臨床泌尿器科 72巻10号 (2018年9月)

特集 停留精巣のすべて─小児から成人への架け橋

企画にあたって 林 祐太郎
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 小学生の頃,股間を蹴られると男子は“のたうち回る”ほど痛いのに,女子は大して痛がらないのを見て,人間の身体は不公平にできているなと思いました.当時は金曜日の夜8時からTVでプロレスをやっていました.優勢に攻め続けていたガッチリした体格のレスラーが,悪役レスラーに股間を蹴られた(金的)だけでうずくまってしまい防戦一方になるのがお約束でした.子ども同士のプロレスごっこで一番の決め技は雷電ドロップと玉蹴りでした.不思議なのは局所の痛みよりも腹痛が強いことでした.

 それから50年経った今,プロレス少年は小児泌尿器科外来を開いています.その診察室で停留精巣の説明をするときには,「胎児期にお腹にある精巣が,血管や精管だけでなく神経も引き連れて陰囊に降りてきます.だから蹴られると神経の出所のお腹が痛くなるのです」と説明しています.患児の父親からは「やっと謎が解けました!」と信頼を得ていますが,神経学的な研究をしたわけではないので本当のところは解りません.ガマの油売りみたいだと自分自身にあきれています.

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▶ポイント

・日米欧の各ガイドラインとも,停留精巣の組織所見に基づいて,精巣固定術は乳児期から1歳6か月〜2歳のより早期に行うことを推奨している.

・非触知精巣に関しては,片側例と両側例では病態を異にするため,それぞれにより適した診療指針を検討するべきである.

・今後,乳児期手術症例およびFowler-Stephens手術症例における父性獲得や腫瘍発生などの長期成績,nubbinの悪性化の可能性と摘除の適応などの検討を踏まえたup-to-dateが期待される.

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▶ポイント

・精巣下降に重要なホルモンはテストステロン,insulin like-3,AMHである.なかでも男性ホルモン産生不良を起こしうる病態が,停留精巣を起こす原因疾患としては重要である.

・性染色体異常に伴う性分化疾患として,原発性性腺機能低下症を来すKlinefelter症候群,混合型性腺異形成症は頻度の高い疾患である.

・先天性ゴナドトロピン単独欠損と嗅覚障害を中核症状とするKallmann症候群は,停留精巣を起こす代表的疾患である.ただし,ゴナドトロピン分泌低下が明らかになった場合,新生児期・乳児期のみならず,いかなる年齢でも下垂体全体の障害が存在しないことを確認する必要があろう.

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▶ポイント

・停留精巣など小児泌尿器科疾患をもつ患児の診察のコツを身につけることが望ましい.

・非触知精巣の場合,健側陰囊内精巣が通常のサイズなら患側は腹腔内精巣の可能性が高い.

・非触知精巣に対する画像診断として超音波検査,MRIが挙げられる.その意義と行うタイミングを心得るようにする.

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▶ポイント

・遊走(移動性)精巣は治療不良であるが,上昇精巣になる可能性が45〜85%に認められ,長期的経過観察が必要である.

・上昇(挙上)精巣は4歳以降〜10歳頃に顕在化し,精巣障害性を回避するため,ためらわずに手術的治療を必要とする.

・幼少期に陰囊内にあっても,精巣が拳上する可能性があることを説明する必要がある.

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▶ポイント

・停留精巣に関しては,6か月〜2歳頃に精巣固定術が望ましい.

・停留精巣の病理組織学的変化は,精細管の萎縮,精粗細胞の減少,間質の増生が認められる.

・停留精巣の悪性化統計学的相対リスクは2.75〜7.5倍である.

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▶ポイント

・鼠径部・精索の解剖を熟知し,精巣の位置を見極めて,手術法を選択する.

・乳幼児の鞘状突起は薄く,精巣血管・精管は細いので,鞘状突起と精巣血管・精管の剝離を行うときは手術用拡大鏡を装着する.後腹膜腔の操作はヘッドライトが有用である.

・鞘状突起を処理した後,lateral spermatic ligament(fascia)を切離する.

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▶ポイント

・術前準備で腸管内容を減じておくことは,小児症例では腹腔という術野が狭いために特に重要である.

・一期的固定術かFowler-Stephens法のいずれを選択するかを判断する前には不必要な剝離はできるだけ避ける.

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▶ポイント

・腹腔内精巣の治療方針決定に腹腔鏡は有用な情報を提供してくれるものの,精巣血管を温存した1期的精巣固定術を行うのか,Fowler-Stephens法を行うかの確固たる基準は存在しない.

・これまでの報告では,腹腔内精巣と内鼠径輪との距離(2〜3cm)をFowler-Stephens法を行う基準としていることが多い.

・Fowler-Stephens法により精巣固定術を行った際の長期的な造精機能については今後の検討課題である.

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▶ポイント

・腹腔鏡にて腹腔内精巣が同定されたとき,陰囊内に固定したいが,特に精巣血管の長さが足らずに下ろせないことがある.

・精巣血管を離断する二期的Fowler-Stephens法が採用されることが近年多いが,その是非が問われている.

・小児期の手術であり,議論を重ね,妊孕性など,患児にとって本当の手術成功をもたらす努力が大切であろう.

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▶ポイント

・停留精巣では悪性化のリスクがあり,乳幼児の早期の精巣固定術により悪性化のリスクは軽減する.

・思春期以降の精巣固定術例は術後の悪性化のリスクは高く,その取扱いは注意が必要である.

・精巣固定術後の悪性化の早期発見には,患児の自己診察,精巣エコーが有用である.

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▶ポイント

・精巣固定術を行っても造精機能,妊孕性が低下することがあるため,経過観察が重要である.

