看護研究 48巻1号 (2015年2月)

特集 看護研究から政策をうみだすために

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 いまから2年前,我々は大学院のゼミにおいて1冊の本を輪読した。それが,『Shaping Health Policy through Nursing Research』である。教員の1人が留学中,米国の研究者から紹介された書籍であるが,読み終わって我々は,ぜひ,広く他の看護研究者にも伝えたい内容であると強く感じた。

 さらに偶然ではあるが,東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科の国際看護開発学分野において,この書籍の著者の1人でありNINR(National Institute of Nursing Research)のトップであったGrady博士と,本学での大学院授業などを通じて継続的なつながりがあったことから,本企画において著者からのメッセージを執筆していただくに至った。この企画は,こうした書籍との出会いや人と人とのつながりによって実現した。特にご多忙の中,快くご協力くださったGrady博士には心から感謝している。改めて御礼申し上げたい。

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 Historically, this is an exciting time. The world is a very different place than it was for our ancestors. People are living longer and are healthier in many ways. Drugs are available to treat and prevent many illnesses. New technologies are emerging which will influence our lives in positive ways, but also bring new challenges with them. Travel is more accessible, leading to an interaction of cultures and ways of life not previously imagined. Nations are emerging into the 21st century as multicultural societies. Populations are growing rapidly, and our natural resources are diminishing, even as new resources are discovered or synthesized.

 The ability to shape ones environment is a key ingredient in creating a better world. For those in professions related to health, that often means shaping health policy. Shaping Health Policy through Nursing Research is a compendium of success stories from leading researchers in the United States who have made major contributions to improving health care through their research programs. These examples are remarkable, not only because of their inherent contributions to improve care, but also because they were transformed to create changes based on the new information.

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 歴史的にみて現在は刺激的な時代である。世界は先人たちの時代とは全く異なる様相を呈している。人々はさまざまな手段によって,より長寿に,より健康になった。薬剤は多くの疾患の治療と予防に効果的である。新しい技術が次々と出現し,我々の生活によい影響をもたらすことが期待されるが,同時に新しい課題ももたらすだろう。旅はより身近なものとなり,かつては想像すらできなかった文化や生活様式の相互交流につながっている。国家は21世紀においては多文化社会として出現しつつある。人口は急速に増加し,新しい資源が発見・合成されてはいるが,天然資源は減少を続けている。

 自身の環境を形づくる能力が,よりよい世界を創るための鍵となる要素である。保健・医療・福祉の専門職にとって,その能力は健康政策(Health Policy)を形づくる能力を指すといえよう。『Shaping Health Policy through Nursing Research』は,自らの研究プログラムによってヘルスケアの改善に大きく貢献してきた米国の一流の研究者たちの成功例の概要を示したものである。これらの成功例は,個々の事例がケアを改善するために大きく貢献したからだけでなく,新しい情報に基づいて変革を成し遂げたからこそ,注目に値するのである。

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はじめに

 米国国立看護研究所(National Institute of Nursing Research ; NINR)は,1993年に米国国立衛生研究所(National Institutes of Health ; NIH)に設立された比較的新しい研究所であり,その前身は,1986年に設立された国立看護研究センター(National Center for Nursing Research ; NCNR)である。

 NIHは米国保健福祉省(United States Department of Health and Human Services ; HHS)の下部組織であり(図1),世界最大の予算規模を誇る医学研究の中核機関である。しかしNCNRの設立当時は,看護研究は医学研究と同じく疾病を予防し,人々の健康増進を図ることを目的としているにもかかわらず,科学研究とは認められていなかった。このためNIHに看護研究所を設立し,発展させてゆくためには,多大な労力や戦略的な方策を要した。

 本稿では,『Shaping Health Policy through Nursing Research』の「Changing Health Science Policy(Section I, 5章):The Establishment of the National Institute of Nursing Research at the National Institute of Health」と各種関連資料をもとに,NINRのNIHにおける位置づけ,歴史的背景,政策における役割,およびNINRが現在重視している研究課題を紹介する。

