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はじめに
日本には,重症の子どもを管理できる小児集中治療室(以下,PICU)をもつ施設が少ない。公表されている資料の中で最新の2014年10月のものをみると,日本全体でPICUは41施設,ベッドの総数は256床にすぎない。これは,成人の集中治療室6552床(780施設)はもちろんのこと,新生児集中治療室3052床(330施設)と比べてもかなり少ない(厚生労働省,2014)。
PICUに入室する子どもは重篤な状態である場合がほとんどで,子どもだけでなく子どもの両親にも不安や急性ストレス障害(Acute Stress Disorder),心的外傷後ストレス障害(PTSD:Post Traumatic Stress Disorder)が生じる可能性が高いといわれている。欧米では,両親の不安やPTSDを指摘する論文が90年代から増加し,数多くの論文が発表されてきた(Bronner et al., 2010;Colville, & Pierce, 2012)。測定時期や対象者の状況,用いられたスケールの違いにより,それぞれが示す結果は異なるものの,Nelson, & Gold(2012)の文献レビューでは,10.5〜21%の両親がPTSDに陥るとまとめられている。
このような問題が指摘されれば,家族の不安とPTSDを減少させるための援助モデルをもとにした介入研究が増えるのは自然の流れであろう。援助モデルとしては,Partnership Model of Care,Shared Care,Family-Centered Roundsなども使われてはいるものの,Patient- and Family-Centered Care(以下,PFCC)が群を抜いて多用されている(Curtis, Foster, Mitchell, & Van, 2016)。
PFCCは,患者,家族,医療者にとって有益なパートナーシップに基づいて計画,実施,評価しようとするケアであるが,米国小児科学会が推奨していることもあり(American Academy of Pediatrics, 2012),PICUでも両親を回診,カンファレンス,ケアプラン作成に参加させ,情報を共有するという介入が行なわれるようになった(Meerts, Clark, & Eggly, 2013)。加えて,米国集中治療医会(American College of Critical Care Medicine)が,治療決定,家族適応,面会,ケア環境などの10項目に関する43のガイドラインを示し(Davidson et al., 2007),その中に,PICUの24時間面会が含まれていたために,24時間面会が可能なPICUも増えた。
幸か不幸か,わが国にはこのような外圧がないため,それぞれのPICUの状況はかなり異なっている。それぞれのPICUでは,医療者が患児とその家族にとって最善と考える関わりがなされているものの,患児の家族側からみたときに,どのような環境が望ましいのかは,これまで十分に検討されていない。そこで,本研究では,PICUに入室した子どもの両親が何を体験しているのかを,明らかにしたいと考えた。
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