看護学雑誌 67巻3号 (2003年3月)

特集 発生リスクをみきわめる! 褥瘡予防の知恵とワザ

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褥瘡はなぜできるのか

 今日まで褥瘡のできる原因として教科書的には「圧迫×時間」といわれていたが,これは不十分でありどちらかというと間違いである.本来は「応力(圧縮応力,せん断応力,引張り応力)×時間×頻度」が正しい.

褥瘡発生の直接の原因

褥瘡と応力(図1)1)

 生体内における力は応力として表わされるが,脊柱を持った人体が仰臥位となると,組織内における引張り応力,圧縮応力,せん断応力(以下,ずれ力)の3つの応力が複雑に複合して組織内の血流不全状態を引き起こして,褥瘡を発症させる.

 生体外面の皮膚とマットレスの間には表面接触圧がかかるが,円柱状(骨)の直下では圧が高く,それから離れた部位では低くなる.

 生体外面表皮部とマットレスの間に摩擦力が働く際に,それが皮膚表層に集中すると水疱を形成しステージⅡの褥瘡を引き起こす.摩擦力がより組織の内部に影響を及ぼすと「ずれ力」となり,荷重も加わって深層の褥瘡を悪化させたり,ポケット形成を引き起こす.

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はじめに

 集中治療を受ける患者は,循環動態不安定,意識レベル低下,栄養状態不良など全身状態が悪く,容易に褥瘡が発生,悪化しやすい状態にある.以前は救命処置が優先されることが多く,褥瘡予防に対する処置が十分にできず,褥瘡が発生してしまうケースが多かった.しかし,現在は早期に危険性を判断し,エビデンスに基づいたケアを行なうことで,褥瘡発生を回避することができるようになってきている.当院でも2002(平成14)年度診療報酬改定での褥瘡対策未実施減算に伴い,2001(平成13)年度よりスキンケア委員会が発足し,褥瘡予防に取り組んでいる.以下,当院での褥瘡予防の実際を紹介する.

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脊髄損傷患者の褥瘡の特徴

 脊髄損傷患者は損傷部位により知覚運動麻痺のレベルは異なるが,麻痺領域は皮膚の血行障害や筋萎縮を起こすことが多く,皮下組織は薄く脆弱になる.

 脊髄損傷患者の多くは,車椅子を使用して日常生活の自立を獲得する.1日の大半を車椅子上の同一体位で活動すると,上半身の圧力が坐骨部に集中しやすく十分な除圧が行なわれないと褥瘡発生の原因となる.なかには脊椎の湾曲や変形により坐骨の一方に圧の偏りがみられることもある.また,トランスファー時に殿部でずりながら移動したり車椅子上で体の安定を得るために殿部を前にずらす,いわゆる「仙骨座り」になり,皮下組織のズレや皮膚の摩擦が生じることも多い.これは尾骨部や仙骨部の褥瘡発生の原因にもなる.

 さらに脊髄損傷患者は知覚障害があるため,褥瘡に気づいた時には深く難治性であることが多く,なかには敗血症をきたし生命にかかわることもある.

 このように脊髄損傷患者の褥瘡は,通常発生する状況とは大きく異なり,社会復帰後の車椅子生活自体がリスクとなる.つまり,その活動方法の特性から,生涯にわたり常に褥瘡発生に注意を払いながら生活しなければならないという特徴がある.

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はじめに

 当院は666床,平均年齢80歳,平均要介護度4,平均在院日数は1003日の患者状況にある.褥瘡のある患者は約4%,そのうち院内での発生率は2%であり,難治例では入院時すでに発症しているケースが多い.1995年に医師と看護師からなる褥瘡委員会(各病棟より委員が参加)を設置し,当時よりアルゴリズムから診療計画書を作成していた.2002年10月の診療報酬改定による褥瘡対策未実施減算の新設に対応してそれらを一部修正し(図1,2)対策・実施にあたっている.

 褥瘡発生時・悪化時・治癒時はこの診療計画書を褥瘡委員会に届け出ることになっている.なお,褥瘡対策に関する診療計画書とケアプランの関連は,診療計画書No.1(図1)から必要なケア項目を選び,さらに個々の特性に応じた具体策を立案するようにしている.また,この用紙はすべて,褥瘡委員会で管理・検討され,難治事例についてはケア・アドバイスが病棟に戻される体制をとっている.

