小児科 60巻6号 (2019年5月)

特集 小児神経難病の臨床

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糖タンパクにおける糖鎖はタンパク質の機能に重要である.先天性グリコシル化異常症(CDG)は,糖タンパクの糖鎖の合成過程および修飾過程にかかわる遺伝子変異により,糖タンパクの機能不足によって発症する先天代謝異常症である.多数のタイプが存在するが,最も多いPMM2-CDGでは筋緊張低下,体重増加不良,精神運動発達遅滞,てんかん,特徴的顔貌,眼科異常,臀部脂肪沈着・乳頭陥没など皮膚症状,心嚢液貯留,肝機能異常等多彩な症状を認める.胎児水腫や多臓器不全による早期死亡例から軽度知的障害のみの例など,CDGの重症度は多様である.糖鎖異常の同定には,質量分析法が有用である.

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MELASは脳卒中様症状を特徴とするミトコンドリア病の一病型で,多くはmtDNAのロイシン転移RNA内の点変異が原因である.mtDNAのヘテロプラスミーによってMELASの症状は多彩であり,治療にはまだ標準的なものはない.最頻の3243変異により,転移RNAのタウリン修飾障害が起きることでミトコンドリア内の翻訳不全が起きエネルギー代謝が障害される.タウリンの大量治療で脳卒中発作を抑制できることが臨床試験で確認され保険適用となった.

3.結節性硬化症 金田 眞理
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結節性硬化症(TSC)は,TSC1TSC2遺伝子の異常の結果,それぞれの遺伝子産物hamartinとtuberinに異常を生じ,下流のmTORC1が恒常的に活性化するために起こる常染色体優性遺伝性の疾患である.mTORC1はS6Kの促進を介した細胞の増殖や,ULK1の抑制によるオートファジーの抑制などさまざまな作用を有しているため,本症では全身の過誤腫と同時にてんかん,TSC関連神経精神症状(TSC associated neuropsychiatric disorder:TAND)とよばれる精神神経症状や白斑を生じる.前述した症状は人生のさまざまな時期に出現し,程度の違いも著しい.遺伝子型と表現型の関連,病態,さらに全身に及ぶ多様な症状を解説すると同時にmTORC1阻害薬による治療などについても説明する.

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小児期に発症する脊髄小脳変性症について概説した.小児期に小脳性運動失調症状を呈する疾患は多数知られており,まずは治療可能な疾患を鑑別することが重要である.家族歴のある優性(顕性)遺伝性疾患の診断は比較的難しくない一方,孤発例では確定診断が難しい.次世代シークエンサーの普及に伴い孤発例のなかからも遺伝子異常が多数見出されつつある.根本治療はまだ難しいが,原因を確定し,予後を予測するうえで遺伝子診断は重要である.近い将来には,遺伝子レベルあるいは分子レベルでの画期的治療法が開発される可能性が高い.患者と家族が運動訓練などを継続しながら希望をもって日常生活を送れるように,常に励まし寄り添う姿勢が臨床家には大切である.

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けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)はわが国の小児に最も多い急性脳症である.発熱の当日または翌日にけいれん重責で発症し,いったん意識障害は改善傾向になるが第3~9病日に二相目の発作の群発と意識障害の増悪とを認める.発症後早期の頭部MRIでは異常を認めないが,二相目の発作時には拡散強調像でbright tree appearanceという特徴的な所見を認める.興奮毒性が病態に関与していると推定されている.予後は不良で,死亡することはまれだが高率に知的障害を主とする神経学的後障害を残す.確実な早期診断法や有効な治療法はいまだ不明である.

6.Dravet症候群 石井 敦士
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Dravet症候群は,欧米では4万名出生に1名の発症とされ,まれなてんかんである.生後1年以内に片側性または全般性の,間代性あるいは強直間代性発作を初発発作とし,多くは発熱に伴う.1~4歳程度までの間にミオクローヌス,焦点性発作,非定型欠神が付随し,これらの発作は,抗てんかん薬への抵抗性を示す.知的発達は,多くは初発発作までは正常であるが,2歳までに発達遅滞が現れる.運動機能も,進行性に錘体路徴候や失調症状を示すことがある.てんかん発作や頻発するてんかん発射が,認知や行動,精神や運動発達に影響を及ぼすため,発達性およびてんかん性脳症の一つと考えられている.その分子病態は,SCN1A遺伝子がコードする電位依存性ナトリウムイオンチャネルの異常である.

7.Aicardi症候群 三宅 紀子
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Aicardi症候群(Aicardi syndrome)(MIM 304050)は古典的には脳梁欠損(agenesis of corpus callosum),網脈絡膜裂孔(chorioretinal lacunae),点頭てんかん(infantile spasm)の三徴候に特徴づけられる先天性神経眼科疾患である.ほぼ全症例が女児であることからX染色体優性遺伝形式が想定されており,46,XYの男児では胎性致死と考えられている.遺伝要因が未同定であり,できるだけ早い疾患遺伝子の同定と発症メカニズムの解明が期待される.

