看護研究 51巻6号 (2018年10月)

特集 国際学会で発表しよう─その研究が,世界をつなぐ

『看護研究』編集室
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 研究成果を海外に向けて発信することは,わが国の看護研究の重要なテーマの1つになっています。このことは論文産生や投稿に限らず,海外を中心に行なわれる国際学会における発表も意味します。国際舞台に打って出て,世界の多種多様な研究に触れ,各国の研究者と肩を並べながら研究活動を広げ,推進し,世界の中で研究者としての立ち位置を築いていくことは,これからの研究者に不可欠のスキルになるかと思われます。

 2017年,日本看護系大学協議会(JANPU)の国際交流推進委員会の企画により,「スマートな国際学会発表を目指して」と題する研修会が行なわれました。研修会では,「口頭発表」「ポスター」「国際会議への参加」など,さまざまな場で実際に発表を行なった研究者により,当時のプレゼンテーションを再現するような形で,そのプロセスと経験が紹介されるとともに,それぞれ指導にあたった教員からは,個々の指導のプロセスや国際学会で発表することの意義が示されました。

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はじめに

 国際学会発表は,研究成果を国際的に発信する第一歩である。本稿では,筆者が長年大阪大学で取り組んできた,大学院生における研究成果の国際的な発信能力育成に向けた取り組みを紹介する。具体的には,アジアの看護系大学のランキング,アジアにおける看護の博士後期課程の状況や看護教員の評価,大阪大学における国際学会発表奨励の取り組み,講座における研究力強化,研究室における国際力育成の取り組みである。

 本稿は,昨年11月に日本看護系大学協議会(JANPU)の国際交流推進委員会企画により開催された研修会「スマートな国際学会発表を目指して」における発表をベースにしている。当日に筆者が,アジア諸国の博士課程の修了基準は日本よりかなり高く,このままでは日本は遅れをとってしまうことを話すと,聴衆の方から,それは厳しい意見だとのコメントがあった。しかし,アジア諸国を中心とするEAFONS(East Asian Forum of Nursing Scholars;東アジア看護学研究者フォーラム)などの学会に参加すると,アジアの看護系大学院の修了要件は日本よりも厳しいことを痛感する。加えて,オーストラリアにおいて,システマティックレビューを推進する研究機関であるJoanna Briggs Institute(JBI)の日本支部として大阪大学にJapan Centre for Evidence Based Practiceを立ち上げたことで,海外の看護大学教員との交流が一層深まり,日本の看護学教育や看護研究について諸外国と比較する機会が増えた。そこで,まずはアジアの看護系大学のランキングを例に,日本との相違を検討してみたい。

発表者の立場から1

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はじめに

 私は,「スマートな国際学会発表を目指して」において国際学会における口頭発表を実演という形で発表し,発表までのプロセスや発表時の工夫,経験して得た学びについて紹介した。当日は,国際学会での口頭発表に対する動機づけや,何が背中を押してくれたのか,といった質問が多く寄せられた。そこで本稿ではそれらをテーマに述べることとする。

 私は学部卒業後,病院での臨床経験や企業での職務経験を経て,2011年度より博士前期課程に進学した。その2年間の中で,精神科病院のインシデントレポートの転倒転落の分析や,認知症患者の薬物療法と活動休息リズムなどをテーマに,臨床の方々と協働で進める研究を実施してきた。こうした取り組みにより研究の面白さに魅了され,以後,博士後期課程に進み,高齢認知症患者のケアや睡眠障害に関する研究を継続している。

 現在まで私の研究活動は約7年に及んでいるが,そのうち英語で口頭発表を行なった機会は,フィンランドと台湾で経験した2回である。そして昨年,京都で3回目の英語の口頭発表を行なった。これについて,本稿で紹介する。

教員の立場から2

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「スマートな?」国際学会発表

 本稿は,2017年11月18日に日本看護系大学協議会(JANPU)国際交流推進委員会の企画により開催された研修会「スマートな国際学会発表を目指して」において,「教員として考えていること」と題して発表した内容に基づいている。研修会の趣旨等はJANPUのホームページを参照いただくこととして(http://www.janpu.or.jp/file/kokusai20171118.pdf),本特集における私への執筆依頼は,「指導した学生が学会等で論文を発表するにあたり,どのようなことを考えて指導を行なっているのかを紹介してほしい」ということであった。

