.

痴呆老人に対する作業療法 寺内 智子
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 Ⅰ.はじめに

 知的機能低下を本態とする痴呆をもつ老人は,長谷川らの調査によると65歳以以上人口の4~5%にみられ1),高齢となるに従い増加し,人口の高齢化が進むと全体に占める痴呆老人の割合も高くなると考えられることや,介護負担の大きいこと,痴呆の治療法が確立していないことなどから社会問題としてもとりあげられる昨今である2).このため,痴呆の原因の究明,治療法の確立,援助のネットワーク作りなどが急がれている.また,老人保健法が改正され,地域での老人に対するリハビリテーションのニードが高まっている.このような中で痴呆老人の作業療法とは,どのような考え方で,どのように進めてゆけばよいか,まだまだ試行錯誤の段階であるが当院で行っているアプローチについて現状報告を行う.

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はじめに

 横浜市が訪問看護婦を委嘱し,保健所を拠点としてねたきり老人の訪問看護を始めたのは昭和50年である.訪問看護事例の中で“ぼけ”に注目し始めたのは6~7年前で昭和57年の初回訪問患者でぼけ症状を呈する者は36.3%あった.その割合は現在もあまり変わらない.初回訪問後継続訪問が必要な者に対し訪問看護を行って来たが,その時点では,ねたきり老人とその介護者の問題が主で,ぼけの介護としては前面に出て来なかった.いわゆる“ぼけ”が問題となり相談事例が多くなって来たのは,昭和57年構浜市が「老人健康実態調査」を行ったこと,「家族の会」などが県下に発足して社会的関心が高まって来たこと等に加え,昭和58年老人保健事業の一つとして「老人精神衛生相談(ぼけ相談)」が行われるようになってからである.ぼけ相談者は年々増えている.筆者等が体験した“ぼけ相談”および訪問看護を通して,ぼけ老人の看護について,介護者への援助の視点から述べてみたい.

とびら

一つの反省 斎藤 英彦
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 最近中学生や高校生の自殺の多いのが気になる.その原因の一つがいじめの時もあるが世の中がいやになったとか,生きていても仕方がない,といったことが原因であたら若い命を自らの手で断つのには納得のゆかないものを感じる.

 悩みごとや人生について,本当に話し合える家族や先生や,友達がおらず,自分自身の考え方や意向とは関係なく強い立場の人の意向に流される.そのための悲しい結果ではなかろうか.

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はじめに

 手は極めて精妙な運動器官であるとともに鋭敏な感覚器官でもあり,運動機能,知覚機能のいずれが障害されても手指の機能は著しく低下し,時には廃用手に等しい状態に陥ることもある.本稿では骨関節外傷,腱損傷,リウマチによる変形と機能障害について概説し,末梢神経損傷については絞扼性神経障害を主に解説する.この他,手の外科での代表的疾患であるKienbock病,Dupuytren拘縮,Volkmann拘縮についてもその病態を中心に述べ,これらの疾患によってもたらされる手の障害について概説する.

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はじめに

 図1は8年前に調査した際に全国的に進路を大別したものである.これによると生徒が3年生になって自分の進路を「選択し決定」できる者が全国的には70%,東京都の場合は50%で,残りの者は「選択し決定」すべき進路がなかったことになる.その後の状況は正確に把握できないが後者に当たる生徒が増加していることは衆目の一致するところである.

 今回の調査は,過去3カ年間の東京都内の各校,中部地方のA校,関東地方のB校,東北地方のC校の進路状況である(表1).前回の調査と関連させて,おおまかではあるが全国的な傾向がうかがえる対象校と考えられたからである.そして,国際障害者年,身体障害者雇用促進法改正以前の53年(1978年)と比較することによって,学校現場で現在抱えている問題と今後の課題が整理されればと考える.資料は東京都肢体不自由養護学校進路指導委員会でまとめたものである.

雑誌レビュー

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 Ⅰ.はじめに

 1985年版British Journal of Occupational Therapy(BJOT:第48巻)を概観してみると,内容構成に関しては毎年のそれと大きな変化は見あたらない.

 このまとめでは論文のみを取り上げた.その論文は視点のあて方によっては様々な分類が可能だと思われるが,そこに伴われる矛盾や困難に斟酌を加えていただき,とりあえず56題の全論文を,身体障害(7題),精神障害(11題),小児・発達障害(6題),心理・社会・職業(11題),老人(6題),研究(15題)の各項目に分類した.さらにその中で,原題とその邦訳,掲載号数と頁数を発行順に列挙し,後にまとめて簡単な紹介を掲げてある.ただし邦訳後の*印は,本誌の『文献抄録』ですでに紹介された論文であり,ここではその解説を省略していることを予め断わっておく.

