助産婦雑誌 52巻8号 (1998年8月)

特集 こどもの虐待を防ごう

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はじめに

 子どもの虐待は,今日に特有の問題ではない。長い間,社会の貧しさは子どもを親の所有物として位置づけ,彼らの生存権はもとより殺傷権も親の手の中にあった1)。もちろん現在でも,貧困は子どもの虐待に大きく関連していることに変わりはない。しかしながら,今日の子どもの虐待は,経済発展と「未来の市民」として,子どもを社会的に認知している先進諸国において,大きな社会的病理問題として噴出している2)

 とりわけ欧米諸国は,ケンプが1961年に「被虐待児症候群:Battered child syndrome」3)として,子どもの虐待が存在することを指摘して社会に警鐘を鳴らして以来,この問題に国をあげて取り組んできた。現在,これらの国々は,性的虐待には問題を残しているものの,身体的虐待,ネグレクト,心理的虐待に対しては方略をほぼ手中に収めたといわれ,虐待の予防と早期発見,被虐待児とその家族に対する援助システムの構築が精力的になされている。しかしながら,その一方では,続々と世に問われている研究成果を受けて,人々は,子どもの虐待をめぐる問題の深刻さ,根の深さを改めて考えさせられている状況にある。

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はじめに

 日本の社会でも,この数年余りの間に児童虐待の問題が盛んに取り上げられ,各地でさまざまな取り組みが展開され始めた。虐待を早期に発見し,子どもの生命や身体,そしてこころを護る試みは多くの成果を上げ始めている。

 しかし,虐待する親についての理解,ケア,対応策についてはまだまだ手探りの状態である。特に,親に対する法的対応が欧米のように明確になっていない現在の日本において,積極的に親自身がケアを求めない限り,親の治療に正面から取り組むことは非常に困難な作業となる。

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はじめに

 わたしは,昨年の11月に夫の転勤にともない横浜市に転居してきましたが,それ以前は大阪府のS市で開業助産婦として活動しておりました。

 S市に住み始めた当初は,保健所や保健センターの臨時職員として勤務,地域活動を受けもちました。委託された新生児訪問や母親学級等のさまざまな母子保健事業にかかわる中で,個人的に相談を受けることも多くなりました。そうした個別の相談により深く対応し,責任をもった信頼関係を築き,地域に密着した助産婦として活動したいと,相談事業を専門にした開業に踏み切りました。

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はじめに

 現在,当大阪府立母子保健総合医療センターでは,母性外来において,虐待ハイリスク母の発見に努めフォローしている。ハイリスク母はリスク別に,スタッフが適切に対応できるようカルテにシール表示をしている。ハイリスク母の多くは初診の段階で発見可能であるが,分娩に至るまで発見できないケースもある。外来で発見された場合は,その都度分娩部・病棟へも患者を紹介し,分娩・育児期の注意点等について情報伝達している。発見されるケースではすでにMSW(メディカルソーシャルワーカー)や保健婦が大方関与しているが,後に発見されたものはできるだけ早期に心療内科医,発達心理医,産科医,看護者,MSW等の関係スタッフと連携しあっていく。

 分娩部では,外来で発見されたハイリスク母について継続観察を行なう。アタッチメントの状況や分娩へのとりくみが主体的であったかどうか等について評価し,病棟へ情報を送る。

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 「子どもの虐待防止センター」は,1991年に医療・保健・福祉・司法関係者の連携の下に生まれた虐待専門の民間相談機関です。母親への「電話相談」,第三者からの通報に公的機関と連携しての「危機介入」,そして今回紹介させていただく,虐待問題を抱える母親たちへの自助的治療グループ,「母と子の関係を考える会」(MCG)の運営が主たる活動です。

