小児科 62巻2号 (2021年2月)

特集 小児輸液revisited―“いつもの輸液” を見直そう

Ⅰ 総論

1.小児輸液の基本 田中 絵里子
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輸液療法とは,主に体内に不足または必要とする水分や電解質などの物質を経静脈的に投与する治療法である.輸液療法を行うにあたり,体液組成と体内での水電解質の分布・移動と調節機構について小児の特性とともに理解する.輸液計画を立てるには患児の状態や体液量を評価することが重要であり,そのうえで「なぜ」(目的)「なにを」(輸液製剤)「どれだけ」(輸液量)投与するかを決定する.必要がなければ輸液をしないという選択も大事である.輸液に伴う医原性の水分過剰や低Na血症などの危険性についても知っておく.最も重要なことは,患児の状態を常に評価し輸液計画を立てること,必要に応じこまめに輸液計画を変更することである.

2.小児輸液の実践 金子 一成
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輸液とは,経静脈的に水分・電解質,糖質,脂質,アミノ酸や高分子化合物などを投与する治療法で,目的としては,① 失われた水分・電解質補充,② 体液の恒常性維持,③ 栄養補給,④ 毒物排泄や副作用軽減,そして ⑤ 薬剤の投与ルートの確保,がある.

小児の輸液の主な目的は,言うまでもなく水分・電解質補充と体液の恒常性維持である.そこで本稿では,小児に輸液を実施するにあたって必要な基本的知識について,まず成長に伴う体液量と,その組成の変化について述べ,その後,水分・電解質必要量について解説する.次に小児の維持輸液に伴う医原性低ナトリウム血症について紹介し,最後に輸液した水分の体内分布を予測する考え方について説明する.

3.初期輸液のポイント 藤丸 季可
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最も遭遇する小児に速やかに初期輸液を開始しなければならない病態は,頻回の下痢や嘔吐によって生じた体液喪失による重症脱水である.初期輸液は,喪失した細胞外液量を是正し,循環不全を改善して循環動態を安定させることが目的である.輸液製剤は,細胞外液補充液(等張電解質輸液製剤)を選択する.不適切な初期輸液は輸液過誤となるため,病態を的確に把握するとともに各輸液製剤の特徴を熟知しなければならない.輸液計画が正しく実施されているかはチェックポイントを設けて再評価し,適切に軌道修正することが重要である.

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維持輸液療法は,かつては3号液(3分の1生食)を4-2-1ルールに基づく投与量で行うことが一般的であった.しかし,非浸透圧刺激性ADH分泌による医原性低Na血症発症の可能性を少しでも低下させるため,現在は等張液で開始のうえ,必要に応じて輸液内の電解質を調節することが推奨されている.一方で等張液を用いた維持輸液においては低K血症,高Na血症のリスクがある.一律にすべての患者において同じマニュアルで輸液製剤を決めるのではなく,インアウトバランスを中心に患者の状態を適切に判断し,輸液の組成および投与量を決定する.また,経口補水が可能となった際は速やかに輸液を中止する.

Ⅱ 各論

5.脱水 三浦 健一郎 , 服部 元史
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脱水に対する輸液では,まず脱水の有無を含め,その程度を評価することが重要である.問診および理学所見(眼窩陥凹,皮膚ツルゴール,毛細血管再充満時間,呼吸パターンなど)から水分喪失割合を推定する.軽症および中等症では経口補水療法を検討する.経口補水療法が不可能または重症脱水の場合は経静脈輸液を行う.重症脱水に対しては乳酸リンゲル液または生理食塩水を20mL/kg/時で1~4時間輸液する.輸液開始前に必ず電解質や血糖測定のための採血を行い,治療へのフィードバックや病態の再評価を行う.血清Na異常を認めた場合は血清および尿電解質を経時的にモニタリングすることが重要である.

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血清ナトリウム(Na)濃度の異常は,日常診療における代表的な電解質異常である.低Na血症の頻度が高く,小児では胃腸炎,脱水に伴う急性低Na血症が多い.けいれん,意識障害を呈する急性重症低Na血症に対しては,高張食塩水輸液による迅速な対応が求められる.無症候性低Na血症に対する輸液の必要性は,個々の病態を把握したうえで判断される.医原性低Na血症に代表されるように,画一的な輸液は電解質異常のさらなる悪化を招く可能性がある.一方,高Na血症の頻度は低く,治療は欠乏する自由水の補充であるが体液量により方針が異なる.本稿では,血清Na異常に対する輸液治療を含めた基本的対応について述べる.

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糖尿病性ケトアシドーシスの治療では,インスリンの欠乏によりもたらされる高血糖,高ケトン血症,代謝性アシドーシスをいかに改善するか,また脳浮腫などの合併症の発症をいかに阻止するかが重要である.インスリン・水・電解質の補充と評価法のアルゴリズムを示したい.