・至適年齢を超えての手術,両側例,無治療例,卵胞刺激ホルモン値の高値,精巣萎縮例は,不妊症ハイリスクと考えられる.

・術後に非閉塞性無精子症を来した場合,顕微鏡下精巣内精子採取術により精子回収の可能性がある.

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▶ポイント

・停留精巣の基礎研究は18世紀に始まった解剖学的なものから,現在の分子生物学的アプローチを用いた研究まで非常に幅広く行われている.

・基礎研究は,①精巣下降メカニズム,②造精機能障害の原因・治療,③悪性腫瘍の発生機序に関する3つに大別される.

・停留精巣の完全な動物モデルは存在しないため,研究目的を明確にして評価する必要がある.

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▶ポイント

・精巣下降は,精巣腹腔内下降(第1相)と鼠径部から陰囊内への下降(第2相)に分けられ,これらに関与するホルモンや受容体の遺伝子変異は停留精巣を招く.

・特発性停留精巣患者のなかで,既知単一遺伝子変異を有する症例は少数である.

・今後,次世代シークエンサーなどの活用によって新規発症機序が解明されると期待される.

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 36歳女性.腹部エコーにて左副腎腫瘍を指摘され当科初診.CTにて80×40×70mmの内部不均一に造影される腫瘍を認め,肝および肺に転移病変を認めた.左副腎摘出術を施行し,病理組織学的に副腎皮質癌と診断した(pT3N0M1).ミトタン+EDP(エトポシド・ドキソルビシン・シスプラチン)療法を行った.4コース施行後の画像評価で,転移病変の著明な縮小を認めた.腫瘍縮小効果は9か月間持続したが,8コース終了後に病勢悪化し,術後22か月に癌死した.

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 過活動膀胱(OAB)患者に対するイミダフェナシンの効果を尿流動態検査,症状ならびにQOLの面から検討した.当院に通院中の20歳以上の尿失禁を有する女性OAB患者41例を対象とした.イミダフェナシン0.2mg/日を8〜10週間投与し,投与前後で過活動膀胱の問診チェックシート(OABSS),尿失禁症状・QOL評価質問票(ICIQ-SF),キング健康調査票(KHQ),尿失禁日誌,尿流動態検査を実施した.有効性評価対象は33例だった.OABSS,ICIQ-SF,昼間尿失禁回数,尿パッド使用枚数はいずれも投与後に有意に改善した.尿流動態検査では膀胱容量が増加し,13例中7例で排尿筋過活動の消失を認めた.イミダフェナシンは尿失禁を有する女性OAB患者に対し,有用であると考えられた.

学会印象記

「第113回AUA」印象記 沼倉 一幸
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今年の米国泌尿器科学会総会(AUA Annual Meeting 2018)は,サンフランシスコで行われました.サンフランシスコはカリフォルニア州の主要4都市のなかで最も北に位置しており,年間を通して過ごしやすい気候で知られています.AUAや泌尿器癌シンポジウム(ASCO-GU)の会場になることも多く,日本人の泌尿器科医にとっても馴染みのある街の1つですが,筆者は今まで訪れたことがなく,どんな街か非常に楽しみにしておりました.

 今回のAUAでは,学会初日の一番最初のセッションと最終日の一番最後のセッションに発表があったので,前日の5月17日に現地入りし,終了翌日の5月22日にアメリカを発つというスケジュールでした.結果的に,AUAとサンフランシスコを十分満喫することができました.

「第113回AUA」印象記 梶川 圭史
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今年の米国泌尿器科学会(AUA Annual Meeting 2018)が5月18〜21日にサンフランシスコで開催されました.AUAは全米だけでなく欧州や日本をはじめとしたアジア各国からの参加者も多く,泌尿器科の国際学会のなかでも熱気にあふれた学会の1つであり,最新の研究や治療などが発表される場です.泌尿器科医としては,知見を広められる絶好の機会でもあります.ただし,発表の機会を得られるのは容易ではなく,国際的にも評価される研究を行わなければなりません.

 私も昨年末にはAUAの演題登録の抄録を作成すべく,締切までに必死に研究データを絞り出し,不慣れな英文抄録の作成に四苦八苦しました.それでもアクセプトの知らせがくるのは嬉しいもので,苦労した甲斐があったと物思いに耽るのと同時に,発表に向けた準備のカウントダウンが始まります.データの整理や英語の発表準備などやることは多いですが,そのぶん,たとえ発表が上手くいかなくても,終わった後には自分の成長を感じることができる学会でもあると思っています.

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 小島 祥啓
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 『ブラックペアン』『ドクターX』『コウノドリ』『コード・ブルー』『グッド・ドクター』…最近医療ドラマがテレビで頻繁に放映され,視聴率もまずまず良好なようです.テレビを見ると,非現実的なシーンやセリフが多く,一般の方々がこれら非現実を信じてしまうのではないかと心配になることもあります.その一方で,医学生や研修医が,ドラマの登場人物を見て憧れを抱き,将来の進路に少なからず影響することもあるかもしれません.実際に私も20数年前の学生時代に,ある医療ドラマをみて現実など知る由もなく,主人公のようなかっこいい外科医になりたいと不覚にも思ってしまいました.

 昨年,本学医学部4年生の泌尿器科進級試験の最後に,学生に講義の感想を自由に書いてもらいました.ある学生から,「最先端に携われるのは楽しそうだし,もっとアピールして泌尿器科の株を上げれば,“泌尿器はちょっと…”というような扱いはなくなると思う.有名俳優とかにドラマ化してもらえばいいと思う」という珍回答があり,試験の採点をしながら大爆笑してしまいました.ちなみに,冒頭の医療ドラマの主人公は,それぞれ心臓外科医,外科医,産婦人科医,救急医,小児外科医です.

基本情報

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臨床泌尿器科
72巻10号 (2018年9月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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