 グループは自助的な意味合いを大切にしつつも,毎回相談員が参加して,母親たちの変化と回復を見守り,進行役を努めます。会はミーティング形式で,毎週金曜日の16時半〜18時までだったのが,今年度からは15時〜16時半までの新たなグループが加わって活動をひろげています。治療の場では仲間から安心感をもらいながらも,自分の過去を調査探索するという困難な仕事が母親たちを待ち愛けます。

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はじめに

 ある日,1歳半の赤ちゃんを母親が殺すという事件が起きた。泣きやまない子を前に,母親が発作的に布団をかぶせたという。父親の帰りが遅い,都会の核家族のアパートの出来事であった。母親には昼間声をかけ合うご近所の友達も,電話する実家もなかった。

 この事件を取材した某新聞社の記者は筆者に「苦労して産んだかわいい赤ちゃんを。どうしてこんなことが?」と絶句した感じで質問してきた。筆者は「要求の激しい赤ちゃんを,昼間たった一人,孤立した情況で育てるのは,大変なこと。泣きやまない赤ちゃんを前にすれば,誰でも自分が泣きたくなる。赤ちゃんの時に暖かく幸せに包まれた人はまだしのぎやすいけれど,そうでない人が泣き喚く赤ちゃんといると,辛い感情がかきたてられ,地獄のよう。この方は暗い生い立ちかもしれないですね」と答えたが,一般の人にはわかりにくい問題であろう。その後その母親が乳児院で育っており,赤ちゃんが泣くたびに気が狂いそうになっていたことがわかった。このように苦しんでいる母親たちの気持ちが広く理解され,母親を暖かく包む社会情況があったらと悔まれる。

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「母性」をテーマにしたきっかけは

 新野 本日は,大日向先生に現代の母性社会心理についてお聞かせいただきたいと思います。まず最初に,先生がこの領域に興味をもたれたきっかけからお話しいただけますでしょうか。

 大日向 1970年代前半にコインロッカーベビー事件がありましたが,それがきっかけと言えます。当時わたくしは心理学を学んでおりましたが,指導教授が「心理学は文化依存的な学問であるべきだ。抽象的な人間はいないのだから,特定の文化・社会の中で生きている人間を対象とすべきだ」とおしゃっていました。その言葉がとっても新鮮に聞こえる時代でもあったんですね。

利用できる社会資源 津崎 哲郎
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 わが国において,子ども虐待に関連した社会資源は,児童相談所,福祉事務所,児童福祉施設・里親,保健所・保健センター,保育所・幼稚園,医療機関,その他の機関などが挙げられます。以下,それぞれについて概説します。

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急激に増えたセックスレスの相談

 「あれっ?」カウンセリングの途中で異変の芽のようなものを感じ,クライアント(相談依頼人)には気づかれないように心の内でドキリとさせられていたのは,もう12,3年も前のこと。わざわざ長野県から,“一昨年結婚致しました長男の嫁から,結婚して1年半になるのに,まだ一度も交わりがありません,と聞かされ,びっくり致しまして”とやって来た人品卑しからざる,その長男なる人物の母親を前にしてのことであった。そして,私を,「あれっ?」と思わせたのは,前日にも似たようなケースを扱ったばかりであり,そう言えば,当時は「性交回避」または「性愛嫌悪症」と言う病名で扱っていたこの種のクライアントが,このところ妙に増えて来ていることにフト思い当たったからである。今にして思えば,後に「Sexless(セックスレス)」と言う言葉がある種流行語のように通用してしまう事態を招くことになる「Sexless husband(セックスレスハズバンド)」と呼ばれる,性を病む亭主の急激な増加と言う現象の前触れに私はその時点で既に出会わされていた,と言うことであったのだ。

 厳密に申せば,私が「性交回避」とカルテの病名欄に書き込むケースはかなり以前からなかった訳ではない。でも,あったと言ってもせいぜい年間2〜3例のものであって,世の中には変わった人間もいるものだ,で通り過ぎていたのであるが,それが,毎週のようにケースとして現れると言うことになると,これはおかしい,と言うことにもなる。当然のことであろう。私事めいて恐縮であるが,私のクリニックでは1日5人しか面接は受けないのであるが,一時期,その5人全部がセックスレスの相談と言うことがしばしばあったものである。やはり,異常事態である。

