耳鼻咽喉科 56巻12号 (1984年12月発行)

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目でみる耳鼻咽喉科

尋常性天疱瘡の口腔内病変島田　均 , 長江　大介 , 王　主栄 , 田中　康夫 , 古内　一郎 56巻12号 , 1984年12月 , pp.988-989

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　尋常性天疱瘡は弛緩性水疱が全身皮膚に多発するのを特徴とする難治性疾患である。また，そのほとんどの例に口腔内にも病変が出現し，半数においては初発部位となり，難治性の口腔内糜爛として観察される。しかし，ときにはかかる口腔内病変のみで終始する例もある。なお本症は中年の男女に好発する。

　本疾患の病理は，1964年Beutnerによって患者血清から抗細胞間抗体が発見され，さらに1974年，Michel and Koが重層有棘上皮（表皮と可視粘膜上皮）の細胞間物質を標的とする液性の自己免疫疾疾患であることを立証した。

原著

Van der Hoeve症候群—1家系3症例高山　幹子 , 岸　恵子 , 石井　哲夫 56巻12号 , 1984年12月 , pp.991-996

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I．はじめに

　Van der Hoeve症候群は難聴，青色鞏膜，骨脆弱を三主徴とする遺伝性の疾患とされている。この三主徴を有する家系は1918年にVan der Hoeve and de Kleyn^1）によって最初に報告された。その後，数世代にわたる報告もみられ，1979年Quisling^2）は5世代160家系の骨形成不全症について報告した。今回われわれは1家系3症例のVan der Hoeve症候群を経験したので報告する（図1）。

小脳橋角症候群を呈したV-Zウイルス感染症小林　英人 , 麻生　伸 , 渡辺　行雄 , 水越　鉄理 , 市川　昭道 , 杉本　敏昭 56巻12号 , 1984年12月 , pp.997-1001

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I．はじめに

　小脳橋角症候群を呈する病変として，聴神経腫瘍，髄膜腫を主とした腫瘍性病変のほかに，非腫瘍性病変としては，クモ膜嚢腫，クモ膜癒着の報告がみられる^1）。また，めまい，突発性難聴，顔面神経麻痺を同時期にきたす疾患としては，Hunt症候群が知られているが，その経過を追跡した詳細な報告は比較的少ない。今回，私どもは，突発性難聴で発症し，小脳橋角症候群の所見を呈したが，血清および髄液中のV-Zウイルス抗体価に有意な変動を示し，ヘルペス所見を欠いたHunt症候群の亜型とも考えられる症例を経験したので，若干の考察を加え，その臨床経過の大要について報告する。

大胸筋筋皮弁の採取部位の検討斎藤　等 , 佐藤　文彦 , 上出　一朗 , 吉田　幸夫 , 矢野原　邦生 , 水越　文和 , 西村　秀夫 , 水越　治 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1003-1006

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I．はじめに

　筋皮弁（myocutaneous flap，musculocutaneous flap，MCF）の発展^1）により，頭頸部悪性腫瘍の切除がより広範囲となっても，再建が確実，容易となってきており，それが治癒率の向上にも貢献しつつある。筋皮弁のうちでも体位などの問題から大胸筋（pectoralis major，PM）が好んで用いられている。この大胸筋筋皮弁（PM-MCF）の採取部位はAriyan^2）によれば，図1に示すごとく乳首の内側からとなっているが，いろいろ経験していくうちに必ずしも内側がよい血行支配を受けているとは限らないのではないかとの疑問をもつにいたった。

　すなわち，1）症例を重ねていくと乳首の5，6cm上方で主として2本に枝分かれしていて，その外側枝のほうがむしろはっきりした症例のあること，2）重要な症例には図2に示すごとくフルオレッセンテストを行っているが，その1例に乳首の内側ではほとんど発色せず，外側で発色したので採取部位を変更してことなきをえた症例のあったこと，3）死体にて乳首と胸肩峰動脈（thoracoacromial artery）の走行との関係を調べた結果，図3に示すごとく乳首の外側に走る枝のあることを認めたこと，などから比較的若年者とか女性などには可及的に乳首の外側から皮弁の採取を試みた。そして乳首より内側の皮弁や乳首を含めた中央皮弁との比較を，主として生着性に関して行った。

