小児科 59巻8号 (2018年7月)

特集 子どもと旅行―より安全に出かけるために

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交通網の発達により子どもが国内外に旅行することが多くなり,旅行やその交通手段に関する質問が家族から寄せられることも多い.しかし,子どもの交通手段に対する医学的根拠やガイドラインは十分とはいいがたく,親への回答に苦慮する小児科医も多いと思われる.本稿では,乳幼児を中心に健康な子どもにおける旅行の交通手段(航空機,長距離鉄道,自動車,船舶)についての注意事項を概説した.子どもの安全な旅行指導の参考にしていただければ幸いである.

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感染症罹患後の旅行は,感染の伝播および拡大を最小限にするため,体調がよくない旅行者は回復するまで延期し,かつ他人に感染する恐れがなくなるまで控えることが原則である.いつから旅行に出かけられるかは,学校保健安全法施行規則に規定される出席停止期間の基準に沿って判断するのが現実的といえる.

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喘息をもつ子どもの旅行におけるポイントは急性増悪(発作)時の対策を十分に立てておくことと,普段の症状を十分にコントロールしておくことの2点である.旅行では環境の変化はもちろん,精神的ストレスや身体的疲労など急性増悪(発作)をもたらす誘因が増加するので,その誘因の回避策とともに急性増悪(発作)時に使用する薬物の確認を怠ってはならない.海外旅行などの場合は飛行機内持込の可否についても確認し,常に身近に携帯しておく必要がある.また旅行中や旅行先での医療機関を含めた医療体制についてもできるだけ確認しておくと安心である.

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食物アレルギー患者らにとって,非日常である旅行はリスクに晒され続けるイベントといえる.このため患者らは旅行におけるリスクを十分に理解し事前に対策を講じたうえで旅行できるようにする必要がある.食物アレルギー患者にとって旅先のリスクとは何であろうか.それは第一に原因食物を誤食してしまうリスクである.誤食リスクは日常生活においても同じようにあるが,旅先ではそのリスクがさらに高まるため,リスクの低減化に努力することが必要である.第二に誤食してしまった時の対応リスクである.このため緊急時の対応を事前に十分に吟味し準備しておく必要がある.本稿では食物アレルギー児たちが安全で楽しい旅行に行けることを支援したい.

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林間学校,臨海学校,修学旅行,習い事の合宿などの宿泊行事,家族との旅行は,夜尿症の子ども,保護者にとって不安である.小学校高学年でも夜尿症の児童,生徒は1クラスに1~2人程度はおり,夜尿症対策に慣れている教職員も多い.心配なことがあれば遠慮せずに,事前にしっかりと伝えておくことが大切である.例えば,夜中に1度トイレに起こしてもらう,また,市販の吸水層付きのパンツなどを持参する場合は,周囲に気づかれないように先生の部屋で履かせてもらうなどのように伝えるとよい.失敗してしまった時の対処の仕方,水分の摂取方法,就寝前に必ずトイレに行くことなどは,事前に本人とも十分に相談しておくことが必要である.

6.心疾患をもつ子どもの旅行 稲井 慶
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近年,海外からの旅行者が増加の一途をたどり,旅行に伴う医療トラブルも今後ますます増えることが予想される.国内外を問わず旅行による環境変化は心疾患患児の呼吸や循環動態に無視できない影響を及ぼす可能性があり,保護者と医療者は旅行の適否を慎重に判断する必要がある.単に旅行が可能かどうかということではなく,いかなる交通手段を用いるか,目的地はどこか,移動の所要時間はどうか,年齢や各心疾患の血行動態,重症度などさまざまな条件に応じて具体的かつ計画的に考えなければならない.医療者からの適切なアドバイスや観察ポイントの指導はいうまでもないが,保護者の疾患に対する理解度や児に対する観察能力の高さも考慮に含めるべきであろう.とくに,チアノーゼ性心疾患の児では,飛行機での移動や高地への旅行を考える場合,気圧の低下が酸素飽和度に与える影響を考慮しなければならない.また,水分の適切な補給によって,心不全の悪化や血栓症の予防に努めることが重要であり,とくに注意を要するといえる.

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神経発達症の子どもにとって,家族と旅行することは定型発達の子どもと同様に彼らの心の成長の基盤となる大切な経験を獲得する機会となる.しかし,親にとって子どもを連れて宿泊することは安全確保の面からも心配が多い.幼児期~学童期の神経発達症の子どもが旅行する際の準備や注意点,予測されるトラブルなどについて発達特性を念頭において概説した.旅行前に準備として見通しをつけることが重要であり,子どもの目線でどこへ遊びに行くかを決定すること,計画の視覚化,シミュレーション等について説明した.旅行中の体調管理,常備薬,乗り物移動の際なども注意が必要である.支援者は,子どもの家族が「旅行できた」という達成感を味わってもらうように留意してサポートすることが望ましい.