8.Rett症候群 高橋 悟
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Rett症候群は,主に女児に発症する神経発達障害である.診断は,臨床症状に基づいて行われ,以前はできていた運動機能・言語能力の退行があることが必須要件とされる.X染色体上にあるMECP2遺伝子の機能喪失性変異により生じ,その遺伝子産物methyl-CpG binding protein 2は,遺伝子DNAの塩基配列変化を伴わずにその発現量を調節する “エピジェネティクス” とよばれる遺伝子発現制御において重要な分子である.Mecp2欠損モデル動物を用いた研究では,Mecp2を再発現させると症状は改善することが示されており,本症は神経変性疾患とは区別され可逆性を有する神経発達障害と考えられている.対症療法から治癒を目指した分子治療へ向けて,治療法開発が精力的に進められている.

9.Angelman症候群 齋藤 伸治
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Angelman症候群は重度知的障害,てんかん,失調性歩行,容易に引き起こされる笑いなどを特徴とする症候群である.出生15,000名に1名の頻度であり,先天性疾患としては比較的頻度が高い.原因遺伝子UBE3Aは15q11-q13に位置し,神経細胞において母親由来アレルのみが発現しているインプリンティング遺伝子である.多くは孤発例であるが,まれに家族例が存在し,その場合は表現型正常の母親が保因者となり得る.UBE3Aはユビキチンタンパクリガーゼの一つである.脳における標的タンパクが同定され,病態に基づく治療法開発が進み,知的障害の治療可能性のモデルとして注目されている.

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ブラインドやカーテン留め等のひも状部分が偶然,子どもの頸部に絡まり,縊頸をきたす事故が報告されている.この事故は世界的にも問題になっており,判明しているだけでも世界15か国で250件以上の死亡事故が報告されている.残念ながら,本邦でもブラインドひもによる小児縊頸事故は発生している.ほとんどの事故死は,啓発により予防することができると考えられるが,本件に関しては発生件数が減少していないのが現状である.われわれ小児科医は保護者や企業,行政と協力し,小児縊頸事故の予防,対策に徹底的に取り組む必要がある.最近,われわれは「ブラインドひもによる縊頸の1例」を経験した.本稿では,小児縊頸事故についての現状を把握し,この事故を防ぐために,現状ではどのような問題が存在し,事故を予防するにはどのような対策が必要なのか,具体例を交えて考察する.

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受動喫煙対策として複数の “新しいたばこ” が販売され,たばこ製品は多様化している.その一種である非燃焼加熱式たばこには,たばこの葉を紙で巻いた短いスティックタイプのものもあり,従来の紙巻きたばこより短く,乳幼児が口にしやすい形態をしている.近年,紙巻きたばこ誤飲の件数が減少傾向にある一方で,非燃焼加熱式たばこの全国販売開始以降その誤飲件数は増加している.非燃焼加熱式たばこは煙をほとんど発生させず,環境への配慮はされているものの,乳幼児の誤飲のリスクは高いと想定される.今後の非燃焼加熱式たばこの普及に伴い,誤飲事故のさらなる増加も懸念される.

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胃腸炎や熱中症に随伴する脱水症状は,一次医療機関から三次医療機関まで,医療機関のレベルを問わず日常よく遭遇する症状である.この治療の選択肢の一つとして,近年,経口補水療法が普及してきている.筆者は,当院に下痢,嘔吐,発熱などを主訴として来院,軽度の脱水症状を呈していた4~55歳の患者31名に,初診時と回復期にWHOが提唱する経口補水療法(oral rehydration therapy:ORT)の考え方に基づいた経口補水液を飲用させ,その味覚変化を検討した.その結果,初診時には,「甘い」や「飲みやすい」という味覚が,回復期になると「塩辛い」や「飲みにくい」へと変化したことを観察した.この簡便に得られる所見は,臨床の一助となると考え,ここに報告する.

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現病歴:発症の4日前と前日に38度台の発熱があったが無治療で解熱している.第1病日起床後から歩行する際によろけて,何度も転倒するため整形外科を受診した.診察と股・膝のX線検査で異常はなく帰宅した.第2病日は座位で過ごしながら下肢を動かしていた.支えながら歩かせると体幹の維持は困難だった.同日のみ3回嘔吐をしている.原因検索と治療のために入院とした.

連載 [小児科臨床教育の実際]

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医学教育モデル・コア・カリキュラムでは臨床実習に地域医療臨床実習の項目が記載され,「地域社会で求められる保健・医療・福祉・介護等の活動を通して地域医療と地域包括ケアシステムを一体的に構築することの必要性・重要性を学ぶ」ことが求められている.そのなかでは「学外の臨床研修病院等の地域病院や診療所,さらに保健所や社会福祉施設等の協力を得る」ことが方略として示されている(表1)1)

連載 [最近の外国業績より]

血液 日本医科大学小児科学教室
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背景:Down症候群児の5~10%が一過性骨髄異常増殖症(TMD)と診断され,そのうち約20%は4年以内にDown症関連骨髄性白血病(ML-DS)を発症する.本研究ではTMD後のML-DS発症の予防および予後に対する低用量シタラビン治療の効果を評価した.

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小児科
60巻6号 (2019年5月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4121 金原出版

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