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はじめに

 褥瘡発生は仙骨部にもっとも多く,ブレーデンスケールでも表わされるように,寝たきり患者にリスクが高いとされている1).そのため,褥瘡予防として用いる減圧用品の多くは,水平仰臥位時の仙骨部の接触圧を基準につくられている.また,減圧用品だけでなく2時間毎の体位変換など現在基準化されている褥瘡予防ケアプログラムにおいても,仙骨部,つまり水平仰臥位時を中心に立案されている.

 当院においては,1998(平成10)年度からスキンケア検討会を通して院内での褥瘡発生原因のアセスメントや,予防ケア方法の検討を行なってきた.そして,ブレーデンスケールでリスクアセスメントし,知覚の認知や活動性,可動性の点数結果の低い順に高機能の減圧用品を選択していた.しかし,1999(平成11)年度に発生した褥瘡はファーラ位で圧迫を受ける尾骨部にもっとも多くみられ,今まで報告されてきた内容とは異なり,寝たきり患者ではなくベッドから離れることのできる離床期の患者に多く発生していた.また,仙骨部がもっとも多いという先入観が影響して尾骨部褥瘡のうち92%は仙骨部と報告されていた2)

 寝たきり患者を対象にした仙骨部への褥瘡予防方法が確立し,それが可能になってきたのに比べて,尾骨部つまりファーラ位で発生する褥瘡の予防には今まで焦点があてられてこなかったと考える.その背景には,ファーラ位時の骨突起部位が不明確で,仙骨部と尾骨部を混同するという間違いに加え,褥瘡は寝たきり患者に多いという医療者の認識も作用したのではないかと思われる.しかし,ファーラ位は離床期の患者だけでなく,経管栄養を受ける患者や呼吸機能低下の患者などに必要な,療養生活上避けることのできない体位の1つであり,水平仰臥位時とは区別した褥瘡予防が必要となる.

 本稿では,褥瘡予防の中でも体位によって予防方法を区別する必要のある体圧分散を中心に,当院で行なったギャッチアップ時における減圧用品別の接触圧変動に関する研究結果をもとに,ファーラ位(ギャッチアップ時)の褥瘡予防方法について述べる.

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 昨今の褥瘡対策未実施減算により,「患者の状態に応じて,褥瘡対策に必要な体圧分散式マットレス等を適切に選択し使用する体制が整えられていること」1)が基準と示された.体圧分散寝具ばかりでなく,その他の用具に関しても患者個々に適した用具を選択することにより,褥瘡予防の一助となるといえる.市場にはさまざまな「褥瘡予防」ケア用品があるにもかかわらず,根拠のある選択基準を持たないために混乱が生じている.

 ここでは,当大学の研究室のアルゴリズムを用いて褥瘡予防用具の選択方法を説明する.

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はじめに

 褥瘡の予防は,全身的,局所的な褥瘡発生のハイリスク因子の同定と,これら因子の除去により可能となる.すなわち,除圧,体位変換,感染の予防などによる局所的ハイリスク因子の排除と,栄養状態の改善による全身的ハイリスク因子の排除である.

 栄養不良は,高度侵襲時(高度侵襲手術後,外傷,重傷熱傷)における重傷病態下1),全身感染症(炎症,敗血症,肺炎など),経口摂取不能による必要栄養素量の不足などにより,負のタンパクバランス,免疫力の低下から,全身状態が悪化し発生する.また,低栄養が進むと,貧血や浮腫が生じ,圧迫への耐性も悪くなり褥瘡が発生する.褥瘡創傷部位から血清タンパクなどを含む体液が漏出すると,さらに栄養不良となる.したがって,寝たきりでかつ低栄養患者は褥瘡ハイリスク因子を持った患者であり2),体圧管理,スキンケアなどの局所管理のみならず,全身管理としての栄養管理が褥瘡予防を行なううえで重要となる3).栄養状態の改善には,適切なエネルギー基質4),タンパク質,微量栄養素(ビタミン,微量元素)5)の投与,および水分管理が必要である.とくに,高度侵襲手術後患者や糖尿病,肝疾患,腎疾患などを有する患者では,さらに褥瘡発生のリスクが高くなるため,病態に応じた栄養管理が不可欠となる.

 適切な栄養管理を行なうためには,栄養状態のスクリーニングにより,栄養不良患者を早期に発見,特定する.さらに,摂取栄養素量および栄養学的パラメーター(身体計測値,血液・生化学データなど)による総合的な栄養アセスメントに基づいて個々の患者に必要な栄養素量の算定を行なう.経口摂取量に不足があればサプリメントを用い,それでも充足できない場合には経腸栄養法や静脈栄養法を行なう必要がある6)

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―本誌4月号から「まんが医学の歴史」を連載スタートしていただきます.医学の歴史という,一冊の教科書が書けるくらいの大きなテーマについて,漫画で取り組まれようと思ったのはなぜですか.