 考えをまとめるにあたり,まず,研修会のタイトルにある「スマートな」とは何なのだろう?という疑問にぶつかり,考えをまとめるのに少し時間を要することとなった。スマートの意味は,「賢い,機敏,小気味よい,イカす」などであり,学会発表は,あくまでも研究過程に含まれる内容について,制限時間内に発表することが求められている。研究の過程には,研究を通して明らかにしたい現象/課題の提示,研究の概念枠組みの明確化,その現象に関する現状等を含む背景と研究を行なう意義,これまで行なわれている研究の傾向,研究の対象となる人々や研究デザイン,研究データの収集方法と分析,結果と解釈,意味づけ,等が含まれる。これらについて,正確に,端的に伝えることが必要かつ重要であり,それ以下でも以上でもないというのが,私が納得した開始地点であった。研修会では国際学会発表に焦点が当てられていたので,本稿でも,論文作成過程における指導は除いて,発表に向けて私が行なったことに焦点を当てる。

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はじめに

 2017年8月,私は「スマートな国際学会発表を目指して」に口頭発表者として登壇の誘いを受けた。「なぜ,私なのかしら?」と驚いたのが正直なところであった。確かに,英語で発表はした。しかしその発表は,国内で開かれた国際会議でのプレゼンテーションであることに加え,自身の看護研究ではなく,しかも大学院のクラスメイトなど6人で取り組んだものであった。

 当日は,緊張を抱きながら登壇に挑んだが,私の緊張をよそに,発表後には,「自分の研究と異なる事例を聞くことができておもしろかった」「大切なことはネイティブみたいに話すことよりも,伝えたい内容なのですね」など,さまざまな方から声をかけていただいた。また,その後2018年1月に韓国で国際学会発表(後述)を行なった際には,会場にJANPUの研修に参加されていた方もいらして,「発表を聞いて,私も英語での発表にチャレンジすることができました」と言ってくださった。こうした声を通じて,私は仲間に出会えたような気がした。そして看護学を通して,人々の健康や生活をよりよくしたいという共通の想いをもち,お互いにチャレンジしていることを実感した。

 本稿では,JANPUで発表した国際会議でのプレゼンテーションのプロセスと発表の内容,それを踏まえた議論の経験,ならびに,その後のチャレンジなどについてご紹介したい。

教員の立場から3

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はじめに

 今回,本稿の依頼があった際に考えたのは,このテーマで読者の興味を引きつける内容になるのだろうか,ということであった。もっと直接的に言うと,「スマートな国際学会発表を目指して」で発表の依頼があったことも,少し驚いた。なぜなら国際学会発表は特に目新しいことではなく,ごくあたりまえのことだと思っていたからだ。なぜ国内学会ではなく国際学会なのか,国際学会で発表をしない研究室が多いのか,という疑問もあった。そのような疑問を抱いて参加してみると,大学院生よりも教員(若手ではない)が目立つ印象があった。そして,現在の看護学は国際学会発表が議論の俎上に上がるほど,まだ混沌とした状況なのだなと感じた。

 本稿の執筆にあたっては,「学生が国際学会で発表する意義」という視点からなら,筆者のこれまでの経験や考えを読者と共有することで,各研究室それぞれが研究活動を前に進めることができるかもしれないと前向きに捉えることとして,筆を進めていきたい。

 当研究室の大学院生で,次稿でも執筆している森木友紀さんはEAFONSでポスター発表を行なった。そしてありがたいことに,ポスターアワードを受賞した。受賞は「オマケ」のようなもので,決してそれをめざして研究に取り組むわけではないが,よりよい研究をめざす1つの参考になることを願い,一定の評価を受けたのはどのあたりだったのかを振り返りつつ,国際学会発表とその「向こう側」にある研究者としての目標を常に見失わないよう,そのために必要なことを考えていきたい。

 最初に断わっておくが,私自身はまだ教員歴10数年の「若造」である。私の恩師は本特集でも執筆されている牧本清子氏で,氏からは,「博士の学位を取得した後も10年間,研究を積極的に進めてやっと一人前だ」と言われて育ってきた。その教えには本当に感謝している。だからこそ,常にチャレンジしなければいけない気持ちを忘れずにいられる。私が学位を取得したのは2012年なのでまだ10年も経っていないが,せっかくの機会なので,自身の考えるところを紹介する。私の考え方は恩師の牧本清子氏,そして,氏自身がそうされてきて,私もその薫陶を受けてしばしば一緒に仕事をしている他領域(物理学や心理学,医学,情報工学,哲学など)の研究者の方々の影響を多分に受けていることを申し添えておきたい。

