総合リハビリテーション 15巻6号 (1987年6月)

特集 膀胱直腸機能

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はじめに

 排尿運動と排便運動は,それぞれ尿と便の貯留および排泄からなっている.排尿と排便の脊髄中枢はともに仙髄(S2-4)で近接して存在するので,種々の神経障害により,排尿運動が障害されるときには排便運動も障害されることが多い.しかし,排尿異常に比べると便失禁や便秘の管理は容易であり,また排便異常に関する知見は乏しい1)ので,以下神経障害による排尿異常(神経因性膀胱)に関する最近の研究について述べる.

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はじめに

 脊髄損傷は傷害部以下の分節に支配される骨格筋に麻痺をもたらすのみでなく膀胱にも病変をひき起こす.このような膀胱は脊髄損傷膀胱とよばれ,VUR,尿路感染,腎機能不全など上部尿路に及んだ合併症により死亡する場合もあり,多くの臨床家や研究者の注目するところであった.

 受傷直後は脊髄ショックとよばれる状態となり,排尿筋の活動性も失なわれるが,時間の経過とともに収縮力が回復し,不完全ながら自然排尿が可能なまでに至る.このような変化については古くから知られていて,核上型損傷ではhyperreflexia,核・核下型損傷ではareflexiaとなるとする概念が定着している.ところが,最近は神経因性膀胱に関し,UDS(urodynamic study)が行われるようになり,排尿に関し,膀胱の収縮と尿道の抵抗減弱とが同時に起こる排尿筋外尿道括約筋協調運動と近位尿道の開大が重要視されて,膀胱と近位尿道を一体として考えるようになった.従って脊髄損傷による排尿障害もそういった観点から見直されてきている.

 協調運動の中枢は脳幹(橋網様体)にあると考えられている.従って脊髄損傷における排尿障害も橋排尿反射中枢との関係において論じられる.

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はじめに

 神経因性膀胱の治療目的は,障害された排尿を正常に戻すことである.しかし,ほとんどの場合不可能であって,できるかぎり正常に近い排尿状態,すなわちバランス膀胱と呼ばれる状態にもってゆくのが目的となっている.それは,十分蓄尿が可能であること,残尿なく排尿できることである10)

 神経因性膀胱に関する治療は,排尿障害に対してと,排尿障害に起因する種々な尿路性器合併症に対してとにわけられるが,排尿障害に対する治療につき以下に述べる.保存的治療法と外科的治療法にわけられるが,前者には,薬物療法,間歇導尿,電気刺激法,神経ブロック法などが含まれる.

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はじめに

 膀胱機能には尿の保持(蓄尿)と排尿という二つがある.これには膀胱だけでなく尿道の機能も関与しており,両者の協調運動によってはじめて正常の機能が発揮される.

 小児の膀胱機能は成人のそれと比べて種々の点で異なっている.小児では膀胱はもちろん,それを支配する神経系も発達過程にあり,未熟である.この未熟さは中枢神経系においてより著明である.これらは成長するにしたがって成熟していく.同じ小児といっても1歳と2歳では膀胱機能には大きな差があり,また同じ2歳児でも男女差や個人差がある.

 本文ではまず膀胱尿道の構造と神経支配について述べ,次に小児の排尿生理を成長の各段階において示し,最後に機能的な排尿異常の面から夜尿症,尿路感染症および膀胱尿道逆流について述べたい.

排便の生理 岡田 博匡
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はじめに

 大腸の主な機能は小腸より輸送されてきた糜汁を長時間貯留し,この間に水分,Naその他の塩類を吸収して半固形状の糞塊にし,排便反射によって外界に排出することである.

 成人では1日約1500mlの糜汁が回腸より入り,大腸で約150gの糞便として排出される.また,小腸で吸収されなかった食物残渣は大腸内細菌によって消化される.通常固形状の大腸内容物は下行結腸からS状結腸内に停滞しており,直腸内には糞塊はなく空虚になっている.糞便が蠕動運動によって直腸内に送り込まれると,直腸壁が刺激されて排便反射が発現する.この反射には直腸内の神経叢,脊髄の仙髄部,脳幹などを経由する反射が存在し,排便反射は複合的な反射弓から構成されている.また,直腸刺激による排便反射の前段階として直腸内に糞便を移行するために必要な腸内反射,種々の腸外反射が関与している.

 今回は,まず大腸運動,神経支配の概要にふれ,ついで排便反射について言及する.

