手術 75巻8号 (2021年7月)

特集 解剖学的変異を考慮した下部消化管手術

  • 文献概要を表示

盲腸癌,上行結腸癌に対する回盲部切除,右半結腸切除術を行う際に回結腸動静脈(ileocolic artery / vein;ICA / V),右結腸動静脈(right colic artery / vein;RCA / V),中結腸動静脈(middle colic artery / vein;MCA / V),胃結腸静脈幹(gastrocolic trunk;GCT)の解剖を把握しておくことは安全な手術操作,確実な郭清のために重要である。とくに手術に直結する情報としてsurgical trunkに沿った郭清の際に処理する血管の位置,処理する血管の周囲重要臓器(膵臓,十二指腸など)との位置関係,肝曲部授動の際にGCTから出血を起こさないように副右結腸静脈(accessory right colic vein;aRCV)の存在の有無などを把握しておくことが重要である。

  • 文献概要を表示

中結腸動静脈は,下部消化管を栄養する主要な血管のなかでもとくに変異が多いことが知られている。また,膵臓や上腸間膜動静脈といった重要な構造物と解剖学的に近接あるいは連続しているため,横行結腸癌や左側結腸癌手術においては,周辺臓器との位置関係に注意して処理する必要がある。さらに,最近注目されている副中結腸動脈は,脾彎曲癌の手術において,無視できない重要な血管である。

  • 文献概要を表示

大腸癌手術の基本となるのは,癌を含む腸管切除と腸間膜内にある領域リンパ節の郭清である。消化器外科医にとって一般的な血管の解剖を理解するとともに,個々の症例についての血管走行を術前に確認することは重要である。

  • 文献概要を表示

下部直腸癌におけるリンパ節の転移経路として,下腸間膜動脈に沿った上方向への経路と,内腸骨動脈の分枝,いわゆる中直腸動脈に沿った側方方向への経路があると言われている。しかし,中直腸動脈は変異に富み,その存在頻度,走行など解剖学的にも一定の見解を得られていない。下部直腸癌治療において側方郭清を行うわが国において,側方リンパ節は腫瘍学的にも重要な存在であるにもかかわらず,側方リンパ流の詳細な検討は少ない。内腸骨動脈の変異などに関しては他稿に譲り,本稿では,造影MRIにおける中直腸動脈の画像所見を中心に,中直腸動脈と側方リンパ節との関連性について述べる。

  • 文献概要を表示

内腸骨動静脈は骨盤内臓,骨盤壁,下肢に多くの枝を分布し,分岐のパターンの変異は非常に複雑である。進行下部直腸癌に対してはTME(total mesorectal excision)に加え,側方郭清が施行される。TMEでは内腸骨動静脈の変異に注意を払う必要性は乏しいが,しばしば側方リンパ節転移は内腸骨動静脈やその分枝に近接して起こり,根治切除のための血管合併切除が必要になることも多い。そのため,側方郭清では,腸骨血管の分岐形態,走行の把握が非常に重要である。

  • 文献概要を表示

馬蹄腎,重複尿管などの先天性疾患や泌尿器科領域の手術既往などによる尿路の変異は,血管や神経の走行異常も伴うことが知られている。これらの解剖学的変異は直腸癌手術において思わぬ副損傷につながる可能性がある。

  • 文献概要を表示

大腸の血管走行においては三系統ある支配血管,すなわち上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;SMA),下腸間膜動脈(inferior mesenteric artery;IMA)および内腸骨動脈(internal iliac artery;IIA)の血流バランスが最も大切である。典型的な大腸における血流配分を図1に記す。SMAによって盲腸から横行結腸脾彎曲までが,IMAによって脾彎曲から直腸RSまでが,そしてIIAによって直腸が供血されるが,その解剖学的な変異の詳細については本企画の他稿に委ねる。

  • 文献概要を表示

腸回転異常症は,典型的には新生児期に消化器症状を呈し診断される疾患であるが,無症状のまま経過し,大腸癌の術前精査にて偶発的に指摘されることがある。PDM(persistent descending mesocolon)は,発生過程において左側結腸間膜が壁側腹膜と癒合せず,下行結腸~S状結腸が右側に変位した固定異常である。変位したS状結腸の癒着や短縮した左側結腸間膜の血管走行異常など,解剖学的破格を伴うことがあり,大腸癌手術においては術野の確保や血管処理に注意を要する。とくに術野の制限のある低侵襲手術では,術前の診断と準備がより重要であり,腸回転異常症に関する解剖学的知識は必要不可欠となっている。

