看護研究 48巻2号 (2015年4月)

特集 遠隔看護とイノベーション─在宅医療の新展開

川口 孝泰
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 看護における情報技術の活用は,1990年代以降に急速に進化し,21世紀に向けた臨床応用の方法や,そのための法整備が行なわれてきた。インターネットを活用したケア技術の開発など,国家的な健康施策として取り組みが続いている。これらの動向に関しては,2001年に本誌34巻4号焦点にて,「新しい看護のパラダイムを拓く遠隔看護─その意義と世界の動向」で,日本型遠隔看護のあり方についての未来像について詳細な報告を行なった。

 その後,日本においては,2010年5月に内閣府より「2020年までに,高齢者などすべての国民が,情報通信技術を活用した在宅医療・介護や見守りを受けることを可能にする」という提言を受け,IT総合基本法など,法的な整備が進められると同時に,今日に至るまで世界最先端のIT国家となるべく,「医療」「食」「生活」「中小企業金融」「知」「就労・労働」「行政サービス」の7分野に関して,重点的な取り組みが進められている。これによって,現在では米国や英国に劣らないほどの情報技術の進歩を遂げており,国際的にも最先端の情報活用社会に向けた急速な進化を遂げている。

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在宅医療を取りまく医療・看護の課題

1. 高度医療が進化する中での医学教育への警鐘

 筆者は,「医学界新聞」2014年5月19日付(3076号)の記事を,看護学の未来の方向性と絡めて緊張感をもって読んだ。その記事は,医療人類学・文化精神医学のパイオニアとして,その名が知られているアーサー・クラインマン氏(ハーバード大学アジアセンター所長)による講演会の記事である。講演のテーマは,「ケアをすることについて(On Caregiving)─ケアに影響をおよぼす文化的要素」という臨床に直結した内容である。筆者には,この名称自体,医学教育が大きくパラダイムを転換しようとする予兆を感じた。と同時に,看護学が社会に発信する専門性に対するアピールの足りなさ,筆者自身の微力さを大いに反省させられた。クラインマン氏は,その講演で今日の医学・医療においてケアの占める重要性を,3つのパラドクス(逆説)で示した。

 クラインマン氏の指摘したパラドクスの1つ目は,ケアは従来,医師の実践の中心をなすものとして定義されてきたはずであるというパラドクスである。現状の医療では,臨床からケアが乖離し,医学教育カリキュラムにおいても,ケアに十分な時間と資金が投入されなくなっていることを強調した。

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はじめに

 日本遠隔医療学会は2006年7月に,「遠隔医療(Telemedince and Telecare)とは,通信技術を活用した健康増進,医療,介護に資する行為をいう」(日本遠隔医療学会,2006)と定義している。Telenursingに関しては,米国看護師協会(American Nurses Association[ANA], 1997),看護師州委員会全国協議会(National Council of Stage Boards of Nursing[NCSBN], 1997),国際看護師協会(International council of nurses[ICN], Miholland, 2000)でもそれぞれ定義されており,また,Telenursingと題する英語の書籍は,Telenursing : Nursing Practice in Cyberspace(Sharpe, 2001)と,Telenursing, Health Informatics(Kumar & Snooks, 2011)があり,その中で各々Telenursingを定義している。特に,Sharpeによると,Telenursingは,nursing informaticsとnursing scienceとthe art of nursingの融合体(Sharpe, 2001)と述べており,看護情報学nursing informaticsという領域の中でtelenursingは取り扱われることが多い。

 一方,わが国では日本看護協会などにも「Telenursing」の明確な定義はなく,亀井(聖路加看護大学テレナーシングSIG, 2013)が「テレナーシングは,離れた場所にいる対象者に対し,遠隔コミュニケーション技術を用いて看護を提供すること」と定義している。本稿では,Telenursingおよびテレナーシングについて,日本遠隔医療学会がTelemedince and Telecareを「遠隔医療」と訳していることにならって,「遠隔看護」として述べていくことにする。

 遠隔医療については,2011年3月に,総務省情報流通行政局地域通信振興課が,遠隔医療モデル参考書(総務省情報流通行政局地域通信振興課,2011)を作成している。その中で,情報の伝達・提供・共有を行なう関係者(医療従事者,介護関係者,患者等)によって,遠隔医療を大きく以下の3つに分類・整理している。

