- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
はじめに
松葉祥一/西村ユミ編集の『現象学的看護研究─理論と分析の実際』は,現象学の考え方に則った看護研究を実践しようとする人たちにとって待望の書であろう。現象学的研究は看護に親和性の高い魅力的な研究方法と思われる。にもかかわらず,「方法が決まっていない」「方法は自分がつくる」といった指摘に怯んでしまい,現象学的研究について謎に包まれた印象をもっていたのは私だけではないだろう。本書は,そのような現象学的な看護研究について,研究の実例と分析の手の内を具体的な思考過程から示し,そのような分析と現象学とのつながりまで説明してくれているという,ありがたい書である。
研究者が通常公開するのは研究活動のアウトカムのみで,具体的な分析の経過はいわば舞台裏で他者に見せることはない。本書はまるでミュージカルの舞台裏を見学するか,公演までの練習の経過を逐一見せてくれているようで,研究者の息づかいが伝わる内容になっている。インタビューとその分析ノートを別冊にしているのは,書籍の該当箇所と突き合わせながら検討できるようにするためであろう。別冊をなくしてしまわないか心配だが,編者らの分析経過を逐一見せたいという心意気を感じる。
このような書籍を作成する理由は,編者らが序論で木田を引用しつつ述べているように,現象学を「開かれた方法論的態度」(p.4)と定義し,(研究)方法を「思考のスタイル,研究対象に立ち向かう態度のこと」と考えたためである。そして編者らは,
手順やマニュアルではなく,方法という語のもとの意味である「思考の道筋」を示すことにした。…それぞれの手順にどういう意味があるのかということを解説しつつ例を示すことで,自分なりの方法を見つけるための手がかりにしてもらいたいと考えた。…本書が目指すのは,現象学的研究を考えながら進めるためのポイントを示すことであり,事象に合わせた方法を見つけるための手掛かりを提供することである(p.4)。
この道筋を逐一見せようという決意のほどが素晴らしい。
Copyright © 2015, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.