手術 74巻6号 (2020年5月)

特集 内視鏡外科手術に必要な局所解剖─食道・胃

  • 文献概要を表示

胸部食道癌は,早期から広範なリンパ節転移をきたす疾患であるが,とくに両側反回神経周囲リンパ節転移はいずれの占居部位においても一定以上の頻度で存在し,その郭清は手術の根治性確保のために重要である。とくに胸腔鏡下食道切除術においては,拡大視効果と多様な角度からの視野展開によって,頸胸境界部から一部頸部に至るまでの反回神経周囲リンパ節郭清が可能である。一方で縦隔内には気道,心血管と生命維持に重要な臓器があること,反回神経,迷走神経,胸管といった術後の生体機能に大きく影響を及ぼし得る器官があることから,それらに十分留意した手技が求められる。両者の実現のためには,正確な解剖の理解に基づく手術手技が必須である。

  • 文献概要を表示

安全で合理的な食道癌手術には縦隔内臓器・脈管・神経の位置関係とともに,それらの間に存在する,あるいはそれらを含むように存在する膜,すなわち膠原線維と少量の弾性線維から成る密性結合織構造(thin membranous structure made of dense connective tissue)の理解が重要である。外科臨床においては,いわゆる「膜」あるいは「fascia」と称される構造は,臓器あるいは脈管周囲の密性結合織から成る面状の構造と考えられる。

  • 文献概要を表示

食道癌手術における縦郭リンパ節郭清を安全に行うには,隣接する臓器や神経さらに血管やリンパ管といった脈管構造の正しい局所解剖を理解することが大切である。切離するのか剥離するのか,もしくは温存するのかを判断しながら手術を進めるために,解剖の知識は必須である。

  • 文献概要を表示

腫瘍中心が食道胃接合部(esophagogastric junction;EGJ)から2 cm以内の腺癌と扁平上皮癌のリンパ節転移に関する前向き臨床試験が日本食道学会と日本胃癌学会の合同で行われ,腫瘍の食道浸潤長別にリンパ節郭清の至適範囲が推奨された1)。下部食道リンパ節として記載のあるNo.110,111,112の郭清推奨度を食道浸潤長別にみると,浸潤長が4 cm以上の場合は3部位すべての郭清,2.1~4.0 cm未満であればNo.110のみの郭清が推奨され,2.0 cm以下では郭清の必要はないことが示された。また,アプローチ法については,食道浸潤長が4 cm以上では胸腔鏡を含めた開胸アプローチが,2.0 cm以下では経裂孔アプローチが推奨された。

  • 文献概要を表示

食道胃接合部癌に対する手術アプローチとして,胃癌治療ガイドラインではJCOG9502試験1)の結果に基づき,食道浸潤が3 cm以内の場合には非開胸経裂孔アプローチが推奨されている。最近報告された日本胃癌学会・日本食道学会の共同研究の結果からは,食道浸潤長4 cmまでは上・中縦隔リンパ節郭清が不要とされている2)ので,可能であれば経裂孔アプローチが推奨されるものと思われる。同研究では下縦隔郭清の範囲に関しては,No.110のみが推奨されている。経裂孔的な手術操作に関しては,開腹手術よりも拡大視効果が得られる内視鏡外科手術に利点があるものと考えられる。本稿では,食道胃接合部癌に対する内視鏡外科手術の際に必要な局所解剖を解説する。

  • 文献概要を表示

第Ⅲ相臨床試験であるJCOG0110の結果,大彎に浸潤しない上部進行胃癌において,それまで標準治療とされていた胃全摘+脾摘に対する脾温存胃全摘の非劣性が示された1)。現在,このような対象に対しては,脾温存かつ脾門郭清も基本的に必要ないということでコンセンサスが得られている。一方,JCOG0110の対象外であった大彎に浸潤する上部進行胃癌では,約15%の割合で脾門リンパ節転移が認められることが知られている。しかし,脾摘および脾門郭清の必要性に関する明確なエビデンスはなく,今後明らかにされるべき課題として残されている。

  • 文献概要を表示

11番リンパ節は脾動脈に沿ったリンパ節であり,近位側1 / 2のNo.11pリンパ節(No.11p)と,遠位側1 / 2の11dリンパ節(No.11d)に分けられる。胃癌治療ガイドライン(第5版)では,術式別にリンパ節郭清範囲が規定されており,No.11p郭清は幽門側胃切除のD2郭清,噴門側胃切除および全摘のD1+郭清に含まれ,No.11d郭清は胃全摘のD2郭清に含まれている。

  • 文献概要を表示

胃癌手術における膵上縁郭清では,必要十分なリンパ節切除による腫瘍学的根治性と膵液漏をはじめとする術後合併症を防ぐ安全性の担保が求められる。腹腔鏡下胃切除術では,開腹手術とは異なった視点から,開腹手術では認識しにくい微細な構造物・剥離層の同定が可能であり,これらの局所解剖の正確な理解に基づいた手術手技が,安全な胃切除術を実現させると考える。