発表者の立場から3

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はじめに

 私は現在,博士後期課程の1年である。博士後期では,高齢者に対するケアの改善につながるような研究を通して臨床現場に貢献したいと思っている。

 私の所属する研究室(福井小紀子教授)では,主に終末期ケア,認知症ケアに主眼を置いたテーマを掲げている。それぞれのテーマでケアの質を高めるための研究を行なっており,具体的には,医療介護連携や在宅施設のケアの質評価,ITシステムの構築,若年性認知症ケアシステムの開発,転倒予防のための包括的アセスメントとケア開発など,地域包括ケアシステムにつながるような研究を進めている。これらの研究を推進するために,学生は柔軟性のある思考と厳密な方法論を学ぶ必要がある。そのための研究室全体の取り組みには,大学院のゼミ(2週に1回)と文献抄読会(月1回)がある。それに加えて,国際的に研究成果を発信するための取り組みとして,英語論文セミナー(月1回:現在は必要時),JBI(Joanna Briggs Institute)主催のシステマティックレビュー執筆のための集中セミナーなどがある(牧本,2013)(JBIについては,本特集で執筆されている牧本清子氏の別稿を参照いただきたい)。

 私は11年間,国立病院機構で看護師として勤務していた。この研究室で学びたいと思ったきっかけは,3点あった。第1に,私は病院勤務の中で,睡眠検査を中心に認知症,呼吸器(感染症,がんなど)の政策医療に基づいた臨床研究(低栄養状態の外来高齢患者の栄養・家族指導,医師の共同研究者としてレム睡眠行動異常症疑いの患者の事例検討など)に関わっていた。その経験から睡眠に興味を抱いた。第2に,当時研究室では,睡眠検査が困難な,入院中の認知症患者の睡眠障害に対する効果的な介入を見いだすため,いくつかの睡眠モニタリングデバイスを用いることで,認知症患者のアセスメントに数値的な側面を導入していたことである。そして第3に,看護師として,臨床での経験をいかして高齢者の現状を科学的に解明できるような研究をしたかったからである。

 入学後,1年目に,私は2017年3月に開催された「The 20th East Asian Forum of Nursing Scholars(以下,EAFONS)」でポスター発表をすることになった。その結果,ポスターアワードを受賞することができた。今回,本特集でこの経験を寄稿する機会をいただいたので,研究室の仲間や先輩方,教員の先生方からの指導を振り返りつつ,発表までのプロセスについて読者の方々と共有したい。なお指導いただいた教員は山川みやえ先生と,現在は甲南女子大学に所属されている牧本清子先生である。

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はじめに

 研究の成果を英文でまとめ,グローバルに広めることは現在当たり前のことになってきている。しかし,英語を第一言語としない私たち日本人にとって,研究成果を国際発表することはハードルが高いのも事実である。

 筆者は,大学院生の頃に初めて国際学会発表を行なって以来,継続的に発表を続けている。しかし正直なところ,国際学会・英語論文の発表方法について系統だった教育を受けた経験はなく,見様見真似でスキルを何とか身につけ,大学教員になってからも試行錯誤しながら,大学院生にそのスキルを伝えようとしている状況である。

 本稿では,私見ではあるが,国際学会発表について大学院生をエンパワーするために,これまで培ってきたポイントや課題等を述べる。なお本稿では,公用語を英語とする学会を国際学会とし,例えばアメリカ等の国内学会が主催する学会も国際学会に含める。

発表者の立場から4

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はじめに

 修士論文をまとめ,同じ研究室の博士課程へ進学する頃,指導教員の河野あゆみ教授より,「修士論文の成果の一部を国際学会で発表してみない?」と提案された。当時の私は,修士論文を書き上げた達成感に浸り,その成果をどのように発表するかについてはほとんど考えていなかった。正直,自分が国際学会で発表する力があるのかも懐疑的であったが,指導教員に背中を押される形で英文抄録の作成に臨んだ。

 初めての国際学会として挑戦したのは,2015年に米国のフロリダで開催された第68回米国老年学会(GSA)でのポスター発表であった。ここではその体験に焦点を当て,発表に至るまでの具体的なプロセスや学びを述べる。