 (1)医師間(D to D)のモデルは,僻地の診療所の医師が中核病院の専門医に診療上の相談をするなど,医師間で診療支援等を行なう。例えば,外科医が大学病院の病理医に検体データを送って病理診断を依頼するなどである。

 (2)医師と患者の間(D to P)のモデルは,遠隔地の患者に対し直接医師が,伝送されてくる映像やバイタルデータを通じて診療や健康維持・向上のための助言を行なうもので,テレビ電話を通じて医師が在宅患者を診療するなどである。

 (3)医師と患者の間を医師以外の医療従事者(コメディカル)が仲介する(D to N)モデルは,医師の指示等に基づきコメディカルが患者に処置を行なうなどである。

 また遠隔医療の内容面では,医療行為または医師による行為(相談など)と,健康増進,介護・見守り,指導・教育など,直接的な医療行為にならないものとの2つに分けられる,ともしている。その意味から考えると,遠隔看護は,(3)医師と患者の間を医師以外の医療従事者(コメディカル)が仲介する(医師の指示等に基づきコメディカルが患者に処置を行なう)(D to N)モデルに位置づくものと考えられている。

 本稿では,遠隔看護が遠隔医療や看護情報学にかかわる概念として,その歴史と研究の変遷を広く概観することで,遠隔看護の今後を展望する。

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はじめに

 本稿では,遠隔看護で利活用するためのデバイスとして,筆者らが開発している機器や手法について報告する。遠隔看護において注目すべきことは,遠隔地域に向けた看護を可能にしている部分だけではなく,身近にいる多くの対象に看護が提供でき,かつ医療の介入が必要な対象を探し,正確に判断することが可能となる機能を有するという点にある。そのための手段として,対象自身の自己管理を促すとともに,対象自身が生体情報を正確に測定できる簡便な機器と,新たな解析手法の開発が重要である。特に生体情報(バイタルサイン情報)は,対象の健康状態を看護師が判断するために非常に重要な情報である。遠隔看護においては,医療者が測定する精度と同等かつ簡便な計測機器の開発が求められる。

 中島,南部,田村(2001)は,日々の生体情報の計測に関して,「生体を傷つけず(無侵襲計測),日常生活の自由行動を妨げず(無拘束計測),できれば計測されていることを意識させない(無意識計測)状態で自動的に計測されることが望ましい」としている。医療の場において使用される多くの測定用デバイスは,対象の一瞬の生体情報の変調をとらえられるかどうかが重要である。しかし日常生活で,医療用のデバイスをそのまま使用することは計測手技上においても困難である。また対象自身で計測する場合には,精度のみならず使い勝手重視のデバイスが求められ,対象の日常生活に溶け込んで,違和感なく使用可能な設計の工夫が重要となる。

 本稿では,筆者らが検討している遠隔看護における測定用デバイスについて,いくつか紹介する。

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はじめに

 糖尿病に罹病している患者の数は増加傾向にあり,世界中で2030年までに4.4億人(世界人口の7.7%)に達すると予想されている(Shaw, Sicree, & Zimmet, 2010)。特に成人以上で糖尿病と診断された患者のうち,90〜95%が2型糖尿病であるといわれている(Centers for Disease Control and Prevention, 2013)。

 2型糖尿病の治療目標は,定期的な外来受診と食事療法・運動療法・薬物療法を実施し,よりよい血糖管理をすることによって,合併症の発症や進行を予防することである(World Health Organization, 2013)。Reddy, Wilhelm, & Campbell(2013)によると,糖尿病患者は,糖尿病に関連した慢性的なストレスに遭遇しているといわれている。

