特集 こどもの虐待を防ごう
わが国における子どもの虐待
鈴木 敦子
1
1大阪大学医学部保健学科
pp.645-650
発行日 1998年8月25日
Published Date 1998/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611901985
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はじめに
子どもの虐待は,今日に特有の問題ではない。長い間,社会の貧しさは子どもを親の所有物として位置づけ,彼らの生存権はもとより殺傷権も親の手の中にあった1)。もちろん現在でも,貧困は子どもの虐待に大きく関連していることに変わりはない。しかしながら,今日の子どもの虐待は,経済発展と「未来の市民」として,子どもを社会的に認知している先進諸国において,大きな社会的病理問題として噴出している2)。
とりわけ欧米諸国は,ケンプが1961年に「被虐待児症候群:Battered child syndrome」3)として,子どもの虐待が存在することを指摘して社会に警鐘を鳴らして以来,この問題に国をあげて取り組んできた。現在,これらの国々は,性的虐待には問題を残しているものの,身体的虐待,ネグレクト,心理的虐待に対しては方略をほぼ手中に収めたといわれ,虐待の予防と早期発見,被虐待児とその家族に対する援助システムの構築が精力的になされている。しかしながら,その一方では,続々と世に問われている研究成果を受けて,人々は,子どもの虐待をめぐる問題の深刻さ,根の深さを改めて考えさせられている状況にある。
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