手術 74巻12号 (2020年11月)

総特集 消化器・一般外科手術における感染対策・周術期管理

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外科手術に伴う感染症は,術創における局所感染症と,手術侵襲によって起こる全身感染症に分けられる。前者は,術創感染(surgical site infection;SSI)であり,一定の確率で起こり,かつ原因となる微生物の頻度は疫学的情報からある程度予測可能である。後者は,カテーテル関連血流感染や院内肺炎など偶発的な発症のため,発症時期や原因微生物の予測が難しい感染症である。それぞれの感染症の予防のためには,適切なプラクティスが定められているが,抗菌薬による予防の効果にエビデンスがあるのは前者のみである。

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栄養不良があると縫合不全や感染症などをはじめとする術後合併症の発生や死亡率が高く,在院日数が延長することはよく認識されている。古くは,消化性潰瘍手術患者で術前の体重減少が20%未満であった患者は死亡率が3.5%であったのに対して,20%以上の体重減少があると死亡率が10倍近い33%に達することが,1936年に報告されている1)。その後も下部消化管手術患者の術後の合併症や死亡率が栄養不良患者で約2倍に達しているとの報告(合併症52% vs. 31%,死亡率12% vs. 6%)2)をはじめ,術前の栄養不良と術後合併症や死亡率などとの有意な関連を示した論文が数多く報告されている3)。そして,周術期の栄養管理が術後感染症4)や重篤な合併症の減少5)といった予後改善に寄与することも示されており,まさに栄養管理は周術期に欠かせない。このような観点から,本稿では,周術期の栄養管理の総論について解説したい。

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生体は手術や外傷などの外科侵襲を受けると,生体の内部環境を回復して生存するための反応を起こす。このホメオスターシスの維持のために発動される反応を生体反応と呼んでいる。外科侵襲後の生体反応は,侵襲の程度によって量的な差はあるものの基本的には,神経内分泌系,心血管系,代謝系,免疫系などの各臓器や系が互いに連携しながら,多彩な生理学的・生化学的変化によって形成されている。外科手術によって引き起こされる各種生体反応は,手術操作自体による直接的組織破壊による侵襲だけでなく,手術中の出血,低血圧,麻酔,輸血,低体温など,さまざまな侵襲によって引き起こされる。

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「良い手術」とは何であろうか。手術手技のみならず,術前の適切な診断と手術適応の判断から始まり,リスク評価,患者に対するわかりやすい説明と多職種によるサポート,周術期管理,術後の疼痛管理など多岐にわたる。ただし,これらの多くは数値化が困難であり,手術の優劣を点数化することは容易でない。しかし,手術の質の数値化が可能な因子として,手術部位感染(surgical site infection;SSI)発症率が挙げられる。

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2019年12月末に中国・武漢から始まった新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019;COVID-19)の流行は,2020年3月に世界保健機関 (World Health Organization;WHO)によるパンデミック宣言に発展し,半年が経過した。現在(2020年9月20日時点),各国当局の発表に基づくまとめでは,196の国・地域で感染者数は3,084万人以上,死者数は95万人以上と報告されている1)。日本における感染者は7万8,657例,死亡者は1,500人に及ぶ2)。

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食道手術のなかで,アカラシアや食道裂孔ヘルニア修復など良性疾患に対する手術は,今日ではほとんどが内視鏡下に行われ,消化管腔が開放されない清潔手術(手術創クラスⅠ:清潔創,clean wound)1)で,術後感染症も少ない。一方,食道癌(食道胃接合部癌を含む)に対するリンパ節郭清を伴う食道切除再建術(以下,食道癌手術)は,内視鏡外科手術が普及しているが侵襲は大きく,消化管腔が開放される準清潔手術(手術創クラスⅡ:準清潔創,clean-contaminated wound)とされる1)。本稿では,感染性合併症発症率がいまだ高い食道癌手術2-15)を対象として,感染対策とそれを念頭に置いた周術期管理を概説する。

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NCD(National Clinical Database)のデータによると,全国で年間,胃切除術(幽門側胃切除術・幽門保存胃切除術など)が約3万7,000件,胃全摘術(噴門側胃切除術を含む)が約1万7,000件行われている。また,合併症・周術期死亡の発生割合は,胃切除術で約6%・約1.3%,胃全摘術で約10%・約2%と決して少なくない頻度で生じており,周術期を通して十分な予防・診断・治療対策が必要と考えられる(図1)1)。

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肝切除術においては,背景肝に肝炎ウイルスや糖尿病,化学療法による慢性肝炎や肝硬変が併存することが多く,肝予備能が低下した症例に対して手術を行うこととなる。このため,肝切除術は術後に易出血性,易感染性や難治性腹水を発症しやすい状態にある。さらに,肝切除術においては胆汁漏や腹腔内の死腔形成による感染性合併症のリスクが高い。とくに,肝硬変合併症例における肝切除術においては,bacterial translocationが起こりやすく,感染の機会が増加する1)。また,障害肝を背景に,いったん術後感染症を発症すると容易に不可逆的肝不全へと進展し致命的な経過をたどる危険性がある。このため,肝障害の病態把握に基づいた周術期管理が重要である。さらに,術後感染症の発生は容易に在院日数の延長につながり,患者負担の増加のみならず,医療経済上も負担を増加させる。