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 リハビリテーション医学(以下リハ医学)が従来の医学と異なり,さまざまな能力障害,ハンディキャップなどに対する障害学を中心に成り立っていることは医療従事者の間では今や常識となっている.実際,第一線のリハ専門病院で働いている場合,診断から治療へと結びつく一連のプロセスが省略され,既に診断のついた障害に対する治療を行うことが殆どである.それではリハ医学においては診断学は必要ないのであろうか?答は勿論Noである.正しい診断が下されないままリハ科へ送られてくる患者もしばしばあり,更にはリハ治療中に各種合併症が起こりそれらに診断を下し適切な治療を行うことも,リハ医にたびたび求められることである.

 一方,近年の社会的要求の増加,医療の進歩に伴いリハ医学の扱う範囲も心臓病,悪性腫瘍など多岐にわたるようになってきている.しかしながら現在も神経筋疾患がリハ医学の重要な一分野を占めていることは,誰もが認めるところである.これらの観点からリハ医が特に神経疾患の診断・治療に精通する必要があることは異論のないところであろう.

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はじめに

 進行性筋ジストロフィー症患者(PMD:progressive muscular dystrophy)は,筋力低下や関節拘縮が進行し歩行が困難となるため,早晩,車椅子上の生活を余儀なくされる1~3).PMD患者の坐位について考える場合,①脊柱変形の予防,②車椅子との適合性,③ADLの維持,④介助の容易化,という四つの観点が重要と思われ,各々の問題点を具体的に明らかにしつつ統合的なアプローチを行うことが必要である.しかしながら,PMDの坐位の問題についての系統的な報告は少なく,各種の坐位保持のアプローチの効果は必ずしも十分とはいえない.我々は,既に報告したように種々の坐位の問題を有する症例に対し,seating clinicにおいて問題点の検討および,一貫したアプローチを行ってきた4).今回はPMD患者の車椅子上における坐位の問題点を調査分析し,若干の知見を得たので報告する.

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はじめに

 車の運転免許は20歳以上の成人の59.5%,40歳以上では52.7%が保有している1).当然,脳卒中患者の多くも発症前は車を運転していたと思われるが,実際には,重症例はもちろん,軽症例でも運転する例は非常に少ない.その理由として,患者自身の運転に対する不安,家族をはじめとする周囲の者が脳卒中になったというだけで車の運転そのものを危険視して患者に運転をさせないことや医師自身が患者の車の運転に無関心であることなどが考えられる.しかし,社会復帰に向けて,例えば仕事や通勤にぜひとも必要な場合があり,ときには積極的にすすめなければならないこともある.

 著者らは,過去5年間で21名の脳卒中患者による車の運転を経験し,安全な運転の可能性について検討したので報告する.

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はじめに

 高齢者の増加に伴い,いわゆる寝たきり老人が増加し,1985年には約60万人に達したと推定されている1).また高齢の脳卒中患者は,たとえ早期から十分なリハビリテーションを行っても,歩行不能にとどまる患者が多い2).このようにADLレベルの低い歩行不能な脳卒中患者の自宅退院が困難なことは先に本誌に報告した我々の報告はじめ3,4),Shafer5),Greenberg6),奥川7),林8,9),白野10),等の報告に示されているが,地域,患者の特性,病院の特性によって,自宅退院率が異なり,地域や年度の異なる集団での結果の比較は困難である.

 我々の前回の報告では,都市型中規模一般病院である代々木病院の患者の分析を行い,脳卒中患者が自宅退院するための3条件として,①リハビリテーションにより,歩行が自立すること,少なくとも,ベッド上生活が自立すること ②もし,起居移動動作が全介助にとどまった場合は,最低限常時介護者1人プラス補助的介護者1人が確保できること ③全介助にとどまった場合,往診・訪問看護等の在宅医療サービスが受けられること,および病状が悪化した場合,再入院(「間けつ入院」)が可能であることが示された3).代々木病院のその後の脳卒中患者の自宅退院率が低下している印象があったので,退院先の動向を調査した結果自宅退院率の明らかな低下をみとめた.この要因としては患者の重症化を当然考慮しなければならないが,ベッド上自立以上の比較的軽症の患者でも自宅退院率が低下した可能性もあり,また介護者が減少したこと,長期療養施設が増加したこと,等も考えられた.これらを考えつつ分析を行い,興味ある結果を得たので報告する.

 代々木病院(1985年270床)は,1978年30床のリハビリテーション病棟を開設し,1980年救急指定病院の認定を受け,理学診療科は1986年11月現在において,医師2名,看護婦15名,看護助手3名,クラーク1名,(腎疾患患者病床15を含む),理学療法士3名,作業療法士2名,医療ソーシャルワーカー1名により,脳卒中発症早期からの医療・リハビリテーションを行っている.リハビリテーション病棟開設前から,総合的なリハビリテーションの立場から,必要な機能訓練,ADL訓練と援助を十分行い,機能的に安定期にはいると患者家族の希望を尊重し適切な退院先を選び,自宅退院を希望する患者家族には医療チームとして十分な介護指導と在宅サービスの活用を行ってきた.

