手術 74巻11号 (2020年10月)

特集 直腸脱の手術

直腸脱の手術(総論) 山名 哲郎
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直腸脱は直腸肛門疾患を診療する肛門科医や消化器外科医にとっては,頻繁に遭遇する疾患の1つであるため,その診断治療には精通していなければならない。直腸脱の手術はこれまでに数多くの術式が提唱されてきているが,現在でも施設や術者の経験,考え方,好みによって術式が選択されており,実際に実施されている術式も10種類以上に及ぶ。これはそれぞれの術式に一長一短があり,いわゆるgold standardとなる術式がいまだに確立されていないためであるが,直腸脱の治療成績を向上させるためにも,また若手外科医の教育のためにもエビデンスに基づいた術式選択の基準が求められている。

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直腸脱は脱出に伴う違和感,疼痛,出血,便失禁という不快な症状を呈し,患者のQOLを著しく低下させる。直腸脱に対する治療は原則手術であり,アプローチ法により経会陰手術と経腹手術に大別される。わが国では2012年に直腸脱に対する腹腔鏡下直腸固定術が保険収載され,現在では広く普及している。しかし,高齢者に好発する直腸脱においては術中・術後の合併症の発生は決して少なくないことから,侵襲性の低い経会陰手術が選択されることが多い。

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近年,高齢化に伴い,高齢者の直腸脱が増加している。直腸脱は外科的治療が原則であるが,高齢者が多いため低侵襲で,根治性,日常生活に即したQOLを考慮した治療法が求められる。

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直腸脱は大腸肛門疾患の診療現場ではよく遭遇する疾患であり,人口の高齢化によって増加すると考えられる疾患である。治療は症状出現後早期の症例(およそ半年以内)で,排便時に直腸全層が脱出するが自然または容易に還納し得るものや外肛門括約筋機能がある程度残存する症例では,排便習慣の適正化とバイオフィードバックトレーニングなどにより症状の改善が期待できる。しかし,発症後長期間(多くは1年以上)経過し,外肛門括約筋機能が失われたものでは外科的治療を考慮する。

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直腸脱は完全直腸脱と不完全直腸脱に分けられ,一般的には直腸脱とは直腸の全層が脱転して肛門の外に脱出する完全直腸脱を指すことが多い。2~3 cmの短い脱出例から10 cm超の脱出例までいろいろな病態の直腸脱がある。大腸肛門疾患の専門病院では時々遭遇する疾患であり,隅越は全肛門疾患のなかで0.4%の頻度と報告している1)。筆者らの分析でも,全肛門疾患のなかの0.2%の頻度であった2)。高齢の女性に多く,直腸が脱出するだけではなく,しばしば便もれ,尿漏れなどの失禁症状や便秘を有する場合もある。

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直腸脱手術は時代の流れとともに変化している。脱出によるさまざまな症状により,日常生活が障害されるQOL疾患とも考えられるため,低侵襲性と根治性に加え,術後の排泄機能にも留意して手術方法を選択する必要がある。

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近年の腹腔鏡手術の普及に伴って,直腸脱に対する経腹手術は腹腔鏡下直腸固定術が標準術式となってきた。腹腔鏡下直腸固定術の術式は複数あるが,その主な相違点は,①直腸の剥離部位,②側方靱帯温存の有無,③メッシュ使用の有無である。腹腔鏡下腹側直腸固定術(laparoscopic ventral rectopexy;LVR)は図1に示すように,直腸の前方のみを剥離するために下腹神経が温存され,側方靱帯には操作が加わらないため,骨盤神経が温存される自律神経完全温存術式とされている(図2)。直腸の固定は下部直腸腹側と仙骨岬角の間でメッシュにより縫合固定される(図3)。D’Hooreら1)の報告以来欧州を中心に汎用されており,筆者もその有効性を報告してきた2,3)。本稿では具体的な術式とその成績を述べる。

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当院(辻仲病院柏の葉)は大腸肛門科・骨盤底外科の専門病院であり,当院と近隣分院(東葛辻仲病院)を合わせて年間100例程度の直腸脱手術を手がけている。

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直腸癌手術においては,TME(total mesorectal excision)に従って直腸,直腸間膜を直腸固有筋膜に包んだ状態でパッケージとして切除する基本手技に加えて,1 mmを超えるCRM(circumferential resection margin)の確保が重要である。TME遵守,CRM確保のコンセプトにより局所再発率が低下,生存率は向上し,直腸癌の治療成績は向上した。