8.急性脳症・脳浮腫 鈴木 恵子
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小児の急性脳症は生命を脅かし,神経学的後遺症が問題となる疾患である.急激で広範な非炎症性脳浮腫による機能障害を最小限に抑えるには,呼吸循環をはじめとする全身管理とけいれんのコントロールが予後を左右する.臨床病理学的に脳症のタイプが分類され,その特徴も明らかになってきたが,いまだ早期診断につながるマーカーや特異的な治療有効性のエビデンスもはっきりしない.支持療法として輸液療法を行う際の重要な点は,脳を保護するために「酸素化された血液による脳潅流の維持」を行うことである.極度の水分制限は脳の虚血を起こし脳浮腫の増悪因子となるため避け,脈拍・血圧を維持し血糖・電解質を安定させることは重要である.

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腎機能障害を有する児に対する輸液療法は,病態により必要とする輸液の組成・量が異なるため定型化することは困難である.まずは病歴や身体所見,検査所見などから腎機能障害の原因・病態を把握する.次に体液量や血液・尿電解質により輸液前の状態を評価し,輸液計画を立てる.輸液開始後に体液量・血液・尿電解質をモニタリングし,動的な変化に対応していくことが肝要である.

10.熱中症 植松 悟子
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小児では解剖学的,生理学的に熱中症を発症しやすく,かつ重症になりやすい.加えて,学校や地域での活動として暑熱環境で長時間に及ぶ激しい運動をする機会も多い.しかし,熱中症の治療は対症療法が主体である.医療機関に受診後にも,重症度が進行する可能性があること,また,治療の中心となる輸液負荷による病態の悪化,合併症も多く,継続的なモニタリングと評価の反復が必須であり,集中的な全身管理を要する.

11.外傷・熱傷 池山 由紀
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外傷・熱傷に対する輸液蘇生はショックから離脱し臓器障害を起こさないことが目的である.輸液製剤はどちらも晶質液が一般的だが,輸液製剤,量ともに患児の状態を評価しながら行うことが重要である.外傷性ショックであれば,まず20mL/kgの晶質液のボーラス投与を行い,反応を見て繰り返す.ただし多すぎる晶質液の輸液は急性外傷性凝固障害,肺水腫や腹部コンパートメント症候群を引き起こす可能性があるので注意する.熱傷の場合も過剰輸液により引き起こされるfluid creepという概念が提唱されており,日本で広く使われているBaxterの公式で予測される輸液量を漫然と行わずに,尿量などを指標にしながら調整を行う.

12.集中治療・術後管理 冨田 健太朗
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小児領域において輸液療法はありふれた治療であるが,集中治療を要する患者や術後患者など,高度侵襲下の患者に対しては通常の輸液戦略とは異なったアプローチが必要である.このような患者に対して適切な輸液を行うには,生理学的な理解が欠かせない.近年,侵襲時の輸液に関連する新たな生理学的知見が知られるようになり,注目を集めている.本稿では,“いつもの輸液” を “重症患者に応用できる輸液” にアップデートすることを目標に,最近の知見を含めて概説する.

13.新生児の輸液 佐藤 尚
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新生児早期は,胎内環境から胎外環境への急激な変化の時期であり,水-電解質バランスも大きく変化する.新生児,とくに超低出生体重児の輸液法は小児や成人と大きく異なる点が多数あり,新生児期に特有な病態生理を理解する必要がある.

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三心房心(cor triatriatum sinister:CTS)は,線維筋性の組織でできた異常隔壁により心房が分割される疾患で,発生頻度は先天性心疾患の約0.1%と比較的まれな疾患である.左心房(left atrium:LA)が異常隔壁により肺静脈の還流する副腔(accessory chamber:AC)と左心耳を有する固有左房に二分される左房性三心房と,右心房(right atrium:RA)が分割される右房性三心房があり,通常,前者をCTSとよぶ1).基本的な病態は肺静脈の還流障害による肺うっ血であり,AC-LA間の交通孔の大きさとその心房中隔欠損を含めた合併奇形が予後を決定するとされる.

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小児頸椎椎間板石灰化症は,激しい頸部痛,頸部運動制限,発熱のほか,ときに項部硬直を呈し,髄膜炎との鑑別が必要となる疾患である1).今回われわれは,髄膜炎との鑑別を要した小児頸椎椎間板石灰化症の1例を経験したので報告する.

[連載] 最近の外国業績より

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背 景 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)は高血糖,アシドーシス,および脱水によって特徴づけられるが,小児の重症DKA患者において高血圧の報告が散見される.病態はいまだ解明されていないが,小児DKAでは脳血流の異常が報告されており,高血圧は脳幹潅流の変化に起因する神経生理学的変化を反映している可能性がある.本研究では,小児DKA治療に関する大規模コホート研究の高血圧に関連したデータを用いて,DKA時の血行動態に関する検討を行うことを目的とした.

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小児科
62巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4121 金原出版

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