臨床眼科 51巻7号 (1997年7月)

今月の表紙

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<コメント>

 20歳女子の右眼。生下児体重1,500gの未熟児であったが,酸素の投与歴はない。右−10D,左−5Dの近視がある。矯正視力は右0.8,左0.9。眼底は両眼とも典型的な瘢痕期未熟児網膜症の所見を呈する。網膜全体が血管と共に耳側に牽引され,黄斑も耳側に偏位している。マリオット盲斑は,その中心が固視点から24°の位置にある。黄斑から耳側にかけて色素上皮の萎縮があり,耳側一帯はほとんど無血管の状態。赤道から周辺寄りに限局性の網膜剥離があり,大きな円孔が4個並んでいる。

 幸いに重篤にならずに自然寛解した未熟児網膜症であるが,今後網膜剥離の拡大進展の可能性が懸念される。これ以上眼球が成長しない年齢に達していることと,硝子体の牽引がないことから,ただちには光凝固ないし手術は行わず,定期的に監視する方針にした。もちろん患者には,異変があればすぐ来科するように伝えてある。

連載 今月の話題

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 特発性黄斑円孔は,中心視力が障害されるのに,いつ起こったか本人が自覚しないことが多いという不思議な一面をもつ。網膜円孔のひとつであるのに通常の網膜剥離は起こさないという特徴もある。思えば不思議な円孔であった。黄斑部に穴があいたのだから中心視力の低下はやむを得ず,治療も不可能なのは至極当然とされてきた。しかし!である。それらの不思議の解明とともに,今や治療のやりがいのある疾患となった。

連載 眼の組織・病理アトラス・129

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 網膜剥離retinal detachmentとは感覚網膜と網膜色素上皮層との接着が解離し,胎生期の眼杯腔のように,網膜下腔subretinal spaceが開いた状態をいう。原因により,裂孔原性網膜剥離rhegmatoge-nous retinal detachment (図1)や脈絡膜の炎症に続発する非裂孔原性網膜剥離non-rhegmatogenousretinal detachmentなどが区別されている。いずれの場合でも,解離した感覚網膜と網膜色素上皮層との間には網膜下液が貯留する。

 網膜剥離が起こると,その範囲に応じて視野が欠損し,視力が低下する。特に剥離が中心窩に及べば視力低下は著しく,手術によって網膜が復位しても発症前の視力まで回復させることはきわめて難しい。一方,フォークト・小柳・原田病で生じる非裂孔原性網膜剥離では,剥離の高さは裂孔原性網膜剥離に比較してそれほど高くないことが多い。炎症が鎮静化し剥離が消失すると視力は回復しやすい。

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緒言

 先天性網膜分離症は伴性劣性遺伝疾患で若年男子に好発し,視力低下,網膜分離部分に一致した視野欠損をきたす疾患である。その特徴的所見として黄斑部には車軸状のひだ形成,小嚢胞状変化を示す黄斑部分離,耳下側赤道部に好発する網脈絡膜萎縮巣および視神経線維内外層における網膜解離が挙げられる。また従来より合併症として硝子体出血,白内障,網膜剥離,斜視,緑内障などが知られているが,最近では,Coats病様変化,すなわち網膜下滲出物,末梢血管拡張,血管瘤などの血管性病変が認められる症例が報告1)されている。筆者らは動脈の蛇行を伴う先天性網膜分離症の1例を経験したので報告する。

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 涙嚢鼻腔吻合術(DCR)の遂行中,程度に差こそあれ涙小管の狭窄ないし閉塞を伴う例に遭遇することは決して稀なことではない。

 最近の筆者の経験では,DCR対象症例の20〜30%には多かれ少なかれ涙小管の器質的閉塞が合併していたほか,筆者がDCRを始めて間もない頃の自験例80例の成績を通覧すると,術前に涙小管に狭窄ないし閉塞を認めなかった例でも,術後7%前後の症例には涙小管の狭窄ないし閉塞が出現しており,これらの多くは大変軽度なものではあったが,DCRの術後成績改善のためには涙小管障害の克服は避けて通れない課題であると思われる。筆者は,ここ7〜8年の間,DCR施行症例のすべてに,術中涙小管に径1〜1.5mm程度のシリコンチューブを挿入し,術後2〜4週程度留置する試みを行っている。自験例の成績からみて,このDCR施行時のシリコンチューブ留置は,涙小管の疎通性の改善と確保について極めて有用であり,ことに上述したようにこうした試みが行われる以前に出現した7%前後の術後狭窄ないし閉塞は大幅に減少している。本稿ではまず,筆者がDCR施行症例のすべてに行っているシリコンチューブ留置法について紹介し,次いでシリコンチューブ留置のみで切り抜けられる器質的涙小管閉塞とはどの程度のものであるかについて述べる。