プログレス

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 わが国に補聴器が輸入されたのは1911年で,当時は電話器と同じ構造であった.その後,真空管,トランジスタを経て現在ではICが使われるようになり,小形化の進歩は著しい.形は箱形から耳掛形,挿耳形となりさらに外耳道に入るカナル形もつくられ,装用感の改善と共に見えにくい補聴器となった.カナル形は小形のために出力音圧が他に比し小さく,軽度あるいは中等度難聴に適応が限られる.

 高齢者に多い感音難聴では,単に周波数別の音の感度が低下しているだけでなく,内耳で音波を神経興奮に変換するときに,毛細胞障害によるひずみが加わるので,ことばの明瞭さが低下する.眼鏡と補聴器がよく比較されるが,眼鏡はレンズ系の変化を物理的に測定し補正すれば,光を神経興奮に変換する感覚細胞は正常であるから,眼鏡をかければ直ちに正常に見える.感音難聴は感覚細胞の障害であるから,補聴器で正常にきこえるようにはならない.内耳で生ずるひずみを改善するような補聴器はまだできていない.しかし現在の補聴器でも種々の特性のものがあり,調整機構もあるので,聴力と補聴器の特性を関連させてフィッティング方法を工夫すれば,うるさいばかりでよく聞こえないという不評を改善することはできる.

インタビュー PT・OTの世界

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<10数年前,医療や福祉的環境にあまり触れる機会のなかった三好さんが老人に興味を持たれたのは何故>

 三好 まったくの偶然です.私の家は核家族で,老人ホームに入る前は,老人になると人間が丸くなって皆と協調しながら静かな余生をおくっているなどと思ってましたが,老人ホームの老人達をみてると,皆,生き生きとして,個性的で,自己主張の強い人がいたり,わがままの人がいたり,女性職員にラブレターを出す人がいたりとイメージがすっかり崩れてしまって,毎日がドラマチックで楽しかったです.それまで,職場を何回か変えていましたが,一番自分にピッタリ来まして.そのホームの姿勢も良かったのでしょうね.

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 昭和61年度政府予算案は,昨年暮12月23日に行われた大蔵省原案の臨時閣議で了承され,12月28日の閣議にて正式に決定された.

 国の一般会計予算は,54兆886億円(うち一般歳出32兆842億円)で対前年比(3.0%)増となり,これに比べ厚生省所管予算は,総額9兆7,721億円と,前年度より約2,700億円(2.8%)増にとどまることとなった.

 これは,昭和57年度以後5年続きの3%以下の伸び率であり,10兆円予算規模の一歩手前で,国家予算の伸び率よりも下まわり,国家予算に占める割り合いも20%を割り,18%以下に下がり始めている.この結果,身体障害者関係予算は,906億円と前年度に比べ約48億円の減額予算となっている.

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はじめに

 脊髄損傷患者の痙性は,患者だけでなく我々医療チームのメンバーにとっても全く頭痛の種であることは,誰でも経験していることだと思う.筆者はこの痙性を有する患者と取り組んで以来,30年以上になるが,その間に筆者なりの治療法と技術を編み出した.しかし,それは非常に長い時間と忍耐を要し,その結果は必ずしも満足できるものとは言いきれなかった.

 近年になってこの筆者の手技を電気刺激に切り替え,低周波をはじめ数種の電気治療を試みたが,いずれも皮膚への悪影響および痙性の亢進が優先し,期待した効果は見られなかった.ところが,この電気刺激を補正単相性低インピーダンス電流(図1)で治療することにより,顕著な効果を得ることができたので,ここに報告する.

 この研究は,過去2年にわたり非常に痙性の強い脊髄損傷患者を対象とし,19カ国の32名に治療を行った.患者の年齢は21歳から73歳,発症経過は6カ月より45年を経過したもの,障害の分類は表1に示す通りである.

 これらの患者達は,いずれも過去に於いてストークマンデビル病院をはじめ,英国内の脊髄損傷専門病院で6カ月から1年以上にわたりあらゆる治療を受けたにも拘らず,痙性が強くてADLの障害を来していた患者達である.これに用いた器械は,英国MBI社の電子筋肉運動器のニュータイプとそれに付随のポータブルである`図2).

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文献抄録

編集後記 松村 秩
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 癌の問題は,医学的解明が進み,社会対策が整備され,癌死亡率も減少してきた.

 高齢化社会が成熟する21世紀には,老年期痴呆は人類にとって医療上の最重要課題となるだろう.

基本情報

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理学療法と作業療法
20巻11号 (1986年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0386-9849 医学書院

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