茨木 漫画は間口が広いので入りやすいですよね.僕も若いころは新しいものばかり追いかけていました.しかし,ちょっと年を取ってくると,昔の人はどう考えていたのかなと考えるようになりました.医学史の入門のための入門のように書ければいいかなと思っています.

―そのように考え始めたのはいつごろからですか.

茨木 歴史の話は学生時代から好きだったのです.最初のきっかけは,ポリクリのときに歴史の好きな先生がいて,麻酔の歴史とか無菌手術の歴史とかを話してくれたのです.それがアップトゥデートな話を聞くよりおもしろかった.自分に余裕ができたらそういうことも勉強しようかなと思っていました.しかしなかなかその時間がなく,最近になってようやくやりはじめたところです.

現場から

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 私たち看護師が,患者の体位を変換したり移動したりするとき,バスタオル等の体位変換用シーツを利用することが多い.その場合,褥瘡の発生や悪化予防の目的で,介護者2名が両ベッドサイドに立ち,体位変換用シーツの持ちやすい位置をつかみ,患者を宙に浮かせた状態で移動させることがほとんどである.

 では,患者を宙に浮かせた状態のとき,体圧はどう変化するのだろうか.とりわけ,褥瘡発生部位の50%以上を占める仙骨部にかかる体圧はどうであろうか.持ち上げている時間は,ほんの一瞬または数秒だが,仙骨部などにすでに褥瘡がある患者や,ポケットのある患者には,治癒の遷延化や既存のポケットの拡大を防ぐため,「引っ張り応力」がなるべく加わらない方法をとるべきだと考える.そこで,体位変換用シーツをつかむ位置を変えることによって,患者を持ち上げて宙に浮いた状態にしたときの体圧が,いかに変化するかを調査・検討したので報告する.

連載 日常看護のブラッシュアップⅡ 改良と変革・3

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 「口から食べる」ということは,栄養や水分を補給するだけでなく,人間が人間らしく生きていくために必要不可欠な行為です.しかし,なんらかの原因で摂食・嚥下の機能が障害されると,誤嚥による肺炎や窒息,栄養状態の悪化など患者の生命を脅かす危険性が高くなるとともに,食べる楽しみの喪失等,患者のQOLを低下させてしまうことにもつながります.

 摂食・嚥下障害は,急性期の脳血管障害患者の約2-4割に発生する頻度の高い障害であり,当病棟においてもほぼ同一の割合でこれらの患者がみられます.こうした機能障害を少しでも良い状態へ改善するためには,できるだけ早期に障害の部位を正確に評価し,訓練を開始していくことが重要です.今回,嚥下障害患者とのかかわりを通して,口から食べることの大切さを改めて感じることができました.場面を紹介しながら看護のポイントをまとめてみました.

連載 わかるようでわからない精神科のコトバ・13

フレゴリの錯覚 風野 春樹
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 前回は「両親や恋人が,実は何者かに送り込まれた本物そっくりなにせものである」と思い込んでしまう「カプグラ症候群」について書きましたが,この症候群と対で語られることの多いのが,「フレゴリの錯覚」という現象です.これは「身の回りにいるさまざまな人物が,すべてある特定の人物の変装である」と思い込む症状で,なぜか歴史的に「フレゴリの錯覚」という名前がついてますが,実際は「妄想」です.1927年にフランスのP. クールボンらが最初に報告したものです.

 クールボンらが報告した例は,27歳の独身女性の統合失調症患者で,貧しい労働者の娘だったのですが,男たちの下品さを毛嫌いし,女性の精神の高潔さを誇りにしていたといいます.彼女は大の芝居好きで,劇場に通ううち,サラ・ベルナール(ミュシャの美しいポスターでも有名な,当時の大女優です)とロベーヌ(こちらは無名の女優)という2人の女優と不思議な愛の交流を行なうようになります.彼女たちが通行人や近所の人など,さまざまな人物に変装して自分を追いかけ,自分の考えをさしおさえて別な行動(たとえば自慰)をとらせる,というのです.患者自身の言葉によれば,「女優というものは,自分を簡単にフレゴリのようにすることができるし,他の人をフレゴリ化することもできるのだ」とのこと.