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直腸腟瘻は,直腸と腟の間に瘻孔を形成し,腟から不随意にガス・便の漏れを生じる疾患である。致死的となることはまずないが,患者の生活の質(quality of life;QOL)を著しく低下させる。その原因として,骨盤部手術後の合併症,分娩時裂傷,悪性腫瘍に対する放射線治療後の合併症,Crohn病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患,外傷,などが挙げられる。直腸腟瘻は難治性で,保存的治療で治癒が得られる症例は少なく,何らかの手術による加療が必要となることが多い。手術手技としては,経会陰的手術(瘻孔切除術,縫合閉鎖術,皮弁充填術など)と経腹的手術(直腸切除・再吻合術など)に分けられる。

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直腸脱は肛門疾患のなかでは比較的頻度は低いものの1),近年,日本では高齢化が進んでおり,日常診療において遭遇する患者数は増加することが予測される。直腸脱に対する手術方法は数多く報告2)されているが,低侵襲とされているGant─三輪法やThiersch法に代表される会陰側アプローチと,再発率が低いとされている直腸固定術などの腹腔側アプローチに大別される。会陰側アプローチは腰椎麻酔下で施行可能であることなど,その低侵襲性から,高齢患者の多い本疾患で従来選択されることが多かった。近年では内視鏡外科手術の進歩に伴い,再発率が低く,低侵襲に施行可能である腹腔鏡下直腸固定術が普及してきており,わが国でも2012年に保険収載された。その術式については,人工物の使用の有無や固定法などにおいて,さまざまな術式と成績が報告されている3)。当院においても根治性を担保しつつ,合併症を少しでも減らすことを目標に,メッシュを用いた腹腔鏡下直腸固定術を施行してきた。本稿では当院で施行している術式を報告する。

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メッシュが適切に留置された鼠径管経由腹膜前修復(trans-inguinal-preperitoneal repair ; TIPP)法は,再発を起こさない確実な修復法となり得る。しかし,TIPP法は,簡便な手技ではないためメッシュが不適切に留置された再発が散見される。

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腹腔鏡下鼠径部ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal repair;TAPP)は,腹腔内より鼠径部ヘルニアを修復する術式である1)。腹腔鏡手術の普及とともに,TAPPを鼠径部ヘルニアに対する標準術式として選択する施設は増加している。しかしながら,その再発率は1.9%と報告されており,前方アプローチ法と比していまだ高いことが問題点として挙げられる2)。われわれは再発ゼロを目指し膜構造,層構造をより意識した手術を行うべく膨潤手技を併用したTAPP3)(以下,膨潤TAPP)にサンドイッチアプローチ法4)を組み合わせた手術を行っている。本稿では,その手技について解説する。

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括約筋間腹会陰式直腸切断術(intersphincteric abdominoperineal resection:iAPR)は,括約筋や骨盤底への浸潤のない下部直腸癌のうち,肛門部や低位の吻合が適さない症例に対する治療選択肢となり得る。会陰部の創は肛門内にとどまり,外括約筋と骨盤底筋が温存されるため,従来の腹会陰式直腸切断術(abdominoperineal resection;APR)術後の骨盤死腔炎や会陰創に関連する合併症(疼痛や創離開)のリスクが低減すると考えられる。さらに,iAPRはHartmann手術と比較して肛門側マージンを確保しやすいという利点もある。

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膀胱全摘を要する大腸癌膀胱浸潤症例では根治切除に伴い尿路変向術が必要であり,その選択が術後の生活の質(quality of life;QOL)に大きな影響を及ぼすことになる。新膀胱による尿路再建はストーマを回避することができ,術後のQOLを向上させることが期待される術式である。今回,われわれは大腸癌膀胱浸潤に対し膀胱全摘を行い新膀胱による尿路再建を行った3例を経験したため報告する。なお,大腸癌に関する記載は大腸癌取扱い規約第8版1)に従った。

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S状結腸膀胱瘻は,結腸内圧が膀胱内圧より高いため自然閉鎖は困難で,治療には手術が必要となることが多い1)。その原因は,憩室炎によるものが最多である2)。近年,憩室炎によるS状結腸膀胱瘻に対して腹腔鏡手術の有用性を指摘する報告が散見されるようになった1,3,4)。腹腔鏡手術では,拡大視効果により,膀胱と結腸間の精緻な剥離が可能となり,膀胱の損傷を最低限にとどめることができるようになってきた。ただし,炎症が広範囲に及び,結腸と膀胱との間の炎症性癒着が高度である場合では,手術操作による尿管や膀胱尿管口の損傷が危惧される。

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直腸異物の多くは性的嗜好により経肛門的に挿入され,摘出困難となったものである1)。個人のライフスタイルの変化や嗜好の変化に伴い,直腸異物の症例は増加している。今回,われわれは,経肛門的摘出に工夫を要した直腸異物の2症例を経験したので報告する。

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手術
74巻11号 (2020年10月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4423 金原出版

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