特異な神経耳科学的所見と経過を示した脳虚血発作の1例諸星　咲子 , 本河　一郎 , 許　瑞光 , 岡本　途也 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1007-1011

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I．はじめに

　突然に発症した難聴を主訴とする症例は，いわゆる突発性難聴と診断され，原因不明のものが多い。しかし，なかには種々の全身的な疾患が背景にあり，難聴をきっかけとして重篤な疾患が発見されることもある。今回われわれは突然に発症した難聴，めまい，耳鳴を主訴として来院，入院し，複雑な経過をとり，最終的には椎骨脳底動脈循環不全と診断された症例を経験したので報告する。

蝸牛に進展した真珠腫症例稲福　繁 , 瀧本　勲 , 杉山　貴志子 , 浅井　秀子 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1013-1018

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I．はじめに

　真珠腫性中耳炎による内耳炎合併や顔面神経麻痺は日常診療で，しばしば遭遇する疾患である。しかし，蝸牛瘻孔とくに蝸牛内にまで進展した症例は少ない。最近われわれは，二次性後天性真珠腫と考えられる症例で，陳旧性顔面神経麻癖を伴い，蝸牛内に進展し，内耳部分摘出術を施行した症例を経験したので報告する。

耳下腺内に生じた鰓原性嚢胞の1症例竹生田　勝次 , 西蔦　渡 , 寺邑　公子 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1019-1022

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I．はじめに

　耳下腺部に生ずる嚢胞性疾患には鯉原性嚢胞，貯留嚢胞，皮様嚢胞がある。耳下腺内に生ずる鰓原性嚢胞には第一鰓裂より生ずるものと，第二鰓裂より生ずるものがあり，いずれも稀な疾患である。耳下腺内に生じた第二鰓裂起源と考える嚢胞の1症例を経験したので報告する。

先天性頸部嚢胞の検討—正中頸嚢胞50例，および側頸嚢胞23例の臨床統計的観察大石　雄一郎 , 木田　亮紀 , 小泉　紋禎 , 横出　裕 , 古阪　徹 , 田原　育郎 , 川村　繁 , 菊池　恭三 , 冨田　寛 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1023-1027

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I．はじめに

　日常臨床において遭遇する頸部領域の腫瘤のうち，正中頸嚢胞および側頸嚢胞を中心とする先天性頸部嚢胞は一般に悪性腫瘍との鑑別診断上重要なものであるが，それ自体，再発などの問題もあり，あながち軽視できない点がある。今回われわれは，1970年から1980年までの11年間に当科において手術的治療を受けた先天性頸部嚢胞疾患のうち，正中頸嚢胞50例，側頸嚢胞23例につき，臨床統計的検討を加えたのでここに報告する。

誤嚥に対する喉頭前上方牽引固定術佐藤　文彦 , 日向　誠 , 吉田　幸夫 , 高波　二三 , 坪川　俊仁 , 上出　一朗 , 竹中　洋 , 斎藤　章 , 斎藤　等 , 久　育男 , 水越　治 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1029-1033

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I．はじめに

　誤嚥は，嚥下第II相における不随意運動，すなわち喉頭挙上，声門閉鎖，食塊輸送の時間的または力学的調和の破壊から生ずる一症状である^1）。実地臨床において，このうち中枢性疾患や神経・筋疾患にみられるごとく，時間的不調和が起これば誤嚥は大なり小なり必発するが，力学的不調和の場合には声門閉鎖力が完全であっても喉頭挙上，食塊輸送のいずれかが障害されておれば誤嚥が発生しやすい反面，一側反回神経麻痺のように声門閉鎖が完全でなくても喉頭挙上，食塊輸送が正常であれば誤嚥は発生しないこともある。