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 角膜移植術後の強度乱視に,オプチカルゾーン7ミリの弧状切開による乱視矯正角膜切開術(AK)を施行した12眼(16回)の術後成績につき検討した。屈折乱視は術前6.47±2.10Dから3.77±2.28D,角膜乱視は7.67±1.92Dから3.64±2.00Dと有意に減少した。7例でベクトル解析による惹起乱視度数と目標度数とのずれが2D以内に収まったが,残りは過矯正となっていた。矯正視力は,2段階以上の改善7例,不変6例,悪化3例であった。結論として,角膜移植後のAKは乱視軽減に有効であったが,予測性が低く,その他の手段では矯正不能な強度乱視例に限定して,低矯正を目標に行われるべきであると考えられた。

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 原田病にみられる多彩な臨床像は,メラノサイトが何らかの免疫機序により傷害される結果生じると考えられているが,その機序はまだ完全には解明されていない。筆者らは,膝の皮膚に原発した悪性黒色腫の診断に前後して原田病特有の眼所見(夕焼け状眼底,虹彩炎,杉浦のサイン),眼以外の所見(皮膚白斑,白髪,脱毛)および臨床検査所見(髄液細胞増多,HLA-DR4陽性)を認めた1症例を経験した。この症例の悪性黒色腫は表在性拡大型で,自然退縮傾向のある型であった。悪性黒色腫が何らかの誘因となって,メラノーマ細胞と同時に正常なメラノサイトを攻撃する免疫反応が起こり,原田病が発症したことが示唆された。

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 57歳女性の頸動脈海綿静脈洞瘻の症例に対し,超音波カラードップラー装置を用い,臨床像および理学的所見を定量的に評価した。症例は内頸および外頸動脈と海綿静脈洞とのdural shuntを有し,導出静脈は主に左上眼静脈で拍動性に富む動脈性のドップラー波形を描き,血管の高度な拡張を伴う正常と逆の赤色系の血流動態として描出された。右上眼静脈は軽度に拡張した静脈系の血流動態を示した。海綿静脈洞と内頸動脈とのshuntの塞栓術後,左上眼静脈の拍動性は減弱した。本法は本症の局所血流動態を非侵襲的に直接動的に経過観察できる有用な方法で,そのドップラー・スペクトラムは病勢と相関し,病像および治療のすぐれた指標となりうる。

Posterior cornealvesiclesの1例 新城 光宏
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 形態的には後部多形性角膜内皮変性症と類似していながら,片眼性であって家族歴のないposteriorcorneal vesiclesと考えられた15歳女子の1例を報告した。

 本症例は,視力低下はいくぶん強いものの変性巣自体は正常部に比して前房側に隆起し,横方向に生じたほぼ平行にならぶ二重線で作られた幅広いバンドや,変性巣末端が収斂しないなど形態的特徴は後部多形性角膜内皮変性症に類似していた。

 視力予後に与える影響は少ないと思われるが,角膜内皮の機能低下による角膜実質や上皮の浮腫を生じた後部多形性角膜内皮変性症の症例があり,緑内障との合併頻度も高いとされ,注意を要するものと考える。

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 狭隅角眼での毛様体の形態を超音波生体顕微鏡(UBM)で観察した。毛様体の前面と虹彩の後面が接触している所見(虹彩—毛様体接触)が,33眼中26眼(88%)にあった。同様な虹彩—毛様体接触は,正常眼9眼中3眼(33%),開放隅角緑内障眼7眼中2眼(29%)にあった。虹彩—毛様体接触は,前房深度が2.20mm以下の浅前房眼で,より広範囲かつ顕著であった。日本人での狭隅角の成因に,毛様体の前進による虹彩根部の前方移動がある可能性があることを,この所見は示している。

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 Magnetic resonance angiography (MRA)あるいは脳血管撮影で内頸動脈狭窄症ないし閉塞症と診断された6例を経験した。男性5例,女性1例で,平均62.3歳(50〜75歳)であった。2例は糖尿病,2例は高血圧であり,1例は両者を合併していた。初診時5例は一過性黒内障の既往があり,2例は視力低下を自覚していた。螢光眼底撮影では全症例で腕—網膜循環時間の遅延が認められた。6例のうち5例は90%以上の内頸動脈狭窄症であり,1例は両側内頸動脈低形成であった。1例に頸動脈内膜剥離術,3例に浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術が施行された。血管新生緑内障の3眼には汎網膜光凝固を施行し,うち2眼にはトラベクレクトミーを施行した。MRAは内頸動脈狭窄病変を描出でき,内頸動脈閉塞性疾患の非侵襲的診断法として有用であった。