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導入

 本稿では,欧米における退院計画発展の背景と,研究による効果を検証する。そして米国において検証された移行期支援モデルと,臨床実践に関する大規模研究について紹介する。さらに日本における退院支援の変遷の背景と,それに伴う研究の動向,今後の地域包括ケア時代に向けた研究の展望について述べていく。これらを通じて,政策にインパクトを与える研究を行なっていくためのヒントを得たい。

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はじめに

 平成15年から始まった厚生労働科学研究政策科学推進事業「少子化における妊娠・出産に関わる政策提言に関する研究」において,筆者らの研究班は,抜本的な少子化対策として,現代科学的な価値観の中で切り捨てられてきた相互関係性の継続の回復が必須であることを提起した。とりわけ高出生率の宮古島・多良間島モデルの分析・考察から,従来の行政による子育て支援策以上に,地域で世代から世代へと継承される子育て風土が,多産要因として大きな影響力をもつことを明らかにした。

 筆者らは,自治体の現状と課題を調査分析し,政策提言と同時に先駆的モデル開発を実施,評価し,また新たな政策を提言していく,そして政策提言を政策につなげ,さらに政策の実現を住民,関係者間で協働し実行していく─そのような,机上の空論ではない,実社会に働きかける研究をこれまでめざしてきた。自治体の住民とともに,市民感覚をいかし,市民を主人公にした市民共同参画型研究を現在も続けている。本稿は,その1つの研究活動の事例として報告するものである。

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はじめに

 筆者は,平成23年4月1日から平成26年3月31日までの3年間,文部科学省高等教育局医学教育課で,看護教育専門官として看護学高等教育行政に携わった。看護教育専門官は,看護師等の人材確保に関する法律第三条の基本指針のうち,同条第二項第二号に掲げる事項,「看護師等の養成に関する事項」に関する事務をつかさどる立場にある(参考:文部科学省組織令第六条第十三項)。また,文部科学省組織令第四十八条には,地方公共団体の機関,大学その他の関係機関ならびに教育関係職員等に対し,教育に係る専門的,技術的な指導および助言を行なうことと規定されている。

 これらの所掌業務に基づき,筆者は3年間,指定規則の改正に伴う教育課程の変更相談や国立大学ミッション再定義等,看護系大学の教職員と,教育や人材養成の方向性について意見交換する数多くの機会を得た(石橋,辻,西尾,2012;文部科学省ホームページhttp://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/1341970.htm)。いま振り返れば,筆者は医学教育課の係員とともに日々相談対応する中で,各大学の教育理念を確認し,多様化する看護系人材養成目的について,今後の看護学の発展のために,社会のために大学が貢献できることは何か,そのためにはいまどのような人材を養成すべきか,常に自分自身に問いかけていたように思う。

 一方,大学における看護系人材養成のあり方については,2年にわたり検討会で継続審議され,平成23年3月に最終報告が取りまとめられた(文部科学省ホームページhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/40/toushin/1302921.htm)。最終報告では,今後の検討課題として大きく2点がまとめられている。1点目は,教員の充実や実習環境の充実,博士課程教育の充実といった,教育の充実に関する課題である。2点目は,看護学の分野別評価の推進や長期的な教育成果に基づく評価の実施等,看護学教育の質保証の推進である。また本報告では,修士課程の課程数が充実してきたことや学生の多様化が進んできていることを踏まえ,各大学院においては,社会のニーズや自大学院の教育資源に基づき,養成する人材像を一層明確化することを通じて主体的に機能分化を図っていくことが望ましいとしている。

 本稿では,筆者が文部科学省在任中に今後の看護学の発展を考えるにあたり,看護系大学院の役割が教育者・研究者の養成においてますます重要になると考え,その現状を分析し,見いだされた課題に取り組んだ内容を紹介する。