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はじめに

 母子保健サービスは従来保健所で行なわれてきたが,平成9年度から市町村に移譲され,10年度からは,その予算措置も地方公布税化された。この改革は住民に身近な市町村で,母子の一貫した保健サービスの提供を目指して行なわれたものである。この改革は地域で開業している助産婦や市町村で働く助産婦の活動に影響を及ぼすことは必至である。

 しかし,地域によって母子保健サービスのありようが異なってくるのではないかと心配するのは筆者だけではないと思う。助産婦をとりまく状況は,年々助産婦が高齢化し地域で働く助産婦が少数になってきているとはいえ,最近では女性のなかに家庭分娩の希望者も出てきており,それに応じて若い助産婦で開業・自立を目指す人が出始めている。また,病院等施設で働く助産婦のなかには自らの業務を見直し,退院後の褥婦のニーズを満たすことや,やりがいを見つけ,地域への活動として新生児訪問指導に取り組み始めている人もいる。

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中根(司会) 本日は,助産婦職能組織のトップにご就任されました両先生にお話をお聞かせいただけることを光栄に思います。助産婦についていろいろな方面からお話しいただき,今後のわたしたちのビジョンを探っていければと思います。

 では,最初に就任早々の抱負や課題などをお聞かせください。

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はじめに

 赴任する夫に同行してメルボルンに着いた時,わたしは妊娠20週でした。日本にいる頃のわたしは病院で助産婦として勤務し,またその後に保健所の母子保健相談員として働いた経験があります。そうした経験から,自分自身の妊娠・分娩・産後はより自然なものになるようにしたいと考えていました。異国での妊娠や出産という不安はありましたが,メルボルンにも医療介入の少ない助産婦によるバースセンターがあることを知り,そこでのケアを受けることにしました。

 1995年6月から12月まで,妊産婦として受けたバースセンターでのケアについて思ったことなどを述べさせていただきます。

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はじめに

 現代の産婦は安全な出産は当然のこととして,さらに「快適性」をも求めていることは産科関係者にも認識されつつある。産婦の心身両面の緊張をできる限り緩和することは,安全で安楽な分娩を遂行させるばかりでなく,産婦の望む「主体的なお産」を実現するための重要な要素である。

 産婦の緊張緩和の方法は,ハード面からもソフト面からも考えられなければならず,われわれ助産婦は身体的側面をサポートすることと同時に精神的側面もサポートしていかなければならない。

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 助産婦が所属する職能団体には日本助産婦会と日本看護協会(助産婦職能)があるが,この5月半ば,両団体はそれぞれのトップが任期切れのため交替,新しいリーダーを選出した。

 日本の就業助産婦数は現在23,000人。うち17,000人が日本看護協会に,6,700人が日本助産婦会に会員登録している。最近では両会に入会する助産婦がふえつつある。

連載 ハローベイビー—神戸市立王子動物園子育てストーリー・8

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 インドの東から中国南西部,ベトナムなどの森林に住むベニガオザルは,大きさや体形がニホンザルによく似た猿らしい猿だ.顔は名のとおり赤で黒のまんだらがあり,お世辞にも美しい猿とは言えない.ところが生まれてくる子どもは実に美しい.うすいピンクの肌に純白の産毛が生え,大きな目を輝かせている姿はとてもこの親の子とは思えない.

 妊娠期間は約5〜6か月,夜中の出産が多く,生まれるとすぐに子どもは母親の腹にしがみつく.母親は胎盤を食べて始末し,子どもを夜明けまでに丹念になめて乾かし,きれいにする.そして片手で子どもを抱えながら移動するのだ.子どもは2〜3週間はこのような状態で過ごすが,1か月もすると次第に親から離れ,自分で遊ぶようになる.美しい白髪の衣装も半年で茶色に変わるのが残念だ.