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 インターフェロン投与中に片眼の外転障害を起こした1例を経験した。症例は42歳男性で,C型慢性肝炎に対しインターフェロン(IFN-α)投与開始後17日目に,同側性複視を伴う眼球運動障害を生じ,右外転神経麻痺と診断された。インターフェロン投与中止後,外転障害は急速に軽減し,1か月で複視は完全に消失した。MRI画像診断を含む神経学的検索によっても外転制限の原因は特定できず,外転神経麻痺はインターフェロン治療による副作用であることが示唆された。インターフェロン治療患者の診療において,網膜症とともに,眼球運動神経麻痺にも注意を払う必要があると考えた。

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 32年後に緑内障を発症した,眼内鉄片異物の症例を経験した。症例は51歳男性で,32年前の眼内鉄片異物により続発緑内障を発症し,眼圧コントロールのために,1991年6目に線維柱帯切除術を施行した。その後,眼内異物除去と視力改善目的に,1993年5月,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,硝子体切除術,輪状締結術,異物除去術を施行した。眼内異物による続発緑内障は予後不良といわれているが,線維柱帯切除術後約5年を経て,眼圧は無投薬で14mmHg,矯正視力1.2と眼圧コントロールおよび視機能の経過は良好である。

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 円錐角膜は,進行すると頂点部では角膜曲率が急峻化するが,周辺部では逆に相対的に平坦化が強くなるため,通常の方法ではハードコンタクトレンズ(hard contact lens:HCL)の処方が困難となる症例が少なくない。そこで筆者らは角膜形状解析を基にした円錐角膜に対するコンタクトレンズ設計用プログラムを用いたシステムを開発し,既製のHCLが装用困難であった円錐角膜症例5例9眼を対象としてカスタムメイドHCLの処方を試みた。装用後1か月において9例中7眼に矯正視力の改善を認め,平均10時間以上の装用が可能となった。また,全例で装用感の改善が得られ,HCL装用に伴う重篤な合併症は生じなかった。本システムは通常のHCLの処方が困難である進行した円錐角膜に対するHCLの処方に有用であると考えられた。

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 糖尿病網膜症76眼(前増殖糖尿病網膜症[preproiiferative diabetic retinopathy:PPDR]66眼,増殖糖尿病網膜症[PDR]10眼)に対して,局所光凝固を施行した。光凝固前の黄斑症の合併はPPDR50眼,PDR7眼にみられたが,そのうちPPDR7眼,PDR1眼の計8眼(全体の11%)に,光凝固後に黄斑浮腫の増強をきたした。黄斑浮腫の増強は凝固数の多寡とは関係がなかった。光凝固後2年から4年5か月の経過観察中,30眼(PPDR24眼,PDR6眼)で光凝固の追加を要し,このうち16眼で汎網膜光凝固(panretinal photocoagulation:PRP)になった。螢光眼底所見を仁木らの分類に従い分けた場合,後極型25眼中6眼,中間型36眼中7眼,周辺型5眼中0眼,全体型1眼中1眼にPRPが必要となった。HbA1cが10%以上のものは19眼中8眼(42%)にPRPを要した。

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 鉄欠乏性貧血に網膜中心静脈切迫閉塞と毛様網膜動脈閉塞を併発した1症例を経験した。症例は45歳女性,主訴は右眼の突然の視力低下。初診時視力は右眼前手動弁。右眼底に,黄斑部を含む耳下側を中心とした領域の乳白色混濁,網膜血管の怒張,蛇行と出血,また螢光眼底造影で網膜乳白色病変に一致した動脈灌流の遅延,静脈層流の遅延を認めた。初診時の血液検査結果で鉄欠乏性貧血を認め,その治療開始後,視力の改善がみられた。鉄欠乏性貧血の低酸素状態が,網膜中心静脈閉塞をきたし,さらに,動静脈の圧勾配の変化で毛様網膜動脈閉塞を起こしたものと思われた。