 なお,本稿における「看護系大学」とは,「学士課程において看護師等の国家試験受験資格を取得させうる教育課程を置く大学」をいい,「看護系大学院」は,「基礎となる学部に看護師等の養成課程を置く大学院」を指す。

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現場から政策はうまれる

深堀 本日は貴重なお時間をいただき,ありがとうございます。本特集は,『Shaping Health Policy through Nursing Research』というアメリカの書籍をきっかけとして企画しました。アメリカでは看護学の研究者が,エビデンスレベルが高いといわれるRCTや,現場での介入研究を行ない,社会・医療制度やケア提供に影響を及ぼすような動きがみられているようです。本書ではそうした研究をまとめています。日本もいま看護系大学が増えてきている中,今後ますます,実践へ還元できたり,実践や制度を変革したりするような研究ができる研究者が増えていくことが望ましいという問題意識を企画者は共有しています。

 ただし,アメリカのものを持ち込もうということではありません。アメリカの研究者が行なってきたのと同じような活動を,日本の政治や医療政策の文脈の中で,日本の活動として行なっていくにはどうしていけばいいかを考える必要があると思います。そこで,これまで日本看護協会や日本看護連盟で,そしていま実際に議員として看護・医療にかかわる政策立案に携わっておられる石田先生のお立場から,日本の看護学研究者に檄を飛ばすような(笑),今日はそんなお話がぜひ伺えたらと思っています。

連載 混合研究法入門・1【新連載】

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はじめに

 2014年に発刊された『看護研究』第47巻3号への特集論文掲載がご縁となり,このたび,質的・量的アプローチのハイブリッドである混合研究法註1(mixed methods research ; MMR)について6回にわたり連載記事を書かせていただくことになった。看護学は私の専門分野ではないが,リサーチ・メソドロジストとして,この連載を通して看護研究者の皆さんに混合研究法をできるだけわかりやすく紹介したいと思っている。皆さんが日常従事されている医療実践の中では,患者のバイタルサインの測定,血液検査や尿検査による異常値の同定,MRI,CT,レントゲン画像の解析,診断の手がかりを得るための問診など,常に量的データと質的データの両方が用いられている。正確な診断は,量的・質的データを統合することによって初めて可能となる。つまり,医療実践そのものがすでにミックスド・メソッド(MM)であるということだ。したがって,医療研究を混合研究法のアプローチを用いて行なうことは,ある意味とても理にかなっているといえよう。

 看護職のもつ特色を活かした研究とは何か。つまり,看護師という立場だからこそできる研究テーマとその上で用いられ得る研究アプローチは何か。そのような問いをもとに研究計画を立てれば,真に意義のある研究が,意義のある形で実践できるのではないだろうか。看護研究者の中には質的研究に傾倒する方たちが多いと聞く。それは,看護実践の特徴と質的研究のそれの間に重複する部分が多いためと考える。看護師は医療従事者の中でも最も密に患者と接する機会と時間を有し,疾患だけでなく,全人的存在としての患者とかかわる機会が多い。そして,そのことが,研究を実践する上で調査者と調査参加者の相互作用を重視する質的研究と看護研究の親和性を高めていると考える。したがって今回の連載では,近年看護研究に強い影響を与えつつある,「質的研究主導型混合研究法(qualitatively-driven mixed methods)」も議論の中に含めながら,混合研究法に関する基礎知識や研究事例などをわかりやすく紹介していきたいと思う。