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はじめに

 日本には,重症の子どもを管理できる小児集中治療室(以下,PICU)をもつ施設が少ない。公表されている資料の中で最新の2014年10月のものをみると,日本全体でPICUは41施設,ベッドの総数は256床にすぎない。これは,成人の集中治療室6552床(780施設)はもちろんのこと,新生児集中治療室3052床(330施設)と比べてもかなり少ない(厚生労働省,2014)。

 PICUに入室する子どもは重篤な状態である場合がほとんどで,子どもだけでなく子どもの両親にも不安や急性ストレス障害(Acute Stress Disorder),心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)が生じる可能性が高いといわれている。欧米では,両親の不安やPTSDを指摘する論文が90年代から増加し,数多くの論文が発表されてきた(Bronner et al., 2010;Colville, & Pierce, 2012)。測定時期や対象者の状況,用いられたスケールの違いにより,それぞれが示す結果は異なるものの,Nelson, & Gold(2012)の文献レビューでは,10.5〜21%の両親がPTSDに陥るとまとめられている。

 このような問題が指摘されれば,家族の不安とPTSDを減少させるための援助モデルをもとにした介入研究が増えるのは自然の流れであろう。援助モデルとしては,Partnership Model of Care,Shared Care,Family-Centered Roundsなども使われてはいるものの,Patient- and Family-Centered Care(以下,PFCC)が群を抜いて多用されている(Curtis, Foster, Mitchell, & Van, 2016)。

 PFCCは,患者,家族,医療者にとって有益なパートナーシップに基づいて計画,実施,評価しようとするケアであるが,米国小児科学会が推奨していることもあり(American Academy of Pediatrics, 2012),PICUでも両親を回診,カンファレンス,ケアプラン作成に参加させ,情報を共有するという介入が行なわれるようになった(Meerts, Clark, & Eggly, 2013)。加えて,米国集中治療医会(American College of Critical Care Medicine)が,治療決定,家族適応,面会,ケア環境などの10項目に関する43のガイドラインを示し(Davidson et al., 2007),その中に,PICUの24時間面会が含まれていたために,24時間面会が可能なPICUも増えた。

 幸か不幸か,わが国にはこのような外圧がないため,それぞれのPICUの状況はかなり異なっている。それぞれのPICUでは,医療者が患児とその家族にとって最善と考える関わりがなされているものの,患児の家族側からみたときに,どのような環境が望ましいのかは,これまで十分に検討されていない。そこで,本研究では,PICUに入室した子どもの両親が何を体験しているのかを,明らかにしたいと考えた。

連載 集まる つながる 広がる 若手研究者のバトン・2

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若手研究者は,今日も看護の未来に向けて疾走中。

ここはそんな同じ目標を抱く者同士が,ぷらっと立ち寄り語り合う場所。

誌面をフィールドに,思いをバトンに乗せて語り継いでいきます。

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 事前の情報では「認知症があり拒否が強い」といわれたFさん(女性,80歳台)を,老人看護CNSは担当することになった。

 Fさんは新築3階建ての家のホームエレベーターから降りてきた。両手を横に広げ足を開き膝を伸ばして少しずつ前進してきた。髪は乱れ,衣類は上半身の肌着以外は何も着けていなかった。しかし,Fさんは「穿いています」と言い,おむつは1階の物品庫にあると主張する。

連載 理論構築を学ぶ─看護現象から知を生むために・11

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はじめに

 筆者は博士課程の研究で,看護介入モデルを使ったケアプログラムの作成を行なった。その過程で,理論/モデルを活用することの意義を強く実感した。例えば,同じ現象をみていても,医師と看護師では現象の捉え方は異なる。理論を用いることによって,現象の何に着目しているのかという,その視点を明確にすることができる。また,理論をベースにすることにより,現象を説明し,その結果を予測することができる。しかし,活用する理論やモデルを決定するまでの道のりは長く,現象の洗い出しと,文献レビューの繰り返しに多くの時間を費やした。

 本稿では,筆者が取り組んだ研究を例に,現象の焦点化,本質的概念の探索,概念モデルの探索を通して,看護介入モデルを構築したそのプロセスについて述べる。

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基本情報

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看護研究
51巻6号 (2018年10月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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