  • 文献概要を表示

完全内臓逆位(situs inversus totalis;SIT)はBlegenらの報告によると胸部レントゲン検査では1:6,600,剖検では1:6,200の発生率であり1),わが国では勝木らが1:3,000~5,000の発生率と報告している2)。SITはおおむね3,000~7,000人に1人に発生するまれな先天奇形であるが,日本内視鏡外科学会が行ったアンケート調査では2017年に小腸・大腸疾患に対して行われた腹腔鏡手術の総数は4万2,936症例にも上り3),大腸疾患に対する手術は年々増加傾向にあるため,外科医がSIT患者に遭遇する可能性は十分にある。解剖学的位置関係が逆になるため手術の難度が上がると予想されるが,SIT患者とはいえ,腹腔鏡手術が普及した現在では,患者のQOL(quality of life)や拡大視効果のメリットを考慮すると,腹腔鏡手術を選択することも念頭に置かなければならない。

  • 文献概要を表示

わが国の食道癌治療は,手術を中心として発展してきた歴史があり,かつては根治的化学放射線療法(definitive chemoradiotherapy;dCRT)は,切除不能な局所進行症例や耐術能がない症例に対して行われてきた。2000年頃よりdCRTの成績向上が報告されるようになり1),食道切除手術の手術侵襲や術後愁訴を回避したいという考えから,切除可能な症例に対してもdCRTが行われるようになったため,近年症例が増加している。

  • 文献概要を表示

ハルトマンリバーサル(reversal of Hartmann’s procedure;RHP)は,ハルトマン手術後に全身状態が安定している患者に施行され,人工肛門閉鎖と腸管吻合を行う手術である1)。ハルトマン手術後の肛門側腸管は,切離断端部が閉鎖されて腹腔内に空置されているため,時としてその同定が困難なうえに,汎発性腹膜炎術後では腹腔内の癒着が高度で手術に難渋する場合がある。そのためRHPでは,手術関連合併症が43.8~47.3%と高いことが報告されている2)。

  • 文献概要を表示

腹壁瘢痕ヘルニアは腹部手術の最大30%に発生するという報告もあり1),消化器外科医はその治療法を十分理解しておく必要がある。

  • 文献概要を表示

特発性食道破裂は比較的まれな疾患であり,嘔吐などによる急激な食道内圧の上昇により食道の穿孔をきたし,縦隔炎や膿胸から重篤な経過を引き起こす救急疾患である。本症は適確な診断と早急の治療が重要であり,手術は食道破裂創の縫合閉鎖と胸腔内および縦隔内の洗浄ドレナージである。穿孔部位は下部食道左壁に好発するため,左開胸による経胸的アプローチでの手術が行われることが多いが,経食道裂孔による経腹的アプローチの有用性の報告もある。

  • 文献概要を表示

非閉塞性腸管虚血(non-occlusive mesenteric ischemia;NOMI)は,腸間膜の主幹血管に器質的閉塞がないにもかかわらず腸管に虚血や壊死を生じる疾患で1958年に初めて報告された疾患である1)。心血管疾患,糖尿病や慢性腎不全などの基礎疾患を有することが多いと言われている2)。今回,われわれは膵頭十二指腸切除後17年の挙上空腸にNOMIをきたし,挙上空腸の虚血腸管切除術により救命し得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 文献概要を表示

肝門部領域胆管癌に対する根治切除として,門脈合併切除再建は必須の手技であり,近年では多くの施設でその手術手技が確立され,良好な成績が報告されてきている。一方で肝門部領域胆管癌はその解剖学的特性上容易に肝動脈にも浸潤するため,根治切除には動門脈合併切除再建が必要となる場合があるが,その報告例は少なく,肝動脈合併切除再建の安全性についてはいまだ確立しているとは言い難い。今回,われわれは右肝動脈前枝と後枝の2本の動脈再建を伴った肝左葉切除を経験したので報告する。

  • 文献概要を表示

膵臓はみぞおちの高さに位置する後腹膜臓器である。その機能はさまざまでアミラーゼやリパーゼを分泌する外分泌機能やインスリンやグルカゴンを分泌する内分泌機能などを有する1)。

  • 文献概要を表示

閉鎖孔ヘルニアは恥骨裏面の閉鎖孔に嵌入するヘルニアである。通常の鼠径部ヘルニアと異なり,腸管嵌頓を伴わないヘルニアが触知されることはまれで,ヘルニア門が閉鎖膜,恥骨といった硬い組織で構成されていることから嵌頓した場合には循環障害をきたしやすく,高齢女性に好発するという特徴もあわせて重篤な経過をとる例が少なくない1,2)。閉鎖神経の圧迫によって大腿内側部に疼痛が生じるHowship Romberg徴候があるが,現状では広く知られているとは言いがたい。

----------

目次

投稿規定

バックナンバーのご案内

次号予告

基本情報

op75-8_cover.jpg
手術
75巻8号 (2021年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4423 金原出版

文献閲覧数ランキング(
7月19日~7月25日
)