 初回にあたる今回は,前半で昨年6月に米国ボストンで開催された国際混合研究法学会(Mixed Methods International Research Association ; MMIRA)の第1回大会の報告を簡単にさせていただく。その上で,混合研究法コミュニティの多様性と寛容性を認識していただく目的で,後半では混合研究法コミュニティを牽引する主要な研究者の背景および彼(女)のもつ混合研究法に対するスタンスの違いを紹介させていただく。混合研究法コミュニティがもつ多様性とそれに対する寛容性は,さまざまな研究者が独自の観点から混合研究法を発展させることを可能にする。そして,それぞれの立ち位置から,他の研究者が有する混合研究法へのスタンスに対し知的な挑戦を試みる。混合研究法はどうあるべきかの主張に対し安易に収斂を求めないこのコミュニティの姿勢は,混合研究法のさらなる発展を牽引する健全な学術活動といえる(Mertens, 2010a)。その一方で,初学者が混合研究法を理解しようとする時,コミュニティ内の多様性は時に障壁となって立ちはだかる。一体混合研究法とは何なのか。誰の主張が正しいのかと。そこで連載第1回の本稿は,まずはこうした障壁を取り除くために紙幅を割きたいと考える。

連載 Journal Watch 海外の看護学研究から学ぶ・1【新連載】

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 本号より,連載企画「Journal Watch─海外の看護学研究から学ぶ」にて,東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科看護システムマネジメント学分野(以下,当分野)で定期的に行なっている「Journal Watch」の活動を紹介させていただきます。連載開始に先立ち「Journal Watch」の活動内容とねらい,連載企画の意図を説明します。

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はじめに

 今回のJournal Watchは,International Journal of Nursing Studies(IJNS)誌の第51巻,BMC Health Service Research(BMC HSR)誌の2014年4月掲載分の論文が対象になりました。IJNSより7篇,BMC HSRより5篇,合計12篇が参加者から発表され(質的研究5篇,量的研究5篇,混合研究1篇,文献レビュー1篇),それぞれの研究内容や研究手法に関して議論が行なわれました。

 その中でも,今回特に参加者の関心を集めて議論された論文は,イギリスの病院で実施された,看護師や看護管理者の組織内の信頼感の認識のプロセスを構成する要素を明らかにするための質的研究論文でした。イギリスの国民保健サービス(National Health Service ; NHS)は国営の医療サービス提供制度ですが,民間会社に雇用された病院管理者がマネジメントを実施するという,新たなマネジメント方法を導入しているNHSの総合病院が数多くあるという背景が,この論文にはあることをお伝えしておきます。これらの民間会社に雇用された病院管理者は,看護師を含む医療のバックグラウンドをもっていない,またはたとえもっていたとしても臨床での経験がほとんどない場合が多いそうです。

 これらの病院管理者は,通常は病棟内のマネジメントには関与しませんが,彼らが行ない関与するトップレベルまたはミドルレベルのマネジメントが病棟内に多くの影響をもたらす可能性があることは容易に想像がつきます。実際に本文中でも,看護師たちが「看護や看護師が軽視されている」と感じるようなマネジメント,例えば単純に看護師の人数を減らしその分を看護助手に置き換えること,まだ状態が不安定な患者を一般病棟に転棟させることなどにより,組織や病院管理者に対して低い信頼しか感じられなかった結果として,多くの看護師が病院を去るだけではなく,看護師として働くことさえも辞めてしまうということが対象者の語りとして記述されていました。

 参加者からは,医療の現場を熟知していない人がマネジメントや患者ケアに直接影響することに関する判断を行なうことに対する疑問が出されました。しかしその一方で,看護師としての主張の正当さをどのように示していかなければいけないのかについての議論も行なわれました。

連載 UCSFで看護研究を学ぶ・1【新連載】

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 私は,2014年9月からフルブライト奨学金による援助を受けて,一年間カリフォルニア大学サンフランシスコ校(以下,UCSF)に留学する機会を得ました。そこで本連載では,この留学での経験を,6回に分けてご紹介させていただきます。今回はまず,フルブライト奨学金のプログラムについてご紹介します。これから,このプログラムをめざす方々のご参考になれば幸いです。

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看護研究
48巻1号 (2015年2月)
電子版ISSN:1882-1405 印刷版ISSN:0022-8370 医学書院

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