看護研究 51巻7号 (2018年12月)

特集 アジアの大学を知る 日本の看護研究力を高める

真田 弘美
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 日本の看護学は世界で類をみないほど,そのクオリティは高いと確信している。この素晴らしい看護学をどのように世界に発信するか。看護研究がその一助になることは間違いない。

 2017年4月,東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンターが開設され,1年半が経過した。少子・超高齢社会を迎え,「治す医療」から「支える医療」への大転換が求められている中,ケアの中核を担う看護学に大きな期待がかけられている。その背景のもと,当センターは,異分野融合型イノベーティブ看護学の遂行と海外への発信,それを先導できる若手研究者の育成をミッションとして設立された。2017年度の1年間で3名の外国人教授・研究員を招聘し,当センターのプログラムを受けた2名の若手研究者を輩出した。また,他大学の若手研究者の指導とともに,目標数を超える56編の英語論文を世界に発信し,センターの基盤は徐々に整備されてきた。次の目標は,国際的競争に打ち勝つ,より質の高い看護学研究を行なうことである。

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日本の看護の現状と課題

 高度先進医療を支えてきた日本の看護が,世界に類をみない超高齢社会を迎え,「治す医療」から「支える医療」への方向転換を迫られている。その中で,看護学も時代のニーズに合った進化を遂げる必要があり,従来の看護学の枠を超え,生体工学,分子生物学,人間工学,哲学,教育心理学,情報工学や政策科学などの異分野と融合して新たな技術やシステムを開発することが求められている。高度先進医療で培われた日本の質の高い看護と従来の看護学の枠を超えた異分野融合型イノベーティブ看護学研究の手法は,世界の看護のモデルとなり得る。一方,新しい看護学として構築されてきた異分野融合型イノベーティブ看護学研究を遂行し,世界に発信するには,この研究手法を用いて看護研究を遂行する若手研究者の不足,および研究成果の世界への発信力の不足の2つの課題がある。

 第1の若手研究者の不足の背景には看護系大学の急増がある。2007年には159校であったわが国の看護系大学は,2017年には255校に急増している。大学数の増加は,看護師の質の向上につながる一方で,教員の不足を招いた。博士課程を有する看護系大学院数も2017年には88校にまで増えてはいるが,修了した若手研究者は,自律して研究を行なう機会を経ずに看護系大学に教員として就職し,教育に専念することになる。その結果,研究経験のほとんどない教員が研究指導を行なうことになり,新たな看護学研究者が育つ土壌が醸成されにくいだけでなく,質の高い看護研究の遂行が難しい状況となり,看護学の発展を停滞させる悪循環を招く可能性がある。

各大学の視察報告1

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【Key Point】

・看護学科は医学部に位置する。

・看護学科の教員は,大学教員と附属病院看護部の両方に籍をもち,看護学科長は看護部長を兼任している。

・附属病院とのつながりが強いことが,臨床データの蓄積を可能にしている。

・看護学以外を専門とする研究者との共著論文や,国際共同研究が多いことが,Impact Factor(以下,IF)の高い雑誌に掲載される論文の産出に寄与している。

・新しい研究技術を取り入れ実施する,迅速な研究体制がある。

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【Key Point】

・看護学科は医学部の中に位置する(2005年設立)。

・看護学科の組織は,Practice track, Education track,Tenure track,Research trackに明確に分かれており,教育と研究の専門性が確保されている。

・看護学科設立当初は海外の研究者を積極的に採用し,教員の7〜8割を占めたが,13年経過した現在は自国の研究者が7〜8割を占めるようになった。

・2016年にSalUtogenic Nursing Research(SUN Research)という研究プログラムを立ち上げ,研究者は全員所属している。

・教員の評価は単なる論文数ではなく,citationとH-Indexという引用数と論文数でつくられる計算式による。

・研究の質はImpact Factor(IF)で評価され,医学部は原則5以上としているが,看護学科は現時点では2以上で認められている。

・医学科との共同研究,国際共同研究,ランダム化比較試験(RCT),準実験研究,システマティックレビューなどを推奨し,IF5以上の雑誌に掲載された論文の比率が徐々に増えてきている。