  • 文献概要を表示

胃癌手術において幽門下リンパ領域であるNo.6は,大彎のリンパ流を集める重要な領域であり,転移頻度も郭清効果も高い領域である。しかし,腸間膜の癒合とねじれによる複雑な構造,郭清範囲内に大小さまざまな脈管が存在し,さらに膵を内包しているという点から,その郭清手技は難しく,合併症発生のリスクが高い領域でもある。そのため局所解剖の理解が重要となる。

  • 文献概要を表示

腹腔鏡下幽門胃切除術における小彎リンパ節(No.1, 3a)郭清は一般的に郭清の終盤で行われることが多く,比較的軽視されがちな部位である。しかし,デバイスと切離ラインの軸が合わないことが多く,不意な出血や誤認による胃壁の損傷などのトラブルが多い場所でもある。一般的にはNo.1リンパ節からNo.3aリンパ節へと口側から肛門側へ,後壁側から前壁側へと郭清組織を剥き下ろしてくる小彎三角法が用いられることが多い。当科でも小彎三角法を用いての郭清を行ってきたが,デバイスが胃壁に垂直に当たりそうな場面も多く,ショートピッチでの切離が多くなることもあり,結果的に手術時間の延長や,出血,胃壁損傷をきたした症例も経験してきた。

  • 文献概要を表示

胃上部の癌に対する腹腔鏡下胃全摘術あるいは噴門側胃切除術では,幽門側胃切除術の手技に加え,胃穹窿部の授動と胃脾間膜の確実な血管処理が必要である1,2)。胃脾間膜はその脾上極側で短縮し,かつ横隔膜下の深い位置に存在するため,基部での切離操作の際に視野不良となりがちで,出血をきたすと止血に難渋する可能性がある。胃脾間膜頭側の処理に先立って胃穹窿部を腎前筋膜から部分的に授動し,胃横隔間膜および横隔脾靱帯を切離すると胃脾間膜が伸展し,安全な切離が可能となる。

  • 文献概要を表示

裂肛とは肛門上皮に生じた裂創,びらんなど,非特異的潰瘍性病変の総称である。後方正中部に最も多く,次いで前方正中部に多い1)。

  • 文献概要を表示

食道亜全摘後の再建臓器として胃管挙上再建が第一選択とされることが多い。しかし,胃切除の既往がある症例や同時性胃癌の症例では胃管再建が行えず,その場合には結腸再建,回結腸再建,空腸再建が行われる。どの臓器による再建が良いかについては議論が分かれ,さらに,遊離か有茎か,有茎ならば血管吻合(supercharge,superdrainage)を付加するかどうか,再建経路(胸壁前,胸骨後,後縦郭)をどうするかによって再建術式の内容は変わってくる。結腸再建や回結腸再建では頸部食道まで挙上できる十分な長さが得られることが多い反面,再建結腸に癌ができる可能性,結腸切除の既往がある場合に再建できない,術後合併症が多いなどの報告がある1-3)。空腸による再建は,空腸の良好な蠕動により術後の経口摂取が良好であるとの報告があるが3),頸部までの挙上は腸間膜による制限を受け,困難であることも多い。空腸挙上再建に血管吻合を追加(supercharge,superdrainage)した報告もみられるが,術後の挙上空腸壊死は4%,術後のmortalityは5%とされている4)。

  • 文献概要を表示

多嚢胞性腹膜中皮腫は非常にまれな疾患で,これまでの報告例は約200例に過ぎない1)。組織学的には良性であるが,局所再発や腹腔内の広範囲な播種をきたし得るため,通常の切除では約半数が再発し,悪性化して死亡することがある。その希少性のため標準的治療は確立されていないが,他の腹膜播種性悪性疾患と同様に,腹膜切除を伴う完全切除と腹腔内温熱化学療法(cytoreduction surgery and intraperitoneal hyperthermic chemotherapy;CRS+HIPEC)が予後を改善する可能性がある。

  • 文献概要を表示

腹会陰式直腸切断術後の会陰ヘルニアはまれな合併症であり,経腹的,経会陰的,両者併用,また近年では腹腔鏡下に修復した報告がある。今回,経腹・経会陰の両方からのアプローチにより修復した会陰ヘルニアの症例を経験したので文献的考察を交えながらこれを報告する。

  • 文献概要を表示

肛門手術術後に止血術を必要とする出血の頻度は0.5~5%と報告されている1)。その原因には過度の怒責など,主に排便習慣に起因するものも含まれるため,症例によっては頻回に再出血を繰り返し治療に難渋することがある。今回,頻回に繰り返す難治性肛門術後出血に対し,肛門部に供血する動脈の塞栓術により止血し得た3症例を経験したので報告する。

----------

目次

投稿規定

バックナンバーのご案内

次号予告

基本情報

op74-6_cover.jpg
手術
74巻6号 (2020年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4423 金原出版

文献閲覧数ランキング(
5月18日~5月24日
)