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はじめに

 老齢人口の増加に伴い,高齢者の下肢障害に対するリハビリテーションのニーズも増加している.これら高齢者の中には,受傷前より脊椎の後彎や筋力低下などによってすでに歩行困難を呈しているため,杖歩行に至らず歩行器歩行にとどまる症例もある.また高齢者のみならずこのような状態では,家庭内復帰にさいしてADL上の問題も生じ,家庭の受け入れもスムーズに行かない場合もしばしばある.そこで今回我々は,家庭内で畳やジュータンの上でも容易に操作可能な歩行器を試作したので報告する.

講座 歩行(6)

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はじめに

 歩行分析の歴史は古く,特に近年の器機の進歩とコンピューターの導入により,種々の角度からの解析が可能となってきている.またその手法も運動学的,力学的分析,エネルギー代謝による分析,さらには数学モデル的分析など幅広く行われている1)

 しかし歩行分析そのものが日常の診療に用いられることはまだ少ない.それは歩行分析のシステム構成に高価な器機を必要とすることも原因の一つであろうが,むしろ経験をつめば臨床的な分析(観察)により十分な情報を得ることが出来ることがその大きな理由であろう.実際問題として歩行状態を一目みただけで診断のつく病気も多い.

 ここでは川崎医科大学リハ科で行ってきた,臨床歩行観察(Ambulation Clinic)の経験を述べてみたい.

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はじめに

 慢性関節リウマチ(RA)の治療を行う上で重度の障害を伴う症例では,単に医学的治療のみでは不充分なことが多い.患者を中心とするチームアプローチが必要である.当センターにおいては,医師,看護婦,理学療法士(PT),作業療法士(OT),医療ソーシャルワカー(MSW),リハ工学士,義肢装具士,心理判定員などによるチームアプローチを行ってきている.しかしRAの場合脊髄損傷や切断者の場合と異なり症状が次第に進行してゆくために社会的,職業的リハビリテーションにまで進むことが少なく,医学的リハビリテーションにとどまってしまうことが多い.

 チームアプローチを行っていく上で評価会議(ケースカンファレンス)は不可欠なものである.一人の患者を各分野から異なった目で評価し,評価会議にその結果をもちより,各分野の情報交換,治療方針,短期・長期のリハゴール,装具補装具の問題,自助具の問題,住宅改造の問題,リハ機器の問題など患者をとりまく諸問題について検討を行っている.評価会議は,通常初期(入院時),中間,最終(退院前)と最低3回は行っているが,リハプログラム上問題が生じた時にMSWが窓口となり日程調節を行い随時開催している.特に最終カンファレンスにおいては,退院の時期,退院後のケアー,特に訪問看護などについて検討される.

 ここに示す症例は,膝関節に対して両側に人工関節置換術を施行,その後12年経過して二次感染を併発し,人工関節を抜去した症例で,リハゴールが2転3転と変化しリハゴール設定に難渋し,その過程について評価会議を中心に述べる.

講座 社会福祉施設(1)

社会福祉施設総論 今田 拓
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 Ⅰ.社会福祉施設の歩み

 社会福祉施設とは,生活維持の各種の障害に対して,その障害に応じた社会生活上の基準化されたサービス(施設入所,施設利用等)を供与する公的な体系をいう.わが国の社会福祉施設発展の歴史は,伝統的な社会構造としての家族制度が,近代社会の進展にともなって核家族化という急速な変化をもたらした推移と,密接な関係にある.

 わが国の社会福祉施設が制度的に体系化完成されたのは,社会福祉事業法が制定された昭和26年であるが,公的施設入所保護の開始は昭和4年の救護法における救貧のための「救護施設」にさかのぼることになろう.今でこそ社会福祉施設はその目的が多種多様に分けられているが,最初の救護施設は身寄りのない老人や孤児等労働不能の極貧者に限定されていた.

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 第2回近畿リハビリテーション医懇話会を昭和62年1月21日(水)に開催することができた.第2回懇話会には45人のドクターの御出席があり,博田節夫先生の“脳卒中の評価”を中心としたリハビリテーション医学全般にわたる話題提供と活発な討論があった.博田先生の講演抄録を下記に掲載する.

 近畿リハビリテーション医懇話会は,昭和61年末に組織され,1年に4回開催し,原則として1月,4月,7月,10月の第3水曜日夕方に,大阪・新阪急ビル12階で,行うことが決まった.本年中はリハビリテーション医学の全般にわたる話題提供を中心として,運営していくことが了承された.簡単に今年度の予定を記します(カッコ内は話題提供者).