各大学からの視察報告3

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【Key Point】

・看護学部は健康・社会科学研究科の中に位置する。

・看護学部の組織は,潤沢な教員数が確保されており,Academic trackとTeaching trackを分けて教育と研究を専門化している。

・質の高い研究が実施されている背景の1つには,クリニックを有していることが挙げられる。このことは臨床データの蓄積を可能としているとともに,資金源にもなっている。

・以上の背景から,高いImpact Factor(IF)が付与された雑誌に掲載されやすいレビュー論文の執筆とともに,がんなどのニーズの高い分野をターゲットの1つとし,国際共同研究,ランダム化比較試験などエビデンスレベルの高い研究を遂行することで,質の高い研究の実施を可能にしている。

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【Key Point】

・看護学科(CUHK Nethersole School of Nursing)は,1991年に医学部内の一分野(department)として位置づけられ,学士教育が設置されたことに始まり,1992年に修士課程を開始,1996年に博士課程を開始している。

・看護研究・基礎科学実験室(Nursing Research and Basic Science Laboratory)が設置され,実験室環境も整えられている。

・2018年でのQSランキングは香港で1位,アジアで3位,世界で29位となっている。

・優秀な教員を集めることを重視しており,そのことは学生が自身の看護の夢を追求することを助け,地域と未来に向けた看護リーダーを育成することにもつながっている。

・Impact Factor(IF)が高い雑誌に掲載される論文を産出している背景には,肥満や糖尿病,腎疾患等の生活習慣病に焦点を当てた研究など,ニーズが高いトピックで,エビデンスレベルの高い手法を用いた研究を,国際共同研究として行なっていることがある。

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はじめに

 さまざまな実践現場において,先人たちが培ってきたクオリティの高い日本の看護が,グローバルに貢献する1つの道筋として,まず世界に認知される必要がある。しかし,認知度が低いとしたら,どうやらそれが現実のようなのだが,その責任の大部分は日本の看護系大学にあると言っても過言ではないだろう。日本の看護系大学はもっともっと,クオリティの高い研究を,世界に発信していかなくてはならない。

 筆者らは,2018年3月に,以下の目的をもって,アジアの中でも国際的に評価の高い4大学を訪問した。そこで得られたものは,東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンターや健康科学・看護学専攻の筆者らが,今後の活動に活かしていくのはもちろんのこと,日本の看護系大学が日本の看護学,あるいは世界の看護学としての役割を果たすために参考になると考え,本誌上で報告することとした。

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 Leadership is a shared responsibility, regardless of the role nurses are in(Canadian Nurses Association, 2009). Nurses of all ranks, in all kinds of healthcare settings, and across all service sectors are integral to the delivery of primary care in the community, and to inpatient care in acute and tertiary care settings(Australian College of Nursing[ACN], 2015). They are recognized as leaders in patient care(James, 2010).

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前回の第1報(本誌51巻6号)では,本研究の概要を示した。今回は,分析から導き出された概念《子どもの状態の評価》と《医療のモニタリング》について検討する。

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 私たちは2017年1月,京都で開催された第6回Global Survivability Studies(GSS)において,国際会議におけるプレゼンテーションを行ないました。GSSは,「京都大学グローバル生存学大学院連携プログラム」として,私たちが現在在籍しているDNGLと同様,2012年に文科省等によって採択された博士課程リーディングプログラムの1つです。

 第6回GSSのメインテーマは「科学と社会との連携—貧困に立ち向かう行動志向的かつ包括的アプローチ」で,ワークショップやセッションを中心とするさまざまなプログラムが準備されました。私たちが参加したのは,4つ設けられたセッション中,セッション3「貧困と健康」です。セッションには2つの大学院生グループが参加し,貧困という課題に対し,「上意下達(トップダウン)型アプローチ」と「積み上げ(ボトムアップ)型アプローチ」という異なる方向からプレゼンテーションを行ないます。プレゼンテーション後は,各領域の専門家からのアドバイスを踏まえ,具体的な議論を行ないます。