　このような誤嚥に対する外科的療法として，食塊輸送の障害に対する輪状咽頭筋切断術^2），甲状軟骨側板切除術^3），下咽頭粘膜縫縮術^3），声門閉鎖障害に対する甲状軟骨形成術^4），声帯内転固定術^4），声帯内シリコン注入術^5），また喉頭挙上障害に対する甲状軟骨舌骨固定術^3）（喉頭水平部分切除術後の誤嚥防止法として），舌骨下筋切断術^6），舌骨甲状軟骨挙上術^7）などがある。

耳硬化症手術の検討—stapedectomyとstapedotomyの術後聴力の成績の検討大西　裕美子 , 野村　恭也 , 深谷　卓 , 小田　恂 , 野原　利江 , 村上　泰 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1035-1039

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I．はじめに

　耳硬化症に対して多数のあぶみ骨手術術式があるが，なかでもstapedectomyとstapcdotomy（いわゆるsmall fenestra stapedectomy）が現在広く施行されている。stapedectomyはあぶみ骨を底板ごと除去し，前庭窓を大きく開放した後prosthcsisを挿入する方法であり，1958年Shea^1）が手術方法を確立して以来，さかんに行われてきた，これに対しstapedotomyは，あぶみ骨の底板に小孔を開け，ここにprosthesisを挿入する方法であり，1960年代後半にShea^1,2），Marquetら^3），Smyth^9）らにより行われるようになった。両者の効果と安全性についてはいろいろと比較検討され，多数の報告がある^4,5,9,12）。

　東京大学医学部耳鼻咽喉科にて1973年1月から1983年7月までの約10年間に耳硬化症に対して82耳のあぶみ骨手術が施行された。このうちstapedectomyは44耳，stapedotomyは38耳であり，1978年頃からは主としてstapedotomyが多く施行されてきている。今回われわれはstapedectomyとstapcdotomyの手術成績とくに術後聴力の変化について比較検討し若干の知見を得たので報告する。

白血病化に先行して上顎洞に発生したgranulocystic sarcoma（myeloblastoma）の1例庄司　稔 , 洲崎　春海 , 二木　隆 , 川端　五十鈴 , 尾崎　由基男 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1041-1046

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I．はじめに

　腫瘤形成性白血病は，一般に白血病の経過中，または白血病化と同時に発見されることがほとんどであり，白血病化に先行して発見されることはきわめてまれである。ここでいう白血病化とは，末梢血液所見や骨髄穿刺所見において腫瘍の性格を帯びた白血球ならびに幼若細胞が認められるようになることをいう。腫瘤形成性白血病のうち，骨髄性幼若細胞より成る骨髄芽球腫（myeloblastoma）では，急性骨髄性白血病への急性転化などと密接に関連し，予後不良の前兆と理解されている。

　今回われわれは末梢血や骨髄への白血病細胞の浸潤に先行して，まず副睾丸に原発したあと，上顎洞および頸部にmyeloblastomaが限局して発生した腫瘤形成性白血病のまれな1例を経験したので，若干の文献学的考察を加えて報告する。

頸部胸腺嚢腫の2症例水田　康雄 , 村上　匡孝 , 西村　秀夫 , 橘　正芳 , 竹中　洋 , 佐藤　文彦 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1047-1054

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I．はじめに

　胸腺嚢腫に関する報告はしばしばみられるが，その大部分は縦隔に発生したものであり，頸部に発生した胸腺嚢腫の報告はきわめて稀である。最近われわれは頸部胸線嚢腫の2例を経験したので，若干の文献的考察を加えて報告する。

鼻・副鼻腔パピローマの病理学的ならびに臨床的観察服部　康夫 , 村上　忠也 , 渡辺　充 , 中村　兼一 , 中村　賢 , 弓削　庫太 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1059-1066

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I．はじめに

　鼻・副鼻腔パピローマは，比較的稀な疾患であるが，易再発性で，時に癌化あるいは癌と共存することがあり，広義の前癌状態ともいうべき，病理学的にも臨床的にも興味深い良性腫瘍である。