連載 とらうべ

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 昨今の看護職の人気には目を引くものがある.高校生が将来なりたい職業も,小学1年生の子供を持つ親が子供に就いてほしい職業も,看護婦がトップ(女子の場合)という結果が相次いで発表された.また,OLなど他業種を経て看護婦を目指す転身組も確実に増えているという.私が教えに伺っている看護学校でも,学生は期待に胸をふくらませて看護婦になる夢を語る.「人に喜ばれて働き甲斐,やりがいがある」「社会の高齢化に伴い,より必要とされる」「一生続けられる資格を得られる」仕事と.また,卒業後のライフコースについて聞いてみると,毎回感心することがある.何らかの形で看護の知識・技術・資格を活かし,生涯関わっていこうという意欲に満ち満ちているのだ.

 しかし,現実には看護職者が激しいストレスにさらされ,保健医療職の中でも,バーンアウト,いわゆる「燃えつき症候群」にかかる率が顕著に高いということは知られている.また,看護婦不足の問題は幾度となく世間の耳目を集めてきた.三交代制の激務,患者の生死と向き合う緊張,医師をはじめ他の保健医療職者との間の葛藤など,そのストレッサーを挙げればきりがないほどである.加えて,看護職者には,心優しく責任感が強く,頑張り屋が多いことは患者になったことのある人は誰でも,つまり多分皆が知ることでもある.

連載 りれー随筆・167

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 寺田恭子さん,「りれー随筆」のバトンをありがとうございました。共に厚生省看護研修研究センターで学んだ頃を懐かしく思い出します。私が助産婦養成所の教員となって丸1年が過ぎました。学生と共に泣き,笑い,その中で教育の難しさとおもしろさを感じています。浅い教員経験ではありますが,この1年間で印象に残った両親学級について書いてみたいと思います。

今月のニュース診断

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ドナーによる体外受精

 夫婦以外の精子・卵子をつかった体外受精が日本で実施された。第三者の精子を使った体外受精は,かつて施設匿名のスクープ報道があったものの,その実態は明らかではなかった。卵子提供による体外受精は,これが初めての報告となる。

 また今回は,日本産科婦人科学会(以下,日産婦)の会員医師が,会告違反を知りながら“敢えて”実施したことが波紋を呼んだ。

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 妊娠中には血液検査で多くの病態をチェックしています。しかし,私たちはその検査結果,すなわち検査データを読むときに注意しなくてはいけない多くのポイントがあることを知っているでしょうか?知ってはいても,ときどき忘れてしまって,つい妊娠していない成人の正常値を頭に浮かべて,それと比較して判断してはいないでしょうか?妊娠後半期には血液の循環血液量がとても増えてきます。しかし,この現象は血液の全成分が均等に増えるのではなく,血漿成分だけが著しく増加して,ちょうど水で薄まった感じになるので俗に水血症と呼ばれています。このために血液中のある成分を検査すると,妊娠していない成人の正常値とはずいぶん違った値が出てくることになりますが,決してそれが異常値でない場合が多いのです。

 たとえば,妊娠中の貧血は鉄欠乏性貧血だといわれています。水血症の状態がもっとも強いのが妊娠31〜32週なので,もし血液検査を行なうのをあまり急がないなら,この時期以後にしたほうがよいでしょう。殊に貧血の検査は血中のヘモグロビン(Hb)値(濃度)だけで終わってはいけません。ひとつの赤血球のなかにあるHbの量の平均値を検査してみないと,貧血の診断はできません。血液全体のHb量をみると,血液は薄まっているので正常の妊婦でも8.0〜9.0g/dlということが多いのです。こうしてみると,本当に貧血の妊婦は現在の日本にはほとんどいません。

基本情報

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助産婦雑誌
52巻8号 (1998年8月)
電子版ISSN:2188-6180 印刷版ISSN:0047-1836 医学書院

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