 今回私たちが取り組んだのは,後者の積み上げ型アプローチです。「日本における子どもの貧困」の問題を取り上げ,課題解決に向けて必要な論点を検討し,プレゼンテーションを行ないました。本稿では,そのプレゼンテーション「Child Poverty and Health Problems in Japan:No one will be left behind(子供の貧困へのアプローチ:誰一人取り残さない)」の概要をご紹介します。

 本プレゼンテーションに関しては,準備から発表に至るプロセスの中でさまざまな学びがありました。詳細は,前号51巻6号の特集「国際学会で発表しよう」中の別稿(pp.546-552)をご参照ください。(有坂めぐみ)

連載 集まる つながる 広がる 若手研究者のバトン・3

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若手研究者は、今日も看護の未来に向けて疾走中。

ここはそんな同じ目標を抱く者同士が、ぷらっと立ち寄り語り合う場所。

誌面をフィールドに、思いをバトンに乗せて語り継いでいきます。

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 透析治療が始まって数か月後,右足部に潰瘍ができて壊死となり下肢を切断したAさん(60歳台,女性)のプライマリーナースは,Aさんがいろいろな“指導”に反応しないことや,義足をつけて歩こうと思えば歩けるのに,義足はベッドサイドに立てかけたままあることに“問題”を感じ,慢性疾患看護CNSに相談した。

 Aさんにとって「大切なもの」は何なのかをCNSと担当看護師は考えることとなった。義足はAさんの「義の足」とはなっておらずオブジェのようであった。2人は失われた足は,もともとAさんにとって自分のからだとはつながっていなかった存在であったことに気づいていく。こうしてオブジェから義足へと認知してもらうためのかかわりが始まる。

連載 理論構築を学ぶ—看護現象から知を生むために・12【最終回】

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 筆者は,JICAの技術協力プロジェクトにおいてモロッコの助産師教育を支援していた。当時,モロッコでは産痛緩和ケアが行なわれておらず,時に出産の場は痛みに耐えられない産婦と,それをいなす助産師とが叫び合う修羅場と化した。筆者は博士論文の研究テーマとして,モロッコに産痛緩和ケアを導入しようと考え,モロッコ人の助産師が産痛緩和ケアを習得し,ケアの実践ができるような教育プログラムの作成に取り組んだ。

 まずモロッコでの現状と研究の着想に至った経緯を述べ,次に,課題解決へのアプローチを導く概念枠組みとして,Banduraの社会的学習理論を見いだした経緯を紹介する。その上で,概念枠組みを用いた介入プログラム作成の過程と,プログラム効果を評価する過程を示す。

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 本書は「基本を学ぶ看護シリーズ」の第3巻として刊行された。同シリーズは,看護職の主要な役割のひとつである症状マネジメントに必要な医学・生物学の基礎知識を,段階的,系統的に習得できるよう,監修者らにより構成されている。既刊の第2巻は,『からだの仕組みと働きを知る』というタイトルの解剖学,生理学のテキストであった。その際に感じた驚きを,今回本書で再び感じることができた。それは,“面白く,惹きつけられる”ということである。本書は看護系の講義科目でいうところの,病態学あるいは疾病学の概論テキストに該当するであろう。病態学,疾病学概論というと,一般的なイメージでは(誤解を恐れず言うなら)複雑・難解で,終講試験を思うと気持ちが沈む科目,という位置づけかもしれない。そのテキストが面白い,とはどういうことか。

 第一の特徴は,文章表現,図表,イラストに至るすべてにおいて,とてもわかりやすく記載されていることである。例えば「炎症」の項では,だれもが知る炎症という語の定義に始まり,炎症の各症状がなぜどのようにして生じるか,また炎症が発熱を伴う際の理由と機序が詳細に解説されている。これを知ることで,看護学生は,炎症所見を有する患者を受け持つ際,患者の炎症反応にまつわる臨床症状を視診とデータで確認し,フィジカルアセスメントの結果をケアにつなげることが可能となる。また発熱をきたしている場合は,炎症との関連や効果的な解熱方法とを結びつけて思考することができる。それにより患者の与薬内容とその効果予測を根拠に基づいて行ない,併せて与薬後の患者をどのようにアセスメントすべきかがわかるのである。

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看護研究 第51巻 総目次

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看護研究
51巻7号 (2018年12月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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