一頁講座 障害者のレクリエーション・6

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 セラピューティックレクリエーションとは,治療的,療育的,療法的効果とレクリエーションの効果とを階梯的(段階的)に並列・共存させた形態で,より高めていこうとするもので,人間性回復を求める全ての個人・社会にとって必要となるものである.

 レクリエーション〔ここでいう真のレクリエーションとは,歌・ゲーム・ダンスなどの単なる種目的な観点から微視的にとらえたものをさすのではなく,生活全般の中に,単なる遊び(Mere Play)としての活動から,創造的な活動(Creative Activity)までを含む一連の段階的な広がりを有するもので,それらの幅広い諸活動や状態が,余暇(Leisure)の中で,自由に選択され,楽しみを持ってなされるという巨視的な立場からのものをさしている〕は万人に存在し,意識的であろうと,無意識下的であろうと,計画的・組織的であろうと,自然発生的であろうと,個人が置かれている状況が強制された形態ではなく,拘束されているという枠から離脱した,いわゆるレクリエーション的に独立した形態でなされることが重要である.そこで以下のような場合にセラピューティックレクリエーションの必要性が生まれ,同時にそのサービス対象者が決まってくるのである.

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 上田さんが第24回リハ学会の会長になったと聞いたとき,2回目かといぶかった人がいたかも知れない.本学会創立の根廻しにはじまり,長い間舞台裏の苦労を引受けて来たのだからこの錯覚も無理ではない.それだけに今度の学会の成果を安心して期待できよう.

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 本書は障害者福祉について『人権としての福祉』を中心の論点としている.

 障害者の人権というと次のやりとりを私は思い出す.

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 今から7,8年前,三好正堂先生から二木立先生のことを何度となく聞かされていた.昭和56年,関東リハ医学懇話会で初めてお会いできた.その時のパーティの席で,上田教授と二木先生とが立話されているのを聞いていると,師弟というより同僚といった,実に楽しそうな雰囲気で,それがとても印象的であった.この上田,二木両先生の対話形式の,この本を手にした時,頭に先ず浮んだのは,その場面であった.

 この本の根底に流れるものは,上田教授が多年蓄積された思想であるが,二木先生は,これを脳卒中専門のリハセンターではなく,都市の真中の救急施設をもつ一般病院の中で,独自の方法で,脳卒中を早期に自立させ,社会や家庭に復帰させる方式として見事に作りあげた.

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 車いすは国際的な障害者用建築基準のシンボルマークに象徴されるように,下肢機能障害者・老人などの移動手段として我が国の社会にすっかり定着しているだけでなく,国が福祉サイドで支給している補装具の中でも最も数多い種目の一つであり,代表的なリハビリテーション機器である.

 このように良く知られているにもかかわらず,車いすの具体的な事項―例えばどのような患者にどのような種類の車いすを処方すべきか?・自家用車に搭載できる車いすのサイズは?・車いすの操作訓練方法・更には車いすの手入れなど―になると,残念ながら一部の専門家のみにまかされてしまう傾向にあることは否定できない.つまり医療スタッフの車いすに対する実際的な知識は意外に少ないのが実状である.

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文献抄録

編集後記 大井 淑雄
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 今回の特集は自治医大泌尿器科の米瀬泰行氏の労に負うところが多かった.編集部の手違いから執筆いただいた方が多くなり過ぎ,その力作を他号へ廻していただく由承知していただいた.神経因性膀胱に関する研究の最近の進歩はめざましく,その概観を戸塚・米瀬の両氏が解説した.尿流動態検査法はその中でも画期的なものであるとして説明された.脊髄損傷による神経因性膀胱の診断と治療の変遷について白岩・山口両氏がurodynamic studyを基に発展しつつある進歩について述べた.神経因性膀胱の治療のいろいろな方法が清家氏らにより述べられ,内科的外科的治療が簡潔に解説された.寺島氏による小児膀胱機能の論文は小児の反射性膀胱,無抑制膀胱の時期を経て正常成人のそれへと発達する過程の説明で興味深いものであった.排便の生理に関する研究はあまり熱心に行われておらず執筆をしていただける方が居ないのではないかという編集子の心配もあったが,岡田論文は大腸の神経支配や運動からはじまって排便反射,肛門管直腸反射,括約筋弛緩反射など論理的にまた理解しやすく解説されたので,読者に利するところ大である.

基本情報

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総合リハビリテーション
15巻6号 (1987年6月)
電子版ISSN:1882-1340 印刷版ISSN:0386-9822 医学書院

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