 糖尿病患者に対する介入方法としては,これまでに「変化ステージモデル」や「自己効力感」「ストレスコーピング」「目標設定」「セルフモニタリング」「ソーシャルサポート」などの健康行動理論や行動変容技法が開発されている(Steinsbekk, Rygg, Lisulo, Rise, & Fretheim, 2012;柴山,2007)。なかでも,相互目標の設定(mutual goal setting)を行ない,自分の行動を観察して記録する(Snyder & Gangestad, 1986;足達,2006)「セルフモニタリング」を毎日実施するという手段が有効であるといわれている(Bandura, 1977 ; Moriyama et al., 2009 ; Vermunt et al., 2013 ; Kuijpers, Groen, Aaronson, & van Harten, 2013 ; Glynn, Murphy, Smith, Schroeder, & Fahey, 2010 ; Maves, 1992 ; Laxy et al., 2014)。介入効果を評価する指標としては,Problem Area in Diabetes(PAID)(Polonsky et al., 1995 ; Welch, Weinger, Anderson, & Polonsky, 2003),Self─efficacy on Health Behavior(Bandura, 1977),HbA1cなどがある。

 近年,在宅療養中の患者を支える新たな医療サービスとして,ICTを用いた遠隔看護の活用が注目されている(Kawaguchi, Azuma, Satoh, & Yoshioka, 2011 ; The International Council of Nurses, 2010 ; Kumar, 2011)。遠隔看護は,遠隔地にいる患者に看護技術を提供するための電気通信および情報技術を使用することであり,看護師の不足の解決のみならず,遠隔地にいる患者の場所まで向かう移動時間や距離の削減をすることが可能であるといわれている(The International Council of Nurses, 2010)。

 先行研究では,遠隔看護の活用によって,患者の満足度が増し,看護業務も効率性を増すなど,患者と看護師双方からよい評価につながることが明らかになっている(St George et al., 2009 ; Ellis, Hercelinskyj, & McEwan, 2011)。特に,糖尿病患者に用いた研究では,HbA1c値の改善(Jordan, Lancashire, & Adab, 2011)や食事療法へのつらさの軽減(西片,2009),遠隔看護の短期介入の効果を検証するもの(Koopman et al., 2014),遠隔看護を用いた介入による血圧と血糖変化のプロセスを明らかにした研究(Wakefield et al., 2014)がある。しかし,いまだ遠隔看護の方法論は確立されていないのが現状である。

 一方,Nijland, van Gemert-Pijnen, Kelders, Brandenburg, & Seydel(2011)は,遠隔看護のWebアプリケーションについて,「Webアプリケーションは,個人が自分の特定のニーズにプログラムを調整することができるように設計されるべきである」と述べている。しかし,患者のニーズに合わせた特別なプログラムを含むWebアプリケーションの実証実験はない。

 そこで今回筆者らは,Kawaguchi, Azuma, Satoh, & Yoshioka(2011)が開発した遠隔看護システムに,患者参加型のGoal Attainment Scaling(GAS)を使用したことによる,2型糖尿病患者の自己管理行動への効果について検証したので,本稿にて報告する。

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はじめに

 「遠隔看護(telenursing)」における情報技術の活用は,その先進国である米国において,1990年代以降に急速に進化し,21世紀に向けた多くの臨床応用の方法や,そのための法整備に向けた研究が多く行なわれてきた。英国においても,NHS(National Health Service)が,インターネットを活用したケア技術の開発など,国家的な健康施策として取り組み始めた。これら情報先進国の動向に関して,筆者は,2001年に本誌34巻4号焦点にて「新しい看護のパラダイムを拓く遠隔看護─その意義と世界の動向」と題し,報告を行なった(川口,2001)。

 日本においては,2010年5月に内閣府より出された,「2020年までに,高齢者などすべての国民が,情報通信技術を活用した在宅医療・介護や見守りを受けることを可能にする」という提言を受け,IT基本法など,法的な整備が進められると同時に,今日に至るまで世界最先端のIT国家となるべく,「医療」「食」「生活」「中小企業金融」「知」「就労・労働」「行政サービス」の7分野に関して,重点的な取り組みが進められている。これによって,現在では米国や英国に劣らないほどの情報技術の進歩を果たし,国際的にも最先端の情報活用社会に向けた急速な進化を遂げている。