 ちなみに,フレゴリというのはイタリア生まれの実在の俳優で,歌手,踊り手,物真似,パントマイム,手品師などをこなし,みずからシナリオを書き,男役も女役もこなし,1人で計60役を演じることができたといいます.彼は変装道具をトランクいっぱいに詰め込んで世界各国を巡っていたそうで,まるで手塚治虫の描く「七色いんこ」みたいな俳優です.それにしても,俳優の名前がついた症状名というのは,このフレゴリの錯覚のほかにはあまり聞いたことがないですね.

連載 You can make it! つながるための英会話・9

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 30代の外国人女性が,背中の下部に痛みがあると,検査を受けにきました。

CASE-1

Nurse:Mrs. Miller, the doctor is ordering you for x-rays, just to make sure that there is nothing serious wrong with your back.

Mrs. Miller:I really don't feel the need for any x-rays.

Nurse:But the doctor has ordered the x-rays to be certain that there is nothing serious causing your back pain.

Mrs. Miller:I really don't think so. I have had this before and it will clear up in a day or so. I just need some pain-killers and a note for work.

Nurse:I think we had better talk to the doctor.

Mrs. Miller:I'd be happy to.

解説1

 X線を受けたくないという患者さん.ナースが何を言っても,もうすでに気持ちは固まっているようです.彼女がこのような態度をとるのには,多くの理由が考えられます.ただ,私たちとしては,X線にさらされることによるリスクや,X線を受けなかったために生じる誤診など,さまざまな可能性についても考えなければなりません.最近のテクノロジーの進化に伴い,X線から生じる発癌リスクはとても小さくなっています.しかし,患者さんの経済的なことも考えれば,診断や治療にあまり効果的でない検査は行なわないほうがよいでしょう.

 X線の必要性をめぐり,さまざまな意見がありますが,これについては解説2でご紹介したいと思います.

連載 聴こえんゾ!・8

Thank you! 山内 しのぶ
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 7,8人の男の人たちが,ワイワイと乗り込んできた.車内を見回す.肩をすくめ,首を横に振る.みなでガヤガヤと話している.他の乗客たちは,騒々しく登場した彼らを明らかに意識している.われ関せず,さわらぬ神に祟りなしといった表情になっている乗客.好奇心丸出しで彼らを見ている乗客.どうやら彼らは,日本語を話していないようだ.

 観光地に向かう電車に,外国人が乗り込んできたのである.

連載 カズのもっとカンボジア日記・7

人類みな兄弟? 崎間 和美
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 楽しみにしていた久しぶりの日本での長期休暇も,アッという間に終わってしまいました.いつもはせっかくのお休みとばかりに勝手きままにやりたい放題するのですが,今回はカンボジア人の同行者がいたので,即席ツアーガイドとしてあちらこちらへ連れていく機会がたくさんありました.ただでさえあまり日本人に見られない私の風貌.同行のカンボジア人の彼の存在が,さらに私を東南アジア系へと導いたのでしょう.おもしろい経験をたくさんしました.

 ある温泉旅館では,私が(流暢な?)日本語で「お風呂まだ入れますか?」と聞いているのに,旅館のスタッフは両手で大きく丸を作り,大きな声でゆっくりと「だ・い・じょ・う・ぶ!」なんて言ったり…….あるパーティーで日本人女性と話しているときには,突然「あなたの日本語,とってもお上手.どこでお習いになったの?」なんて言われたり.日本人なのに“お上手”なんて程度じゃ,本当は困るんですけどね.

連載 こんにちは患者会です

キッズエナジー
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活動の特徴

 全国の難病の子どもたちへの支援活動を行なっています.具体的には,相談事業として,医療情報(専門医の紹介,病院の情報提供など),生活に関する情報(きょうだい児の保育,家族の精神的なケア,医療費など)を提供しているほか,ボランティアの育成,派遣事業,病児やきょうだい児が参加できるアウトドアプログラムの開催など,1人ひとりが必要としているサポートを組み立てていけるよう努力しています.

 また,直接的な支援事業に加え,調査研究事業も大きな柱になっています.2002年度は子どものためのインフォームドコンセントツールの開発,現在はきょうだい児の調査活動を行なっています.専門医,病棟看護師,ワーカー,行政窓口,教育機関など1人の子どもを取り巻く関係諸機関とのネットワークづくりにも力を入れています.

連載 少女の口音・24

ふたり 草野 光恵

基本情報

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看護学雑誌
67巻3号 (2003年3月)
電子版ISSN:1345-2746 印刷版ISSN:0386-9830 医学書院

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