　われわれは，かつて鼻・副鼻腔パピローマ5症例について，光顕的，実体顕微鏡的，走査電顕的および透過電顕的に検索し報告した。そのうち2症例に透過電顕的にみて癌と類似した所見があることを指摘しておいた^1）。その1症例が6年後に癌化し，改めて，本腫瘍の診断，治療の重要性を痛感した。本論文は，その後に経験した5症例を加えて，病理所見，とくに透過電顕的所見と臨床経過を対比し，いささかの興味ある知見を得たので報告する。

ハロセン麻酔下エピネフリン併用小児扁摘術に対する塩酸カルテオロールの不整脈防止効果増田　純一 , 関口　弘昌 , 桜井　栄 , 甲能　直幸 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1067-1071

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I．はじめに

　扁桃摘出術では出血量減少を目的として術野にepinephrineを使用することが多い。一方，小児扁摘術は全身麻酔下に行われることが多いが，吸入麻酔薬として使用されるhalothaneは，epinephrineに対する心筋の感受性を高め，不整脈を起こしやすい^1）ことが知られている，そこで，halothane麻酔下epinephrine併用小児扁摘術に対し，β遮断薬であるcarteolol hydrochlorideを静脈内に前投与したさいの不整脈防止効果と循環系への影響を非使用例と比較検討したので報告する。

多形腺腫由来癌症例といわゆる悪性混合腫瘍について古川　仭 , 森下　保子 , 岩脇　淳一 , 森下　和男 , 滝元　徹 , 梅田　良三 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1073-1078

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I．はじめに

　唾液腺由来の癌腫には多種多様のものが含まれており，比較的稀な腫瘍も多く存在するため，疾患によっては，組織学的分類と臨床的特徴についていまだ充分な理解が得られていないものも存在する。一般にこの種の癌（涙腺および管腔臓器の付属腺由来腫瘍をさす）の臨床的特徴を把握するためには，細胞異型と構造異型の両者からの検討と，これらを量的にみた分化度別亜分類（高・中・低分化型）のほか，進展度においては大唾液腺のごとく実質臓器由来のものであれば，臓器内に限局するか否か，小唾液腺や付属腺では周囲組織（筋層，骨，軟骨etc）との関係のほか，血管・リンパ管侵襲の有無，リンパ節転移の有無，外科的切除端から腫瘍までの距離などきめ細かい検索が必要となる。このためには，可及的多数の切片作製が望まれるし，腫瘍の種類によっては，粘液腺や脂肪染色も必要と思われる。

　さて，唾液腺由来の癌の中に，多形腺腫由来の癌（carcinoma in plcomorphic adenomaまたは，carcinoma ex mixed tumor）が存在する。この疾患については，学会発表のほか^1〜5），文献的報告^6〜10）も散見されるが，上述の意味において満足すべき検索がなされて記載されているものは少ないように思われる。本腫瘍における腫瘍細胞は多彩であり，いまだ不明なところも少なくないから，本疾患の取扱いには充分な知識と理解が要求される。

鏡下咡語

医師国家試験出題基準の改訂澤木　修二 56巻12号 , 1984年12月 , pp.1056-1057

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　3年ほど前，私はこの欄に「医師国家試験出題基準（ガイドライン）雑感」と題して，拙文を寄稿したことがあります。昭和53年に発行された通称ガイドラインの改訂の経緯を報告したものです。そもそもこのガイドラインは発行の当初から「医学医療の急速な進歩発展により，医師として具有すべき知識および技能は変化するので，これに適するよう一定期間ごとに各科目の見直しを行う必要がある」（佐分利医務局長，当時）とされていました。この方針に従って54年11月に発足した第一次改訂委員会のことを感ずるままに書いたのでした。これには早速反響があり，大藤元理事長から詳しい御感想が寄せられ，激励されたのには，すっかり恐縮してしまいました。

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耳鼻咽喉科　第56巻　総目次 56巻12号 , 1984年12月

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耳鼻咽喉科
56巻12号
(1984年12月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9679 医学書院

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