 2011年9月発行のThe Lancet誌において,Tamiyaら(2011)が報告した日本における医療・保健分野の水準は国際的にもきわめて高いことが評価された。また筆者らは,同年にSpringer社から出版された『Telenursing』のChapter VI : Telenursing in Chronic Conditions(Kawaguchi, Azuma, Satoh, & Yoshioka, 2011)を担当し,世界の遠隔看護の比較と,日本の医療保険制度と遠隔看護について紹介し,国際的に高い評価を得ている。このような動きは,厚生労働省が提案する健康管理に関する将来構想とも一致し,日本での在宅医療の推進によって,遠隔看護技術がどのような方向で活用され,実用化されていくかについての期待は大きい。

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はじめに

 近年,ICT(Information and Communication Technology)はハード面,ソフト面とも著しく進歩し,一昔前まで夢のように描いていた地域医療ネットワークシステムの構築も現実味を帯びてきた。特にタブレットやスマートフォンなどのハード面の進歩は,キーボードをたたいてデータを入力する煩わしさから人々を解放し,より多くの人がICTを使いこなせる時代をもたらした。Bluetooth®を用いれば,血圧などを測定したデータが自動的に医療機関などに送信され,離れた場所でも,そのデータを見ることができる。これらの技術をうまく組み合わせれば,地域医療におけるさまざまな問題を解決できるのではないかと期待が膨らむ。

 本稿では訪問看護ステーションを運営する立場から,ICTを活用した遠隔看護に期待することを述べようと思う。

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超高齢社会の到来と地域包括ケア

 現在,少子高齢化により高齢者人口の増加が進んでおり,平成25(2013)年10月1日現在では,総人口に占める65歳以上人口の割合である高齢化率は過去最高の25.1%となり,高齢化率21%以上とされる超高齢社会を迎えている。高齢者人口は今後,「団塊の世代」(1947〜1949年に生まれた人)が65歳以上となる平成27(2015)年には3395万人となり,その後も増加,平成54(2042)年には3878万人でピークを迎え,その後は減少に転じるが高齢化率は上昇を続け,2060年には高齢化率は39.9%に達する見込みである(内閣府,2014a,厚生労働省,2013)。

 国は高齢化率の上昇に伴って,高齢者が必要とする介護サービス(表1)のうち,特に現時点で,特養への大量の待機者が存在するといわれるが,将来のさらなる需要の拡大に対し,地域包括ケアを推進することで,在宅医療・介護への移行を進めている(厚生労働省,2014b)。地域包括ケアは,団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に,重度の要介護状態となっても住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるようにする政策である。その目的は,可能な限り住み慣れた地域で療養することができるよう,医療・介護が連携して地域における包括的かつ持続的な在宅医療・介護を提供できる体制構築である。

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はじめに

 松葉祥一/西村ユミ編集の『現象学的看護研究─理論と分析の実際』は,現象学の考え方に則った看護研究を実践しようとする人たちにとって待望の書であろう。現象学的研究は看護に親和性の高い魅力的な研究方法と思われる。にもかかわらず,「方法が決まっていない」「方法は自分がつくる」といった指摘に怯んでしまい,現象学的研究について謎に包まれた印象をもっていたのは私だけではないだろう。本書は,そのような現象学的な看護研究について,研究の実例と分析の手の内を具体的な思考過程から示し,そのような分析と現象学とのつながりまで説明してくれているという,ありがたい書である。

 研究者が通常公開するのは研究活動のアウトカムのみで,具体的な分析の経過はいわば舞台裏で他者に見せることはない。本書はまるでミュージカルの舞台裏を見学するか,公演までの練習の経過を逐一見せてくれているようで,研究者の息づかいが伝わる内容になっている。インタビューとその分析ノートを別冊にしているのは,書籍の該当箇所と突き合わせながら検討できるようにするためであろう。別冊をなくしてしまわないか心配だが,編者らの分析経過を逐一見せたいという心意気を感じる。

 このような書籍を作成する理由は,編者らが序論で木田を引用しつつ述べているように,現象学を「開かれた方法論的態度」(p.4)と定義し,(研究)方法を「思考のスタイル,研究対象に立ち向かう態度のこと」と考えたためである。そして編者らは,