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 眼底直視下での時間変調感度測定は,中心30度の視野全体をとおして正弦波状のフリッカー刺激に対する感度を測定するための新しい方法である。時間変調感度測定の際には,刺激視標が網膜血管に重なることで生じる血管暗点による感度低下が問題となる。今回,視標サイズが2度までのものを用いた場合には,感度は網膜血管に影響されることが示された。本法は網膜上の刺激位置を観察することで,血管暗点を避けることができ,視標サイズが2度以下の場合でも,正確な時間変調感度の測定が可能であった。2例の緑内障患者における時間変調感度測定の結果は,自動視野計にて異常のみられない時期に,20Hzの周波数において,時間変調感度の有意な低下がみられた。この装置は緑内障の早期診断という点で,従来の視機能検査よりも有効であると思われた。

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 落屑症候群を伴う眼の眼内レンズ手術4か月後の水晶体を組織学的に検索した。落屑物質はなお生きている水晶体上皮細胞から産生されていた。落屑症候群では白内障手術後もチン小帯断裂や嚢緑内障の危険性があると思われた。

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 特異な眼底異常が55歳男性に偶然発見された。幼少時から夜盲を自覚していた。黄斑部に斑状の脱色素斑があり,血管アーケードから周辺の眼底全域に白点が散在していた。電気生理学的ならびに暗順応所見から,眼底白点症を伴う錐体ジストロフィと診断した。フルオレセイン螢光眼底造影はびまん性に網膜色素上皮障害を示唆する不規則な点状過螢光と,黄斑萎縮巣に一致した過螢光がみられた。インドシアニングリーン螢光造影では黄斑萎縮部の縁に過螢光,および血管アーケード耳側に網膜色素上皮の過形成と思われる点状の低螢光点があった。本邦での文献例の検索から,眼底白点症を伴う錐体ジストロフィは12例中11例が男性であった。

眼科の控室

失明宣言
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 網膜剥離の患者さんには病識が乏しいことがよくあります。眼病といえば,目が赤いか痛いのが通念なのに,赤くも痛くもなく,ただ視野が一部分欠けるだけの場合には,それほど緊迫した状況にあるとは思わないからです。

 網膜剥離の患者さんを診たときには,「これ」というムンテラ(病状説明)をすることに決めています。まず,「大事なことだけを言いますからよく聞いてください」と切り出します。そして,「眼の病気は,大きく分けると二つしかありません」と言い,「放っておけば失明する病気と失明しない病気とです」と続けます。

第50回日本臨床眼科学会専門別研究会1996.10.24京都

画像診断 中尾 雄三
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 近年の眼科領域における画像検査法の開発とその臨床への応用はめざましいものがある。診断に有用な画像情報を得るためには機器の原理や特性を十分に把握したうえで,これらの検査で何が明らかにできるのか,何を知りたいのかをピンポイントにしぼって行う必要がある。重要なことはこれらの検査で何か新しいことができると単に期待するのではなく,従来の臨床経験ではどうしても不明な点が新しい検査法により事実解明への突破口になるよう工夫して応用することである。新しい世話人と運営委員で開催された今年の専門別研究会・画像診断では多くの分野からそれぞれ専門家のすぐれた研究発表が行われた。各演題に対するコメントを担当した座長に依頼した。

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(一般講演Ⅰ)

 木曜日の午前9時からの一般講演で,参加者が少ないのではと危惧されたが,朝から活発な討論が行われた。

 1席と2席はともに甲状腺眼症の治療に関する貴重な発表で,1席の中村弘氏(オリンピア・クリニック)は,28例40眼の甲状腺視神経症で,ステロイド療法,放射線療法,その併用などの保存的治療を行い,種々の因子と最終視力との関係を検討した。その結果,これらの保存的療法で約8割が良好な視力が得られ,治療開始後早期の視力が予後判定に役立つとしている。発表に対して中村氏(慶大),萩原氏(市立伊丹)から,放射線照射単独の適応にっいてと,照射単独ではむしろ瘢痕を形成し眼球運動障害をきたすのではとの質問がなされた。この点に関しては,Plummelらが二重盲検法によるステロイド療法と放射線療法の優劣比較で,放射線療法のすぐれていることを報告しており,今後本邦においても,放射線療法を取り入れたこれらの療法が主流になると思われた。2席では西原氏(市立伊丹)が,ステロイド漸減中に視神経症を起こし,ステロイドのパルス療法やシクロスポリン内服,球後照射などの療法で視機能を温存しえた2症例を報告した。中村氏(慶大)からシクロスポリンの適応および中止時期にっいて,また栃久保氏(東邦大)から眼球突出度との関係について質問があった。

基本情報

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臨床眼科
51巻7号 (1997年7月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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