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てんかんのある子どもにとり旅行は,普段の生活では得られない経験や体験を通して自信を得る契機となり,社会性の向上が期待できる.このことは成人になった時の心理・社会的問題の予防にもなる.てんかんのある子どもの旅行に際しては,発作がいつもより起こることがないように,睡眠不足や過労を予防し,確実に服薬するための対策を講じることが重要である.学校行事の一環として旅行に参加する場合には,事前の発作に関する情報の提供や睡眠,疲労,服薬に関する配慮や確認方法を検討することが重要である.海外旅行では薬剤を持参してのスムーズな通関,時差を考慮した服薬管理を考慮する.

9.子どもの海外渡航 中野 貴司
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子どもの海外渡航は,観光や休暇目的と海外赴任する家族への帯同の2つに大きく分類される.いずれも,長い時間を機内で過ごすことになり,航空機利用に関する注意点について詳細に解説した.また,旅の目的は多様化し,熱帯地域へ渡航する子どもも増えた.生命にかかわる重篤な疾患である熱帯熱マラリアの予防内服についても述べた.子どもを連れての渡航は,その実施の決定やスケジュールの計画において,「子どもの安全」を第一に優先すべきであることはいうまでもない.一方で,海外渡航に起因して起こる可能性のある健康リスクを評価し,「子どもが渡航できる条件」を吟味し指導することも医療者の役目である.

10.子どもの時差対策 岩垂 喜貴
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成人の旅行者数の増加に伴い,小児の旅行者数も近年大幅に増加している.長距離の移動を短時間かつ高速で行うことにより生体内の生物時計が外界の生活時間とうまく適合することができなくなる.その結果,身体症状の不調(不眠,日中の眠気,身体の不調)をきたすこれを時差障害(時差ぼけ,時差症候群)と呼び小児においてもその存在に留意すべきである.また小児は視交叉上核(SCN)の生体時計の支配力が強く時差のある地域に旅行をした際にも日本国内での睡眠習慣の影響が強く残ることが特徴である.加えてパラソムニアなどの睡眠障害(とくに覚醒障害)が旅行中に生じることも少なくない.

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子どもが海外に渡航するにあたり,その健康や安全を守るために,予防接種による備えは不可欠である.渡航する国や地域,現地での滞在期間や活動の内容等により,接種が必要となるワクチンの種類や回数も変化する.大原則は,「どの国・地域への旅行であっても,わが国で標準的に接種すべきワクチンの接種をまず進めること」であり,定期接種の対象となっているワクチンと,任意接種であるが重要度の高いロタウイルスとおたふくかぜ,それにインフルエンザの各ワクチンがこれに該当する.そのうえで,年齢や現地の関連情報等をふまえてプラスアルファの項目(A型肝炎,黄熱等)についても検討を加え,計画的に準備を進めることが望ましい.

12.子どもの乗り物酔い対策 吉田 友英
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乗り物酔いは,動揺病,加速度病ともよばれ,体が複雑な動揺刺激(加速度)を受けた時に引き起こされる.代表的なものは船酔いであるが,そのほか車酔い,電車酔い,飛行機酔い・宇宙酔い・ゲーム酔いなどが挙げられる.動揺病に適応のある内服薬は,塩酸プロメタジン,ジフェンヒドラミン+ジプロフィリン,ジメンヒドリナートなどがある.また,副交感神経遮断薬であるスコポラミン臭化水素酸塩水和物は,乗物酔い防止薬に配合される成分である.酔い止め薬はOTCとして多く市販されている.動揺病にならないようにするためには,日頃から適応能力を身につける必要がある.

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近年の遺伝子解析技術の進歩に伴い,多数の遺伝子を同時にスクリーニングする網羅的遺伝子解析法が普及した.それに伴い,一度の解析で多数の遺伝子の情報が得られることとなった.しかし,それらの検出された遺伝子の情報から,患者の病気の原因となる情報のみを抽出する作業には困難と責任を伴う.なかでも,患者の病気の原因と考えられる遺伝子にミスセンス変異やスプライシングに影響を与え得る塩基の変異を検出した場合にはその病原性の判定は非常に困難であり,そのような場合にはバイオサイエンスデータベースの有効活用が必須である.本稿では実際に有用なバイオサイエンスデータベースに関してその活用法につき解説する.