手順やマニュアルではなく,方法という語のもとの意味である「思考の道筋」を示すことにした。…それぞれの手順にどういう意味があるのかということを解説しつつ例を示すことで,自分なりの方法を見つけるための手がかりにしてもらいたいと考えた。…本書が目指すのは,現象学的研究を考えながら進めるためのポイントを示すことであり,事象に合わせた方法を見つけるための手掛かりを提供することである(p.4)。

 この道筋を逐一見せようという決意のほどが素晴らしい。

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 背景:おむつを当てている部位に生じる紅斑,丘疹,鱗屑,びらんなどの症状を一括して「おむつ皮膚炎」と呼ぶことが多いが,これは,湿疹・皮膚炎以外に,真菌感染症などを含んだ概念である。高齢者のいわゆる「おむつ皮膚炎」(以下,おむつ皮膚炎)は高齢者介護において問題となるが,確立した対応方法はない。われわれは先行する疫学調査において,おむつ皮膚炎における真菌感染症が予想外に少ないことを見いだし,ステロイド外用でその多くが改善する可能性を考えた。

 目的:おむつ皮膚炎に対して,最初にステロイド外用薬を使用する治療アルゴリズムを考案した。その有用性を検証するために,介護保険施設入所者のおむつ皮膚炎に対して治療アルゴリズムに従った治療を実施し,その有用性を検討する。

 方法:研究デザインは一群事前事後テストデザインである。介護保険施設に入所する高齢者のおむつ皮膚炎にステロイド外用薬(混合死菌浮遊液/ヒドロコルチゾン配合剤)を最長3週間塗布した。主要有効性評価項目は総合スコアと有効性判定とした。

 結果:高齢者45例のおむつ皮膚炎にステロイド外用薬を塗布したところ総合スコアは速やかに改善し,1週後には9例(20.0%),3週後には全体で13例(28.9%)が治癒した。この改善効果は治療前の重症度によらず認められた。一方,悪化した症例はいずれの判定時期においても10%前後と少なく,直接鏡検での真菌検出例も認められなかった。今回の試験結果から,治療アルゴリズムの有用性が明らかになった。

 結論:われわれが考案したおむつ皮膚炎の治療アルゴリズムに従って治療を行なえば,大部分の症例では症状改善が期待できる。これにより介護保険施設入所者のQuality of Lifeは改善され,介護者の負担も軽減されると考える。

連載 混合研究法入門・2

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はじめに

 第1回では「混合研究法コミュニティの多様性」をテーマに,フィールドを牽引する中心的研究者を紹介させていただいた。これにより,混合研究法コミュニティが現在もなお発展段階にある,多様性に充ちたものであることがおわかりいただけただろう。連載第2回にあたる本稿では,少々時間を遡り,この混合研究法コミュニティがどのように誕生し,どのような発展のプロセスをたどり現在に至ったのか,その歴史を振り返ってみたいと思う。

 混合研究法とは何かを理解する上で,当該研究アプローチの誕生と発展の歴史を知ることは避けては通れないことである。それは,研究アプローチの評価をめぐる政治性を,歴史が可視化してくれるからである。かつて科学哲学者のトーマス・クーン(Kuhn, 1962/中山訳,1971)が,理論とは科学者共同体によって構築される社会的性質をもつものであることを主張した。そして,今日までの歴史において,量的研究と質的研究のそれぞれがもつ研究アプローチとしての正当性も,研究実践を取り巻く時代の中で社会的に決定づけられてきたといえる。知と権力の切り離し得ない関係は,フランスの哲学者ミシェル・フーコーが20世紀において我々に問い続けたテーマであった。これは,特定の研究アプローチが知識構築の方法として正当か否かの議論にも当てはまるものであろう。そして,この議論に対する答えは決して自明のものでも客観的に判断できるようなものでもなく,権威によって裏づけられた特定の共同体によって社会的に規定されてきたといえる。そして,その背後には,何を知識構築の正当なアプローチとしてみなすかという問いをめぐる政治的な攻防が常に存在する。

 混合研究法は,このような政治的攻防の中で生まれた歴史の産物といえる。もちろん,実践の中で日々問題に直面し,その乗り越えに苦悶する看護研究者にとっては,混合研究法は単なる歴史の産物以上の価値をもつものでなくてはならない。我々の多くが混合研究法に期待する質的研究と量的研究の統合が生み出すシナジー効果こそが,当該研究アプローチがもつ真の価値であることはいうまでもない。混合研究法についてのこの最も重要な点を強調した上で,以下より本稿の本題に入りたいと思う。