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わが国における生体肝移植は,1989年に第1例が行われて以来,黎明期である1990年代から2000年代を経て手術手技や治療戦略が進歩したことで予後が向上している。現在,当科では2016年10月以降の1年生存率が99%に達している。しかし,2010年時点での後ろ向き解析では,術後在院死亡の62.5%が感染症に起因していたことから1),感染制御こそが周術期管理の鍵であると考え,生体肝移植のさらなる成績向上を目指してさまざまな観点から検討と対策を行ってきた。

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急性胆嚢炎は急性腹症の3~10%を占めるとされ,日常診療で遭遇することの多い疾患の1つである。胆嚢炎は早期の治療が適切に行われなければ,敗血症から死に至る可能性もあるため,急性期に適切な治療がなされることが必要である。胆嚢炎に対する治療指針として今日では,急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドラインが出版されており,2018年には改訂版(Tokyo Guidelines 2018;TG18)が刊行された1)。TG18では,エビデンスに基づいた胆嚢炎に関するさまざまな指針が出されており,一般医療機関においては,ガイドラインに即した医療を行っていくことが望ましい。当院においてもTG18に則った診療を行っているが,以下,感染対策と周術期管理の観点から概説する。

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消化器外科手術のなかでも悪性疾患に対する胆道手術は外科的手技が複雑であり,術後合併症が多い疾患として知られる。とくに,肝門部領域胆管癌に対する根治切除後の合併症発生率は14~76%,周術期関連死亡率は0~19%と報告され1),多くの消化器外科手術が安全に行われるようになった今日でもいまだ改善の余地が残る領域といえる。

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膵臓手術は消化器外科手術のなかでも難度の高い手術であり,主たる対象疾患である膵癌は現在でも難治かつ予後不良な疾患の1つである。代表的な膵臓手術には膵頭十二指腸切除術(pancreaticoduodenectomy;PD)と膵体尾部切除術(distal pancreatectomy;DP)があるが,腫瘍の悪性度によって縮小手術から血管合併切除を伴う拡大切除までさまざまな術式が実施されるとともに,近年の化学療法の進歩により切除不能から切除可能となるコンバージョン(conversion)症例も増加し,術前化学療法導入例に対する個別な管理も必要となる。さらには腹腔鏡手術からロボット支援手術が広く普及することによって,膵臓手術の周術期管理にも将来的にパラダイムシフトが起こる可能性もある。

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急性虫垂炎は,腹部救急領域で手術を要する代表的な疾患の1つである。虫垂切除術後の最も多い合併症は,報告により頻度はさまざまであるが,術後手術部位感染(surgical site infection;SSI)である。SSIを合併した場合,入院期間は延長し医療費上昇にもつながり,その対策と予防は本症の治療上非常に重要である1)。

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結腸手術には,炎症などの良性疾患と癌に対する手術がある。消化器外科領域のなかで最も一般的に行われ,手術や周術期管理の安全性が比較的確立されている。ただ,手術部位感染(surgical site infection;SSI)の発症率が10~15%程度と比較的高く1),周術期感染対策が重要となる。

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直腸は狭い骨盤内に存在し,男性では膀胱・前立腺・精嚢,女性では腟・子宮などの臓器が隣接している。また,直腸周囲には温存すべき骨盤内臓神経などの自律神経が存在する。直腸癌はその解剖学的特徴から結腸癌と比較して再発率が高く,その根治性と機能温存の両立を図る必要がある。このようななか,直腸癌の腹腔鏡手術はその拡大視効果から,近年では一般的となりつつある1)。さらに2018年4月からロボット支援下直腸手術が保険収載となり,多関節機能を有した鉗子や3D画像による視認性から当教室でも標準的に行われるようになった2)。直腸手術の合併症の特徴として,結腸手術に比べ縫合不全のリスクが高いため,一時的な人工肛門の造設を行うこともあり,結腸手術と違った対応が必要となる。本稿では,当教室で行っている感染対策を中心とした周術期管理について概説する。

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近年の炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)に対する内科的治療は,従来から使用されてきたステロイドとともに免疫調節薬,生物学的製剤などの新しい薬剤が開発され,治療薬の選択は多様化している。内科的治療の進歩により手術率は減少しつつあるが,内科治療抵抗性や腸管合併症などの理由で手術を余儀なくされる症例はいまだ少なくない。手術適応となった症例では低栄養,貧血,感染性合併症,高サイトカイン血症などの病態が併存していることが多く,さらに免疫抑制治療が行われている場合が多いため,感染性合併症を主とした術後合併症が高率に起こりやすいと考えられる。手術成績向上のためにはIBD特有の病態,治療について十分に理解し,多角的なアプローチによる周術期管理を行うことが重要である(図1)1)。

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鼠径部ヘルニアは外科領域のなかで,いわゆる日帰り手術を含めた短期滞在型医療が最も普及している領域の1つである。したがって,感染対策・周術期管理も入院中のことのみならず,入院前・手術中・退院後までを含めて考える必要がある。本稿の記載にはこのような特徴があることをあらかじめお断りしておく。

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手術
74巻12号 (2020年11月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4423 金原出版

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