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Diamond-Blackfan貧血(DBA)は,乳児期に発症し約半数で奇形を伴う先天性の赤芽球癆である.骨髄は正形成であるが赤血球系細胞のみが著減し,末梢血では網赤血球の減少と大球性正色素性貧血が認められる.合併する奇形は,頭・顔部が最も多く,上肢の異常や低身長がみられる例もある.患者の50~60%においては,リボソームタンパク質(RP)遺伝子に突然変異が認められる.同定された原因遺伝子のほとんどがRP遺伝子であるという事実は,本疾患がリボソーム生合成の障害に起因していることを示唆している.本稿ではわれわれがエクソーム解析によって単離した原因遺伝RPS27,PPL27,RPS15AとDBAの分子病態について概説する.

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C3腎症とは,補体第二経路の制御異常に関連して生じる慢性糸球体腎炎である.従来は病理組織所見によって膜性増殖性糸球体腎炎と分類されていたが,病因によって再分類された比較的新しい疾患概念で,2013年に診断基準が発表された.補体因子の遺伝子異常や,補体制御因子に対する自己抗体が原因として考えられている.わが国においても,近年,補体学的な検査体制が整備されつつある.C3腎症の治療としてステロイド薬や免疫抑制薬が試みられるが,奏効しない例もあり,診断から6年で35%が腎不全に至る予後不良な疾患である.今後,臨床経過の推移と腎病理組織所見,補体学的な評価を総合して,適切な治療方針を確立し予後を改善することが期待される.

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2008年1月から2015年5月までに,姫路赤十字病院小児科で治療した顔面神経麻痺84例の原因,治療方針,予後につき診療録をもとに後方視的に検討した.原因に関してはBell麻痺,先天性,中耳炎が多いが,一部脳腫瘍,白血病を原因とするものもみられた.当院ではBell麻痺に対しては全例ステロイド内服加療を行っており,予後に関しては38例中37例で症状が完治していた.小児顔面神経麻痺はまれに脳腫瘍,白血病などが原因となるものもあり,鑑別を要する.Bell麻痺は予後良好ではあるが,ステロイド治療の是非に関しては今後さらなる検討が必要である.

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小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017では新たにクリニカル・クエスチョン(CQ)が導入され,最新の文献に基づいたエビデンスレベルと推奨度が記載されている.診断については小児市中肺炎の重症度分類の改訂,マイコプラズマ肺炎と細菌性肺炎のスコアリングによる鑑別,百日咳診断の新しい基準が追加されている.治療では抗菌薬適正使用を考慮した改訂が行われており,抗菌薬の選択,投与量・期間についての指針が示されている.小児呼吸器感染症に関連する予防接種対象疾患,原因微生物の変化,薬剤耐性化についても記述されている.本ガイドラインではフローチャートが多用され,実用性が高くなっている.

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腸管出血性大腸菌感染の集団発生事例は年間20数件みられる.近年は保育所においての発生が増加する傾向かと思われる.推定伝搬経路は多くは人-人感染であり,簡易プール等における感染も危惧されている.幼児や高齢者は重症化する頻度は他の年齢より高い.溶血性尿毒症症候群や脳症は重症合併症である.また重症な大腸狭窄も合併症として2015年に発生した症例のなかにみられた.また一方最近は動物からの感染の報告もある.1996年から2016年までの報告では15例みられている.動物とのふれあいやイベント,酪農体験学習,飼育している動物から等においての感染が報告された.今後動物とのふれあいの機会は増えるであろうことから,その対応について事例を提示しながら検討を加えたい.

最近の外国業績より

感染症 日本医科大学小児科学教室
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背景:肺炎球菌(Sp),インフルエンザ菌(Hi)は急性中耳炎の主要な起因菌であり,小児の中耳炎治療において抗生剤の選択に考慮される.フランスでは抗生剤耐性獲得の抑制のため2011年から中耳炎に対する推奨治療が,第一選択薬として第3世代セフェム系(3GC)とアモキシシリンクラブラン酸(AC)からアモキシシリンに変更されており,2013年からは13価結合型Spワクチン(PCV13)の接種が開始されている.このためSpおよびHiの抗生剤耐性の動向は中耳炎の内服治療を再評価するために重要であり,著者らは2001年からの16年間の中耳炎を発症した小児の鼻咽頭から分離されるSpおよびHiの薬剤耐性の傾向を解析した.

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小児科
59巻8号 (2018年7月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0037-4121 金原出版

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