連載 Journal Watch 海外の看護学研究から学ぶ・2

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はじめに

 今回のJournal Watchでは,International Journal of Nursing Studies(IJNS)誌の第51巻6号,BMC Health Service Research(BMC HSR)誌の2014年5月掲載分の論文が対象になりました。今回から,充実した議論ができるよう本数を減らすことにしています。担当者が興味をもった論文を選定し,IJNSより3篇,BMC HSRより4篇,合計7篇(質的研究4篇,量的研究3篇)が発表され,それぞれの研究内容や研究手法に関して議論が行なわれました。

 今回,特に参加者の関心を集め議論がなされた論文は,オーストラリアの複数の長期療養施設で行なわれた,認知症患者に対するフットマッサージの介入効果を検証しようとする量的研究論文でした。認知症患者の行動・心理症状(BPSD)は,患者自身に苦痛をもたらすだけでなく,家族や介護スタッフの負担を増大させることから,高齢者看護における大きな課題のひとつとなっています。

 これまでのBPSDに対するさまざまな介入の試みの中で古くから注目され,研究されてきたものとしてマッサージがあげられます。フットマッサージはその1つであり,先行研究でその効果が示されているものの,エビデンスレベルが低いデザインを用いたものが大半であることから,著者はRCTを用いて介入効果を検証しようとしています。

 当該研究はトライアル・レジストレーション(臨床試験の事前登録)がなされ,事前にプライマリアウトカム(患者の興奮状態の尺度得点)とセカンダリアウトカム(患者の情動の尺度得点)が設定されています。分析の結果,プライマリアウトカムである興奮状態は介入によって増悪し,セカンダリアウトカムである情動は,介入による効果は認められないという結果となりました。

 発表後,参加者によりネガティブデータ(ここでは「研究者が期待したものとは異なる結果」の意で用いています)をどう考察するかという議論,および認知症患者を対象とする介入研究で考慮すべき点についての議論が行なわれました。

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はじめに

 今回のJournal Watchでは,International Journal of Nursing Studies(IJNS)誌の第52巻2号の論文が対象になりました。

 今回取り上げた論文は,マレーシアの3か所の透析センターで行なわれた血液透析患者に対する指圧の介入効果を検証しようとする量的研究論文でした。血液透析患者は,水分,食事制限のほか,血液透析日の穿刺による痛みや経済的負担,合併症による入院管理が必要となることがあり,こういった状況が心理的な苦痛をもたらします。指圧は非侵襲的であり,実施の上で特に物品は不要であるため,費用対効果のある施術であり,心理的側面や健康全般を改善すると考えられている代替補完療法のひとつです。先行研究でも血液透析患者に指圧を実施し,抑うつへの心理的な効果が示されていますが,不安やストレスに対する指圧の効果が十分に評価されていないため,論文の筆者らはRCTを用いてその効果を検証しようとしています。

連載 UCSFで看護研究を学ぶ・2

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カリフォルニア大学サンフランシスコ校

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(以下,UCSF)は,10校からなるカリフォルニア大学系列の1校で,医療系学部のみで構成される大学院大学です。ParnassusとMission Bayの2つのキャンパスのほかに,市内に複数の病院や施設が点在しています。2014年には150周年という記念すべき年を迎え,数々の関連イベントが開催されていました。2015年2月1日には,Mission Bayキャンパスに新しくUCSF medical centerができました。

 看護学部はメインのParnassusキャンパスにあります。丘の上にあるParnassusキャンパスは,病院に併設されたビル群のようで,広い敷地と緑にあふれるワシントン大学と比べて,都会的なキャンパスの印象があります。大学院大学なので,院生は看護師や医師,薬剤師などの免許をすでに取得している人ばかりです。多くの院生は,病院で勤務しながら学業に励んでいます。

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欧文目次

INFORMATION

今月の本

基本情報

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看護研究
48巻2号 (2015年4月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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